その身に宿すはキングストーン   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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四回目です

正直今回は無理やりかもしれません
あと早いとこ変身したい(切実)

ではどうぞ




「二度と教会に近づいてはダメよ」

 

その日の夜、案の定リアスに今日、教会に接近したことを注意された

かつて兵藤に見せていた困惑したような怒ったような感情が混ざったような表情とは違い、だいぶ険しいものとなっている

目が本気だ

 

「いい? 教会は私たち悪魔にとって敵地、踏み込んだらそれだけで問題になるわ。今回はただシスターを送ってあげたアナタの厚意を素直に受け止めてくれたものの、天使たちはいつも監視しているの。いつ殺されるかわからなかったのよ?」

「はい…、すみません」

 

そんなに危ない状況とは露知らず、浩太郎は頭を下げる

 

「確かに貴方は人間だけど、一応は悪魔の協力者なのよ? それと、教会の関係者に関わってもダメよ。特に〝悪魔祓い(エクソシスト)〟は、我々悪魔の仇敵、神器(セイクリッドギア)所有者が悪魔祓いなら尚更よ。死と隣り合わせと同義なんだから」

 

赤い髪を揺らしながら彼女は青い瞳を向けてくる

彼女にしては珍しい、迫力のある眼差し

少しして、はっとした彼女はこほん、と咳をし

 

「…ごめんなさい、少し熱くなりすぎたわ。ともかく、今後は気をつけてね」

「了解です、気をつけます」

 

そう言ってリアスとの会話は終わる

会話が終わったタイミングを計ったのか、兵藤が浩太郎に向かって言葉をかけた

 

「悪い、浩太郎。ホントは俺も怒られるべきなのに」

「気にするな。好きでやったことだしな」

「言っておくけど、浩太郎に言った言葉はイッセーにも言ってるんだからね」

「は、はいっ!」

 

リアスに釘を刺され、兵藤が返事をする

そんな時、ふと扉がガラリと開かれた

 

「部長」

 

扉から現れたのは姫島朱乃だ

彼女は相変わらすニコニコと笑顔を作っている

 

「あら、朱乃。どうかしたの?」

 

リアスの問いに、朱乃は僅かに表情を曇らせた

 

「討伐依頼が大公から届きました」

 

 

はぐれ悪魔

そんな存在がいるらしい

爵位持ちの悪魔が主を裏切り、もしくはその主を殺害してしまうような事件が時たまに起こるようだ

悪魔の力は凄まじいものだ、それこそ人間など比較できないくらいに

手に入れたその力を、己の欲望のために使いたくもなるだろう

そういった奴らが主の元を去り、好き勝手に暴れまわる

それらを総称してはぐれ悪魔というらしい

要は野良犬、野良猫だ

 

野良は害を生む、見つけ次第主人、あるいはほかの悪魔が消滅させることになっている

 

それが悪魔のルール

 

これは他の存在でも危険視されており、天使、堕天使双方もはぐれ悪魔は見つけ次第消すようにしているという

 

リアスのもとに転がり込んだ依頼は〝リアス・グレモリーの活動領域内に逃げ込んだから始末して欲しい〟というものだった

今現在、浩太郎はリアス、朱乃、小猫、木場、兵藤とともに町外れの廃屋に来ていた

 

どうやら毎晩、その〝はぐれ悪魔〟とやらは人間を誘い込んで喰らっているそうだ

こういったのも、悪魔の仕事の一つらしい

現在時刻は深夜、暗黒の時間であり、悪魔の時間でもある

 

「血の匂い」

 

小猫がそうつぶやいた

しかしそんな匂いは浩太郎は匂っていない

おそらく彼女の嗅覚が凄まじい、ということか

周囲は静まったままだが、満ちてる殺気と敵意が尋常ではない

 

「イッセー、コウタロウ。いい機会だから、ここで悪魔としての戦いを経験しなさい」

「ま、マジっすか!? お、俺ら戦力にはならないと思いますけど…」

「…っていうかそもそもリアスさん、俺は人間なのですが」

「わかってるわ、言葉のあやよ。けど、戦いを見ることはできるわ。ついでに、下僕の特性を説明してあげる」

「特性?」

 

