原作主人公に幸せになってほしい系オリ主 作:ほいぽい太郎
俺は目を覚まして0.2秒で理解した。
――夢か。
見上げた天井は、
体を起こして周りを見渡すと、見慣れない部屋の、やたらと硬いベッドで寝ていたことに気づいた。マットレスなんて上等なものではなく、草を詰めた布袋を敷いただけの代物だ。道理で背中が痛いわけだ。
ここは誰かの家らしい。それにしてもずいぶん古い様式の家だな。壁にスイッチもなければ、天井に照明もない。窓際には燭台が一つ、蓋をした水瓶が一つ。つまり電気もなければ水道もない。
キャンプでコテージに泊まったことがあるが、あれの方がよっぽど設備がしっかりしていたぞ。というか、生活感がまるでない。棚は空っぽで、床には引きずったような家具の跡だけが残っている。まるで誰かが急いで荷物をまとめて出ていった後みたいだ。
まさかコテージにドッキリで連れてかれたんじゃないだろうな? 部屋の隅に隠しカメラでもあるんじゃ――いや、まぁ、ドッキリを仕掛けてきそうな友達なんて持ち合わせていないんだが。自分で言ってて悲しくなってきた。
「む?」
ベッド脇の小さな机の上に、紙切れが一枚置いてあるのを見つけた。重し代わりに小さな石が載せられていて、紙の端は何度も握りしめたようにしわくちゃだ。
その紙には文字のようなものが書かれており、明らかに日本語ではない。英語でもない。少なくとも俺が人生で一度も見たことのない形だ。それなのに、内容がするすると頭に入ってくる。まぁ夢だし、なぜ理解できるのかに理由なんていらないな。
悪筆だった。筆圧が強すぎて紙が破けかけている箇所もあれば、インクが滲んで読みにくい箇所もある。たぶん書いた人は泣いていたんだろう。簡潔に要約すると、こう書かれていた。
―――親愛なるヨリーチへ。
―――この手紙を読んでいるということは、私たちはもうこの世にはいないでしょう。
―――私たちは多くの秘密を知りすぎた。消されるのはそう遠くない未来だった。
―――あなたがしばらくの間暮らしていける金は、台所の床の裏に隠しておいた。大切に使いなさい。
―――もっとあなたと暮らしていたかった。誰よりも愛しているわ。
―――母より。
……重い。寝起き一発目に読むもんじゃない。
しかも「秘密を知りすぎた」「消される」だ。サスペンスの導入がすぎる。俺の深層心理はいつからこんな脚本家になったんだ。
それにしても、ヨリーチってのはまず誰だ? まさか俺のことか? 夢の中だから姿かたちが変わっている、という線はあるな。そういえばさっきから、やけに自分の声が高い気がする。
鏡でもあればわかりやすいんだけど。
「あった」
おそらく寝室であるこの部屋には、扉の歪んだクローゼットと、縁の塗装が剥げた姿見があった。鏡面はうっすら曇っているが、姿を確かめるには十分だろう。
さてさて、俺の容姿はどんな感じかな? イケメンだったら嬉しいな。というかイケメンであれ。せめて夢の中ぐらい。現実の俺にそういうボーナスは一切なかったんだから。
神様に祈るような気持ちで姿見の前に立ち、鏡の中の人物と目を合わせた。
そして、俺は驚いた。
「あー……継国縁壱か、コレは」
赤みがかった赫灼の瞳。同じ色合いの、後ろで纏めた長髪。そして額の左側から側頭部にかけて、炎が揺らめくような形の痣。
それだけ見れば、鬼滅の刃を見たことがある奴なら大体見当がつくだろう。作中でも別格、というかバグ。作中のラスボスをして化け物と呼ぶほどの規格外。
それにしても、小さいな。
鏡に映るのは、どう見ても子供だった。いつもより二回りは小さい掌を開いたり閉じたりしてみる。小さな指が、俺の意思の通りに素直に動く。まだ十歳前後だろう。どおりで目線が低かったわけだ。
幼さが残る外見だが、将来イケメンになることは確定事項だろうな。だって大人の継国縁壱、イケメンだし。勝ったな。
