その身に宿すはキングストーン   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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いつも通りですがお気になさらず
今回からエクスカリバー編です

楽しんでいただければ幸いです

ではどうぞ


月光校庭のエクスカリバー
11


何でもない日のことである

その日も普通に学校が終わり、浩太郎は自分の家…ではなく、友人である兵藤一誠の家に向けて歩いていた

理由は単純、そこで部活があるからである

なぜ兵藤の家なのか、というとそこにリアスも住んでいるから…というのも理由になるだろうが、実際の問題は普段部室として使っている旧校舎のお掃除をするからだ

どうやら定期的に掃除しているから、一番最初に旧校舎に足を運んだときあんなにも綺麗だったのだろう

 

うん、最初は会議とかをやるわよなんて話を聞いていたんだ

 

「こっちが小学生の頃のイッセーなのよ」

「あらあら。裸で海に」

「朱乃さんっ! っつうか母さんも見せんなよ!」

 

会議なんて最初からなかった

兵藤の家で行うはずだった会議とやらはイッセーの母が持ってきた幼少時代のアルバムでぶっ壊れた

そういえばこのお人、よく口々に兵藤に女の子の友達ができたら小さい頃のアルバムをみせてあげたいわぁ、とか言っていた気がする

よかったですねお母さん、夢が叶いましたよ

 

「…幼い頃の、イッセー」

 

見てくださいお母様

リアスなんて食い入るように幼い兵藤を見ています

アレっすわ、おねショタいうやつですわ

そんなみなさんを浩太郎は苦笑いともに眺めていた

イッセー母には申し訳ないが浩太郎自身兵藤の過去になんぞ興味はないので一歩引いた距離で見守る方向を決め込んでいた

ただ幼い頃の過去を見られることを恥ずかしいと思う気持ちは理解できるので、ということもあるのだが

同じように見守る位置に決め込んでいるのは浩太郎の両隣に座る小猫とアーシアだ

 

兵藤家での部室に来る前に、小猫が浩太郎家に遊びに来たことがある

特にもてなしなどはできなかったが、そこにアーシアを交えて簡単なトランプ遊びに熱中していたとき、自宅にいた母に整理してたら偶然見つけたという幼少の頃の自分のアルバムを持ってこられた

そのときは別に見られても問題ないや、とも思っていたが実際問題相手が女性だとめちゃくちゃ恥ずかしい気持ちになる

そんなこともあってか、今回小猫とアーシアは見守る立場にいるのかもしれない

あの木場ですらニコニコとアルバムを見ているのに

 

「ちょ! おまえは見るなっ!」

「はは、いいじゃないか。もう少しイッセーくんのアルバムを楽しませてよ」

「…楽しそう」

「はい。木場さんの心からの笑顔…なんだか初めて見た気がしますっ」

 

口々に感想を呟く両隣の女の子

アーシアの言う通り、木場のあんな笑顔は浩太郎自身見たことがない

しかし、そんな彼の笑顔も不意に、険しいものになる

何やら食い入るようにあるところを見つめていた

いや、睨んでいるといってもいいくらい、その視線は鋭いものだった

 

「イッセーくん」

「な、なんだよ?」

「これに見覚えは?」

 

いつになく声のトーンがマジだ

 

「い、いや。何ぶんガキの頃過ぎてあんま覚えてなくて…」

「―――これは、聖剣だよ」

 

 

それが、発端だった

 

◇◇◇

 

カキン、とリアスが降ったバットが野球ボールを空高く打ち上げた

飛んでいったボールは放物線を描き、ぱすんとそれをイッセーがキャッチする

 

「ナイスよイッセー」

 

笑みを浮かべてグーサインを作るリアス

今現在、浩太郎を含めたオカルト研究部の面々は旧校舎の裏手で野球の練習をしていた

悪魔家業と野球が関係あるの? と問われればないかもしれないが、これは悪魔とは何ら関係はない

 

「来週は駒王学園の球技大会。負けられないわよ」

 

リアスが言うように、来週に学校行事である球技大会があるのだ

野球、サッカー、バスケにテニスと、球技に関係するものを一日使って楽しむ行事である

種目にはクラス参加型や男女別競技もあり、その中に部活対抗戦というのがある

もちろん、その参戦にはオカルト研究部も例外ではない

おまけに部活対抗戦の種目は当日に発表されるらしい

なんでもこれは数が少ない部活に合わせるためなんだとか

とりあえずめぼしい種目の練習をしていたというわけである、本日は野球だ

 

