それは夕陽が段々と沈む頃だった。下校中に通りかかった公園で泣いている子供を見つけた青年は理由を尋ねると目を真っ赤に腫らして語ってくれた。どうやら最近家族と駒王町に引っ越してきたみたいで作業をしている親の目をぬすんで遊びに出たら帰り道が分からなくなったようだ、女の子は再び泣き出してしまったので彼は1つ手品を見せることにした
おにぎりを握るような形で閉じられた手を見つめる女の子に、彼はありきたりな呪文を口にすると開いて中身を披露した
『びがぁ‼』
「………えっ!ピカ―――」
そこには世界で有名な電気ネズミがそこにいた。彼の手からジャンプして着地すると女の子の周りを駆け回って肩まで上っていった。つぶらな瞳で見つめながら尻尾で鼻先を擦る姿を見て開いた口が閉じ方を忘れてしまったようだ
『ちゃ~!』
「くすぐったい」
柔らかい頬を寄せてくる感触を楽しんでいると遠くの方から母親らしき女性が名前を呼びながら近付いてきたので彼は自分の肩に戻るように命令した。女の子は少し寂しい表情をしていたが涙は綺麗に無くなっていた。手を振りながら離れると創造した電気ネズミを消失させて帰路につくのであった
「待てっ! 兵藤ーっ!」
学園の廊下に怒号が響き渡った。それから逃げるように男子生徒が短距離走者のように全力で疾走している。最初はクラスメイトの同志たちと一緒に逃げていたが無事に再会できることを信じ分かれ道で別々のルートを選択すると追跡者は兵藤一誠をロックオンした
彼は天井に忍び込んでテニス部の着替えを覗いていた。外にある排気口から侵入し狭い通路をほふく前進しながら目的の場所まで辿り着いて上から涎を垂らしながら見物していたが同じように覗いていた元浜がオナラをしてしまいバレてしまったのだ
「待てと言われて正直に待つ奴なんて、どこにいやがる!」
未成年だがやっていることは犯罪である。被害を受けた女子生徒が公的機関に訴えれば最低でも停学処分が科せられる所業を彼は重ねてきた。子供がやったことだから許せという理論は通用しない、物事の善悪が分かる年齢だ
「(ここを抜ければ)」
追跡者から逃げ切るためには、20メートル先を左折し下り階段をジャンプで飛び越えて旧校舎まで向かってオカ研の部室に逃げ込むのが最善である。敬愛する部長なら自分の味方になってくれると思った一誠は再加速して速度を落とすことなく左に曲がると…
ドッ! ゴッ!
男子生徒とぶつかって2人はそのまま階段を転げ落ちた。そのまま勢いよく踊り場の壁に激突したが一誠が壁側に押し付けられる形となって被害者が受けるダメージを軽減してくれた
「…えっ、大丈夫?」
「凄い音がしたけど」
「誰か119番と110番―――」
周辺にいた生徒たちは2人の様子を確認しざわざわしているが誰も率先して動こうとはしていなかった。そして犯人を追っていた生徒会所属の男子とラケットで武装していたテニス部員が現場に到着した
「担架持って来い!こっちを保健室に連れて行くぞ」
生徒会の男子は近くにいる生徒に指示を出すと被害を受けた彼を担いでいく、そして女子生徒からボコボコにリンチされている兵藤一誠のことを生徒指導を担当している学年主任に引き渡して事態を収拾するのであった
「大丈夫か?えっと」
「
保健室に運ばれた廿六木は目の前にいる恩人に礼の言葉を述べたあとに自己紹介をした
「とどろき?…車を3つ書くやつか?」
「それは下の名前だ」
彼の本名は
「俺は匙だ」
「全校集会で見たけど生徒会だよな?」
その言葉に頷いた彼は室内に置かれている冷蔵庫から氷を取り出してビニール袋に詰めるとゴムで縛って渡してくれた。轟はそれを赤くなっている患部に押し当てて冷やす
「生徒会なら兵藤を停学にするか追い出すことは出来ないのか?」
「そうしたいのは山々なんだが」