となると、手紙にあったヨリーチってのは俺のことになる。縁壱でヨリーチ。安直と言えば安直だが、つまりここは西洋風の世界ってことか。だから馴染みやすいようにこういう名前にしたとか。ということは、あの手紙を残した母親は俺の母親で、もうこの世にいない……ってことになるな。
いや、やめよう。夢だ。深く考えるようなことじゃない。
俺は一度頭を振って、銭もしい思考を追い出した。
継国縁壱になったのなら、やりたいことは一つしかない。
俺は寝室を出て、きしむ床板を踏みながら台所へと赴いた。灶には冷え切った灰。鍋が一つ。食卓の上には片付け忘れたような木の皿が二枚。
何か武器になるものはないか? 刃物がいいな。日本刀なんて贅沢は言わない。ナイフでもあれば上々だ。
「ん。見つけた」
壁に立てかけてあったのは、野菜でも切るのに使っていたらしい刃渡り十五センチほどのナイフだった。柄は手垢で黒ずみ、刃には細かい錬が浮いている。市場なら投げ売りされていそうな安物だ。
何の気なしに、その柄を握った。
その瞬間――体中を雷が駆け抜けた。
指先から肩へ、肩から背骨へ、背骨から足の裏へ。全身の細胞一つ一つが「これだ」と叫んでいる。俺はこのために生まれてきたのだと、勘違いしてしまうほどの全能感。人生で一番の、いや、人生を何周しても味わえないであろう高揚感に酔いしれる。合法も違法も引っくるめて、これ以上に気持ちいいものはこの世に存在しないだろう。
「ふっ」
軽くナイフを振ってみる。
速い。
振った自分が、振った後で気づくほどに速い。空気が裂けた音が遅れて耳に届いた。現実の俺が振ったところで、こんな速さは逆立ちしても無理だ。ナイフが道具じゃない。まるで自分の指が一本増えたみたいに、自在に動く。
俺は夢中でナイフを振り続けた。
振り下ろし、薙ぎ、突き、返す。一振りごとに、体の奥から何かが囁く。――そこ、肋が一寸開いている。――その角度だと刃が滑る。――息を止めるな、吐け。まるで忘れていたことを思い出すように、体が勝手に修正していく。こっちの方が効率的だとか、こう振れば切れ味が増すとか。理屈が後からついてくる。
楽しい。
こんなに楽しいのはいつぶりだろう。小学生の頃、初めて自転車に補助輪なしで乗れた日だろうか。いや、それ以上かもしれない。新しいおもちゃをもらった子供のように、俺は時間も忘れて没頭していった。
気づいた時には、窓から差し込む日差しの角度が変わっていた。
そして目の前には、真っ二つになった食卓があった。
いや、正確には「真っ二つにした」だ。試しに一度、本気で振ってみた。厚さ五センチはあろうかという樫の天板が、切り口も滑らかに左右へ倒れている。
ナイフを光にかざす。刃こぼれは一切ない。刃こぼれしないように意識して切ったとはいえ、本当に何一つ。錬びた安物のナイフでこれだ。流石は継国縁壱。天才を通り越して化け物だな。
自分の思い通りに動く体ってのは、こんなにもいいものなのか。中学の頃、誰もいない場所で傘を振り回して真似た、アニメのキャラクターの剣技。あの頃は妄想だけだったものが、今なら簡単に再現できてしまう。
しかし、こんだけ動いても息一つ乱れない。汗もうっすらと滲む程度だ。これは夢だからだろうか? いや、夢で疲れるってなんだって話なんだが。それとも縁壱の体だからなのか。
とりあえず外に出てみるか。夢の中でまで家に引きこもっているのは味気なさすぎる。せっかくの最強仕様なんだ。
手紙の言う通り、台所の床板を叩いて回ると、一枚だけ音の軽い板があった。こじ開けてみれば、布で包まれた小さな革袋が一つ。持ち上げるとずしりと重く、中で金貨がじゃらりと鳴った。
――大切に使いなさい。
手紙の一文が、なぜか知らない女の人の声で頭の中に響いた。俺は革袋を懐にしまい、床板を元に戻した。ちょっとだけ、丁寧に。