怪訝な声をした兵藤にリアスが続ける

 

「主となる悪魔は下僕となっている悪魔に特性を授けるの。ちょうどいいわ、頃合だし、ここで悪魔の歴史について教えてあげる」

 

そこでリアスから軽く説明が始まった

太古の昔、悪魔と堕天使、そして天使を率いる神は三つ巴の戦争をしていたらしい

大きな軍勢を率いて、どの勢力も永劫とも言える期間戦ったわ。結果、どの勢力も疲弊して、勝者もいないまま戦争は数百年前に集結した

その時に、悪魔も大きな打撃を受けてしまった

二十、三十もの軍を率いていた爵位を持った大悪魔の部下も長い戦争で、軍を保てないほどに失ってしまった

純粋な悪魔はその時になくなってしまったらしく、今でも堕天使、神とのにらみ合いは続いている

いくらそれぞれの陣営の部下が大多数失ったといえど、隙を見せればそれだけで危うくなるからだ

 

そこで、悪魔は少数精鋭の精度を取ることにした。それが、〝悪魔の駒(イーヴィルピース)〟である

 

爵位を持った悪魔はボードゲーム〝チェス〟の特性を下僕悪魔に取り入れた

下僕になる悪魔の多くが人間からの転生者、っていう皮肉も込めているらしい

主となる悪魔が〝(キング)〟、そこから〝女王(クイーン)〟、〝戦車(ルーク)〟、〝騎士(ナイト)〟、〝僧侶(ビショップ)〟、〝兵士(ポーン)〟、と五つの特性を作り出し、軍団を持てなくなった代わりに少数の下僕も、大きな力を与えることにした

この制度ができたのはここ数百年のことだけど、これが結構爵位持ちの悪魔に好評らしい

なぜ好評なのか

それは、〝自分の騎士は強い〟、〝いいや、俺のも負けてはいない〟、と競うようになったからだ

結果、チェスのように実際のゲームを行うようになった

悪魔の下僕自身が駒となり動く、言わばリアルチェスだ

今現在では大会が開かれているくらい悪魔に好評らしく、地位や爵位にまで影響するほどだ

〝駒集め〟と称し、優秀な人間を手駒にすることも最近流行っているらしい

どうやら優秀な配下も、自分のステータスになるからだ

 

「…悪魔もいろいろあるんですね。リアスさんも経験あるんですか?」

「私はまだ成熟した悪魔じゃないから大会にも出場できないし、ゲームをするにもいろいろ条件をクリアしないといけないの」

「ってことは、木場たちもそのゲームしたことはないんですか?」

「うん」

 

兵藤の質問に木場が頷いた

とはいえ、この話を聞いたおかげか、わずかながら抱いていた悪魔のイメージは少し崩れつつある

そしてひとつ、気になったことが生まれた

 

「部長、俺の駒の、役割や特性ってなんですか?」

「そうね、イッセーは―――」

 

答えようとして、リアスが口を止める

理由は明解、件のはぐれ悪魔とやらが現れたからだろう

何かが近づいてくる

 

「―――不味そうな匂いがするぞ。けど、美味そうな匂いもするし、よくわからない匂いもするそ。甘いかな、苦いかな」

 

心の底から低い声音

リアスはその声のする方に全く臆せず言い放つ

 

「はぐれ悪魔バイザー。あなたを狩りにきたわ」

 

けたけたけた

異様な笑いが場を支配する

やがて暗闇からぬらり、と姿を現したのは上半身が裸の女性だった

最初は浮いているのかとも思っていたが、その考えは間違いだとすぐ知ることになる

ズン、と重い足音とともに、隠れていた下半身が姿を現した

それは巨大な獣の体だ

女の体と獣の下半身を宿した、見てくれ通りの化物だ

下半身は四足で太い足に、爪も鋭い

尻尾は蛇のような…鵺に近いものなのか、と浩太郎は勝手に思った

推定おおよそ五メートルの化物だ

 

「自分の欲求のために動くその行動、万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消してあげる」

「小賢しい小娘ごときが! その真紅の髪のように、貴様の身体を引き裂いてくれる!!」

 

