ドラコ・マルフォイ。
その名前くらいは流石に知っている。
最初の作品で、主人公ことハリー・ポッターのライバルになる男の子のはずだ。
ハンサムな子役が演じていたはず。
いまボクの隣にいるのは、
どこをどうみても、少女だ。
同姓同名?
いや、魔法界でそんなことはまず起こらないだろう。
親戚?
そう思いたいが、周辺情報が許してくれない。
さっき、黒髪の少女(ゴイルさんというらしい)は、『ウィーズリーの出涸らし』に指に怪我を負わされたと言っていた。
もしかしたら、それは主人公の友人となるロン・ウィーズリーのことじゃないだろうか?
でも、電車の中でやり取りするシーンなんて、映画にはなかったはずだ。
「驚いたかい、私はあのマルフォイ家さ」
ほぼ無表情だが、雰囲気で自慢げなのが伝わってくる。
ボクは視線を彷徨わせて、なんとか言葉を作った。
「名家中の名家じゃないか」
「そうだろう」
ふふん、と無表情で目を見開いたまま器用に鼻を鳴らしてドヤるブロンドの少女、いや、ドラコ・マルフォイさん。
わかってはいた。
俗世を離れても聞こえてくる『生き残った女の子』という文言から、主人公は女性になってしまっているか、はたまた別のキャラクターが主人公の役割を与えられてしまっているか、どちらかの変容があるだろうとは思っていた。
だがまさか、特急で出会った少女が、映画でも指折りのヘイトキャラクターだとは思わなかった。
「私の隣にいてくれれば、ずっと守ってあげよう」
マルフォイさんは、ローブをカーテシーのように上げて、そうボクに提案した。
ボクは目を丸くしつつ、反射的に頷いていた。
「わかった。ずっと隣りにいるよ」
「ぇ」
自分で言ったことのはずなのに、ボクがそう返すと彼女は白昼に大蛇でも見たかのような顔をしていた。
『あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください』
‐‐‐
特急を降りると、どこかで見たことのある背の高い人が生徒を先導していた。
「いっちねんせい、いっちねんせい」
ちょっと口当たりがいい。癖になりそうな言葉だ。
「真似はやめなよ。あの巨人はこの学校の召使いなんだ。君もそういう風にあつかわれてしまうぞ」
言われて、口を閉じる。
召使いなんだろうか?
でも先生の一人だったような気もする。
とりあえずはマルフォイさんの発言を信用することにした。
ボクには情報源が彼女の言葉しかないから。
集められたボクたちホグワーツ一年生たちは、他学年が見守るなか、
『組分けの儀式』にかけられた。
ABC順に名前を呼ばれ、
組分け帽子によって所属する寮を決められるらしい。
どうしよう。
心を読むとしたら、ボクの好きな女性のタイプとか、大伯母に黙ってこっそり隣の家の人からキャンディをもらっていることとかがバレてしまうかもしれない。
余計なことを言わないように、心のなかで頼み込むしかなかった。
「アボット・ハンナ!」
最初の一人が名前を呼ばれ、
「ハッフルパフ!」
と彼女の頭に乗せられた帽子が叫んだ。
どこから発声しているんだろう。すごい、これが魔法か。
ぼけーっとしながらパチパチと手を叩いていると、
アル・ムーディならこの次に呼ばれそうなものだが、実際のところファミリーネームから先に呼ばれるので、ムーディ・アルとなる。
「──クラッブ・ビンセント!」
「スリザリン!」
「ゴイル・グレゴリー!」
「スリザリン!」
二人ともスリザリンだった。
怖いな。
もし帽子が「アズカバン!」とか叫んだら、かの大牢獄に送られて大伯母が投獄した犯罪者とともに
大伯母は、ボクに肝心なことは教えてくれないのに、武勇伝などはよく話していた。
「マルフォイ・ドラコ!」
呼ばれたマルフォイさんは、
帽子を頭につけるかつけないかのうちに、
「スリザリン!」
と言われた。
ボクのほうをちらりと見た。あれはドヤ顔だ。わかりにくいけど。
「ムーディ・アル!!」
びくりと体が跳ねた。
ボクの番だ。
どうやら、マルフォイさんの次だったらしい。
古ぼけた帽子が、どこか瞳に優しさを滲ませた女性教師によって頭に被される。
その際、
みんながボクを注視していた。
「男の子……?」
「グリフィンドールに来てくれ……!」
「ハッフルパフに花を……」
男女比1:10なのだからそんなに珍しくもないと思っていたのだが、どうやらどの寮も男子を欲しているらしかった。
「ウーー厶」
頭上から声がした。
先生じゃない。
もっと近く、帽子が喋っていた。
「これまた難しい。
人とのつながりに飢えておるの?