一応、護身用にナイフも持っていこうか。ステゴロでも負ける気は一切しないが、夢の中でも備えあれば懂いなし。布切れで刃を巻いて、ベルト代わりの紐に差した。
*
扉を開けた瞬間、眩しい日差しと一緒に、人の声や馬車の車輪の音が流れ込んできた。
そこに広がっていたのは、俺の想像通りの景色だった。
石と漆喰で組まれた三角屋根の家々が、ひしめくように立ち並んでいる。石畳の道を荷車を引いた馬がゆったりと行き交い、井戸端では女たちが洗濯物を抱えて笑いあっている。無邪気に駆け回る子供たち。焦げたパンの匂い。
中世ヨーロッパ風とでも言えばいいのか。現実にあったら一発で観光名所になれるくらい、見ごたえのある街だ。
そして――その全てを観光どころじゃなくさせているのが、街をぐるりと囲む「それ」だった。
壁。
空を切り取るようにして、街の周囲をぐるりと囲む巨大な壁がそびえ立っていた。高さは五十メートルはあるだろう。ここからかなり離れているはずなのに、小さくなど全然感じられない。その圧倒的な大きさが、街全体を巨大な箱庭のように見せていた。
いや、おかしいよな?
中世の城壁だったら、よくて十メートルかそこらのはずだ。攻城兵器を防ぐにしても、あんなに高くする意味がない。人間相手には明らかに過剰だ。まるで――人間よりもずっと大きな何かを、中に入れないための壁。
それにしてもこの壁、どこかで見たことがあるような……。
「……あ」
思わず声が漏れた。
そうだ、思い出した。進撃の巨人だ。人類が巨人から身を守るために築いた、三重の壁。あの作品に出てくる壁が、ちょうどこんな高さだった気がする。
ってことは何だ? ここは進撃の巨人の世界で、俺は継国縁壱。これから出てくる巨人相手に無双ゲーしてくださいっていう夢?
何それ、めっちゃ面白そう。
作品のクロスオーバーなんて、たまに公式から供給されるやつと二次創作でしか許されない贅沢だ。それを夢で体験できるとは、今日の俺の脳みそはもう少し褒めてやってもいい。
でも、この街の人々の様子を見るに、壁はまだ破られていなさそうだ。みんな「巨人」なんて言葉を忘れているような顔をしている。どういうことだ? 時系列がわからないと動きようがない。
近くの人に聞いてみるか。
ちょうど目の前で、木箱を積み上げた露店に果物を並べているおじさんがいた。日に焼けた丸顔に、立派な口髭。いかにも人の良さそうな顔だ。
「すみません」
「ん? どうした坊主。お母さんにお使いでも頼まれたか? 何が欲しい?」
お母さん。その一言に、胸の奥がほんの少しだけ軋んだ気がした。気のせいだろう。
「いえ。そうじゃないんですけど。……今って、何年ですか?」
「何年って……今は845年だが。それがどうかしたか?」
おじさんは怪訝そうに眉をひそめた。
845年。
――ウォール・マリア陥落の年だ。
心臓が一つ、大きく跳ねた。ってことは、もしかしたら――
「俺が気になっただけなので、気にしないでください。あと、もう一つおかしなことを聞くようですけど……ここって、シガンシナ区ですよね?」
「? 何当たり前のことを言ってるんだ坊主。ここがシガンシナ区じゃなかったらどこだってんだよ」
おじさんは呆れたように笑った。どうやら寝ぼけた子供だと思われたらしい。
ビンゴだ。
ウォール・マリアの南端、突出区シガンシナ。845年。物語の始まりの場所で、物語の始まりの年。これはもしかしなくても、あるんじゃないか。
「教えてくれてありがとうございます。あと、そのリンゴください」
革袋から一枚取り出した硬貨を渡すと、おじさんは「おいおい、釣りが多すぎるよ」と苦笑しながら、赤く熟れたリンゴを一つ、丁寧に俺の手のひらに載せてくれた。
「おう! まいどあり! また来てくれよ――」
――ドゴォン!!!
