ハリーは、スリザリンの談話室の前で合言葉がわからず待ちぼうけし、
やってきたパンジー・パーキンソンに呆れた表情をされながらも、彼女が「もっと周りを見たら」というよくわからない小言とともに「純血」という合言葉を口にした。
なかにはマフラーを巻いたアル・ムーディが暖炉の前で温まっており、
ハリーの姿を見つけた途端、目を輝かせて手招きした。
そんな彼からクリスマスプレゼントを渡された瞬間、
自分のことでないのに一瞬だけ喜びが胸に広がり、
次に罪悪感が胸中を占める。
もし自分がスリザリンに入っていたら、少なくともこの子の側室的立場を手に入れられていただろうか?
校長室に入ったときにそこにあった組分け帽子に言われたのだ。
『――君はスリザリンでうまくやれる可能性がある。そしてそのスリザリンの素質は、今、ほんの少しだけ開かれているようだ』
組分け帽子の言葉を、ハリーは否定しきれなかった。
蛇語を話せたから、だけではない。
そして────
「しないの?」
「──……なにが?」
「……えっと、キス、いつもの……」
目の前の男子が、さも当たり前というようなふうに、そんなことを聞いてきた。
(マルフォイとは、いつもしてるっていうのか……?)
クィディッチ場でのあれは、特別だと思っていた。
もしかして、毎日キスしている?
目の前に、
上目遣いで口づけを提案してくる男子。
ハリーの理性は溶けた。
ハリーの忍耐力がなかったからとかではない。
むしろ、このホグワーツにおいてこの男子のこの誘惑を断ることができるものは両手で足りる程度いれば良いほうだろう。
みなが、男子に文化的、もしくは本能的に飢えており、男子とすれ違えば思わず振り返ってしげしげと見てしまい、思春期ならダンスパーティーに男子を誘いたくて脳がパンクするほどなのだ。
自分に向かって少しだけ細められた口元に、ハリーという女子は、自分の唇を重ねた。
「…………!?」
その欲に満ちた行動に、向こうはびっくりしたようだった。
だが、ゆっくりとハリーの背中に手を回した。
たまらなかった。
お腹の下のほうがかっと熱くなって、
自分より背の低いその男子を持ち上げる。
つま先立ちになって、男子がぷるぷる震えた。
この男子をパパにしてやったら、どんな顔をするだろうか。
そんな考えが、欲となってうずまき始める。
だが、酸素が足りなくなって、
一度口を離した。
「はぁ……は…………」
高い心拍数も相まって、ハリーは大きく息を吸った。
「マルフォイさん、落ち着いて…………」
アルは、どこか心配げな瞳で見つめた。
「ほら、紅茶…………」
そう言って、真珠色に輝くティーカップに入ったものを差し出してくる。
ハリー・ポッターは、そのカップを、
一口に呷って、
「あれ……? ぇ………………ハリーさん…………?」
ポリジュース薬の効果が切れ始め、
顔がマルフォイのものから自分のものへ、戻っていた。
‐‐‐
マルフォイさんだと思っていたら、ハリーさんだった。
驚くとともに、少しだけ怒ってしまいそうになったが、
そうもいかなかった。
紅茶を飲んでからだろうか?
