全員TSしているホグワーツ   作:ぽぶきち

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トム・マールヴォロ・リドル(ヴォルデモート卿)

【挿絵表示】



19話 多重魔法現象

「私がヴォルデモート卿だ。スリザリンの継承者にして、この愚かしくも愛すべきマルフォイを使ってもう一度秘密の部屋を開けた」

 

 ボクはホルスターから杖を抜き放ちざまに呪文を放った。

 

 ヴォルデモートではなく、

 マルフォイさんが持っていた日記に。

 マルフォイさんを傷つけないように。

 

 しかし、日記には切り傷一つつけられなかった。

 

「無駄だよ。その日記は、壊れない。」

 

 壊れない、

 ボクの渾身の魔法でも。

 

 もしかして、

 

「分霊箱(ホークラックス)…………。」

「ご明察」

 

 ハリーさんがボクの顔を見た。

 彼女はすでに、目の前の人物が日記にかけた呪いによって顕現した若き日のヴォルデモートであることを理解したらしかった。

 聡明な人だ。

 

「日記は────私は、

 マルフォイ家に保管されていたらしい。

 それを、この小娘が見つけた」

 

 面白そうに、ヴォルデモートがくつくつと笑った。

 

「去年、もう一人の私が賢者の石を求めてこの学校を騒がせたらしいね。

 そのときにクィリナス・クィレルとかいう教師が残した手紙」

 

 "ヴォルデモート卿はまもなく復活する"

 

 覚えている。

 彼女は、杖を折られ、自分が失敗したときのために、

 その言葉を残していた。

 

「その手紙によって、元死喰い人たちに緊張が走ったらしい。

 この娘は、母親がやつれる姿を見てずいぶん心配していた」

 

 マルフォイさんのお母さん。

 マルフォイさんが「私に瓜二つだ。胸以外は」と言っていた人。

 

「極めつけに、君だ」

 

 ヴォルデモートが、ボクを指さした。

 

「君があの有名な闇祓いの孫だと知って、この小娘も、その母親も阿鼻叫喚だった。

 もしもう一人の私が完全復活すれば、必ず君を殺すか、拷問にかけて楽しむか、服従させて性処理に利用するだろうからね」

 

 ぎり、と音がした。

 ハリーさんの顔を見た。

 鬼のようだった。

 

 隙を伺っている。

 

 大仰な立ち振舞いのなかで、ヴォルデモートの持つ杖が体からもっとも離れる隙を狙っているのだ。

 

 でも、意図的か無意識か、ヴォルデモートは腕を振るって熱く語りつつも、隙らしい隙を見せなかった。

 

「ひどく狼狽えた小娘(ドラコ)は、なにか解決策がないかと書斎を漁った。そして私を見つけた。

 私が少しばかり甘い言葉を返して、なおかつ不安を煽ってうまく調整するだけで、次々に私に自らの情報を渡した。私が、ヴォルデモート本人だとも知らずに。

 知っていたかい? 

 去年のクリスマス。

 "ドラコは、本当は君にネックレスのほうを渡す予定だったんだよ"。

 母からの手紙に、そちらを渡すように書かれていた。婚約者へのプレゼントとしてね。でも、恥ずかしくて、自分に送られたマフラーのほうを、君に渡してしまった」

「…………」

「しかしながら、アル・ムーディは私から見ても大いに興味をそそられる存在だった。

 少なくとも、愛人にはしてあげようと思っている。これからの確定した未来を思えば、破格の条件だろう?

 そしてハリー・ポッター。未来の私を殺した張本人。

 君も、アルと同じく私と決闘したが、正直二人して期待外れだった。杖振りは遅く、魔法力は貧弱で、狡猾さもない。

 どうやって私は死んだんだ? それがわからない」

「今にわかる!」

 

 ハリーさんが武装解除の呪文を放った。

 

 が、その前にヴォルデモートの放った衝撃呪文が、ハリーさんを吹き飛ばしていた。

 速い。

 無言呪文じゃなかったら、絶対に対応できない。

 

「ハリーさん、近づいちゃだめだ」

 

 そう言ったはいいものの、ここからどうすればいい。

 ボクに勝てるのか?

 いや、勝つ覚悟があるのか?

 

 そもそも向こうはおそらく実体がない。

 マルフォイさんの魂を吸って顕現した半実体存在だ。

 ポルターガイストのピーブスに近い。

 

 どうやって攻撃する?

 

 核となる分霊箱の日記も、破壊できない。

 

「本当は、夏休みの半ばから日記を使わせていたのだから、もっと早く乗っ取って、もっと多くのマグルを屠れたはずだった。

 ────それなのに! アル・ムーディ! 君が邪魔をした!