おじさんの言葉を、信じられないような爆発音が塗り潰した。
地面が揺れた。露店の木箱が崩れ、リンゴがごろごろと石畳を転がっていく。近くの窓ガラスが割れる音。馬が嗄いて後ろ足で立ち上がる。一瞬、街中の音という音が消えた。
「な、何が起きた!?」
おじさんは音の原因を確かめようと、すでに集まり始めていた人だかりの中へと駆けていってしまった。俺の手の中には、さっき買ったばかりのリンゴが一つだけ残された。
南の方角。壁の上に、もうもうと白い蒸気が立ち昇っている。
この音は、どう考えてもアレだろう。まさか今日だとは思わなかったな。845年と聞いてから、何分も経っていない。夢の展開が早いのは大歓迎だが、ちょっと飛ばしすぎじゃないか。
――いや。もしかしたら、だから俺はこの日を夢に見たのかもしれない。
そんなことを考えている間にも、人だかりの空気が変わっていく。なにを見たのか、先頭の方から悲鳴が上がった。それはあっという間に伝染し、恐怖に駆られた人々が、阮鼻叫喚となって壁と逆方向へ走り出す。
その中の一人の男が、絶望を滲ませた顔で叫んだ。
「か、壁が破壊されたー! 巨人が入ってくるぞぉぉぉぉぁ!」
その言葉で、周りの人間も今何が起こったのかを知ることになる。
だが、全員ではなかった。まだ一部始終を見ていない通行人の中には、集団で自分たちを騙そうとしているのだと考える者もいた。百年。一世紀もの間、一度も破られたことのない壁だ。信じられないのも無理はない。
「壁が壊されたって。よくも笑えない冗談を吐けるもんだよな」
酒箱に腰かけた中年の男が、鼻で笑う。叫んだ男は、その胸ぐらを掴んだ。
「冗談だと思ってるんだったらそのまま! 巨人に食われちまえばいい! 俺は見たんだよ! 壁に穴が開いているのを! そして……壁を超える、バカでかい巨人の姿を!」
男の目は血走り、唇は震えていた。それは嘘をついている人間の顔ではなかった。
恐怖は感染していく。まさか本当に壁は壊されたんじゃないか。さっきの爆発音は壁が壊された音で、シガンシナ区は――陥落するのかもしれない。
笑っていた男の顔から、ゆっくりと血の気が引いていく。一人、また一人と、一部始終を見ていない人々までもが、壁の反対側へと逃げ出していく。転んだ老人を誰かが踏みつけ、迷子になった子供が母親を呼ぶ。誰もが自分のことだけで精一杯だった。
その濁流の中で、俺はただ一人、人の波に逆らって壁の方へと歩き出した。
いやね? 俺だって現実だったら、真っ先に逃げてたと思うよ? でもここ、夢の中よ?
