「迷える子羊にお恵みを〜」
「どうか、哀れな私たちにお慈悲をぉぉぉ!」
時計の針を少しだけ戻そう。土曜の昼下がり人々の往来が多い街中で真っ白なフードを被って顔を隠す怪しい2人組が足元に変な絵を設置して募金を求める声をあげていた
「黙って消えたと思ったら、詐欺紛いのラクガキに私たちの生活費を使ってどうするつもりだ!しかも全部使い切るなんて愚か者が!」
「失礼なこと言わないでゼノヴィア!この絵には聖なるお方が描かれているのよ、展示会の人もそう言ってたわ」
空腹のせいで余裕がなくなり気が短くなる。少々攻撃的な物言いだが声からして2人は女の子みたいだ、彼女たちは顔を真っ赤にして憤怒の表情を作っていたが空腹の虫が存在感を主張することで顔が曇ってしまい落ち込んでいる
「なんて薄情な国だ、空腹を叫ぶ私たちに救いの手を差しのべてくれないとは主を敬う心を持たぬと人はここまでも冷酷になるのだな」
「毒づかないでよゼノヴィア。募金箱が空のままだったら今日は食事も取れないのよ?」
「だからお前のせいだ!」
捨てられていたAmazonの段ボールで作った募金箱を振っても音は鳴ることはなかった。ゼノヴィアと呼ばれた青髪の女の子は、途方に暮れながら旅の資金が入っていた封筒をポケットから取り出して中を覗くと
「あった!あったぞ、1枚だけ残って―――」
「本当なの?」
乱雑に入れてしまったことで封筒はボロボロのしわくちゃになっていたが、そのせいで最後に残った千円札を見逃していたのだ
「でも…これだけじゃ」
「先のことは未来の私たちに任せるんだ!」
ひもじい状態から脱却すれば気持ちも落ち着いて妙案が浮かぶかもしれない、今は泣き叫んでいる空腹の虫を黙らせるのが先決である。物価高の日本において千円という予算の中で2人が満腹になるためには選択肢は限られる
「思い出した!この近くにお婆さんがやってる定食屋があって、値段も―――」
「ちょっと待てイリナ、それはいつの話だ?」
ゼノヴィアの相方で栗毛の美少女は子供の頃に駒王で暮らしていた。10年までとはいかないが少なく見積もっても5年以上前なのは確定とみていい
「大丈夫きっと、今でも」
そう言って彼女からお札を取ろうとしたら突風が2人を襲ってしまい、自分たちの命を繋ぐ大切なお金が青空へ飛び立っていくのであった
「「……………………………………」」
「追うぞ!」
しばし向き合って無言で無表情の睨めっこが続いた。笑うことも泣くこともなく2人は視線を合わせていたが先に動いたのはゼノヴィアの方だった。"逃してなるものか"たったそれだけの気持ちで残っていた活力を全て自身の足に注ぎ込むのであった
「美味い!日本の料理は、美味いぞ!」
「やっぱり故郷の味が最高ね」
最近のデリバリーって凄いね!屋外の公園でも住所が分かれば配達してくれるんだもん。誰もが知る緑色の文字が記されたバッグで商品を運んできてくれたライダーにお礼の言葉を述べて轟は東屋に戻った
「これ全部いいの?」
グロスを塗ったように口の周りをテカテカと輝かせて問い掛けてきた。右手にはダブルチーズバーガーで逆の手にはケンタッキーのチキンが握られている。ジブリ映画で似たシーンを見たような気がするけど口するのは止めた
「ああ、主よ!心優しい廿六木君にご慈悲を!!」
テーブルの上に置かれていたジャンクフードを全て平らげるとイリナが胸の前で十字架を刻む、そして遅れるようにゼノヴィアも彼に対して感謝の言葉を口にすると、彼女たちは満足した顔を浮かべていた
「なんでまた日本に?」
食べながら互いに自己紹介を済ませていたので、色んな部分が油分で汚れている2人にウエットティッシュを渡しながらこれまでの経緯を尋ねる
「実は堕て……」
「私たちが極東の地に訪れたのは布教活動の為だ!困った人々を助ける為に司祭様から仰せつかった大切な使命なのだ」
何かを言いそうになったイリナにゼノヴィアが脇腹へ鋭い肘打ちを入れて言葉を遮ると代わりに声を大にして述べてくれた
「君もどうだ?少なくとも我々の募金箱に見向きもしなかった連中より、気高く清い心が宿っていると思うが」
「とりあえず人生に行き詰まったら立ち寄らせてもらうよ、ってか活動資金が底をついてしまったんでしょ?連絡して送金を頼んでみたらどう?」
ゼノヴィアたちは無駄遣いのことを隠匿し旅の資金が尽きてしまったことを口にしていた。嘘に対して正論の切れ味は日本刀のように鋭く彼女を傷つける
「…でも、それは」
「ストラーダ猊下ならどうだ?私の師匠なら聞き入れてくれるかもしれない」
まるで天啓を閃いたような顔をするゼノヴィアはポケットから携帯電話を取り出すが、日本に到着してから充電をしていなかったことで残量は10%を切っていた。なおイリナは携帯をヴァチカンに忘れて来日していたので所持していない
「…………」
なにか懇願するような目で見つめてきた。例えるなら雨の日に段ボールで放置された捨て犬のような潤んだ瞳で轟のことを直視している
「手短にしてくれ国際電話は高いから」
待ち望んでいた言葉が返ってきて顔を輝かせたゼノヴィアは彼からスマホを受け取るとダイヤルキーを人差し指で叩いて着信ボタンを押した。聞き耳を立てるような野暮ったいことはしない、彼女は何度も頭を下げて謝って頼んでいるようにみえる
「代わってほしいと言われて」
「俺にか?」
しばらくして彼女から通話中のスマホを返してもらい耳に当てると荘厳な声が聞こえてきた
『優しき異国の紳士よ…迷える若き信徒に救いの手を差し伸べていただき感謝する』
「あんなボロボロな状態で見捨てたら祟られそうだったので、困った時はお互いということにしておきましょう」
『これはこれは、慈愛溢れる素敵な言葉だ!