「バッティングはこんなところね。次はノックよ! みんな、グローブをはめて散って!」

 

そしてめちゃくちゃ気合が入っているリアス

なんだか朱乃が言うには「部長はこういうイベント大好きですから」らしい

しかし彼らは悪魔(浩太郎も人外)なので、普通にやっても負ける要素はない

本番では一応加減して動くのが前提…ではあるが、ルールや特性は体で覚えないと意味がないのよ、とはリアスの談だ

 

そしてつい先日のライザー・フェニックスとのレーティングゲームの敗走以降、彼女は勝敗にえらく拘るようになっていた

彼に負けたのがよほど悔しかったのだろう

 

「次、祐斗!」

 

今度は祐斗に向けてボールが打たれた

カキーン、といい音が響き渡り、木場の方へと飛んでいく

誰もが問題ないだろう、そう思っていた

しかしその予想は容易く覆る

 

「…」

 

ボケっと突っ立っていた木場は、普通にそのボールをスルーする

その光景に、梓馬浩太郎は疑問符を浮かべた

木場がミスをした? 馬鹿な、あれはこの眷属の中で最速で、運動神経は抜群だと思っていたのだが

 

「おい、シャキっとしろよ木場!」

「…え? あ、ぁ、すみません。ボーッとしてました」

 

下に落ちたボールを拾い上げると作業的な動きでそれをリアスへと返す

 

「…祐斗、最近どうしたの? なんだかいつもの貴方じゃないわ」

「すみません」

 

そう素直に謝罪の言葉を口にする

リアスの言葉通り、ここ最近の木場の様子は変だった

難しい表情で考え込んでいる、というのか、部活の会議でも一切話に加わらない

クラスでも噂になっているようで、その姿は物思いにふける王子…なんて名称で呼ばれているらしい

なんとなく引き金は想像できる

それは兵藤宅で見た幼少期のアルバムのある一枚を見てからずっとあんな調子だ

彼の過去に何があってかは気にはなるが、さすがにそれを聞くのは無礼というもの

とにかく今は練習だ

 

◇◇◇

 

翌日のお昼どき

球技大会も近づいてきており、今日は昼食を終えたら部室に集合とのことだった

そんなわけで食事を終えた兵藤とアーシアと一緒に部室へと足を踏み入れた時だった

部室に知らない人がいた

ただ顔は見たことがある、この学校の〝生徒会長〟支取蒼那だ

見たことがある、といっても朝の挨拶を返したり、頼まれた書類を生徒会室に届けたりしているだけなので、特別親しいわけでない

彼女は学内ではリアス、朱乃の次に人気がある

ぶっちゃけて言えば彼女は男子人気より女子人気のほうが高い女性だ

彼女は随伴に一人男子生徒を連れ添っていた

その青年を見て戸惑った様子の兵藤らを見て、青年が口を開いた

 

「なんだリアス先輩、もしかして俺たちのこと梓馬や兵藤に話してないんですか? 同じ悪魔なのに気づかない方もおかしいんだけどさ」

 

俺は人間なんですがね、と浩太郎は一人思う

っていうか彼はここ最近生徒会に入会した男子生徒ではないだろうか

 

「サジ、私たちは基本〝表〟の生活以外では互いに干渉しないようにしているから仕方がないのよ。それに、兵藤くんは悪魔になって日が浅いわ。あと、梓馬くんは悪魔ではありません」

「え、え!? そ、そうなんですか!?」

 

ていうか今の蒼那の説明だと生徒会にも悪魔がいる、ということになる

え、この学園怖い

悪魔蔓延りまくってるじゃないですか

驚愕しているであろう兵藤と浩太郎に朱乃が説明するように口を開いた

 

「生徒会長、支取蒼那さまの本名はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主さまですわ」

 

説明されてもピンと来ない

とりあえず、すごく偉い立場にいるお方なのだ、ということはわかった

朱乃の説明が続く

 

「シトリー家もグレモリーやフェニックスと同様に、生き残った七十二柱の一つ。この学校はグレモリーが実権を握っていますが、〝表〟の生活では生徒会…つまり、シトリー家に支配を一任しています。昼と夜で、学園での分担を分けたのです」

 

となると確実に生徒会のメンバーは全員悪魔、ということになる

青年が再び言葉を発する

 

「会長と俺たちが眷属悪魔が日中動いているから、この学園の平和が保たれているんだ。それだけは覚えておいても、バチは当たらないと思うぜ。俺は匙元士郎。二学年で〝兵士〟だ」

