プロットは全部自分で書いて、出力はAI、その都度編集のごとくダメ出しと細かい指示だしをして出力した結果の物です。
非公開なので忌憚なき意見をください。
なお、美味しんぼを語る以上は賭博としての競馬が存在するウマ娘世界になってます。
一般公開は、皆様の反応次第。2話以降も書いてる最中です。
私、栗田ゆう子と申します。
東西新聞社の文化部に勤める記者で、同じ文化部の山岡士郎さんと一緒に「究極のメニュー」という大仕事を任されています。
山岡さんは、食べ物のことなら驚くほど頼りになる人です。
料理の腕も確かですし、食材についての知識も豊富。普段はだらしなく見えても、困っている人を見ると放っておけないところもあります。
ただし――それ以外についても頼りになるかと言われると、私は少し考えてしまいます。
特に、競バについては。
その日、私は山岡さんと一緒に府中のレース場へ来ていました。
今はもう全てのレースが終わり、レース入着上位者による応援してくれたファンに対する感謝のウイニングライブも終演しています。
レース場からの帰り道、私はまだ少し興奮していました。
「ウマ娘のレースがあんなに面白いとは思いませんでした」
「だろ?」
隣を歩く山岡さんが、なぜか得意そうな顔をします。
「なんで山岡さんが得意そうなんですか」
「別に…俺が走ったわけじゃないけどさ」
「だったら、そんな顔しないでください」
そう言いながらも、私は反論らしい反論ができませんでした。
今日一日、思いきり楽しんでしまったからです。
そもそも、私が今日ここへ来たのは、レースに興味があったからではありません。
山岡さんを見張るためでした。
山岡さんは今、賭け事を控えているはずです。
究極のメニューという大仕事を抱えているのだから、少なくともそれが完成するまでは賭け事にうつつを抜かさない。
そういう話になっていました。
私も、てっきりその約束を守っているものだと思っていたのです。
ところが、山岡さんは暇を見つけてはレース場へ相変わらず頻繁に足を運んでいます。
それが、どうにも腑に落ちませんでした。
賭け事をしないのなら、何をしに行っているんだろう。
もちろん、純粋にレースを見るのが好きな人がいることくらい、私にも分かります。
でも、ウマ娘は私と同じ女の子です。
レースの世界には競技としての熱狂だけではなく、スター選手を応援する華やかな一面もあります。
人気のウマ娘ともなれば、その注目度はちょっとしたアイドルにも負けません。
レースに興味のない人から見れば、賭け事もしない男性が若い女の子たちを見るために何度も通っている、と受け取られても仕方がないでしょう。
ましてやあの山岡さんです。
まさか――。
若い女の子たちが走っている姿を眺めて、鼻の下を伸ばしに行ってるんじゃないでしょうね。
一度そう考えてしまうと、確かめずにはいられませんでした。
だから今日、山岡さんが一人で出かけようとしたところを捕まえて、
「私も行きます」
と言ったのです。
あの時の山岡さんの顔は、今でもはっきり覚えています。
「いや、別に来なくてもいいだろ」
「どうしてです?」
「どうしてって……興味ないだろ?」
「今日から興味を持つことにしました」
「なんだよ、それ」
明らかに困っていました。
最後まで渋っていましたが、私は有無を言わせませんでした。
あんなに困った顔をするなんて、やっぱり何かある。
その時は、本気でそう思ったものです。
ところが。
いざレースが始まってみれば、そんなことはすっかり忘れてしまいました。
最初のうちは、ただウマ娘の足の速さに圧倒されるだけでした。
でも、山岡さんが横から、
「あの子は前のレースで最後に差されてるんだ」
とか、
「こっちはずっと勝てなかったけど、最近ようやく調子が上がってきた」
なんて教えてくれるものですから、だんだん見え方が変わってきました。
背景を知れば、同じゴールを目指して走っているように見えても、一人一人が全然違うものを背負っている。
そして今日最後のレースでは、気がつけば私も立ち上がって応援していました。
「行って! あと少し!」
なんて大声まで出して。
応援していた子は、ほんのわずかな差で二着。
あの時は本当に悔しかった。
今日初めてレース場へ来た私が、です。
それなのにゴールした本人は、悔しそうな顔をしながらも一着の子を称えていました。
その後に見たウイニングライブも素敵でした。
