「ゼノヴィアどうしてあんなことを?」
轟と別れた2人は受け取った3万円で日持ちする保存食を買い込んでいた。残高は2万4千円なので残りを互いに折半しようと思ったが再び騙されては困るのでゼノヴィアはイリナに渡したのは5千円だけであった
「あんなことか…、私は寧ろ僥倖だと思ってる」
その言葉にイリナは戸惑った。当座の生活費を得るために差し出したのは自分たちのアイデンティティである聖剣であった。素寒貧の自分たちにとって価値のある代物だが、おいそれと他人に渡せる担保ではない
「いったい何が僥倖なの?」
「教会から聖剣を盗んだコカビエルたちは3本だけで満足すると思うか?私たちが産まれるずっと前にストラーダ猊下は奴と剣を交えて追い詰めたそうだが戦闘狂の目だと仰っておられた」
「…まさか?」
「いや撒き餌ではなく、保険であり最後の砦だ」
イリナは轟のことを囮にすると思っていたが、目の前でラムレーズンのハーゲンダッツを食べる相方は否定した
「向こうは残りの破壊と擬態の聖剣を狙ってくるだろう。それが直接的なのか現地の聖職者を襲って私たちに出て来いと挑発を仕掛けてくるのか分からない」
「待って…廿六木君が保険ってことは?」
「コカビエルたちもまさか普通の学生が聖剣を隠し持っているとは到底思うまい、奴等の選択肢から真っ先に除外される一般市民の学生だ!」
最悪なのは全部奪われることで仮に自分たちが今回の任務で命を落としたとしても轟なら金銭のことでストラーダへ連絡し詳細を伝えてくれると思われる。1本でも教会に返還されれば新たな担い手が誕生し目的を果たしてくれるに違いない
「私には
「もちろん負けるつもりはないよ!全部終わったら廿六木君の住んでいる所に行ってエクスカリバーを返してもらいましょう」
「そうだな」
自分たちの問題に巻き込んでしまった負い目もある。もしかしたら関わってしまったことで神が彼の運命に遊び心を加えてしまい最悪な結末を迎えてしまうかもしれない、再開する場所が天国だったらイリナと一緒に頭を下げようと思うゼノヴィアであった
この時期になると夜のとばりが降りるのは遅く19時を回ってしまう。晩御飯を済ませた轟はテーブルの上に置かれた白い包みと対峙していた。見るな!と言われてしまうと余計に気になってしまうが中身を見たことで契約を破棄されたら堪ったものではない、ギリギリのところで良心が耐えてくれた
「どこに置いておこうか?」
殺風景な部屋に飾るオブジェとしては場違いな存在で占領してしまうので、とりあえず中身が飛び出さないように梱包用のプチプチで全体を包んでガムテープで巻くと押入れの奥の方に入れた。あとは入浴の準備をするために浴室へ向かおうとするが部屋の呼び鈴が鳴り響く
「(通販にしちゃ変な時間だな)」
そもそも何も頼んでいない、しかもチャイムに合わせてドアを強く叩く音が聞こえてくるので酔っ払いで近所に迷惑を掛ける斉藤さんかもしれないと思った。酒乱に耐えかねて奥さんのミヤコさんが逃げ出してから昼間でも飲むようになって荒れている
「ったく、酒に飲まれやがって!いい迷惑だ」
何度も被害を受けてる身としてガツンと言ってやろうと思った。酔っぱらいの相手をするのは今日で最後にするつもりで金輪際関わるなと口にするつもりだ
「いい加減にしぃ…ぃぃい!」
「お願いです!助けてください、木場先輩を助けてくださいおねがいします!」
扉の外にいたのは、電気ネズミの魔獣にケチャップを与えて手懐けていたオカルト研究部の女の子が制服を真っ赤に染め上げながら全身血だらけの木場を背負っていた
「おねがいします!木場先輩を―――」
土曜の授業が終わり、オカルト研究部に所属する塔城小猫は旧校舎の部室に顔を出すことなく足早に校門の外に出て街へ向かっていた
「(先輩…どこに?)」
小猫は今日も無断欠席した木場祐斗のことを捜している。数日前に現れた
「(あの人なら分かるかも)」
もちろん廿六木のことである。彼の『魔獣創造』を用いることが出来れば数の力で捜し当てることが可能になるが、以前のことで自分たちに向けられている印象は最悪でしかないので頼ることが出来ない有様だ
「でもどうしたら?」
大切な家族と離れてしまい孤独で壊れそうな自分にリアスは新しい名前をくれた。ようやく得た安寧の地なのに大切な仲間が消えるのはとても悲しい