「おぉ、同学年で〝兵士〟か!」

 

兵藤と同じ兵士か、年齢…というか学年も同じだし、これは仲良くなれるかな

それを感じたのか兵藤も心なしか嬉しそうだ

しかしそんな彼の思いとは裏腹に

 

「こっちとしては、変態三人組の一人のお前と一緒って時点で、ひどくプライドが傷つくんだけどな」

「な、なんだと!?」

 

ごめん兵藤、フォローできない

しかし確かに日頃の行いは確かに褒められたものではないが友人がディスられる、というのは少しばかりムッとする

彼は間違ってないんだけどね

そんな雰囲気を感じ取ったのか、匙は

 

「お、やるか? こう見えても俺は駒四つ消費の〝兵士〟だ。最近悪魔になったばかりだが、兵藤と、そして人間である梓馬にゃあ負けないぜ?」

「おやめなさい、サジ」

「で、ですが会長!」

「今日ここに来たのは、同じ学校を根城にする上級悪魔同士、最近下僕にした悪魔を紹介しあうためです。私の眷属なら、私に恥をかかせないこと。それと」

 

ソーナの視線が兵藤と浩太郎へと向けられた

 

「サジ。今の貴方では二人には勝てません。兵藤くんはあのライザーを後一歩というところまで追い詰めたのです。駒八つを消費したのは伊達ではない、ということです」

「美味しいところは、浩太郎に持ってかれちゃいましたけどね」

「いやいや兵藤。俺はムカつく焼き鳥を殴りに言っただけだぜ?」

「ふふ。さすが今代のブラックサンですね」

 

そんなやりとりに、え!? と匙が驚いた

 

「お、俺はてっきり、木場や朱乃さんがリアス先輩を助けたものだと…」

 

なんだか浩太郎を見る視線が変に目元が引きつっているような気がする

仮にも(一応)人間なので、そんな視線を向けられると少し傷つくのだけど

するとソーナが頭を下げてきた

 

「ごめんなさい、うちの眷属はあなたたちよりも実績がないので、失礼な部分が多いんです。よかったら同じ悪魔同士、仲良くしてあげてくださいね」

 

微笑みながらソーナはそう言ってきた

 

「サジ」

「え、あ、はい…。よろしく」

 

渋々といった感じで匙がこちらに頭を下げてきた

ものすごく不機嫌そうだ

「はい、よろしくお願いします」

 

アーシアは屈託ない微笑みを浮かべて挨拶を返す

天使だ

 

「アーシアさんなら大歓迎さ!」

 

彼はアーシアの手を取りものっそいいい笑顔を浮かべている

やれやれ、現金な男だ

それぞれが挨拶をしたことを確認すると、ソーナは立ち上がって

 

「ルーキー紹介はこんなところでいいかしらね。では、私たちはこれで失礼します。昼休みに片付けておきたい書類がありますから」

「えっと。ソーナ、さん? 迷惑をかけるかと思いますが、よろしくお願いします」

「よろしくお願いしますっ、ソーナ・シトリーさん!」

「よ、よろしくお願いしますッ!」

 

浩太郎がそう挨拶をすると横に居た兵藤とアーシアがそれに続く

悪魔であっても悪魔でなくても挨拶というのは大事だと思う

ましてや相手は上級悪魔でリアスの知り合いなのだ

ソーナは微笑み「えぇ、よろしくお願いします」と挨拶を返してくれた

この部室を出るときに、彼女はリアスに視線を移し

 

「楽しみしてるわ、球技大会」

「えぇ、本当にね」

 

それに対してリアスも笑顔に返す

どうやらこの二人、基本的には仲がいいらしい

今の一瞬のやりとりに、強い絆のようなものを感じた

 

「イッセー、アーシア、コウタロウ。匙くんと仲良くね。ほかのメンバーともいずれ会うだろうけど、同じ学び舎で過ごす仲間同士、喧嘩はダメよ?」

 

彼女が笑顔でそう言った

無論こちらもそのつもりだ

争い合う理由などないし、仲良くできればと思っている

だけど何人この学園には悪魔がいるんだろうか

 

 

そんなわけで本日は球技大会

予報では夕刻から雨が降るらしいが、今の天気はそこそこ快晴だ、この分なら大会が終わるまでには降らないだろう

体操着に着替えたオカルト研究部は校庭の一角に集まりそれぞれリラックスしていた

部活対抗戦は一番最後、一番最初はクラス対抗戦でそのあとに男女別の球技、最後に昼を挟んでの部活対抗戦

兵藤は体を温めるために筋トレをしており、アーシアは朱乃に手伝ってもらいストレッチをしている

浩太郎は敷かれたビニールシートに座って、簡単なストレッチをしていた

 

