チャイムが鳴る20分前に教室へ入ると近くにいたクラスメイトが彼の容態を確認するために尋ねてくる。衝撃で画面がボロボロになったスマホを突き上げるように掲げ、腕を動かし無事であることをアピールすると数日前に転入してきた金髪の女の子が頭を下げてきた
「あの…ごめんなさい」
「…?アーシアさんだっけ、何で謝るの?」
「アーシアはアイツの家でホームステイしてるの」
近くに座る三つ編みの眼鏡っ娘である桐生藍華がフォローするように答えてくれた。ホームルームで担任がそんなことを口にしていたが轟は半分寝ぼけていたので右から左へ聞き流していた
「それでもアーシアさんが謝るのは変でしょ」
教室内を見回すが変態3人組の姿はどこにもいなかった。いつもなら松田か元浜の机でエロ雑誌や盗撮した写真を並べて気持ち悪い顔でニヤニヤと笑っているのに今日に限っては誰もいない
「あの3人なら補導室で反省文の執筆だって」
「なるほどね」
昨日に奴等が引き起こした問題が各家庭に伝わり、それぞれの両親が覗きの被害者生徒たちに頭を下げたことで手打ちとなった
「俺はまだなんだけど」
「ゴウちゃんは教室に寄らず下校したから、あるとしたら今日じゃないの?」
「なぁゴウちゃんは止めてくれ、恥ずかしい」
「じゃあ…トドロッキーは?」
新しい呼び名は却下することにした。だってそれは小学生の頃にクラスの男子から茶化すように呼ばれていたのでトラウマになっている
「ってか、アイツと同じ屋根の下で大丈夫なのか?」
「一誠さんは優しい人なんです。迷子になって困っていた私を助けて―――」
「アーシアさんや家の中で紳士なら外で罪を犯してもいいの?、この学園で女の子たちを泣かしても許されるの?」
兵藤一誠でやっていることは紛れもなく犯罪であり被害者の女の子たちは怯える日々を過ごしている。自分の彼女とか身の回りだけではいい顔をするのはクズの外道だ
「それは、でも…」
反論や擁護の言葉が出てこなかった。彼女が駒王学園に転入してから日は浅いが一誠の所業を目にしているとクラスメイトたちへ好感を持たせるのは無理だと思ってしまった
午前の授業が終わり腹の虫たちが担当するパートの楽器を持って、演奏を始めると学食へ向かう者や机を並べて弁当を広げている。轟は同じ趣味を持つ男子と机を合わせて自作した弁当を食べている
「やっぱりオリファーの特攻って無駄死にじゃないか?」
「時間稼ぎだとしても貴重なV2のコアファイターじゃなくて、V1を使えって感じだよな」
「しかも
「小説版も同じだっけ?」
水筒のコップに麦茶を注ぐ轟は否定の言葉を口にしながら首を横に振った
「Vガンダムで規格の合わないセカンドVのシールドを持って出撃してMIA(ミッシング・イン・アクション)」
他愛ないロボットアニメトークで花を咲かせていると兵藤一誠が補導室から戻ってきた。やや明るめの茶髪を揺らした彼の姿を見て生徒たちは口を手で隠してひそひそ話を始めている。女子生徒に対する覗きやセクハラ行為は今までも行われていたが、明確に誰かを傷つけたのは今回が初めてである
「…一誠さん」
突き刺さる視線の雨を浴びながら弁当の包みを持ったアーシアが近寄っていくが、彼は顔を動かすと目当ての人物の前まで大股で歩き出した
「おい!」
「さっさとスマホの代金を弁償してくれないか?こんな状態だと不便なんだよ」
朝のホームルーム前に掲げたスマホをポケットから取り出して、割れている部分に向けて米粒のついた箸で突きつける
「何だと…!お前とぶつかったせいで先生や親に怒られて携帯まで壊れて、挙句の果てに卒業するまで小遣い禁止になって散々だったんだぞ!」
「自業自得だろ、あとさっさと頭を下げて謝れ」
「なんで俺が謝んないといけないんだ!あそこに立っていたお前が悪い」
「一誠さん!」
20年以上前のロールプレイングゲームで主人公が発した『俺は悪くねぇ!』みたいな台詞を口にすると突き刺さる視線の中に侮蔑が加わった。100人中100人が一誠を悪と答えるだろう
流石にこの状況で弁当を食べれるほど心臓に毛は生えていない、アーシアは彼の手を取って廊下に駆け出し一誠は突然の行動に驚いているが握られた手を見てニヤリと笑っていた
「汚い尻を親に拭かせるなんて最低ね」
桐生の言葉に残っていた全員が頷いた
しばらくすると一誠と同じように松田と元浜が補導室から戻った。午後の授業が始まるチャイムが鳴る寸前に出ていったアーシアたちも教室の中に入るが、朝よりも空気が悪いのは言うまでもなかった
