マルフォイさんの深夜徘徊がまばらになった。
真夜中に外に出る日と、出ない日が生まれるようになり、出ない日が大半を占めるようになった。
「ハリー・ポッターだ。やつがあの鏡を隠したんだ」
そんなことを言っていた。
あの鏡とは、マルフォイさんといっしょに見たErisedの鏡のことだろうか?
「でもいいのさ、そうなると思ってこっちにも用意があったんだから」
そう言って納得していたが、マルフォイさんのハリーさんに対する憎悪は強まっていった。
さらには、ハロウィーンのことだ。
ハリーさんのもとに、一つのプレゼントが届いた。
送り主が誰なのかはわからない。
ハリーさんは長らく
包みにはいっていて中身は確認できないようで、ハリーさんも包みごと持って帰るつもりだったみたいだが、マルフォイさんはクラッブさんとゴイルさんを使って足止めし、その包みを奪って中身を覗いた。
どうやら、中にはニンバス2000という箒がはいっていたらしい。
確か、マルフォイさんがよく語ってくれた、現代最速の飛行用箒だったはず。
値段も相応にするはずだ。
それをプレゼントするということは、よほどハリーさんに愛着のある人が送り主なのだろうか?
ハグリッド先生と仲がいいみたいだから、彼女が送り主なのかもしれない。
いや、確かグリフィンドールは長い間クィディッチで勝てていないらしい。
寮杯のかわりにクィディッチで差をつけるのが定法だったグリフィンドールにとってこれ以上の屈辱はないとマルフォイさんが言っていた。
だから、もしかしたらグリフィンドールでお金持ちの誰かが、新星シーカーであるハリーさんに高級な箒を買ってプレゼントしたとかじゃないだろうか?
少なくとも、これでマルフォイさんのハリーさんに対する対抗心は一段と燃え上がった。
聞いたところによると、マルフォイさんの母さんからはハリーさんと仲良くするように言われているらしい。赫々たる名声を持ってるから、という理由で。
でも、二人の相性はすこぶる悪いようだ。
マルフォイさんは、ボクにこそそういった部分をあまり見せないが、かなり不機嫌になっていると思う。
決め手は、
クィディッチの試合だった。
ニンバス2000を駆り、ハリーさんは見事、グリフィンドールを勝利へと導いた。
その対戦相手のチームが、スリザリンだった。
正直、あれは箒だけの力とは言えないと思う。
ハリーさんは何者かに呪文をかけられて、箒から落ちるところだった。
だというのに、気合で箒につかまり、そこから持ち直してスニッチを掴んで150点を獲得したのだ。
完璧な勝利で、ハリーさんは一躍グリフィンドールの英雄となった。
今年はハーマイオニーさんもいるから、成績で競う年度末の寮対抗杯も危うい可能性がある。
スリザリンの人たちもそれを感じ取っているようで、若干空気がピリついていて怖い。
そして、
ハロウィーン、クィディッチ初戦ときて、
クリスマス。
雪がしんしんと降り始めたイブの夜。
真夜中に抜け出して寝不足になっているマルフォイさんの頭を抱きしめて眠り、
起きると、ベッドの傍にプレゼントが置いてあった。
気づいたのは、みんなが慌てて自分たちのプレゼントを開封し始めたからだ。
ボクも起き上がろうとして、腕をマルフォイさんに引っ張られてベッドに落ちた。
「マルフォイさん、クリスマスだよ」
「ん、…………」
「起きて」
「や……」
マルフォイさんの柔らかなほっぺをぐにぐにとして起こす。
ちょっとほっぺたが柔らかすぎる。こんなに伸びるんだ。
「いひゃいひゃないひゃ」
痛いじゃないかと睨むマルフォイさんに謝ってから、
プレゼントを開封した。
開封しつつ、
クリスマスに同衾するってとてもえっちなのではと考える。
いや、そんなこと思ってはマルフォイさんに失礼だろう。
彼女は少しホームシックになっているのだ。
別に何もえっちなことはしていないし、意識しすぎるのもダメかもしれない。
プレゼントを開封すると、中身は杖だった。
同梱されていた手紙には、
"スリザリンに入りおって! そこは予備軍の巣窟だ! 油断するな!"