「浩太郎さん」

「うん?」

「ここなんですけど…」

 

小猫は浩太郎の近くで球技のルールブックを眺めて確認をしている

先のように少々複雑なルールがあった場合、時たま浩太郎に質問をしていた

そして木場は相変わらず黄昏ている

何をしているのだろうか

リアスはといえば部活対抗戦の種目を確認しに行っているのだが

考えた瞬間に彼女が何やら不敵な笑みを浮かべて戻ってきた

 

「ふふ。この勝負、勝ったわ」

「種目はなんなんですか?」

 

兵藤の問い掛けに彼女は答えた

 

「ドッジボールよ!」

 

 

ブルマを着たアーシアが浩太郎の目の前にいる

部活対抗戦のときどこかへと行ってしまったのだが、いざ戻ってきらら絶滅危惧種(?)であるブルマを履いてここに戻ってきていた

 

「…アーシア、その格好は…」

「そ、その、桐生さんから聞いたんです。ドッジの正装はブルマだと。それに、こういう格好のほうが、喜ぶって…」

 

正装ではない

いや、嫌いではないがさすがにこれは少し刺激が強すぎる気がする

っていうか、なんだか彼女の生脚を他の衆目に晒すというのがなんか嫌だ

その前にアイツは何を教えているんだ

桐生藍華

三つ編みのメガネ女子で、アーシアの友人であり、数少ない兵藤の女友達だ

今でこそアーシアが編入しそこそこ印象が変わったが、彼女が編入する前でも、普通に兵藤と交流を持っていた女性だ

浩太郎は親しみを込めて、そして某ゲームを意識してか桐生ちゃんと呼んでいる

 

「ダメ、ですか?」

「いや、ダメっていうことはない…けど、今後運動する際は普通にハーフパンツを履きなさい」

 

ぽむ、と頭に手を置く

はぅ、と小さい声が漏れた

 

「っと、そうだ! みんな、これ巻いてチーム一丸になろうぜ!」

 

ふと思い出したように兵藤が何かを取り出した

それは〝オカルト研究部〟と刺繍されたハチマキだった

兵藤本人の手作りなのか、下手な刺繍だったが、込められた想いはわかる

 

「ふふ、隠れて何してるんだろうって思ってたけど、これのためだったのね。うん、なかなか良く出来てるじゃない」

「へへへ。ありがとうございます!」

 

どうやら同居してるリアスにも隠れてこの作業をしていたようだ

確かにこの刺繍のようにほかの部活もそれぞれ自分が所属している部の名前が入った何かをそれぞれ身につけている

それはTシャツだったり帽子だったりしている

 

「予想外の出来栄え」

「あらあら。イッセーさんって器用なんですわね」

「ありがとうございますぅ!」

 

それぞれが兵藤からハチマキをもらい、口々に感想を告げていく

最後に兵藤は木場に向かってそのハチマキを差し出した

 

「ほら、木場」

「―――え、あ、うん。ありがとう」

「…? 今は勝つことに集中しようぜ」

「勝つ、か。うん、そうだね。勝つことは、大事だ」

 

本当にどうしたんだあいつ

ここ最近ずっとあんな調子だ

それを気にする間もなく、アナウンスが流れ始めた

 

<野球部のみなさんと、オカルト研究部のみなさんは集合してください>

 

 

そんなわけでドッジボールによる部活対抗戦の開幕である

しかし狙われているのは―――

 

「うぉぉぉぉ! 狙え、兵藤を狙うんだァァァ!!」

「おおい! てめぇらふざけんなァァァ!!」

 

なぜか兵藤が集中的に放火されていた

試合が開始した当初は浩太郎も狙われていた…が、投げられてくるボールをキャッチして思いっきり投げ返して何人か外野に送り続けていたらいつの間に狙われなくなっていた

何でだろうか

 

まぁ確かにこの駒王に通う男子生徒の心情的に、オカルト研究部のメンバーは狙いづらいのだろう

リアスや朱乃はこの学園のツートップ、アーシアはクラスの人気者で、小猫はマスコット的な少女、おまけに木場はイケメンで当てたりなんてしたら女生徒諸君に恨まれることは確実だろう