レースの時とは衣装も雰囲気も変わって、あれほど激しく競い合っていたウマ娘たちが、今度は大勢のお客さんの前で歌って踊る。
周りのお客さんたちも大盛り上がり。
私もつられて手拍子までしてしまいました。
「でも、ちょっと分かった気がします」
「何が?」
「山岡さんが、どうして賭けなくても見に来るのか」
私がそう言うと、山岡さんは一瞬だけ目を丸くしました。
それから、
「……ああ」
と、妙に安心したような顔をしました。
何か引っかかるものはありました。
でも、それを追及するよりも今は感じたことを話したい気持ちの方が強かったんです。
「ウマ娘のレースって、ただ足の速さを競うだけだと思ってました。でも、あんなに人の気持ちを熱くさせてくれるものなんですね」
「ずっと勝てなかった奴がようやく勝ったり、故障から戻ってきた奴が意地を見せたり、前に負けた相手に今度こそって挑んだり。そのための努力だってする。次に同じ顔ぶれで走ったって、前とまったく同じ勝負にはならない」
「そういうところまで見てるんですか?」
「そこが面白いんだ。一つ一つのレースには、それまで積み重ねてきたドラマがあるんだ。だから、一つとして同じレースなんてないのさ」
山岡さんはそう言って、少し笑いました。
「誰が一着になるかだけ見てたんじゃ、もったいないよ」
私は先ほどのウイニングライブを思い出しました。
眩しい照明。
大きな歓声。
笑顔でステージに立つウマ娘たち。
本当に華やかな光景でした。
だからこそ、一つ気になったことがあります。
「……でも」
「ん?」
「ウイニングライブに出ていたのって、三着までの子だけなんですよね」
「ああ」
今日の最後のレースには、もっと大勢のウマ娘が出ていました。
四着。
五着。
その後にも、ゴールした子たちはいます。
でも、あのステージにはいませんでした。
私が応援していた子は二着だったから、ライブにも出ていました。
負けて悔しかったはずなのに、それでも観客の前へ立って、笑顔を見せていた。
だったら。
そこにすら立てなかった子たちは、どんな気持ちだったのでしょう。
「一生懸命練習してきたのは、みんな同じなんですよね」
「まあな」
「それでも、結果が出なかったら……」
そこから先は、うまく言葉になりませんでした。
今日一日を思い返せば、本当に華やかな世界です。
大勢の観客。
割れそうなほどの歓声。
勝者への祝福。
そして、ウイニングライブ。
でも、その光が強いからこそ、そこから外れてしまった子の姿が急に気になってしまったのです。
努力したからといって、必ず結果が出るわけではない。
故障することだってある。
思うように走れなくなることだってあるでしょう。
期待されていたのに、その期待に応えられないことも。
今日初めて見に来た私には、分からないことばかりです。
それでも、あれほどの願いや想いを背負って走っているのなら。
もし、思うように走れなくなってしまったら、どんな気持ちになるのだろう。
そんなことを考えていました。
「……どっしたの?」
山岡さんの声で、私は我に返りました。
「いえ……ちょっと考えちゃって」
「初めて見に来た日に、そんな難しい顔するなよ」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「俺のせいかよ」
「山岡さんがいろいろ教えるからです」
私が言い返すと、山岡さんは肩をすくめました。
それから、少し改まったように前を指します。
「だったら気分直しだ。旨いもの食わせてやるよ」
「本当ですか?」
「この橋を渡った先に、良い店がある」
それなら話は別です。
せっかく府中まで来たのですから、美味しいものまで食べられるなら文句はありません。
「どんなお店ですか?」
「着いてからのお楽しみ」
「またそうやってもったいぶるんだから」
そんな話をしながら、私たちは橋を渡り始めました。
その時でした。
欄干のそばに、一人のウマ娘が立っていました。
長い黒髪。
背が高く、立っているだけでも目を引く子です。
レース場の近くですからウマ娘が居ること自体は不自然ではありません。
けれど――。
欄干の向こう。流れる川を、じっと見下ろしています。
私は思わず足を止めました。
よりによって、今、さっきまで考えていたことが、一気に頭の中へ戻ってきました。
華やかな舞台。
そこに立てなかった子たち。
努力しても結果が出ないこと。
思うように走れなくなること。
「山岡さん……」
「……ああ」
山岡さんも同じことを考えたようでした。
