その身に宿すはキングストーン   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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微妙な出来マン
いつものことですが、楽しんでいただければ幸いです

ではどうぞー

※誤字脱字見かけたら報告ください


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停止世界の邪眼(フォービトゥンバロールビュー)

 

ギャスパーが所持している神器(セイクリッドギア)の名称だ

リアスが説明するには、やはり彼の神器(セイクリッドギア)は時間を停止することのできるとても強力な神器(セイクリッドギア)らしい

 

しかし問題は本人がその神器(セイクリッドギア)を制御できていないこと

故に彼は今の今まで封印されてきたのだ

そんな強力な神器(セイクリッドギア)を宿すギャスパーを眷属にできたにも関わらず、消費は駒ひとつだけで済んでいる

その理由は、〝変異の駒(ミューテーションピース)〟と呼ばれる特殊な駒のことだ

大体上位悪魔のうち、十人に一人は所持しているらしい

なんでも最初は悪魔の駒を作った時にできた駒らしい、言い換えればバグのようなものらしいが、それもまた一興として残しているようだ

 

だが問題はそこではない

それはギャスパー自身の才能だ

彼は類希な才能を有しており、無意識に神器(セイクリッドギア)の力を高めていっているようだ

それは日々確かに確実に増しており将来的には禁手へと至る可能性もあるということだ

 

リアスが木場と兵藤の二人を禁手へと導いた彼女なら、ギャスパーの制御も可能だと判断したらしいのだ

しかし当の本人が〝あれ〟では難しいものがあるだろう

だがポテンシャルは相当なものだ

 

由緒正しい吸血鬼の家柄で、強力な神器(セイクリッドギア)にも人間の時点で目覚めている

本来ならとてもじゃないが僧侶の駒一つで足りるものではないないのだ

吸血鬼とは太陽に弱いイメージがあるが、彼は日中活動できる特殊な血を引く吸血鬼(しかし苦手ではあるようだ)

そう考えると太陽大好きな浩太郎としては相性最悪ではないだろうか

同時に血も吸うこともないらしい、十日に一回、輸血用の血を飲めば事足りるようだ

だが本人は生臭いの大嫌いのようである

それでいいのか吸血鬼

 

そんなわけで、会談の打ち合わせで少し出かけるリアスと朱乃がいない間、木場と兵藤、小猫、アーシア、ゼノヴィア、そして浩太郎の六人はギャスパーの教育係を命じられたのだ

正直不安しかないのだが

 

 

そんなわけで現在

今目の前で起きていることを説明するなら、剣持った女性が小柄な男の娘を追いかけましているというぶっ飛んだ光景だった

 

「ほら走れ。君は日中大丈夫なのだろう?」

「デュランダル振り回しながら追いかけてこないれぇぇぇ!!」

 

本気で逃げているギャスパー

追いつかれたら死亡確定だからそりゃ本気にもなる

ゼノヴィア曰く、健全な精神は健全な肉体から、だそうだ

わからないでもないが、一歩間違えばその肉体が滅んでしまうのですがそれは

しかしゼノヴィアが楽しそうでなによりです

こっちに来て以降の彼女は毎日が新鮮で楽しい、と言っていた

それはこちらとしても喜ばしいことだ

 

「…私と同じ僧侶にお会いしたかったのに、目も合わせてもらえませんでした…」

 

とアーシアはしょんぼりしていた

もうひとりの僧侶とは会いたい、といつも言っていたので、少し涙目だ

ふと視線を戻すと、今度は小猫がにんにくを持って同じように追い掛け回していた

 

「にんにくを食べれば健康になるよ、ギャーくん」

「やぁぁぁ! 小猫ちゃんが僕をいじめりゅぅぅぅ!!」

 

一年生どうし、仲が良さそうで何よりだ(遠い目

そうボケっとしているとふと、別の男の声が聞こえてきた

 

「お、やってるな」

 

生徒会の匙だ

 

「引きこもり眷属が解禁されたと聞いて、拝みに来たぜ」

「あぁ、あそこに追い掛け回されてるよ」

 

兵藤の言葉に、匙は視線を追いかけた

 

「おいおい、聖剣振り回してるよ、大丈夫かあれ。…っていうか、金髪の美少女!?」

 

