兵藤の母親から渡された慰謝料を元手に轟は最新機種のスマホに買い替えた。ボロボロに砕けた液晶を見てショップの店員は苦笑いを浮かべていたが、高額機種を現金一括で支払うときには満点の営業スマイルを披露し、帰る時は深々とお辞儀をしてくれた。土日はアプリのインストールや引継ぎで潰れてしまい屋外に出たのはスーパーとコンビニで飯を購入したぐらいだ
「最新のやつじゃん」
「物価高って嫌になるな…前のやつは10万前後で買えたのに倍以上のお値段でビックリだ!」
隣に座る桐生に購入したスマホを見せると彼女は、画像フォルダをタップして中身をチェックしていたので手首にチョップを叩き込んで返してもらった
「ワザと高い機種を選んだじゃないの?」
その言葉に轟は小さく頷いた。購入した機種の明細を撮影して弁償を公言した母親のアドレスに送ると2時間もしないうちに自身の口座に振り込まれていた。アイツが『卒業するまで小遣い禁止』と言っていたが月1万円と仮定すれば支出の帳尻合わせが出来る計算となる
「軽蔑するか?」
「謙虚は美徳だけど人生をつまらなくする資産価値の0円の麻薬、欲は人間の象徴なんだから」
「だけど強欲まみれにはなりたくないね」
視線の先にある一誠の机にはカバンが置かれているが持ち主は教室にいなかった。彼を含めたクラスの変態三人組は停学処分にならなかった代わりに夏休みまで毎朝の校内清掃を行うのが義務付けられた。サボることも可能だが通信簿に『1』が並ぶことが確定してしまうので逃げることが出来ない
「少しいいかな?廿六木君」
廊下から呼ぶ声に反応すると登校したてなのかカバンを持った木場が立っていた。クラスの女の子は王子様の登場に黄色い声をあげているが轟の姿を見て2人の関係を妄想しメモ帳にペンを走らせる
「どうしたよ改まって?」
「今日の放課後なんだけど僕と一緒にオカルト研究部に来てほしいんだ!この前のイッセー君の件で部長が君に話したいことがあって」
「本人が謝ってくれるのが1番嬉しいんだけど」
断ってもよかったが彼の顔を立てることにした。了承の返事をすると木場は重大なミッションを攻略したように胸をなでおろしている
「じゃあ…放課後になったら迎えにくるから」
そう言って彼はサラリと手を振って消えていくが、ちびまる子ちゃんの花輪君のようにキザっぽくならず自然に振舞う姿に女の子たちの目は♡マークになっていた。同じ人間でも変態たちが似たようなことをやれば歓声ではなくブーイングが飛んでくる。そして轟の場合は木場のような真似は出来ない
「ところでオカ研の部長って誰?」
「3年生のリアスさんよ、ってか知らないなんてどんだけ無頓着なの」
「無頓着というより興味が無いって感じだな、オカ研だってこの前知ったし」
少子化の世の中だが駒王学園の生徒数は多く存在する。同じ学年だとしても一度も顔を合わさず会話をしないで卒業することも珍しくない、ましてや触れ合う機会のない上級生なら付き合いは希薄になるのが当然だ
「友達が少ない轟ちゃんの為に、卒業しても友達でいてあげるから」
「ありがとう桐生、でもな友達はちゃんといるからな」
「見栄なんて張らなくていいから、私に甘えなさい!」
彼の名誉のために言っておくが轟にも友達はいる。リアルで逢ったことはないが異国の地で働くアガレスさんという人物で、承認欲求を満たすためにSNSへ投稿した『魔獣創造』の力で創った『ファイナルダンクーガ』の写真にコメントをくれたことで親交が始まった
予鈴のチャイムが鳴る頃にはジャージ姿の兵藤たちが戻ってきた。彼は睨み付けるような視線を向けると自身の席に座った
「遅くなってゴメン!」
「…あと10分過ぎてたら帰ってたよ」
帰りのホームルームが終わっても木場はなかなか現れなかった。誘われたときに連絡先を交換しておけばよかったと嘆いていたら息を切らして登場し、呼吸が落ち着くのを待ってから旧校舎に居を構えるオカルト研究部の部室へ足を踏み入れた
「……………………………」
羊羹の袋をバナナの皮を剥くように開けて丸かじりする女の子が無言のまま見つめている。微弱だが師匠と同じ雰囲気を纏っているように見えるのは気のせいだろうか?