 君がさんざんドラコに女たらしなことをするから、そのたびにドラコは満足して、日記を使わなくなった!」

 

 苛立たしげに、ヴォルデモートがボクを睨みつけた。

 

「だが、もういい。

 君が死ねば、ドラコは永遠に目覚めない……」

 

 ヴォルデモートの口から、音がなる。

 シューシューという音。

 蛇語。

 

 何を言っているかはわからなかった。

 だけれど、ハリーさんの息を呑む声で、よくないものだというのはわかった。

 

 巨大な石像の、その口が開く。

 

 中から、何かが這い出してきた。

 

 何か、決まってる。

 バジリスク。

 サラザール・スリザリンがホグワーツに残した怪物。

 

「ハリーさん! 目を閉じるんだ!」

 

 思わずそう叫んだ。

 ボクも、目を閉じる。

 

 開心の眼をつける。

 

「二人を殺せ」

 

 床を振動させながら、何かが地を這うのがわかった。

 

 開心の眼の、ネジを掴んで、切り替える。

 

 もしこの魔法道具でバジリスクの心を読めれば、バジリスクがどこにいるのか、どこに眼があり、狙えばいいか、目を閉じたままでもわかるはずだ。

 

 

 お願い。うまく行ってくれ。

 

 

 目の前で、何かが鎌首をもたげたのが、わかった。

 

 ガチ、

 と音がして────

 

 同時に、

 

 耳元で、ぞっとするほどの美声が響いた。

 

「インペリオ。」

 

 インペリオ。服従せよ。

 ヴォルデモートが、ボクに服従の呪文をかけた。

 

 それだけじゃない。

 開心術もかけられた。

 

 意志が、

 心が、

 

 動転する。

 

 そこに、開心の眼がバジリスクから受け取った記憶を、流し込んできて、

 

 片目が…………

 

 

 

 

 

 

 

 

   心、

 

 

 意志、

 

 

    自分、

 

 他人、

 

 

  過去、

 

 

 未来、

 

 

 

 

 すべて綯い交ぜになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かの記憶だ。

 

 枯れ木のような老人が、はいつくばっている。

 見たことがある。

 

 彼女は、腐ったハーポだ。

 

『ありがとう、ありがとう……生まれてきてくれて』

 

 これは、このバジリスクの記憶?

 

 いや、もっと別の、違うバジリスクの、太古の記憶なのだ。

 

『わたしは…………やっと………………』

 

 老人は、

 両目から滂沱の涙を流しながら、

 この視点者が、このバジリスクが生まれてきたことに感謝し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが、倒れている。

 

 

 ボクだ。

 この世界に転生する前の、ボク。

 

 

 椅子から倒れている。

 地面に横たわっている。

 

 ボクが、死ぬ前の記憶。

 

 

 なんで、こうなったのかわからない。

 

 おそらく、首を損傷したのだと思う。

 

 

 両親を早くに亡くしたボクは、実家で一人暮らしだった。

 老人ホームの厨房バイトをしていたが、小指をミキサーで吹き飛ばしてからは、その仕事もやめた。

 

 ある日、

 急に、

 首から大きな音がして、

 倒れて、

 

 指一本も動かせなくなった。

 

『……………………』

 

 雨漏りが、苦い水を、口元に供給し続ける。

 その偶然が、死を遅らせた。

 

 頭は働く、

 感覚はある。

 

 でも、体が動かない。

 

 すぐ近くに隣人がいるのに、助けを呼べない。

 家の直ぐ側を通る配達に、声をかけることもできない。

 

 同じ姿勢で、同じ圧力が肉体にかかる。

 褥瘡。床ずれと呼ばれるそれが起こって、

 床との接地面から、拷問のような痛みが発せられるようになった。

 

 叫ぶことは、もちろんできない。

 

 逃れる方法もない。

 自由がない。

 石化されたように、体は動かない。

 

 湿気。

 血。

 二酸化炭素。

 

 髪から、虫が這い出てきた。

 

 田舎の家屋に住む虫が、動けないボクという絶好の餌場兼苗床を見つけ出すまで、そう時間はかからなかった。

 

 知っている虫も、知らない虫も、

 ボクの体を這い回る。

 かじって、食べて、卵を産み付けて……

 

 …………これ以上は……語りたくない。

 

(誰か………………)

 

 意識だけはあった。

 

 痛みよりも、そんなものよりもずっと…………

 

(誰か、僕に気づいてくれ…………)

 

 孤独を、感じていた。

 

(誰でもいい

 

 誰でも良いから、

 

 誰か、傍にいてください。

 

 隣(・)に(・)い(・)て(・)……)

 

 痛みには慣れた。

 苗床にも慣れた。

 でも、寂しさには慣れなかった。

 

 

 

 死んで、

 

 転生して。

 

 

 

 僕は、ボクは、

 生前のトラウマによって、まともに生活できなくなっていた。

 

 家族から捨てられるほどには、まともじゃなかった。

 