バイザーは吠える

リアスはそれに鼻で笑った

 

「弱い犬ほど、よく吠えるとは言ったものだわ。祐斗」

「はいっ」

 

その言葉に木場返事をし、その身を飛び出した

 

「二人共、さっきの続きを説明してあげる」

 

どうやらここから実践を交えての指導となるようだ

 

「祐斗の特性は〝騎士〟。騎士となったものは速さを増すの」

 

彼女の言うとおり、少しづつ木場は速度を上げていき、バイザーを翻弄している

バイザーの攻撃などかすりもしない

 

「そして彼の最大の武器は剣」

 

一旦木場は足を止めた

彼の手には西洋の剣みたいなものが握られている

そいつを鞘から抜いて、その剣を構えた

瞬間、バイザーが悲鳴をあげる

 

「がァァァァァっ!?」

 

バイザーの両腕が瞬きのまもなく両断されていた

傷からは夥しいまでの鮮血を撒き散らす

 

「これが祐斗の力。目で追えない速さと、達人クラスの剣さばき。その二つが合わさることで、あの子は最速の騎士となるの」

 

そんなバイザーの足元にはまた別の人影が既にいた

その正体は小猫だ

 

「次は小猫。あの子は〝戦車〟その特性は―――」

「羽虫がぁぁァァァっ!!」

 

バイザーがその大きな足を振り上げた

そのまま一気に踏みつぶそうと動く

ずぅん、と大きな音がしたが、バイザーの足は完全に地についてはいなかった

ゆっくりと小猫がその足を持ち上げていく

 

「その特性は単純明快、力よ。そして屈強な防御力。あの程度で小猫は潰せないわ」

 

バイザーの足を持ち上げ、その身を大きく浮かせる

そして彼女は少しジャンプし

 

「吹き飛べ」

 

その腹に己の拳を叩き込んだ

バイザーの巨体が容易く吹き飛ぶ

 

「最後は朱乃」

 

その言葉に呼応するかのように、朱乃がバイザーの元へと歩き出す

 

「彼女は〝女王〟。私の次に強い最強の者。〝兵士〟、〝騎士〟、〝僧侶〟、〝戦車〟。全てを備えた無敵の副部長よ」

 

バイザーはうめき声をあげながら朱乃を睨む

それを見て、彼女はうっすら笑みを浮かべた

 

「ふふ。まだまだ元気みたいですわね。ならこれはいかかでしょうか?」

 

バッと上に手をかざした

天空が輝き、バイザーに向かって雷が落ちる

叫びとともに、その雷がバイザーを焼き、やがてそいつの体は黒焦げになる

はっきり言って瀕死と言っていいだろう

 

「あらあらうふふ。まだまだ元気みたいですわね」

 

もう一度雷を落とす

そしてさらにもう一度、もう一度、もう一度…

繰り出している本人は冷徹なほどの嘲笑を浮かべている

楽しんでやがるのだ

 

「朱乃は魔力を用いた戦い方が得意なの。水や炎とか、そういった自然現象を起こす力ね。ついでに言えば、彼女は究極のエスよ」

 

しれっと告白するリアス

ドエスの間違いじゃなかろうか

 

「普段は優しいけれど、一度戦闘が始まれば、敵が負けを認めても興奮が収まるまで攻撃をやめる事はないわ」

 

なんですかそのタチ悪い性分

 

「うぅ、部長、浩太郎…朱乃さんが怖いっす」

「そうか? 早い話怒らせなきゃいい話じゃん」

「それもあるけど、朱乃は味方にはとても優しいわ。イッセーのことも可愛いと言っていたし、コウタロウのことも気に入ったって言ってたから、甘えてあげればきっと優しく抱きしめてくれるわよ」

「どこまで耐えられるかしら。ほら、頑張って耐えてご覧なさい、ほら、ほらほらっ!」

 

結構常識のある人かと思っていたが、彼女もやっぱり悪魔なんだね、と認識した瞬間である

それから数分間、彼女の攻撃は続いた

完全に戦意をなくしたバイザーに、リアスが歩み寄っていく

 