「少し待っていただけますか?リアスは身支度の最中でして」
「…えっとぉ~」
「あらあら私としたことが自己紹介がまだでした。副部長の姫島朱乃ですわ」
そう言って彼女は目の前にカップを置いて紅茶を注いでくれた。10人の男がいたら10人が振り向く胸部装甲が揺れるのを見て、変態の兵藤からしたらここは天国に1番近い場所だと思ってしまう
「この前は一誠君がとんだご無礼をして申し訳ありません」
「いや…姫島先輩が謝ることじゃありませんって」
「それでも我々の
その礼儀正しい心を兵藤に伝えてほしいものである。逆にこの人が甘いせいで成長が止まっているのかもしれない、甘くしたり優しく接するのは必要なことだけど絶対ではない厳しくしないと馬鹿は付け上がって成長する時期を見失う
「同じクラスだと―――」
朱乃が問いかけてくると奥のドアから紅いロングヘアが印象的な女性が現れたが、身に纏っているのはバスローブであり乾ききっていない濡れた髪が色気を更に醸し出している
「ようこそオカルト研究部へ!はじめまして私が部長のリアス・グレモリーよ、2年の廿六木君ね話はアーシアと
「………どうも」
「そんなに肩肘張らなくていいわ、私たちはあなたと話がしたいだけだから」
なにか喉に魚の骨が1本浅く刺さったような違和感が心をざわつかせた。小猫というのは2本目の羊羹に手を出している女の子だと思うが今日初めて顔を合わせたのだ、普通なら『アーシアと一誠』又は木場になるはずなのに言い回しが変だ
「おい―――」
「すまないけど落ち着いてくれないかな、君に危害を加えるつもりはないから」
どうやら獅子の群れの中に足を踏み入れてしまったようだ!出された紅茶に手を付けなかったのは偶然だが自分のことを褒め称えてシャンパンファイトを行いたい
「一誠の件もあるけど私たちが聞きたいのは、あなたが持っている力について教えてほしいの」
「いったい何のことで?」
「とぼけるのは悪手にすぎないわ―――小猫」
リアスに促されて彼女はポケットからスマホを取り出すと動画アプリをタップして再生ボタンを押した。そこには轟の住むマンションが映り心拍数が上昇していく
「きっかけは金曜日の夕方で小猫が気になるモノを見つけて追いかけていた」
リアスは画面に触れてズーム状態にすると鳥のような生き物がベランダに飛来していく様子が流れている
「鳥なんて別に珍しくもないですって、今じゃインコだって野生化する―――」
「私もそう思ったわ、けど小猫が気になって張り込みを続けたら面白いことに気付いたの」
今度はマンション周辺の道を写した画像を複数並べて見せつけきた
「あなたの部屋を多くの鳥たちが往復しているのに何でフンの1つも落ちてないの?それに1羽を捕まえたんだけど触れた瞬間に溶けて消えてしまった」
「…………っ!」
彼の持つ『魔獣創造』は1体だけではなく同一の個体を多数を生み出すことが出来るが単純な命令でしか動けない、無論オートではなくマニュアルに切り替えれば可能だがキュベレイのファンネルを操作するよりも難しく頭が焼き付いてしまう。だからオートで運用できるギリギリを求めたことで防御力は無に等しい
「もう一度聞くけど、あなたが持っている力について教えてほ―――」
「ただいま戻りました!」
勢いよくドアが開いて兵藤とアーシアが入ってきた。緊張感を消し去る最悪のタイミングであり轟にとっては人生で初めて彼に感謝するベストの展開だった
「アーシアの方にたくさん人が集まっ…って、なんで部外者のテメェがここにいる?」
「落ち着いてイッセー君、リアス部長が呼んできてと僕に頼んできたんだ」
「えっなんで木場に?どうしてですか部長」
「………先輩、空気が読めなくて最低ですね」
完全にシリアスな空気が霧散してグダグダな状況に陥った。このまま逃げてもよかったが明日になったら同じことの繰り返しになる
「先に私たちの秘密を明かすわ」
座っていた面々は立ち上がると死神を自称するパイロットが乗り込むモビルスーツの羽のようなものを展開させた
「私たちは人間ではなく悪魔と呼ばれる存在」
「悪魔ですか…なら俺の方も明かしましょう」
轟は手のひらをリアスたちに向けると次々と猫を模した魔獣を生み出す。しかし出てきたのは二足歩行の2頭身で西部劇のガンマンやサッカー選手のような出で立ちの猫型魔獣である。そのうちの1体でマタドールの恰好をした魔獣がアーシアに近付いて一輪の花を渡すが、一誠が魔獣ごとゴミ箱へ投げ捨てた
「一誠!」
「用が済んだらさっさと消えろバケモノが!」
悪魔にバケモノと罵られるとは思わなかったが流石にスルーできるほど寛大な心は持ち合わせていない、轟は一誠に近寄ろうとするが間に木場が入って落ち着くように訴えてきた
「気を悪くしないでね、色々と余裕がなくて気が立っているの」
「………はぁ」
何で上から目線なのか?身内の肩を持つのは百歩譲って仕方ないとしてもバケモノ発言に関しては咎めるべきだと思う。しかし師匠も理外の存在だったが悪魔を至近距離で見るとは驚きだ
「それにしても一誠以外にも神滅具の持ち主がいたとは、これなら十分にサポート役としても使えそうね」
「そうですわね。一誠君で兵士の駒を8つも使ってしまいましたし、この巡り合いは僥倖と言えますわ」
聞こえてくる声に耳を傾けると凄く嫌な予感がする
「廿六木君、オカルト研究部に入って私の眷属になりなさい!」
「えっと……普通に嫌です!」
予告じゃありませんが次はバトル描写まで執筆できればと思ってます
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