 大伯母に拾ってもらわなければ、ホームレスになって、また似たような死に方をしていただろう。

 

 最初に学んだ呪文は、忘却呪文(オブリビエイト)だった。

 幼少期の時期は、一つの呪文を覚えるのにも時間がかかっていた。

 

(いまなら、まだ、違和感がなく、消せる)

 

 一歩進むごとに、足裏に幻の痛みが走る。

 飛蚊症のように、眼を貫く虫の針があるような気がして、瞼を開けられなくなる。

 家に虫が出る度に、吐き気が止まらなくなる。

 

 だから、

 こうするしかなかったんだ。

 

 顎の下に、杖先を押し付ける。

 

『おぶりびえいどっ……』

 

 ボクは、ほとんどの記憶を消したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

『自衛の術を身に着けろ!』

 

 それから、大伯母の期待にも、少しずつ応えられるようになった。

 

『お前が窮地に陥ったとき、儂が隣(・)に(・)お(・)ら(・)ん(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)ん(・)!

 自分で、敵を斃すしかない!』

 

 幸い、ボクには一つだけ、一つの呪文にだけ才能があった。

 攻撃呪文全般にちょっぴり才はあったけど、それと比べたら他の攻撃呪文は遊びのような出来だったんだ。

 

 確か、悪霊の火を放とうとして、なんとか大伯母に止められたんだっけな。

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、君。席を探しているのかい?』

 

 だから、

 

『私の隣にいればいい。』

 

 それだけで、ボクは救われた。

 

 性別が違うとか。ヘイトキャラクターだとか、

 名家だとかスリザリンだとか、

 どうだってよかった。

 

 あの日から、ボクは、ドラコ・マルフォイという少女に、ぞっこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、誰かの記憶だ。

 

 目の前に女の人がいる。

 似ている。

 秘密の部屋にあった像と。

 

 この人が、サラザール・スリザリン?

 

『お前はここに残す』

 

 これは、別のバジリスクの記憶だ。

 

 いや、この感覚は、

 ボクが開心の眼を使った、このバジリスクの記憶だろう。

 

『オレは、ゴドリックほど、高潔にはなれない』

 

 懺悔するように、彼女はバジリスクの前に座り込んだ。

 

 ゴドリック?

 ゴドリック・グリフィンドールのことだろうか?

 

『オレたちは、魔法が使えるってだけで、蛇と話せるってだけで、さんざんだったじゃないか。

 あいつらだってそうだったはずだ。

 オレは、ゴドリックが現れるまで、人間すべてを憎んでいた』

 

 彼女は疲れ切った顔をしていた。

 何日も寝ていないような。

 

『あいつはいつもそうだった。ゴブリンが勝手なことを言って剣を奪い取ろうとしたときだって、奴らを誰一人殺そうとはしなかった。

 今回も、オレを……殺そうとはしなかった』

 

 ぽたり、ぽたり、と

 彼女が顔から雫を落とす。

 

 バジリスクはその涙を舐め取ろうとして、自分の毒牙のせいで、できなかった。

 

『オレは、ホグワーツを、除け者たちの隠れ家だと思っていた。

 だがゴドリックたちは、これからを拓く場所だと思っていた。』

 

 彼女が、顔を上げた。

 

 胸に持っている杖は、このバジリスクが与えた角をもとに作られたものだった。

 絆の証だ。

 

『オレはあいつらにはなれない。あいつらほど、高潔じゃない』

 

 顎に、彼女が、サラザール・スリザリンが触れる。

 

『この秘密の部屋は、いつかホグワーツに侵入者が入り、呪いを振りまいたとき、真の継承者がみなを率いて逃げ延びる場所として、逃げて体勢を整えるための場所として作った』

『…………』

『────。お前には、いつか彼女らの武器となってほしい。

 "未来の、魔法使いたちのために"』

『…………』

『これがオレの野(・)望(・)だ……。わかってくれるな……?』

 

 バジリスクは、蛇語で言った。

 寂しい、と。

 

 

 一人になって、

 

 暗く、暗く、

 誰の声も届かない場所で、

 バジリスクは怒りを募らせた。

 

 主人を追いやった者たちに。

 

 穢れた血。穢れた血のまざり者。血を裏切る者。

 

 主人に涙を流させたすべての者への憎悪を、ずっとずっと溜め込んだ。

 

 

 

 

 そしていま────

 

 

 

 

 目の前に、

 ボクの姿がある。

 

 大口を開いて、

 

 噛みつこうとしている。

 

 

 

 過去にまで飛んでいった意識が、

 

 急速に、

 

 ボクのもとへ戻ってきた。

 

 

 

 位置はわかった。

 

 ごめんね。

 

 

「 裂 け よ (ディフィンド)。」

 

 

 ボクは、

 自分がもっとも得意とする魔法を唱えた。

 

 

 








伏線全回収回でした。
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