「…あっ、ありがとうございます」
難しい言葉遣いだがお礼の言葉を述べて日本を褒めてくれるのは分かった。神職を生業とする人たちって先人たちが紡いできた歴史を背負うので規律正しい態度が求められるはずだが、目の前にいる2人は未熟者というのがヒシヒシと伝わってきた
『ゼノヴィアよ!今回のことは彼に免じて老骨の心に収めておこう。今日のことを忘れることなく向き合うことで弱さを知ることになる』
「分かりました」
『しばし遅れるが、今日中には振り込んでおこう』
「ありがとうございます」
そう言ってヴァチカンとの通話は切れた。スマホを返してもらい通話時間を確認するとギリ許容範囲内だったが痛い出費となってしまった。彼女の口座にストラーダからの資金が振り込まれたら今回の食事代を返すと言ったので、互いの番号を交換すると速報のニュースが通知されてきた
「…すまない、そのニュースを見せてもらえないか?」
「いいけど大丈夫か?顔が青いぞ」
記事をタップすると、昨今話題になってる無法者たちのサイバーテロによって主要国のメインバンクが攻撃対象にされてしまいATMが使用不可の状態になってしまった。対策は講じていたが完全復旧には最低でも4日間かかる見込みで銀行の出入口では市民が詰めかけて暴動が起きていることを知らせる内容だった
ゼノヴィアは震える指で記事をスクロールしていくと、攻撃を受けた銀行の一覧を食い入るように見つめていたが固まる瞬間を目撃してしまった
「じゃあな!今日の分は、あるとき払いでいいから」
カバンを持って公園の東屋から逃げ出そうとするが身体能力は向こうの方が上手だった。ジャンクフードの包み紙が散乱するテーブルを助走無しで飛び越えた彼女はアメフト選手のように轟の足に縋りついて進行を食い止めた
「頼む!もう君しかいないんだ!」
「今日はじめましての奴に金なんて貸せるか!」
「廿六木君私たちにご慈悲を―――」
困った時はお互い様と口にしたばかりだが寄りかかるのは勘弁いただきたい、デパ地下やスーパーの試食コーナーで飢えを凌ぐことも可能だし日本は海外と違って水道水が飲める国だから干からびる心配もない
「せめて担保ぐらい用意しろ!」
「たんぽ?………つまり相応のモノがあれば貸してくれるんだな?」
「ダメダメ!あの絵は駄目よ絶対に」
読者の方々へ先に伝えておくが、放置されていた段ボールの募金箱とラクガキの絵画はゴミと認定されてしまい捨てられてしまった。手持ちであるのは来日時にもってきたバッグに詰め込んだ着替えと聖書ぐらいで金目のものは何も………
「これで構わないか?」
「ゼノヴィア、それは―――」
彼女はテーブルの上にあるゴミをどかして背負っていた白い包みを置いたが中身は見せてくれなかった
「これは?」
「この中には司祭様から預かった大切な聖遺物がある。ヴァチカンの機密事項と呼べる代物で私たちも中身を見ることを許されてはいない、これを担保として君に預ける」
嘘くさく感じるが彼女の目は詐欺師とは違うように見える。仙術から感じとれる気の流れにも迷いはなく闘気に満ちていた。仮に逃げたとしてもストラーダの番号は履歴に残っているので請求することも可能だろう
「どうだろうか?」
「……3万だ!それ以上は出さない」
「いいのか?だって―――」
「お前じゃない、師匠のストラーダさんを信用させてもらう」
これで騙されたのなら人を見る目が無いということだ!轟の言葉を聞いたゼノヴィアは何度も頭を下げながら感謝の言葉を述べるのであった
追加というか独自設定として神器・神滅具所有者は転生悪魔と同じように「言語」の壁が無くなるを盛り込んでよろしいでしょうか?轟君がストラーダさんと話すのに問題が発生するので
ゼノヴィアが担保として聖剣を渡しましたが実は彼女の計算も含まれています
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
作品評価もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
独自設定として神器・神滅具所有者は転生悪魔と同じように「言語」の壁が無くなる
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問題無い
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問題大有りだ