「何か言い残すことはあるかしら」

「殺せ」

「なら、消えなさい」

 

冷眼一喝

そう返答したかと思うと彼女はバイザーに向かって魔力の塊を放った

その塊はバイザーを飲み込み、いとも容易く消滅させる

これがはぐれ悪魔の末路、というわけだ

 

「ご苦労様、みんな」

 

リアスが木場らにそう言葉をかける

あのバイザーにもきっと何らかの考えがあってはぐれになったのだと思うが、だからといってあの悪魔に同情する気はさらさらない

そしてそういえば、と浩太郎は思い出す

自分自身は悪魔ではないのでなんの特性もないが、友人の兵藤は悪魔に転生している

彼にもなんかしらの特性はあるのだろうか、というかないとおかしいか

 

「その、部長。さっきは聞きそびれてしまったんですけど…」

「ん? 何かしら」

 

笑顔で応じるリアス

ここまでの流れを見ていた浩太郎は、役職についてはなんとなく予想は着いていた

木場が騎士で小猫が戦車、朱乃が女王でリアスが王

兵藤は僧侶なんてタマじゃないので、必然的に想像がつく

 

「俺の、下僕の特性って、何なんですか?」

 

リアスは笑みを作りながらはっきりと告げる

 

「〝兵士(ポーン)〟よ。イッセーは兵士なの」

 

案の定、彼は一番下っ端だった

 

 

深夜、なんとなく悪魔としての仕事に多少ばかりの興味を抱いた浩太郎は兵藤とともにとある一軒家に来ていた

兵藤は自分が兵士と知って以降、どこか沈んだ感じだったが、頑張ろうと吹っ切ったのか深夜帯に会った時はいつもの感じに戻っていた

というか、チェスについては全く知らないが、兵士って結構重要な役職ではないだろうか

確かにチェス盤に乗っている駒の中ではたくさんあって使い捨ての印象が強いが、逆にいえば兵士の動かし方次第で有利にも不利にもなる

将棋で言う〝歩〟に近い役割なのだ

だからあんまり悲観することはないと思う…と、言っても自分は悪魔ではないのだから兵藤の気持ちは理解できないのだが

 

そんなこんなで兵藤がブザーを鳴らそうとしたとき、ふと気づく

玄関が開いているのだ

 

「兵藤、ドアが開いてる」

「え? …本当だ」

 

廊下に灯りはついておらず、二階への階段はあるにはあるが電気はついていない

一階の奥の部屋は明かりっぽいのがついているが、それだけだ

しかし、人気が感じられない

まさか寝ているわけではないはずだ

二人は靴を脱ぎ、その部屋へと歩き出す

ちらりと中を見てみると、その灯りがロウソクによるものだとわかった

 

「こんにちわー…グレモリー様使いの悪魔ですけど…依頼者の方いますか?」

 

兵藤がそんな自信のなさそうな言葉を吐き出す

返事はない

その場でキョロキョロとしている兵藤を尻目に、浩太郎は室内を歩いてみる

どこにでもあるリビングだ、どこにでも―――

 

「っ!!」

 

息を詰まらせる

リビングの壁に人間の遺体が貼り付けられている

おまけに上下逆さまだ、趣味の悪いことをする

 

「浩太郎? 依頼者さんは―――」

 

浩太郎の行動が気になったのか兵藤がこちらに向かって歩いてくる

思わず返した

 

「来るな兵藤」

「え? なんでだよ…」

 

歩きながら浩太郎の所へと歩いてきた兵藤は、壁に貼り付けられたモノを見て、同様に戦慄した

思わず彼はその場に膝まづいて、吐き出してしまった

 

「だから来るなって言ったのに」

 

落ち着いた兵藤の背中をさする

そしてちらりと改めて遺体を見やる

はっきり言って見るに堪えない

わざわざ逆十字に貼り付けて、おまけに打ち付けるのに使っているのは釘だ

殺した奴の神経を疑わざるを得ない

同時に、こんな惨状を見て、少し気分が悪くなった程度の自分の神経も、だ

普通なら兵藤みたいに吐いてもおかしくないはずなのに

 

「? …なんだこの文字」

 