初見である匙もまた、出会った当初の兵藤のようなリアクションをしている

そんな彼に浩太郎は現実を突きつけた

 

「彼は男性だぜ、匙」

 

そいつを聞いて、案の定心底がっかりした様子の匙

 

「…そいつは詐欺だぜ、女装って誰かに見せるためにするものだろう? それでいてヒキコモリって難易度高いなおい」

「だよな。意味わからん女装癖だ」

 

うんうん、と兵藤と匙が頷きあっている

すっかり仲が良くなったようだ

 

「ところで、匙は何してんの? ジャージを着てるようだけど」

「見ての通り、花壇の手入れだよ。一週間前から会長に言われてな。ほら、ここ最近学校行事が多かっただろう? 今度魔王さま方もここにいらっしゃるというし、学園をきれいにしてみせるのは、生徒会の〝兵士〟の仕事だ」

 

堂々と胸を張る匙

それはつまり単なる雑用を押し付けられただけじゃないのだろうか

しかし彼のプライドをへし折っても仕方がないので、それは黙っておく

そんな話をしていると、ザッザ、と誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた

その音を目で追ってみると、そこには意外な人物が立っていた

 

「へぇ? 魔王眷属の悪魔さん方は、ここで集まってお遊戯してるってわけか」

 

浴衣を着たチョイワル親父―――アザゼルがいたのだ

意外な来客に、兵藤は表情を引き締めた

 

「あ、アザゼル…!?」

「よぉ赤龍帝。ついでにブラックサンも。あの日の夜以来かな」

 

みんながみんな、現れたわけのわからないオッサンに怪訝な表情を浮かべていたが、兵藤がその名前を発したことにより、空気は一変する

ゼノヴィアが剣を構え、アーシアが浩太郎の後ろに隠れる

浩太郎は立ち上がり、アーシアの頭を撫でながら、アザゼルを見た

ぱっと見た感じ、敵意は見られないから、攻撃してくることはないだろう

もっとも、攻めてきたら攻めてきたで反撃させてもらうが

 

「お、おい! あ、アザゼルって…!」

「あぁ、俺と浩太郎は、何度か接触してるんだ…!」

 

あれを接触と呼べるのだろうか

 

「やる気はねぇよ。構えを解きな下級悪魔くんたち。この連中で相手になるのはブラックサンだけだよ。俺だっていじめる気なんかないしな。ちょっと散歩がてら来ただけさ。聖魔剣使いを見たくてな。今いるか?」

「残念ですけど、木場は今いませんぜ、アザゼルさん」

 

ゆっくりと浩太郎は歩きながら事実を告げる

それを聞くとアザゼルはつまらなそうに頭をかきながら

 

「マジかよ。つまんねぇな…」

 

ふと兵藤の方を見てみると、わずかながらに震えているのが見えた

仮にも目の前にいるのは堕天使トップ、ビビるのも仕方がないだろう

アザゼルは木の方を指さした

たしかそこにはギャスパーがいたはずだ

 

「そこに隠れてるヴァンパイア」

 

ビク、とギャスパーが慌てる

彼に近づきながらアザゼルは続けた

 

「〝停止世界の邪眼〟の持ち主なんだろう。それは使いこなせないと害悪にしかならない代物だ。補助具で不足してる要素を補えばいいと思うが…。そういや悪魔は神器(セイクリッドギア)の研究が進んでいなかったな。五感から発動する神器(セイクリッドギア)は持ち主のキャパが足りないと自然に動き出して危険だ」

「アザゼルさん。あんまり後輩を怖がらせないでくれ」

「おっと。こりゃ失礼」

 

浩太郎に言われ、ニヒルな笑みを浮かべながら彼はギャスパーから視線を外す

コカビエルの言っていた、神器(セイクリッドギア)コレクター、というのはどうやら間違いなさそうだ

今度は匙を指さしながら

 