と書かれている。
大伯母さんらしい。
プレゼントの杖は新しいものではなかった。
ボクが大伯母さんとの特訓で使っていたものだ。
少し短めの、ナナカマドの杖。
ボクが今ホルスターに入れているのは標準的長さのレッドオークの杖だ。
杖を二本並行して使うと忠誠心が下がることがあるみたいだから、どちらか一方を使用するほうが良いだろう。もう一本は予備として置いておこう。
ローブのポケットではなくホルスターに入れていると、ふとした拍子に杖をなくすことだってあるかもしれない。
でも、大伯母のように大杖として常に手に触れさせているわけにもいかないから、予備の杖を持っておくというのはいい判断かもしれないと思った。
「私のプレゼントもとってくるよ」
といって、のそりとマルフォイさんがベッドから起き上がる。
そんな仕草に毎回どきりとしてしまう自分がいる。
ボクがチェリーボーイだから気にしすぎてしまうのだ。でも気にしていることがバレてもそれはそれで恥ずかしいから、眉をきりりとしてクールガイを装う。
「──ああ。」
「その喋り方なんだい?」
「……なんでもない」
マルフォイさんが、隣からずいずいと包みを引っ張ってきた。
開くと、大量のお菓子と、その中央にまた箱があった。
中には、
高級そうなマフラーと、ネックレスがあった。
マルフォイさんが、プレゼントの上に挟まれていた手紙を読む。
ボクは手紙の内容を見ないようにマルフォイさんの対面に座り込んだ。
「…………母上は、いつも私を心配してくださる」
しばらく沈黙したあと、
マルフォイさんは、手紙を読み進め、だんだんと顔を赤くした。
ブロンドの髪とコントラストになって、頬の赤みがよくわかった。
なんと書かれていたのだろうか?
目を泳がせたあと、
マルフォイさんはネックレスをとって自身の首にかけた。
そして、
マフラーをボクに渡した。
「え?」
「これは君が受け取るといい」
どうみても良質な布地で高級そうなそれ。
一等のスカーフにするような縫いが施されたそれを、マルフォイさんはボクに渡した。
ボクはネックレスの審美眼なんてないが、あのネックレスがこのマフラー以上に値があるものだと考えると、未知の世界に対する恐怖が沸いてくる。
「もらっていいの?」
「君にプレゼントを渡せと、手紙に書いてある」
渡されたそれを、首に巻いてみる。
高級感がありすぎてそわそわする。
でも嬉しかった。
「ありがとう、大事にするね」
「…………うん」
「ニンバス3000くらい嬉しい」
「何を言っているんだ」
ぷいと横を向くマルフォイさん。
ネックレスが似合っていた。
「そういえば…………」
「?」
マルフォイさんが、思い出したように口を開く。
「今年の寮対抗杯、どう思う?」
どう思う、と聞かれて、正直どんな感想を求められているのかわからなかった。
「ボクも成績が良いほうじゃないから、ちょっと心苦しいとか…………?」
「君は良いほうだろう。悪いというのはクラッブとかゴイルとかのことを言うんだ」
マルフォイさんは事あるごとに二人に対して「脳の栄養まで胸にいっている」と小言を言っていた。
正直ボクからすると魅力でしかないのだが、最近はそれを二人に気取られているような気がする。
彼女たちと話していると、露骨に胸を持ち上げる仕草をされることが多くなった。できるだけ見ないようにと心がけているが、どうしても目が惹かれてしまうところがある。
「今年は寮杯を獲得できないかもしれない」
とマルフォイさんが言った。
だとしても、あまり気にすることでもないような気がする。
各寮生が勉学を奨励するものとしてはよいイベントだけど、スネイプ先生などによるあからさまな贔屓もあったりすることを考えると、勝負としての公平性は低いんじゃないだろうか。
「私は、一つ方法を思いついたよ」
「方法?」
「スリザリンが優勝する方法さ」
自慢げな顔で、マルフォイさんが胸を張った。ボクは目をそらした。
「君にスリザリンの栄光を見せてあげよう」
「あ、うん、ありがとう」
この日から、
少し経って、
マルフォイさんは深夜に寮を抜け出しているのが見つかって、
罰則を受けることになった。
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