表情が変わっています。
「ちょっと待ってろ」
「山岡さん」
「大丈夫。刺激しないようにする」
そう言って、山岡さんはゆっくりと彼女へ近づきました。
「なあ」
ウマ娘の耳が、わずかに動きます。
けれど、こちらに振り返りません。
「何があったのかは知らないけどさ……そこにいるのはやめた方がいいんじゃないかな」
「…………」
返事はありません。
山岡さんは少し困ったように頭をかきました。
「俺たちは別に、あんたの事情を聞き出したいわけじゃないんだ。ただ、もし思い詰めてるなら――」
そこで初めて、彼女がこちらを向きました。
「何の話だ」
低い声でした。
「いや……その、何があったにしてもさ。今すぐどうにかしなくてもいいだろ。少し落ち着いてから考えたって――」
「…………」
「話くらいなら聞くし、頼れる奴がいるなら――」
「やめろ」
山岡さんの言葉が止まりました。
声は大きくありません。
怒鳴ったわけでもない。
それなのに、空気が急に張り詰めたように感じました。
「その目で私を見るな」
「え?」
「何も知らないくせに」
胸を突かれました。
その通りです。
私たちは、この子が誰なのかさえ知りません。
それなのに勝手に事情を想像して、勝手に可哀想な人だと決めつけている。
でも。
それでも、このまま放っておくのは怖い。
山岡さんもそう思ったのでしょう。
「悪かったよ。ただ――」
もう一歩、近づこうとしました。
その瞬間。
彼女が山岡さんを見ました。
ただ、それだけです。
でも私は息を呑みました。
鋭い。
怖いというより、こちらの身体が勝手に止まってしまうような目でした。
山岡さんも同じだったのでしょう。
「うっ……」
反射的に一歩、後ろへ下がります。その時、
「あ」
靴の踵が何かに引っかかりました。
山岡さんの身体がぐらりと傾きます。
「山岡さん!」
私が手を伸ばした時には、もう遅い。
山岡さんの姿が橋の向こうへ消えました。
少し遅れて、バシャーン!
と大きな水音が響きます。
「山岡さーん!」
私は欄干へ駆け寄りました。
下を見ると、山岡さんが川から顔を出しています。
「大丈夫ですか!?」
「……なんか」
「え?」
水を吐きながら、山岡さんがぼそりと言いました。
「デジャブだ……」
こんな時に何を言っているんでしょう、この人は。
幸い、川の流れはそれほど速くありませんでした。
山岡さんは自力で近くの岸辺へ泳ぎ、私もその近くまで移動しました。
問題は、そこからでした。
コンクリートで固められた岸辺と川面には高さがあり、山岡さん一人では這い上がれなさそうでした。
「ちょっと待っててください! 今、人を――」
私が山岡さんを引き上げられそうな人を探しに走り出そうとした時でした。
「ブライアン!」
橋の向こうから声がしました。
振り返ると、眼鏡をかけた一人のウマ娘がこちらへ走ってきます。
腰まで届く白銀色の髪は驚くほど豊かで、走るたびに大きく揺れていました。
「何をしているんだ、こんなところで――」
彼女はそこでこちらを見下ろしました。
「……貴女方は?」
「ええと……いろいろありまして!」
我ながら、ひどい説明です。
それでも状況は伝わったらしく、彼女はすぐ岸辺に向かってくれました。
「すみません。手を」
眼鏡のウマ娘が身を屈めます。
「いや、服が水吸ってるから重いぞ」
「問題ありません」
山岡さんが差し出した腕を、彼女は片手でつかみました。
次の瞬間。
「よっ、と」
山岡さんの身体が軽々と持ち上がりました。
「えっ」
思わず声が出ました。
ウマ娘が私たち人間よりずっと力が強い。
そんなことは私だって知っています。
でも、知っていることと実際に目の前で見ることは全然違いました。
全身ずぶ濡れになった成人男性をです。
服だって、たっぷり水を吸っています。
それを彼女は、片手で引き上げてしまいました。
山岡さん自身も呆気に取られています。
「す、すごい力だな……」
「いえ、これくらいなら」
彼女にとっては本当に大したことではないらしく、眼鏡の位置を直しただけでした。
それから橋の上に残ってこちらの様子を眺めていた黒髪の子へ目を向けます。
「ブライアン。また何かしたのか?」
「私は何もしていない」
「では、どうしてこの方が川に?」
「勝手に落ちた」
反論できません。
本当にその通りです。
「私たちがちょっと勘違いしてしまって……」
私が事情を説明すると、眼鏡のウマ娘は何とも言えない顔になりました。
「なるほど……」