打ち付けられている壁に、なにか文字っぽいのが書かれているのを見つけた

 

「〝悪いことする人はおしおきよ〟っていう聖なる方のお言葉を借りたものですよ」

 

後方からの声

振り向くとそこには白髪の男が立っていた

おそらく十代、後半か

神父みたいな格好をしているその男はにやりと笑んだ

 

「これはこれは。悪魔くんじゃあーりませんかぁ。片っぽは人間と見てよろしいかな」

 

無駄に嬉しそうである

そういえば、と浩太郎はリアスに言われたことを思い出す

―――教会の関係者

神父だ、確実に教会関係者に間違いない

 

「あぁ、はじめまして。俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織の末端でござい。あと、別に俺が名乗ったからとて、君たちが名乗んなくてもだいじょーぶい。悪魔の名前なんか興味ないから、すぐ殺すから。ねぇ? 痛いのもすぐに気持ちよくなるからさぁ?」

 

こいつヤベェ

それしか言葉が見つからない

神父を睨む浩太郎を尻目に、兵藤が言葉を発した

 

「おい、お前か、この人を殺したのは!」

「いえすいえす。確かにわたすが殺したよん。いやー、泣き叫ぶもんだからしんどいしんどい。あ、その壁の見てくれた? 結構ね、打ち付けるの大変だったよ? 釘を打つたびに返り血かかりそうになるしさ。まぁ悪魔召喚の常習犯らしいし? 死んでも仕方なくない?」

「な、何だそりゃ…」

「あれ? 逃げないの? 驚いてるの? 変だねおかしいねイミフだねぇ? まぁ悪魔と取引してる時点でクズ確定、理解できない?無理だよねクソ悪魔だもんねぇ」

 

こいつ完全にイカれてやがる

これ以上話しても無駄だ、と浩太郎は察する

 

「ちなみに、悪魔と一緒にいるそこの人間も同罪確定ステンバイデストロイレッツロックなんで、ヨロシク」

 

おもむろに銃と剣の柄みたいなものを取り出した

ブゥン、と空気を振動させる音とともにビームサーベルのような刀身を作り出す

 

「…リベルワン、アクションっ!!」

 

言葉とともに一気に神父が駆け抜ける

一番最初は、浩太郎だ

浩太郎は兵藤をソファに向けて突き飛ばし振るわれた刀身を身をかがめることで回避する

ついでに足を払うように浩太郎は自分の足を振り抜いた

しかしあっさりとそれを回避し、今度はこちらに向かって銃を突きつける

判断は一瞬

そのままの体制で浩太郎は前転し、すぐさま体勢を整えた

しかし

 

「ぐあっ!?」

「!? 兵藤!?」

 

兵藤のそんなうめき声にはっとする

浩太郎は兵藤へと視線をやると、彼は足を抑えてうずくまっていた

撃たれた? いや、けど銃声なんかは聞こえなかった

 

「なんでだ? って面してるねぇ? 説明してやるよ。こいつは祓魔弾(ふつまだん)って言ってよ? わかりやすく言うと光の弾丸なんだ。銃声なんてならない、なんてったって光の弾だからなぁ? どうよ? 達しちゃいそうな快楽が襲って来るだろぉ?」

 

再び兵藤に狙いを定める神父

それをさせまいと浩太郎は一気に距離を詰めて手刀を繰り出す

その手刀は当たることはなかったがそれでも注意をそらすことはできたはずだ

神父はジロリと浩太郎へ睨みをきかせ

 

「人間の癖にいやに動くねぇ。…何もんだお前」

「答える気はないね」

「どっちにしろ、殺すことにはかわりないけどな」

 

神父が身構えて、攻撃を再開しようとしたその時だ

そこに、英語のような言葉が浩太郎の耳に入ってきた

聞き覚えのあるものだ

視線だけをそちらに動かす

そこには、アーシアがいた

 

そこからの会話は英語の会話にしか聞こえず、全く耳に入ってこなかった

しかしさすがにこんな状況では携帯を介して会話をするどころか兵藤に訳を頼むことも出来はしない

そのまま浩太郎は兵藤と神父の会話を聞いていることしかできなかった

やがて話は終了したのか、神父が改めてこちらに向かって剣を構えた

 