腕も良い。
力はあるが、試したいとは思っていない。
機知にも富む……」
やめてください、やめてください。
ボクが背の高い金髪クールお姉さんにちゅーされたいという夢を持っていることだけは誰にもバラさないで……!
「ん? んん? あ、うん。」
ボクは、視線をさまよわせて、
マルフォイさんとがちりと目が合った。
違う。
確かに、とてもタイプな女子だけど、
いまは考えちゃダメだ。
「グリフィンドールの勇敢さも、奥底にねむっておるが……。
スリザリン、行きたい……?」
なんだか組分け帽子さんの口調が変わっていた。
子どもに話しかける保育士みたいになっている。
ボクはちょっとだけムッとした。
ボクは前世を合わせればそれなりに…………。
「ぜん、せ…………?」
次第に、周囲から「
ハットストールってどういう意味なんだろう。
「す、スリザリン!!?」
組分け帽子が叫んだ。
瞬間、スリザリンのテーブルから万雷の拍手が飛んだ。
手を叩くマルフォイさんのとなりに座る。
すでにクラッブさんとゴイルさんがいたが、マルフォイさんがクラッブさんをどかせて隣にボクを座らせた。
席に座って初めて、周囲を俯瞰して見ることができた。
きらびやかな料理が並んでいる。
大伯母の家では、毒見を済ませた冷たい食べ物しか口にできなかった。
テーブルの向こうには、教師たちが並んでいる。
おっとりとした老婆のような先生。
利発そうな瞳をした、生徒に組分け帽子を被せている年配の先生。
おどおどしたターバンを巻いた女性。
長い黒髪と長い黒のローブを纏い、周囲を訝しむように見る先生。まつげが長い。
やはり、全員女性だ。
なんなら、ボクのいるスリザリンの席に座っているのもほとんどが女性だった。
数名、男子もいるが、上級生に挟まれてもみくちゃにされている。
…………ちょっとうらやま────
「アル。」
視界の半分を、ブロンドの髪が占有した。
マルフォイさんが、首を突き出し、ねめつけるように横目でボクを見ていた。
その瞳に、何も言えなくなる。
「あ、なんでも…………」
「あまりチラチラと人を見るのは感心しないよ。向こうが勘違いすることだってあるし、何より君のとなりには私がいるんだから、まず私と話すべきじゃないかな?」
確かに、とボクは彼女を見つめた。
「………………」
「………………っ」
見ろ、と言っていたのに、彼女は耐えきれなくなったようにボクから顔をそむけた。
頬が染まっているのをみて、怒らせたかもしれないと心配する。
「ご、ごめん、見すぎちゃって……」
「いや、いいのさ……」
「ポッター、ハリー!」
声がした。
組分け帽子のある方向をみると、
もじゃもじゃの髪でくりりとした目元がかわいらしい少女がいた。
組分け帽子は、ボクの時と同じように、彼女の寮の選別に迷っているようだった。
しかし、しばらくして、
「グリフィンドール!」
と叫んだ。
「やっぱりポッターはグリフィンドールか。最初からスリザリンの器じゃなかったからね」
おそらく揶揄しているのだろう。
しかし、無表情で嘲るマルフォイさんの見た目が、令嬢が窓から物憂げに外を見ているかのような雰囲気を醸していた。
組分けが終わり、
「わっしょい! こらしょい! どっこらしょい!」
と様子がおかしい校長が激励したあとに、
ボクたちはもりもりと食事を食べた。
ベーコンが美味しい。
温かい料理とは、こんなにも美味だったんだ。
ほっぺが落ちそうだ。
料理に舌鼓をうちながら、
ボクは、クィディッチ?というスポーツで相当な実力を持っていると豪語するマルフォイさんの話を手を叩きながら聞いた。
何もわからないなりにほへほへと頷いていると、マルフォイさんはここだけの話、とばかりに、幼少期箒に乗ってヘリコプターと衝突しそうになったことを教えた。
危ない話だ。
でも、マルフォイさんは相当箒乗りの実力があるんだ。
一つの魔法しか十分に使えないボクとは相当な差だ。
「マルフォイさんの箒に乗る姿、早くみたいな」
「私も見せてあげたいね。だが、一年生はクィディッチ選手にはなれないんだ」
「そうなの?」
「残念なことにね」
綺麗な髪をした彼女が箒に乗って飛んだら、より神秘的に見えるに違いない。
普段はえっち小説ばかり書いている貞操逆転スキーなので、無意識にそっちに向かおうとしてしまう