「だから私は何もしていないと言った」
「それは分かった。だがブライアン、その睨み方は少し改めた方がいい」
「知るか」
黒髪の子はそれだけ言うと、踵を返しました。
「待て、ブライアン!」
呼び止められても振り返りません。
そのまま歩いていってしまいます。
「まったく……」
眼鏡のウマ娘はため息をつきました。
それから私たちへ向き直ります。
「申し遅れました。私はビワハヤヒデと申します。妹が失礼しました」
「ビワハヤヒデ……?」
山岡さんが、その名前を繰り返しました。
そして、去っていく黒髪の子を見ます。
「ちょっと待て。あんた、さっきあの子をブライアンって呼んでたよな」
「はい」
山岡さんの目が大きくなりました。
「ビワハヤヒデの妹で、ブライアン……まさか」
私もそこで気づきました。
「ナリタブライアン!?」
「はい。妹のナリタブライアンです」
思わず、遠ざかっていく背中を見つめてしまいました。
その名前なら、今日初めてレース場へ来た私でも知っています。
三冠を成し遂げた、あのナリタブライアン。
「そうか……あれが」
山岡さんも驚いた顔で見送っています。
でも、それなら余計に気になりました。
どうしてそんな凄いウマ娘が、あんな場所で一人で川を見つめていたのでしょう。
ハヤヒデさんの表情が曇りました。
「最近のブライアンは、少し様子がおかしいんです」
「様子が?」
「以前のような闘争心が感じられないと言いますか……本人も何かに苛立っているようなのですが、私にも上手く話してくれません」
橋の上で言われた言葉を思い出しました。
――その目で私を見るな。
「周囲も心配しています。ですが、それがかえってブライアンを苛立たせているようで……」
私は少し申し訳なくなりました。
事情も知らずに、私たちまでまったく同じ目を向けてしまったからです。
「それに、最近は食事の時も少し様子が変でして」
その言葉に山岡さんが反応しました。
「食事?」
「ええ。彼女は肉が大好きなんです」
ハヤヒデさんの口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かびました。
「以前なら肉料理が出ただけで、こちらが呆れるほどだったのですが……最近は以前ほどの執着を見せなくなりました」
「食欲がないのか?」
「食べてはいます。ただ……以前ほど嬉しそうではないんです」
それは本当に小さな変化なのでしょう。
ずっと一緒にいるお姉さんだからこそ気づけた変化なのかもしれません。
「すみません。見ず知らずの方にこんな話を」
「いや……」
「ですが、先ほどのお話を聞いていると、妹のことを本気で心配してくださったようですし……もし何かお気づきになることがあれば、相談に乗っていただけないでしょうか」
「俺は――」
山岡さんが答えようとした、その時でした。
ハヤヒデさんが橋の向こうを見ます。
ずいぶん先まで行ってしまったブライアンさんの姿が、小さく見えました。
「あ……すみません。私はブライアンを追います」
「え?」
「突然こんなお願いをして申し訳ありません。それでは」
「あ、ちょっと――」
山岡さんの返事を待たず、ハヤヒデさんは駆け出しました。
速い。
あっという間に遠ざかっていきます。
後には、私と山岡さんだけが残されました。
「……行っちゃいましたね」
「ああ」
「どうします?」
「どうするって言われてもなあ」
山岡さんは濡れた髪をかき上げました。
「俺たちは医者でもトレーナーでもないんだぞ」
「でも、気になるんですよね?」
「そりゃまあ……」
やっぱり。
山岡さんはこういうことを放っておけない人なのです。
「肉が好きだったのに、前ほど興味を示さない、か……」
山岡さんが考え込んでいます。
もう食べ物の話になった途端にこれです。
「山岡さん」
「なんだ?」
「もしかして、もう考え始めてます?」
「別に。ただ――」
「ただ?」
「はっ……」
「?」
「はっ、はっ……」
嫌な予感がしました。
「ハックション!」
大きなくしゃみが響きます。
そして私は、今さらながら大切なことを思い出しました。
山岡さんは、頭の先から靴の中までびしょ濡れです。
橋の上で他人の心配をしている場合ではありません。
「……山岡さん」
「なんだよ」
「ブライアンさんのことより先に、自分をどうにかしましょう」
「…………」
こうして私の初めてのレース観戦は、レースにもライブにも負けないくらい印象に残る出来事で締めくくられたのでした。