「そいつは〝黒い龍脈〟か? 練習すんならそいつを使ってみろ。この子に接続して余分なパワーを吸い取りながら発動すれば、暴走も少なくなるだろうさ」

「お、俺の神器(セイクリッドギア)って相手の神器(セイクリッドギア)の力も吸えるのか? 単純に敵のパワーを吸い取って、弱らせるだけかと…」

「ったく。これだから最近の所有者は力をろくに知ろうとしない。そいつは伝説の五大龍王の一匹、〝黒邪の龍王(プリズンドラゴン)〟の力を宿している。もっとも、コイツは最近の研究で発覚したことだがよ。そいつはどんな物体でも接続できて、その力を散らせるんだよ。短い時間なら、持ち主側のラインを引き離し、他の物や人に接続も可能だ」

「じゃ、じゃあ例えば兵藤とかに繋げられるのか? それで、兵藤の方にパワーが流れると?」

 

アザゼルはそれに頷き

 

「成長すればラインの数も増える。そうなりゃ、吸い取る力も倍々だ」

「…」

 

匙が黙った

恐らく自分も知らない神器(セイクリッドギア)の特性を知って驚いているのだろう

しかもそれを教えてくれたのが敵である堕天使から教えてもらったのだ

 

神器(セイクリッドギア)上達で一番手っ取り早いのは赤龍帝の力を宿した者の血を飲むことだ。ヴァンパイアには血でも飲ませておけば力がつくさ。ま、あとは自分らでやってみるこったな」

 

言いたいだけ言って彼はそのまま踵を返しその場を立ち去ろうとする

そこでふと思い出したようにアザゼルが兵藤の方へと向き直った

 

「そうだ、ヴァーリがちょっかい出して悪かったな。なに、あいつは変わった奴だが今すぐ決着を付けようだなんて思ってないさ」

 

それと、と今度は浩太郎に視線を移し

 

「時間が合えばでいいんだが、またあの格ゲーで戦わねぇか?」

「―――上等。アンタと戦うのは純粋に面白いからな、受けて立つぜ」

 

それを聞くとニィ、と笑みを浮かべて、今度こそこの場から去っていった

取り残された一行には気まずい沈黙が流れる

沈黙を破ったのは匙だった

 

「と、とりあえずギャスパーくんに俺の神器(セイクリッドギア)を取り付けてみるか。それで練習してみようぜ。その代わり、今度お前らにも俺の花壇を手伝ってもらうからな」

 

彼の提案に頷き、今度は彼の神器(セイクリッドギア)を使用してのトレーニングが再開された

匙がラインをギャスパーに繋ぎ、余分な力を吸収する

こうやってみると本当にアザゼルとやらは神器(セイクリッドギア)に詳しいことがわかる

その後、皆が投げるボールを視界に移して停止させる

 

視界に映れば、彼の神器(セイクリッドギア)は凶悪無比だ

時を止められたものは止まっている間の記憶がないらしく、やはりその空白の時間に違和感を覚えるらしい

現状の課題は、とりあえずの制御で、最終目的は自由に神器(セイクリッドギア)を使いこなせるようになることだ

世界(ザ・ワールド)とか言ってくれると個人的に嬉しい

とは言ってもその目標は本当に遠く、今もふとした拍子に誰かへ視線を向けた瞬間相手の時を止めてしまうこともあった

その度に「ごめんなさいぃぃぃぃぃ!」と泣き叫び謝りつつ、逃げ回る姿を目撃する

もっとも、彼の神器(セイクリッドギア)の影響を受け付けない浩太郎が彼を捕獲するので、連れ戻すのに苦労はしていない

 

「どう? 練習ははかどっているかしら?」

 

ふと、様子が気になったリアスが、サンドイッチを作って持ってきてくれた

疲れたギャスパーはぜぃぜぃ言っている

そこそこ動いたし、ここらで休憩がてらリアスの持ってきたサンドイッチをつまむ

美味しい

 

「美味いっす! 部長!」

「ありがとうイッセー。材料もそんなになかったから、簡単なのしか出来なかったけど」

「それでも美味しいですよ。さすがリアスさん」

 

近くにいる匙も「うまい!」と叫んでいる

ちなみに朱乃と木場はまだサーゼクスのところにいるとか

また、報告としてアザゼルの件も彼女に話すと、驚いていたが

 

「…知識を他者に助言できるほど余裕、ということかしら」

 

そう言ってふむぅ、と考えこんでしまった

 

「リアス先輩も帰ってきたし、俺はそろそろ花壇の作業にもどるよ」

 