つまり必然的に狙えるのは兵藤と浩太郎だけということになる…迷惑な話である

しかし先述したとおり、浩太郎は狙われても投げ返して報復し続けたらいつの間にか兵藤しか狙われなくなっていた

まぁ確かに何人か腹部にクリーンヒットして保健室に送ってしまったのは申し訳ないと思ったがこの種目はドッジボール、敵にボールを当てるゲームなのだからそのあたりはご容赦願いたい

 

けど確かによくよく考えてみればオカルト研究部という美しい女性ばかりいるこの部活にどうして普通な浩太郎や、変態の兵藤が在籍していると考えると敵の男子たちの恨みはわからんでもない

 

「イッセーを殺せェェェェぇ!」

「お願い! 兵藤を倒して、リアス御姉様のためにぃぃ!!」

「ロリコンは俺だけでいいんだぁぁぁ!」

 

同じ男子だけど醜い争いである、と心の中で浩太郎は思った

と、狙いがそれたのかボールがこちらに向けて飛んできた

それを身を軽くかがめて受け取り、適当な人物に狙いをつける

―――後方に引くのが遅れたお前だ

 

「―――トゥアッ!」

 

すかさずその背中にボールを投げ当てる

ギャン!? などというワケのわからない悲鳴をあげた後、彼は盛大にすっ転んだ

何人撃破しただろうか、戦術的に兵藤には申し訳ないが、このまま囮として逃げてくれれば確実に勝利はできるだろう

 

「クソォォォ! 恨まれても構わない! 食らえイケメンめぇぇぇ!」

 

すると一人の男が木場に向かってボールを投げた

アイツなら特に問題ない―――と思っていたが、どういうことか全く動こうとしない

まるでこんなのどうでもいい、と言わんばかりに

 

おまけに兵藤は距離的に木場のフォローに回れない

一番近くに居るのは浩太郎だ

 

「木場ぁ!」

 

思わず声を荒らげてしまった

しかし木場は変わらずどこ吹く風だ

 

「…あれ? 浩太郎くん?」

 

名前など言っている場合ではない

なんとか彼の前に立つことができたがキャッチすることは難しい

ゆえに

 

「あだっ!!」

 

飛んできたボールは浩太郎の顔面に直撃し、大きく彼はのけぞった

幸いにも倒れることはなかったが、ゲームは一旦中断される

 

「浩太郎さん」

 

とてとてと小猫が駆け寄ってくる、彼女の後ろにはアーシアも心配したような目つきでこちらを見つめていた

 

「大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない」

 

BLACKだからかわからないが、痣にすらなっていない

それでも少しカチカチするが、ゲームに支障があるわけでもない

ボールはこちらからのスタートで再開となった

 

 

パン、という雨の中に乾いた音が響く

殴られたのは木場だ

 

「…少しは目が覚めたかしら」

 

珍しく本気で怒っているようだ

先のドッジでは普通に勝ち進み、見事オカルト研究部が優勝を果たすことができた

しかしその中でただひとりだけ、我介せずなやつもいた

それが木場祐斗である

 

殴られても無表情、はっきり言って気味が悪い

不意にその無表情が作られたような笑顔になった

しかしそれはいつものような笑み、というわけでなく正しく貼り付けたような、作業じみた笑顔だった

 

「もういいでしょうか? 球技大会も終わりましたし、練習もしないでいいですよね。少し疲れてしまったので、普段の部活は休ませてください。昼間は申し訳ありませんでした、どうにも調子が悪かったみたいです」

「木場、お前どうしちまったんだよ?」

「君には関係ないよ」

 

兵藤の言葉を冷たく切り返す木場

その発言にさすがの浩太郎もカチリときた

 

「おい木場、いくらなんでもその言い方はないだろう。お前を心配してるのに」

「心配? 誰をだい。基本利己的なのが悪魔だと思うけど? まぁ確かに主に従わなかった僕が今回は悪いと思ってるけど」

 

―――誰だコイツは

浩太郎が知っている木場はいつもにこやかに笑顔を浮かべている好青年というイメージしかない

だというのに目の前の男は、どうしてこんなにも冷たい目をしているのだろうか

 

「…僕はね、ここの最近ね、思い出していたんだよ」

「基本的なこと?」

「あぁ。聖剣エクスカリバーを破壊する。…それが僕の、生きる意味であり、復讐を果たすということを」

 

決意の秘めたその眼差し

その日初めて、木場祐斗の本当の顔を垣間見た気がした

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