復讐に駆られる気持ちは痛いほど分かる。しかし聖剣は自分たちの命を脅かす危険な代物で、制御できない感情に支配されてしまえば冷静な判断が出来なくなり全てが手遅れになる
「それだけは…嫌だ」
一番星が出勤のタイムカードを押す頃になっても木場は見つからなかった。転生悪魔の体力でも半日走り続ければガス欠になってしまう。住宅街から晩ご飯を作る香りと子供の声が聞こえてるのを耳にして今日の捜索を切り上げようとした瞬間
「……………っ!」
眉間に皺を寄せて顔を顰めたくなるような臭いだった。嗅ぎたくない鉄分の香りは鼻を塞いでも隙間から侵入してくる。小猫の脳内に最悪の情景が浮かんでしまい心音が段々と存在感を主張するようになってきた
「違う。絶対にそんなことは―――」
薄い白黒の線画に黒いペンで陰影が施され、地面に倒れ冷たくなった木場の絵が完成に向けて脳内の画家が絵の具を取り出して筆を握ろうするが小猫の意志が一時停止のボタンを叩きつけた
「ちがっ…」
角を曲がって空き地に入ると再生ボタンは押されてしまった。そこには全身が真っ赤に染まった尋ね人が横たわり苦しそうに浅く呼吸をしている。受け入れることが出来なかった小猫は数秒間だけ放心するが木場の近くまで駆け寄ると更に愕然とした
「せっ………せんぱ、いぃ、うっ…みぎうっ、腕が!」
「ねこ、どぅし―――」
右肩から先が切断され左手で傷口を押さえても出血は止まらない、顔から血の気がひいていき次第に青くなった。彼女はすぐに制服の袖を破ると渾身の力で縛って止血を行って木場を背負った。周りには彼の右腕らしき物体はあったが原形をとどめていない
「アーシアさんなら…でも」
彼女の持つ『聖母の微笑』なら今の状況を脱却することは可能だが現在地から身を置いている兵藤家まで約10キロある。119番も考えたが交通量がピークを迎えてる時間であり待っている時間も惜しい、小猫は意を決してかつて張り込みを続けた廿六木の住む部屋へ全速力で向かった
目から入ってくる情報が渋滞を引き起こし、追い返す選択肢は油性マジックで塗りつぶされてしまった。流石に部屋を血で汚したくなかったので2人をヒーリングスライムの中に格納し浴室まで連行し小猫を外に出した
「おいおいおい!なんだよこれは?」
片腕の無い木場を見ながら可能な限り仙術で治療を試みた。日常生活で負う怪我や骨折なら時間をかければ治すことは問題なく行えるが、無事な部分が殆ど存在しない患者は初めてである
「何があった!」
「分かりません、た…たお、倒れているのを見つけて一誠先輩は遠くて、っここしか」
ここなら兵藤家よりも近く、もしかしたら轟なら怪我を治せる魔獣を創れるかもしれないと思って小猫は賭けに出た。彼女は何度も『お願いします』と述べているが聞く耳を持たず治療に専念している
「…それは仙術?」
「黙って、気が散る!」
僅かに残った無事な部分を起点に生命力の芽を伸ばし、負傷した部分を丁寧に繋げながら気を送り込んで治癒力を活性化させながら傷口を塞いでいった。回復というよりも延命に近くタイムリミットを延ばすのが限界である。小猫は血だらけの手で携帯を取り出してアーシアに連絡する
「お願いします!もう少しだけ―――」
「あ~もう、今日は厄日だ!」
ゼノヴィアとイリナに今から入信出来ますか?と尋ねたい、神様がいるなら自分の陳情に答えてほしいものではあるが大方返ってくる言葉は『これも貴方に課せられた試練です』だと言われる気がした轟であった
聖剣を担保として渡されたのは、もしもの保険になります
原作よりもちょっとだけ頭のキレるゼノヴィアです
木場君の負傷も仕事中に思い浮かびました
その後の展開も上手く繋げれるように頑張ります
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
作品評価もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
独自設定として神器・神滅具所有者は転生悪魔と同じように「言語」の壁が無くなる
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問題無い
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問題大有りだ