リアスの作ってきたサンドイッチを二、三個口にした匙は、立ち上がりながらそういった

 

「わざわざ下僕の特訓に付き合ってくれてありがとうね、匙くん」

「いいっすよ、先輩は会長のお友達ですし、神器(セイクリッドギア)の新たな可能性も見えました。俺も収穫はあったんで」

 

初めて会った時は正直印象悪かったが、やはり彼は根は優しい人物だ

いつか彼の想いがソーナに届くといいなと思い、心の中で応援していこうと思う

 

その後、リアスも交えてギャスパーのトレーニングは再開された

彼のトレーニングは夜遅くまで続いた

不器用ながらも賢明に頑張るギャスパーの姿に、どこか微笑ましい気持ちになった

 

 

ある日のことである

旧校舎、ギャスパーの部屋の前でリアスと兵藤の二人が立っていた

理由はよくわからないが、兵藤の仕事についていった時、、無意識にまた時間を止めてしまって、また引きこもってしまったとか

 

「うぇぇぇぇぇん!!」

 

外にまで聞こえる声量でギャスパーは喚いている

色々と抱えているおかげで、精神的に参っているのだろう

リアスから聞いたが、彼は名門の吸血鬼を父に持っているが、母が人間だったゆえに、純血ではなかった

だから純血でないものを軽視し、侮蔑する吸血鬼たちは親兄弟であっても差別的だと聞いた

子供の頃からいじめられ、人間界でも化物と呼ばれ、彼には居場所がなかったのだ

 

時間を止められる、というのは、冷静に考えてみると、それはとても恐ろしいものだ

何をされるかわからないし、何をされたのか気になってしまう

それをずっと、一人で延々と体験してきたのだろう

そう考えると、彼はどこかアーシアと似ている気がする

強力な力は、時に誰かを救う剣にもなり得るし、誰かを傷付ける刃にもなり得るのだ

 

「僕は…こんな力いらない…! みんな止まっちゃうんだ…! 怖がる、嫌がる! 友達を…仲間を止めたくないよ! 大事な仲間の止まった顔を見るのは…もう嫌だ…」

 

すすり泣く声が聞こえてくる

自宅、人間界、その両方でも居場所のない彼はハンターに殺され、そこをリアスに拾われたらしい

しかし当時のリアスでは彼を扱いきれず、上から封印を銘じられていた、そして現在、封印を解除されて今に至る

 

「…キング失格ね。また引きこもらせてしまうなんて」

 

嘆くリアス

しかしこれは別に誰が悪いというわけでもない

身も蓋もない言い方をすれば、〝運が悪かった〟だけなのだ

 

「リアスさん、これからサーゼクスさんたちとの打ち合わせがあるんでしょう?」

「えぇ、でももう少しだけ時間を伸ばしてもらうわ。先に―――」

「あとは、俺たちに任せてください。何とかしてみせます」

 

兵藤の言葉に、リアスは異を唱えることはなかった

仲間も大事だが、打ち合わせもまた大事だからだ

 

「大丈夫です! せっかく出来た後輩なんです、なんとかし見てみせます!」

「…わかったわ。お願いできる?」

「はい!」

 

リアスの言葉に兵藤は頷いた

だがまっすぐな兵藤からして、こういう内気な子は苦手な部類に入るだろう

恐らく、格好つけたかったのだ

リアスは名残惜しそうにギャスパーの部屋を見たあと、この場を後にした

この場に残ったのは兵藤と浩太郎のふたりだ

そして兵藤には申し訳ないが

 

「なぁ、兵藤。悪いんだけどさ」

「うん? どうした浩太郎」

「いや、悪いんだが、俺これから用事があるんだ」

 

バイトというひどく個人的な理由である

 

「マジか。ちょっと一人じゃ心細いんだよなぁ…」

「大丈夫だよ兵藤。お前ならギャスパーも心を開いてくれるさ」

 

少し不安な表情を浮かべる兵藤の背中を叩く

自分が言うのもなんだが、兵藤にはどこか人を惹きつけるようなものを感じるのだ

エロを除けば普通にいい少年なんだ、きっと問題ない

浩太郎はギャスパーの励ましを任せ、浩太郎もその場を後にした

 