「いやぁ、人間てのはこんな時不憫だねぇ。こういったときに話に参加できないんだからさ?」

「やかましい。…来るなら来やがれ」

 

喧嘩に慣れてない兵藤を守れなければならない

基本的に売られた喧嘩はそこそこに買っていた浩太郎は多少なりとも喧嘩にはなれているつもりだ

とは言っても、せいぜい素人に毛が生えた程度の浩太郎はこんな男に太刀打ちできているのは、おそらく自分の中に宿っている神器(セイクリッドギア)とやらのおかげだろう

と、身構えた時だ

 

す、とアーシアが自分の前に割って入るように立ったのだ

 

(…アーシア?)

 

彼女は何かを英語で言っている

こんな時、もう少し英語を勉強しておけばよかったと痛感する

やがて神父が爆笑し始めた

 

「…くくく! あーひゃハハハハはっ!! おいおいマジかよ! おい聞けよ人間! てめぇにわかりやすく訳してやっとだな! このクソは悪魔を庇うって言ってんだと! 悪魔にもいい人はいます、だとよ! あははははっ! いるわけないのにアホみてぇ! ギャハハははっ!」

 

咄嗟に浩太郎はアーシアの顔を見る

彼の視線に気がついた彼女はニコリ、と微笑んだ

死体を見かけ、知人が悪魔と悪魔の協力者と知りショックを受けたにも関わらず、なんてこの子は心の強い子だ

ひとしきり爆笑し終えた神父は徐にアーシアを手のひらの甲でぶん殴った

思わず駆け寄る

右頬に痣が出来ていた

こいつ、本気で殴りやがった

 

「…上には殺すな言われてんで殺しゃしないけどさ。せいぜい陵辱くらいはいいですよね? ってかそうでもしないと俺の気が収まんないぜ? まぁその前に、そっちの悪魔と人間を殺すけどね」

 

再び神父はこちらに向かって剣を構える

庇ってくれたことは感謝している

しかしこのまま置いていけば確実に彼女は乱暴されてしまうだろう

そしてなにより―――

 

「庇ってくれた女の子おいて、逃げらんねぇよな浩太郎!」

「―――あぁ!」

 

兵藤の言うとおりだ

せっかくアーシアという女の子がここまで体を張って守ってくれたのだ

ここで潔く逃げ帰っては、男が廃るというもの

 

「…マジ? 俺と殺る気? 死んじゃうよ? 言っとくけど楽になんて殺さないよぉ? 一秒間にどれだけ細かく刻めるか、とか挑戦しておくかい?」

 

流石に、このイカれた男に何もないままでは本当に殺されてしまうだろう

内心ではまだ迷っていた

横で兵藤が構える中、不意にぶぅん、と床が青白く光りだした

 

「? なんだこりゃ」

 

それは徐々に形を形成していき、その形を見て兵藤と浩太郎はあることに気がついた

この魔法陣の形は、グレモリー眷属のものだ

そしてその光の中から現れたのは、見知った人たちだった

 

「兵藤くん、梓馬くん、助けに来たよ」

「あらあら。これは大変な状況ですわね」

「浩太郎さん、無事ですか?」

 

木場に朱乃に小猫

危機を察してくれたのか、はたまた堕天使の気配に気づいてこちらに来てくれたのか定かではないが、これで幾分か安心できる

 

「ほえぇ。いいじゃんいいじゃん? 団体さんに、一撃目ぇぇぇっ!!」

 

構わず神父が切り込んできた

しかしその神父の一撃を木場が己の剣で受け止める

 

「悪いね! 二人は僕らの仲間でさ、ここでやられてもらうわけにはいかないのさ!」

「けっ! 悪魔のくせして仲間意識なんてあるんだにゃあ!? あー胸糞悪い気持ち悪い!」

 

つばぜり合いの最中、神父は舌を垂らしながら頭を揺らす

完全にこちらを馬鹿にしている

同様に思ったのか木場でさえ嫌悪の表情を浮かべていた

 