彼と兵藤一誠は同じクラスであり、松田と元浜と共に女子生徒のことを性の捌け口として捉えているのを見て軽蔑していた。進級したときのクラス編成を見て溜息を吐いたのは記憶に新しい
「今回のことで俺が警察に被害届けを出せば―――」
言い切る前に保健室のドアが開いて女子生徒が入ってきた。近くにいた匙は姿勢を正して頭をゆっくり下げながら生徒会長の支取 蒼那に挨拶をする
「大まかな経緯は目撃者の生徒たちに聞きました。廿六木君でしたね大丈夫ですか?」
「とりあえずは大丈夫です。これから110番をしますので」
ポケットからスマホを取り出したが一誠とぶつかった衝撃と階段を転げ落ちたことで画面に亀裂が生じていた。指で触れたら今にも粉々に砕け散りそうな状態を保っている
「器物破損も追加かな」
廿六木は匙にスマホを貸してもらおうと頼むと2人の間に支取会長が入って受け取りをやめさせた。怪訝な表情で見つめると彼女は頭を下げた
「少し待ってください」
「犯罪者を学園から追い出すチャンスでは?前年の会長は生徒のために動いてくれましたよ」
「…それは、でもちゃんと彼には賠償と謝罪をさせますので今は怒りを治めてください」
賠償という言葉を聞いて心が動いた。昨今の値上げラッシュは学生の相棒であるスマホにまで波及し、おいそれと機種変更が出来ないのが現実である
ドラマや小説でありがちな『思い出が詰まったものを壊されて新品と交換なんて!』という心情にはならない、最近は充電してからの減りも早くなってきたのでモバイルバッテリーを持ち歩くのが当たり前になっていたが新機種なら通信も早くて長時間の使用に不便することもない、轟は敢えて考え込むふりをして渋々という表情を作り了承することにした
「ありがとうございます」
「なんで生徒会長が謝るんですか?」
疑問を投げかけるが明確な答えは返ってこなかった。とりあえず自身の住所と電話番号を渡していると同じクラスの女子生徒がカバンを持ってきてくれたので下校することになった
「会長…差し出がましいことですが、あいつの言うとおりに兵藤を追い出した方が学園のためだと思います」
「でもリアスがなんて―――」
「なんで会長が顔色伺いをするんですか!………すいません」
「謝らなくて結構です。生徒のことを思えば当然のことですから」
近くまで送ってくれた女子生徒と別れると彼は誰もいないマンションの一室に足を踏み入れた。轟は両親と折り合いが悪く実家から離れて1人で暮らしている。学費と最低限の生活費に月々のスマホ代が口座に支給されるのだ
「今日はどれだけ集まったかな?」
負傷した部分に手を触れて師匠から教わった仙術を流していくと段々と痛みが引いていき赤くなっていた皮膚も通常の色に戻った。彼は窓を開けるとベランダに置かれていた瓶を室内に取り込んでテーブルの上に置いた
「………1万983円か」
瓶の中に詰まっていたのは小銭であり砂や泥で汚れている。彼はそれをザルの中に入れて水を注ぎながら洗剤を使って汚れを洗い流した
「(時給換算するといくらになるんだ?)」
頭の中でソロバンを弾いて計算するが数字が細かいので1100円ぐらいと決めつけて蛇口を閉めた。布巾で水気を拭き取りながら今日の出来事を振り返る
「(あいつ等はいなくなればいいのに)」
もちろん女子生徒の敵であるクラスメイトの変態たちである。特にここ最近は兵藤の身体能力が向上したのか先生からの追跡から逃れることも多く被害者たちは頭を抱えていたが今日は自分との衝突事故でお縄となり説教を受けているはずだ
「(飯にするか)」
腹の虫が歯ギターをしながらドラムを叩いて催促してきたので彼は手を叩いて、屋外で活動している配下の獣たちを消し去って冷蔵庫を開けるのであった
新作に着手しました。自分でもこの先の展開は殆ど考えていないのでノリと勢いで頑張っていこうと思います。
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