 

ある日の休日のことである

浩太郎は、朱乃に呼び出されたのだ

なんでも兵藤やリアスも呼んでいるようで、リアスは用事を終わらせてから来るらしい

事前に教えられた道のりを歩いていくと、階段の前に兵藤が立っていた

軽く手を挙げて挨拶をした後、二人で登っていく

目的地は神社だ

正月元旦程度にしか足を踏み入れていないその地を進んでいくと、見知った顔がそこにいた

いつもとは違う姿で

 

「いらっしゃい。コウタロウくん、イッセーくん」

 

そこには巫女服を身にまとった姫島朱乃の姿があった

 

 

「急に呼び出して、ゴメンなさい」

「い、いえ。俺も暇だったりしたんで。な、なぁ」

「俺に振られてもな。あ、リアスさんは後から来るって…」

「知っていますわ。今会談の件で打ち合わせをしないといけませんから」

 

彼女の巫女服姿はとても似合っている

〝雷の巫女〟の二つ名はここから来ているのだろうか

 

「けど行かなくていいんですか? 朱乃さん〝女王〟なのでは」

「そちらはグレイフィア様がフォローしてくださるでしょうし、少し進行してしまえば私が抜けても問題ないですわ。それよりも、私はこちらで待っている方をお迎えしなければならないのですから」

 

そう言って朱乃は視線を向ける

それに釣られて兵藤と浩太郎も彼女の視線を追っかけた

 

「彼が、赤龍帝ですか? そしてそちらが、ブラックサン…」

 

声が耳に入ってくる

金色の羽が舞い、端正な顔立ちの青年の双眸がふたりを貫いた

頭には輪っか的なものがあった

彼は朗らかな笑みを浮かべて、こちらに手を差し出してきた

 

「初めまして。兵藤一誠くん、梓馬浩太郎くん。私はミカエル。天使の長をしております」

 

天使のトップをしている人がそこにいた

 

 

改めて

朱乃の先導のもと、神社の本殿へ歩いていく

頭の輪は紛れもない天使の証だ、そう聞いたことがある

本殿内の作りは大きめな柱が何本もたっており、その中央にはひと振りの剣が浮いていた

 

「実はあなたにこれを授けようと思いまして」

 

そう言ってミカエルはひと振りの剣を指さした

余りそういったものに関心はないが、この剣が纏うオーラのようなものを浩太郎は肌で感じていた

 

「これは、なんですか?」

「これは龍殺しの聖剣〝アスカロン〟です」

「…あすかろん?」

<有名なドラゴンスレイヤーだ。お前も少しは勉強しろ>

 

ドライグに指摘されうっさい! と顔を赤くする兵藤

そんな彼に付け足すようにドライグが言葉を発する

 

<ドラゴンを始末するのを仕事にしていた輩―――及びそれに関連した武具の総称だ>

「特殊儀礼を施してあるので、悪魔の貴方でもドラゴンの力があれば使えるはずです。貴方が持つ、というよりは神器(セイクリッドギア)に同化させる、といった感じでしょうか」

「同化なんて出来るんですか?」

 

浩太郎の疑問にドライグが答えた

 

<相棒次第だ。神器(セイクリッドギア)は思いに答える。それを望めば可能だろう>

 

それを聞いて兵藤は考え込んだ

そして浩太郎も思っていたことを、兵藤は聞いた

 

「…なんで、これを?」

 

それは当然の疑問だ

兵藤は悪魔、いわば天使の敵だ、おまけに大昔に色々とやらかした龍もその身に宿している、いわば最悪な存在と言っても過言ではないのだ

ミカエルは笑みを作りながら

 

「私はね、今度の会談が手を取り合える大きな機会だと思っているんです。神も居ない今、これは無駄な争いをなくすチャンスなんです。このまま小さな小競り合いが続けばいずれ三大勢力は滅ぶ。そうでなくとも横合いから他勢力が攻めて来ないとも限りません。その剣はいわば私から悪魔サイドへのプレゼントです。悪魔側からも噂の聖魔剣をいくつかいただきましたし、こちらとしてもありがたい限りなのです」

 

早い話、この剣は友好の証と見て間違いないだろう

 