ハリーさんの様子が、キスのときよりずっと甚だしくなった。
蕩けた目でボクを見つめながら、服を脱がそうとしてきた。
なんど言ってもその酩酊状態が晴れない。
おそらく、何らかの魔法の影響を受けている。
ハリーさんはもっと理性的な人だったはずだ。
少なくとも、児童文学作品の表題を任される主人公が、見境無く異性を襲う人物であるはずがない。
ボクはハリーさんを、マダム・ポンフリーのもとへ連れて行くことに決めた。
「は、ハリーさん。
もうすぐ着くから、落ち着いて? ね?」
「っ……♡♡ ぅ……ある……ッ♡♡」
ハリーさんは、一言でいえば、理性が機能していなかった。
ボクの横からしなだれかかり、
ボクの足に股を擦り付け、
手をボクのズボンに入れ込んでいる。
熱い吐息が耳を犯す。
「もうすぐ、で、着くから、先生に、見てもらおう?」
「ある、けっこんして……けっこん……♡♡♡」
横からしがみつかれているせいで、動くのが遅れた。
幸いなことに、通路を往く間誰にもボクたちの姿を見られなかった。
階段から落ちそうになりながらも、
なんとか、医務室にたどり着く。
「……何があったのですか?」
「ハリーさんが、なにか……魔法をかけられたみたいで…………」
ボクは、ボクのほっぺたを甘噛みしているハリーさんを抱えながらそう言った。
マダム・ポンフリーはしばらく固まったあと、
特製の薬をハリーさんに呑ませる。
すると、見る間にハリーさんの様子が大人しくなった。
半酩酊状態を経たあと、
ゆっくりと顔を下げ、そしてゆっくりと頭を抱えていた。
「ごめん…………アル……」
「うん…………一体、どうしたの?」
どうやら、ベッドに横にならなければならないほどの重症ではなかったらしい。
「
マダム・ポンフリーがボクを見た。
でも、疑いというよりは怪訝な表情だ。
なんでそんなことをする必要があったのかわからない、という感じだった。
ボクは、少し迷ったが、
事の次第をすべて伝える。
マルフォイさんが用意したものをハリーさんに振る舞ってしまったこと。
つまり、事故だったこと。
あえて、ボクとマルフォイさんがそういったことを以前から約束していたかのような喋り方をした。
もしかしたら、このことは寮監に伝えられてしまうかもしれない、でもマルフォイさんに目をかけているスネイプ先生なら、きっと許してくれるだろう。
むしろ、嫌っているボクのほうが悪いとするかもしれない。ちょっと怖い。
「本当にごめん。私、君にあそこまでする予定じゃなかったんだ」
ハリーさんは気落ちした様子で謝ったが、そもそもなんでマルフォイさんになっていたのかがわからなかった。
もしかして、ハリーさんは色んな生物に変身できる"
そう思ったが、どうやら違うようだった。
医務室から出て廊下を歩きながら、
ハリーさんは、ぽつりぽつりと、うなだれながら語った。
スリザリンの継承者の正体を突き止めようとしていたこと。
そのために、ボクやマルフォイさん、その他スリザリン生から情報を聞き出そうとしていたこと。
だから、ポリジュース薬で、ロンさんがボク、ハリーさんがマルフォイさん、ハーマイオニーさんがブルストロードさんに変身したこと。
我慢できず調査そっちのけでちゅーしてしまい、その結果変身可能時間を過ぎてしまったこと。
「君が、継承者なはずがないとは、わかってたんだけど」
「ボクが、マルフォイさんと協力して何かをしているかも、って思ったとか?」
「そこまでは考えていなかった。でも、ハーマイオニーなら考えていたかも」
ボクたちは、ハーマイオニーさんがいるという女子トイレに向かっていた。
正直行くのは抵抗があるが、もうほぼ使われておらず嘆きのマートルさんというゴーストが徘徊するだけとなっているらしい。
その一室でポリジュース薬を作っていたらしいのだが、当のハーマイオニーさんは、ミリセント・ブルストロードさんのものだと思って薬に入れた毛が猫のものだったらしく、半人半猫の状態になってしまったようだ。
だから、みんなを待って待機することになったらしい。
「おやこれはハリーとアル! アルじゃないですか!
こんなところで何を!」
目の前に美人さんがやってきた。
ギルデロイ・ロックハート先生だ。
ハリーさんが露骨に嫌そうな顔をした。
ロックハート先生にそういう反応をする人は多いらしい。
話してみると、とても楽しい人なんだけど。
「……ちょうどそこで会って、帰るところだったんです。継承者のこともあって、一人じゃ怖いから、二人いっしょに……」
ハリーさんが咄嗟に嘘をついた。
この一瞬で思いつけるのは凄い。
位置的に戻る道のりではなかったけど、ロックハート先生は特に疑問を抱かず納得してくれたようだった。
「そうですか。クリスマスだからといってはしゃぎすぎるのは良くありませんね。こういう時期でもあるし、それに殿方を寒い廊下に長く拘束するのもレディらしい振る舞いとは言えません」
なぜかハリーさんに向かって小言を発しながら、ロックハート先生はいつものマジシャンのような振る舞いをした。
ハリーさんが、杖を取り出し、決闘のように構えた。
「心配はいりません。先生が身を持って丁寧に教えてくれた武装解除呪文を覚えていますから」
そう言ってボクの手を引いて再度歩き始めた。
「どうしたの?」
「ロックハートは、私が生き残った女の子で、かつ、スリザリンの継承者だと噂されているのに嫉妬しているんだ。自分の知名度が負けたと思って」
そうなのだろうか?
小声でささやくハリーさんの顔から視線を後ろにスライドさせると、なぜか柱に隠れているロックハート先生の姿が、まだ見える位置にあった。
手を振ると、少し挙動不審な様子ながらもにっこりと手を振り返してくれた。嬉しい。