ネビルさんを談話室に運ぶと、みんなから奇異の目で見られた。
そもそも、合言葉がないと談話室には入れないのだ。
他のグリフィンドールの生徒を待とうと思ったが、気絶したネビルさんが合言葉の紙を落としたことで、談話室を開くことができた。ちょっと悪いことかもしれない。
するとロンさんが、降りてきた。
「どうやってここに入ってきたんだ……?」
訝しげな視線をしていたが、少し何か考えることがあったのか、しばらくしたあとにボクを談話室のソファに座らせた。
ネビルさんはソファの上で横たわっている。
正直驚いた。
ボクみたいなスリザリン生徒だったらすぐに追い出されると思っていたし、そもそも他の生徒が他の寮に行くのって推奨されてないはずだ。
「ネビルさんが気絶したけど、マダム・ポンフリーのところじゃなくてここに運んだほうがいいかなって」
「ああ、うん、間違ってないよ」
ロンさんは、なぜか面接官みたいな雰囲気を醸しながら、ボクの前に座りこんだ。
「さて、君はずばり、ハリーのことを、スリザリンの継承者だと思ってる?」
本当にずばりだった。
単刀直入だ。
「なんとも……。でも、ハリーさんって……ああいうこと、する人なの?」
「石になったミセス・ノリスとあの一年生のことかい? ハリーがあんなことをするやつなら、組分け帽子はもうオンボロだね。君たちの寮に組分けされていないんだもの」
確かに、スリザリンの継承者というからにはスリザリンにいる可能性が高いのだろう。
でも、逆に、ハリーさん以外で露骨にそれっぽい人というのはいない気がする。
「実は、ボクも大伯母に蛇語のことは聞いてみたんだ」
ロンさんに教える。
蛇語を話せたとわかっているのは、
ハリーさん、
サラザール・スリザリン。
腐ったハーポ。
ボクはローブの懐に手を入れて、そこにあるカードを握りしめた。
ロンさんが訝しげにボクを見る。
どうやら、杖を抜こうとしているように見えたらしい。
大丈夫、ここにはないから、
と太ももをめくって見せると、
「何してるんだ!」
そう怒られてしまった。
片頬を膨らませたロンさんにお説教を食らってしまった。
「君はスリザリンでもそういうことをしているのか?
マーリンの髭だね。もしかして君が継承者? スリザリン生を全員籠絡すれば魔法大臣になるのは簡単だろうし」
みんな普通に太ももくらいは見られても気にしていないふうだったから倣ったのだが、ボクがするのダメなのだろうか?
「スリザリン生でも、全員には見せてないよ」
「じゃあ、誰にしているのさ」
「信頼できる人」
「じゃあ、私も信頼できるのか?」
ボクは頷いた。
「君、変わり者って言われるだろ? 私なんかが信頼できるって?」
「いま、ボクを心配してくれてるじゃないか」
「………………」
ロンさんはフッと顔をそむけた。
できるだけボクを見ないようにしながらも、腕を組んでボクの前に仁王立ちしている。
腕で強調された胸とボクたちの位置関係もあって、ロンさんの顔を見ようとしたらその大きな胸元に意識が吸われそうになる。
胸ディメンターだ。
ボクは必死で不幸せな記憶を思い出した。
そこからさらに説教が続いたが、
グリフィンドールの生徒が走って談話室にやってきてから、ボクは慌てて立ち上がった。
「ちょっとまって、君、白髪生えてるぜ」
去り際、
ロンさんがボクからぴっと髪を一本抜いた。
痛かった。たぶん白髪じゃないと思う。
「また来るね。ネビルさんによろしく」
「また来るって…………、君、今日は人が少なかったけど、次にそんなことしたら────」
「マーリンのひげ?」
「…………もう。
早くいきなよ」
グリフィンドール生の人がボクをじっとりと見つめているのを尻目に、
ボクは談話室を後にした。
‐‐‐
スリザリンの寝室に戻ると、
マルフォイさんが、ボクのベッドの上で眠っていた。
驚きつつも、起こさないようにゆっくりと隣に座る。
柔らかそうな髪をすくいあげようとしたが、やめた。
マルフォイさんの傍らには魔法薬学の本が開かれたままだった。
教科書のものじゃない。
図鑑のようなタイプだ。
"
"金色の液体。服用すると気分が高揚し、効能が切れるまで全ての物事が成功に向かうようになる。飲みすぎると自己過信に陥る。"
"
"真珠色の液体。世界一強力な愛の妙薬。服用した者に、提供した者への強烈な執着心と愛着を引き起こす。一人ひとり感じる香りが異なり、そのものが好み惹かれる臭気を放つ"
"ポリジュース薬"
"ドロドロとし泡立つ液体。生物の体の一部を混ぜることで、服用した者の外見をその生物に変身する効果を持つ。"
まだ習っていないものだ。
予習だろうか?