「けどその話を聞くと、他の勢力もいるっぽいですね」

<そりゃあな。聖書に記された以外にも、神話体系は存在している>

「なるほど」

<普通は自分たちの領域を越えることはないんだがな。暗黙の了解として、不戦の約定があったからだ。だが〝神〟が居ない今他がどう動くはわからない。神の不在を三大勢力が口外させないのもうなずけるんだよ>

 

ドライグが丁寧に話をしてくれたが余りわからなかった

兵藤に至っては全く理解できていない様子だった

 

「過去、我々と敵対した〝赤い龍〟が悪魔になったことをしりましてね。挨拶とともに、プレゼントとしてその剣をお渡しするのです。貴方はこれからいろいろな敵に狙われるでしょう。〝歴代の中で最も弱い〟と噂の貴方の補助になるのではと思いまして」

 

それを聞いて驚いた

いや、確かに兵藤は喧嘩とかはめっぽう弱いと思っていたが、まさかそこまで言われているとは思わなんだ

 

「けど、なんで兵藤に?」

「一度だけ三大勢力が手を取り合ったことがありました。当時のブラックサンとシャドームーンが先頭に立ち、我々の戦争に乱入してきたドラゴンを倒した時です。その二匹は、乱しに乱してくれましたからね」

<あぁ、そう言えばそんなこともあったわねぇ>

<…>

 

浩太郎の中のメリディが呟いた

そして兵藤のドライグが目をそらしたように押し黙る

っていうかあの時そんなことしてたことに驚いた

 

「あの時のようにもう一度手を取り合う事を願って、赤龍帝であるあなたに願をかけたのです。日本的でしょう?」

 

皮肉にしか聞こえない

どうにもこの笑顔の奥に何か裏があるんじゃないのかと疑ってしまう

 

「けど、この剣って触れるんですか? 聖剣は悪魔と相性最悪、しかもドラゴン殺しと来た」

「この神社で剣は最終調整を行いました。魔王さま、アザゼル様、ミカエル様、各陣営の術式を施しているので、悪魔でも龍の力を宿しているなら問題ないですわ」

「だってさ兵藤。受け取れよ」

 

不安がる兵藤の背を叩いて後押しする

よし、と意を決したようにその剣の前に歩いていき、その剣を取った

 

<相棒、神器(セイクリッドギア)に意識を集中させろ。あとは俺がフォローする>

 

ドライグにそう言われ、指示どうりにブーステッドギアに意識を集中させた

刹那、カッと赤い閃光が迸り、兵藤の篭手の甲の先端から刃が生えていた

 

「…本当に合体しやがった」

 

兵藤が驚いたように声をあげる

もちろん、浩太郎もその光景に驚いていた

なんでもありだな、神器(セイクリッドギア)

それを確認するとミカエルは笑みを浮かべて

 

「っと、時間です。スミマセンが私は行かねばなりません」

 

ミカエルの言葉を聞くと兵藤が思い出したように口を開く

 

「あ、あのっ! 俺あなたに言いたいことがあるんです!」

「会談の席か、その後に聞きましょう。必ず聞きます、ご安心を」

 

そう言うとミカエルの全身が光を包み込んで、一瞬の輝きのあと、ミカエルはこの場から姿を消した

 

 

「粗茶です」

「どうもです」

「あ、ありがとうございます」

 

ミカエルのいない神社

後から聞いた話だが、朱乃はこの神社で生活しているそうだ

現在、和室に招かれた二人はお茶を振舞われていた

 

話をすると朱乃はミカエルとここであの剣の調整をしていたらしい

会談のセッティングに剣の調整、あちこちで大変だな、と他人事ながら思う

するととなりの兵藤が何やら聞きたそうにしている

やがて何かを覚悟したのか、彼女の顔をまっすぐ見つめてあることを聞いた

 

「…聞いてもいいですか」

「もちろんですわ」

「…朱乃さんは、堕天使の、幹部の…」

 

兵藤の問いに朱乃は少しだけ表情を曇らせる

その問の意味を、浩太郎は理解していなかった

浩太郎は聞いてはいないが、かつて戦ったバラキエルの力を宿す者、と叫んでいた時があった

それがずっと、兵藤は気になっていたのが

 