「下品だね。とても神父とは思えない。だから〝はぐれ悪魔祓い〟になったのだろうけど」

「そうだよ下品だよ!! 追い出されてんだこっちはよぉ! 何がバチカンだ何が神様だくだらねぇ! 俺は個人的に悪魔を狩れりゃそれでいいのんっ!」

 

剣と剣で睨み合う二人の男

穏やかな顔ではあるが木場の瞳はしっかりと神父を捉えている

 

「一番厄介なタイプだね君は。悪魔を狩ることが生き甲斐、か。一番の有害だ、僕らにとってね」

「んだ? 悪魔のくせにどうこう言われる筋合いなんざねぇんだけどにゃあ!?」

「悪魔にもルールあります」

 

笑みながら朱乃が答える、がその視線はとても鋭い

 

「…いいねぇ。その視線、確実に誰かを殺そうとしている目だ。明確すぎる殺意に惚れ惚れしちゃいそうだぞ? 殺意ってのは向けるのも向けられるのも堪らないねぇ」

「なら消えなさい」

 

その言葉とともに現れたのは紅の髪を持つ女性―――リアス・グレモリーだ

彼女は兵藤の隣に立ち

 

「ごめんなさい二人共。まさかこの依頼主にはぐれ悪魔祓いが訪れるなんて計算外だったの」

 

謝る彼女は兵藤の怪我を見るなり、目を細める

 

「イッセー、怪我をしたの?」

「あ、すみません…浩太郎が助けてくれたんですけど…」

 

半笑いを浮かべる兵藤

同時に、面目ない気持ちが浩太郎の中に生まれる

もっと相手の武器の特性を理解できていれば、少しは対策を立てられたのだが

 

「―――私の可愛い下僕を可愛がってくれたみたいね」

 

彼女にしては珍しく、低い声音

一発でわかる、彼女は怒っているのだ

 

「えぇ、可愛がってあげましたん。まぁそこの男のせいで俺の夢は幻想となりましたがね」

 

直後、その神父の後ろの方にある家具が消し飛んだ

リアスが魔力の塊を放ったからだ

 

「私は私の下僕を傷つける輩を許さないことにしているの。特に、あなたみたいな下品極まりない者に私の所有物を傷つけられることは本当に我慢ならないわ」

 

空気さえ凍るのでは、と錯覚さえしてしまいそうだ

不意に、何かに気がついたのか朱乃が表情を強ばらせた

 

「部長、この家に堕天使らしきものたちが複数近づいています。このままではこちらが不利になってしまいます」

 

堕天使、ということは以前会ったあの黒い男か

リアスは神父をひとつ睨んだあと

 

「―――朱乃、イッセーを回収しだい本拠地へ帰還するわ。…問題は」

 

そう言って彼女は浩太郎へと視線を移す

本拠地へ戻る、という事はあの部室へ戻るということだ

リアスが言う、問題とは他でもない浩太郎自身のことだろう

兵藤はリアスの眷属、魔力の低い彼でも問題なくジャンプできる転移術式もちゃんと用意してあるだろう

しかし、浩太郎は眷属ではない

だから、転移してしまえばそれは浩太郎をこの場に置き去りにしてしまうということでもあるのだ

故に、浩太郎は先に先手を打つことにした

 

「俺のことなら大丈夫ですぜ、リアスさん」

「! コウタロウ、貴方!」

 

心配してくれるリアスの言葉

それに続くように、小猫が彼の隣に立つ

 

「部長、私もここに残り―――」

「大丈夫だよ、小猫。俺のわがままに付き合う必要はない」

 

そう言いながら浩太郎は小猫の頭を軽くたたく

痛っ、と彼女は小さい悲鳴を上げながら、彼女は浩太郎を睨む

そうだ、これは自身のわがままだ

そんなくだらないことのために、リアスの眷属を危険な目に合わせるわけにはいかない

 

「だけど―――」

「大丈夫。俺、わりとしぶといから」

 

そう言って浩太郎はリアスの所へと押していく

とすん、と彼女は小猫の肩を抱きながら朱乃へと指示を飛ばす

 

「―――朱乃、ジャンプの用意を!」

「! 部長!」

 