「今日はここまでだ!廿六木はカバンを持って職員室に来い」
授業が終わり先生から呼び出された彼は言われた通りに向かうと、職員室の隣にある来客用の部屋に行くように通達された。そこには自身の母親と同じくらいの女性が座っている
「この度は本当に申し訳ございませんでした」
彼女は一誠の母親で息子の引き起こした騒動の謝罪をする為に訪れていた。昔は住所を教えて双方だけで終わらせていたが、被害者宅に加害者が乗り込んで大きな事件が起きたことで学園が仲介人となって立ち会うことになった
「親じゃなくて本人に謝ってほしいんですが」
「申し訳ございません。何度言っても『悪くない!』の一点張りでして」
「…そうですか」
あれだけのことをして何で被害者面なのか分からない、体だけが成長して心がガキのままで止まっているのだろうと結論付けた轟は母親からの謝罪を受けることにした。ここでグチグチと嫌味を言ったところで何も解決しない
「壊れてしまったスマートフォンの代金は全額出しますので私のアドレスに送ってください、それと少ないですが治療費と慰謝料として収めてください」
「分かりました」
「実は職員会議で兵藤たちを停学処分に関する話になったんだが理事長が差し止めてしまって、結局のところ折衷案で補導室で反省文になった」
「反省してますかね?」
「昼休みのことは報告を受けている。すまない不甲斐ない先生で」
差し出された封筒をカバンの中にしまった。親の稼ぎで勉学に励むのではなく欲望をさらけ出して女の子たちに迷惑を掛ける。そして謝るのは自分以外という不幸息子と辞書で調べたら『兵藤一誠』の名前が例文として書かれていそうな気がする
「それではお先に失礼します」
「車に気を付けて帰れよ!」
一誠の母親と先生を残して部屋の外に出ると金髪の男子生徒が佇んでいた。彼は轟の姿を見ると朗らかな顔で近付いてくる
「君が廿六木君だね」
「学園の王子様が何の御用で?」
「ここだと人の目があるから場所を変えないか、イッセー君のことで」
「先に携帯ショップの予約だけしていいか?」
もう帰りたいのにここでも兵藤の名前が出てくるとは呪いのように感じてしまう。互いに了承の返事をすると自販機のある中庭のベンチまで歩を進めるのであった
端的に言ってしまうと彼も朝のアーシアと同じように頭を下げて謝ってきた。目の前にいる彼と一誠は共にオカルト研究部に所属する部員であり代表として謝罪を申し出たのであった
「木場君が謝る必要は無いと思うんだけど、それにもし謝るのなら部長とかじゃない?」
「まぁ…ちょっと、それは」
なんだろう中間管理職のような悲哀を感じるのは気のせいだろうか?多分だけどこの謝罪も木場の独断で行っているのではと勘ぐってしまう。彼が額から流れる汗をハンカチで拭っていると手のひらのマメが見えた
「剣道でもするのか?」
「あぁ…これ?そうだね自己鍛錬みたいなものかな、物騒な世の中だし」
「確かにストーカーの被害とか遭いそうだもんな」
この場にいない一誠が女の子を追いかけるように、学園の女の子たちが木場を追いかけて熱烈なアピールをする光景を何度か見かけたことがある
「研究部に女子部員がいたらお前が守ってやれよ」
「精一杯努力させてもらうよ」
そう言って別れると轟は校門を出て帰宅するのであった。自宅に辿り着くと彼は今日も街へ送りだして金銭を回収していた魔獣たちへ号令をかけて帰還させるが、駒王の制服を着ていた白髪の女の子が彼の部屋に魔獣が入っていくのを目撃していることに気付いていなかった
作中にもありましたかが廿六木君はロボットアニメ好きです。今後も関連ネタを盛り込んでいくつもりです。彼の台詞で「Vガンダムで規格の合わないセカンドVのシールドを持って出撃してMIA」ですが10月5日に更新されたYouTubeのVガンダム42話の戦闘シーンを見てください
2話目にして既に一誠アンチとなっています(普通は退学や停学処分なんですが、原作でなんで許されていたのか)
スマホの代金や慰謝料に関しては兵藤家で貯めていた。一誠が大人になった時へ渡す通帳から出されています
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
明日はジャパンダートクラシック、1着のままでゴールまでイッテラッシャイ