「えぇ。私は堕天使の幹部、バラキエルと、人間の間に生まれた者です」

 

まさかのカミングアウトに、僅かながらに浩太郎が動じた

流石に声を上げることはなかったもの、心の中では「マジか!」と動揺している

 

「母は日本のとある神社の娘でした。ある日、傷ついて倒れていた堕天使の幹部、バラキエルを助け、その時の縁で私を宿したと聞きます」

 

話を聞いてみると結構複雑な家庭の事情だった

簡単にいえば、ハーフなのだ彼女は

言葉に詰まっていた時、彼女の背中から翼が広がった

悪魔の翼と、堕天使の黒い翼

 

「悪魔の翼と堕天使の翼…私はその両方を持っています」

 

朱乃は憎々しげに堕天使の羽を持つ

 

「この羽が嫌で、私はリアスと出会って、悪魔になったの。けど、生まれたのは両方の翼を持ったもっとおぞましい生き物。…汚れた血を宿す私には、お似合いかもしれませんね」

 

空気が重い

 

「それを知って、お二人はどう感じます? …堕天使は嫌いよね? イッセーくんとコウタロウくん、そしてアーシアちゃんを殺し、挙句この街を破壊しようとした堕天使に、いい感情持つはずないもの」

 

居た堪れなくなった浩太郎は徐に立ち上がる

不意に立った浩太郎に兵藤と朱乃は視線を向けた

 

「コウタロウくん?」

「いえ、…俺じゃかける言葉が見つからないんで、ぜんぶ兵藤に押し付けます」

「え!?」

「それに、貴方が堕天使であろうとなかろうと、俺が貴女と接する態度を変えることもありませんよ。昔のあなたの事は、俺は知りません。俺が知ってるのはオカルト研究部副部長の姫島朱乃ですから」

「そ、そうですよ! 俺、朱乃さんのこと嫌いって思ったことありません! っていうか、無神経にあんなこと聞いて、逆に朱乃さんを傷つけてしまって、後悔してて…」

「わ、私は嫌われたくなくて、あんなふうに近づいたのかもしれないのよ?」

「関係ないですよ! 確かに堕天使は嫌いだけど、別にそれに朱乃さんが嫌いってわけじゃないし、朱乃さんは朱乃さんだし…」

 

慌てふためく兵藤を尻目に、浩太郎は朱乃を見る

わずかながらに、彼女と視線が合う

よく見るとその目には涙が見える

 

「じゃあ、〝また〟」

 

朱乃はそれを聞くと涙をぬぐい、返してきた

 

「えぇ、〝また〟」

 

 

階段を下りていくと、ばったりリアスと鉢合わせした

 

「あらコウタロウ。帰り? イッセーは一緒じゃないの?」

「兵藤ならまだ中です。朱乃さんと二人きりですよ」

「そうなの。朱乃と二人きり―――朱乃と二人きり!?」

 

言葉を発してしまった、というような表情を浩太郎は浮かべた

よくわからないがリアスは兵藤が他の女性と触れ合うのを見ると目にわかるくらい嫉妬する

アーシアや小猫も問題ないのに、それ以外だと朱乃でさえも不機嫌になる

女心とは難しいものだ

 

「ど、どうしてイッセーと二人きりにしたのよ!」

「そんなこと言われましても…」

「とにかく、私は急ぐわ、また後でね!」

 

リアスはそうまくし立てると大急ぎで階段を駆け上がっていった

彼女の赤い髪が見えなくなるまで、浩太郎は見送り、ふと小さく笑んだ

なんだかんだで、兵藤は好かれている

それは間違いなさそうだ

 

◇◇◇

 

「会談が近づいてますね、どうします?」

「近場には赴く。奴にも言ったが、ネズミが動き出しそうだからな」

「ですねぇ。せっかく平穏になったのですから、余計なことはしないで欲しいものです」

「その平穏が気に食わないのさ。はた迷惑なことにな」

「あの人とは、いつごろ戦うおつもりで?」

「戦いなどいつでもできる。今はせいぜい会談がうまくいくことを祈ってやろうじゃないか」

 

そう呟き、男はゆっくりと闇夜に浮かぶ月へと視線を動かす

会談の日は、確実に近づいていた

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