小猫にしては珍しい、わずかに感情の乗った言葉

同様に、兵藤が言葉を荒げる

 

「浩太郎! お前っ!?」

「大丈夫だ兵藤。彼女を置いてはいけないだろう」

「それは、そうだけど…、でもだからって!」

 

不意に、アーシアが兵藤に向かって何かを呟いた

ニッコリと微笑んだその笑顔は、妙に焼き付くようだった

その瞬間、朱乃の詠唱が終わり、魔法陣が光り始めた

 

「逃がすかってっ!!」

 

すかさず神父が切り込んでくる

しかしそれをさせまいと浩太郎がその場にあった椅子を神父のところへと投げつけてそれを阻害する

そいつを神父が剣で切り払う頃には、光は収まり、リアスたちの姿は消えていた

ひとまずの第一段階はクリア、問題はここからだ

 

神父には一瞬ではあるが隙ができている

ここでどうにかしないといけない

判断した浩太郎はアーシアを抱き寄せてそのまま彼女を抱え上げる

そのままガラスを突き破って外へ飛び出す

幸い、ここまでの道は覚えている

何とかして相手を撒ければいいと思うのだが、そう上手くいけばいいのだけれど

 

 

「くっそ…!! あのクソヤロォ! 舐めてくれてるじゃないですかマジで」

 

フリードはそう悪態をつきながら其の辺に唾を吐きだした

今現在、彼はあのアーシアをさらった男をどう殺すかしか考えていない

悪魔に協力しているクズのくせに、おまけにこちらの仕事まで邪魔してこようというのだ、殺意が沸かない方がオカシイだろう

 

「とりあえず、アイツはみじん切り決定だ、それが終わったら次はあの悪魔くんにしようかな? それともあのイケメンくんにしようかな?」

 

そうして外に出た直後だ

不意に一人の男に視線がいった

男は二十代前半、といった見た目で、服装は白いシャツに青いジーンズというごく普通な見た目をしている

だが、こんな時間帯にここにいるということは間違いなく普通ではない

 

逃げ遅れた関係者か? とも思ったが、今はとにかくむしゃくしゃしている

この際刻めるなら誰でもいいやと判断したフリードは狂気的な笑みを浮かべたあとでその男へと銃の引き金を引いた

音もなく放たれる光の弾丸

銃声など発しない、光の力が込められた弾丸はいとも容易く男の体を貫く―――はずだった

 

「…なるほど、それが祓魔弾(ふつまだん)というやつか。いや、結構結構」

 

目の前の男はあっけなくその弾丸を避けてしまった

嘘だろ、とフリードは戦慄する

男はゆっくりとこちらに歩いてきた

どうしてだろうか、歩いてくるだけなのに、無駄に恐怖心が込み上げてくる

 

「あの男はまだ目覚めてはいない。貴様程度の男に消させてやるわけにはいかんのだ」

 

男の体が何かを纏っていく

やがてその体を、銀色の鎧のようなものが包んでいた

緑色の複眼がフリードを見据える

カシャン、カシャンと足音が響く

その男は言った

 

「今日この場は退け」

 

たった一言

男は言った

 

 

「とりあえず、今日この場は退かせることに成功しましたぜ」

 

銀色の男のもとに、一人の男性が駆けてきた

その男もまた鎧のような物をまとっていたが、ひとつマントを翻すと同時、ラフなスーツを着込んだ男性がそこにいた

銀色の男はそれに頷きつつ

 

「ご苦労」

「いえいえ。主の命ならばこの程度。…しかし、いいんですか?」

「何がだ?」

「確かにあの堕天使…れ、れい…まぁ名前なんてどうでもいいや。あの堕天使らは〝彼ら〟にとっては強敵ですよ? このままでは殺されてしまう可能性も…」

「問題ない」

 

銀色の男はそう言い切った

その自信たっぷりな言動に、ラフな男はフ、っと笑った

 

「入れ込んでますね?」

「無論だ。あの男は、近いうちに必ずブラックサンとなる…。我が永遠の宿敵よ」

 

月の光の影の下、銀色の男は呟いた

そしてゆっくりと歩きだし、宵闇の中へと消えていった

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