マルフォイさんの目元には隈があった。
マルフォイさんはスリザリンの中でも成績が良い。
母上さんの期待もあって、頑張っているのだろう。
みんなからは最近おかしいと思われているが、人には機嫌や気分が不調になるときだってままあるものだ。
本に癖がつかないように、ノートの切れ端を栞にして挟み、
枕元に置いた。
そして、
マルフォイさんを見つめながらボクも眠った。
‐‐‐
クリスマスの夜。
夕食時。
マルフォイさんは夕食を食べてすぐに寮に戻ってしまった。
クラッブさんとゴイルさんが止めるのも聞かず、そのまま立ち去った。
ボクは、ぼんやりとした顔でクリスマスキャロルを歌うダンブルドア先生を眺めていた。
絢爛な料理に、温かな光を灯す無数のろうそく。
去年も思ったが、不思議な気分だ。
自分が、誰かといっしょにこんな日を過ごすなんて。
──────ビキリ
『マルフォイは、本当は君にネックレスのほうを渡す予定だったんだよ』
『ありがとう、ありがとう……生まれてきてくれて』
『未来の、魔法使いたちのために』
『君は世界一偉大な魔法使いには、絶対になれない』
片目が痛んだ。
あまりに多い情報量が、脳内に拡散し、神経がひっくり返ったかのように視界がゆらめく。
クラッブさんがあわててボクの背中を撫でてくれた。
いつになくおどおどしている。心配させてしまっただろうか?
ゴイルさんもボクの隣に座って、顔を覗き込んできた。
「大丈夫、クリスマスだから、ちょっと嬉しくて……」
嬉し涙が滲んでいたから、嘘にはならなかった。
なぜか二人はなんとも言えない表情をしていた。
顔を上げる。
クリスマス・キャロルを歌い終わったダンブルドア先生と目が合った。
にこりと彼は微笑むと、杯を掲げた。
それに応えてボクも杯をとって会釈した。
‐‐‐
談話室に戻ると、
机にコップが二つ置いてあった。
誰のだろうと思いみてみると、紙が置かれている。
"アルへ。いつもの感謝を込めて、特製の紅茶をつくりました。美味しいと思います。
マルフォイより"
ボクは心臓が跳ね上がるのを感じた。
すごく嬉しい。
どこの紅茶だろうか?
マルフォイさんがプレゼントに用意するものなのだとしたら、相当に美味しいのだろう。
でも、コップは二つある。
それぞれ異なる液体が入れられていた。
まさに紅茶といったような薄い褐色を秘めた芳醇な液体と、
うっとりするような真珠色の輝きを放つ液体。
どちらを飲めばいいのだろうか?
そこまで考えて、
ボクは得心した。
これは、あとでマルフォイさんが帰ってきてから飲もうということなんじゃないだろうか?
だとすると、どちらかがマルフォイさんのものだということにならないだろうか?
そうだ、
わかった。
真珠色の液体が、マルフォイさんが飲むほうだ。
なぜなら、とてもマルフォイさんの匂いがするから。
だとすれば、ボクはこの褐色の紅茶らしい紅茶のほうを飲むのだ。
ボクは、マルフォイさんが戻ってくるのを待った。
クラッブさんとゴイルさんは、まだ夕食を食べている。
しばらくして、
マルフォイさんはやってきた。
パンジーさんとともに。
パンジーさんはボクの存在を認識すると、ふっと笑ってそのまま寝室へと向かった。
ボクは、どこか緊張しているマルフォイさんの手を引いてソファに座った。
「や、やぁ、アル…………」
「どうしたの?」
なんだか表情が豊かだ。
最近はマルフォイさんのいろんな側面が見れて嬉しい。
「……? マルフォイさん」
「どうしたのかな?」
「なんで眼鏡かけてるの……?」
ボクが尋ねると、
マルフォイさんは慌てて眼鏡を外した。
「また魔法薬学の本読んでたの? ずっと勉強してたもんね」
「そう、そうなんだよ」
マルフォイさんはどこかホッとしたような顔で答えた。
ボクはふと気づいて、脇においていた荷物を取り出す。
「はいどうぞ」
「…………なんだっけ、これ」
「クリスマスプレゼント」
マルフォイさんはゆっくりと、いつもは見ないくらい丁寧に包装を剥がした。
中身が繊細なものだったらどうしようという風だった。
でも、中に入っているのはガラスなどではない。
マフラーだ。
「一応、夏休みに編んだんだ。
その……緑っぽいのは、ほら、ボクたちが初めてちゅーしたとき、緑のマフラーをつけていたから…………」
自分で言って恥ずかしくなった。
ボクは、少し緊張して、マルフォイさんを見た。
こういう発言をしてしまったら、マルフォイさんは決まって…………
「────────」
マルフォイさんは、怒りとも羞恥ともとれない表情をしていた。
いつもより豊かなのに、豊かすぎて内心がわからない。
ボクは、数秒待ってから、耐えきれず問うた。
「しないの?」
「──……なにが?」
「……えっと、キス、いつもの……」
マルフォイさんが、目を見開いて、
じっとボクを見る。
嫌だっただろうか?
いつもこういうタイミングで唇を奪われるから、待ち構えてしまった。
「ぁ、ごめん、なん────」
ボクがごまかす前に、
マルフォイさんの顔が、ボクの顔に接近した。
唇が重なった。