それに俺は、何度も言うけど継国縁壱。だったら実戦で試したくなるのも仕方がないじゃないか♤ さっきのナイフの演舞だけじゃ物足りないよ。食卓を切っただけで満足できるほど、俺は大人じゃない。
ぶつかってくる肩を、体を半身ずらすだけで身軽にかわしていく。一度も足を止めず、誰にも触れずに。自分でも笑ってしまうほど、体が軽い。
俺の気分は、最高潮に達していた。
そして――「ソレ」を見つけた。
崩れた家の向こう。立ち昇る土煙の中を、ゆらり、ゆらりと体を揺らしながら歩いてくる影があった。
家と同じくらいの背丈。人間の形をしているのに、どうしようもなく人間ではないもの。頬に貼り付いたような笑みを浮かべて、それはこちらを見下ろしていた。
巨人だ。
よし。いっちょやってみっか!
食べかけのリンゴを一口かじってから、道端の樽の上にそっと置く。終わったら食べよう。ついでに金貨の入った革袋も置いておく。俺はあの巨人を標的に定めた。
その瞬間、また奇妙なことが起きた。
巨人の中身が、透けて見えるのだ。
皮膚の下で脈打つ筋肉の繊維。体重を支えて軋む骨格。何のために動いているのかわからない、それでいて生き物としては歪に蠕く内臓。全てが、曇りガラスを拭い去った後のように鮮明に見通せた。それだけじゃない。巨人が次にどちらの足を出し、どちらの腕を伸ばすか。筋肉の緊張から、動きを起こす前にそれがわかる。
自分の心臓の音も、周りの悲鳴も、少しだけ遠くに聞こえる。世界が静かだ。
ああ、これが「透き通る世界」ってやつか。
もう誰にも負ける気がしない。いや、負けるという概念自体が、今の俺からは押し出されているような気さえした。
巨人のうなじの奥。そこだけが他とは違う、奇妙な密度で脈打っていた。縦一メートル、横十センチほどの、小さな塊。あらゆる筋肉も神経も、すべてがそこを中心に繋がっている。巨人の弱点がうなじであることも、透き通る世界で一目でわかった。
―――まぁ、知ってたけどね。
巨人は俺を見つけるや否や、ニタァっと口の端を持ち上げた。玉のようなギョロ目に、小さな俺の姿が映っている。そして、ずしん、ずしんと地面を揺らしながら、まっすぐにこちらへ歩いてくる。一歩ごとに、足もとの小石が跳ねた。
怖くはない。不思議なほどに。
俺は紐からナイフを抜き、布を振り捨てた。
巨人の右足が着地する。その瞬間に、俺は地面を蹴っていた。足の間を滑るようにすり抜け、すれ違いざまに左右のアキレス腱を斬る。
抵抗は、ない。バターを切っているのと、そう変わらない。腱の繊維が走る方向に、ただ刃を沿わせただけだ。
支えを失った巨人が、大きく体勢を崩して前のめりに倒れ込む。地響き。土煙。それでもなお、巨人は首をぐりんと回して俺に向けて手を伸ばしてきた。
あいにくと、そんなトロい動きで捕まるような体じゃない。そもそも、どこに手が来るかは、伸ばす前から全部見えている。
俺は迫る巨大な指をかいくぐり、その前腕を踏み台にして跳んだ。ロープのように太い髪の束を掴んで、一気に頭の上へとよじ登る。巨人の体からは、温泉街特有の匂いがした。
そして、無防備なうなじに向けてナイフを振り抜く。
「む?」
しかし、それでも巨人はもがいてきた。足元の巨体が暴れ、俺を振り落とそうとする。
浅いか。
まぁ、これはただのナイフだしな。刃渡りも、調査兵団が使うような大きなブレードとは比べ物にならない。うなじを削ぐには、物理的に長さが足りない。
だが、今の一斬でわかった。
うなじの奥の、あの小さな塊。その中に――人の形をした何かが、体を丸めるようにして埋まっている。
元は人間だったもの。その首の位置まで、はっきりと見える。そういえば、そういう設定だったな、と頭の片隅で思う。
次からは一撃で仕留められる。そういう確信があった。
俺はもう一度、ナイフを振り抜いた。
今度は狙いを外さない。肉の層を最小限の角度で割って、その奥にある一点だけを、刃先で正確に絶つ。
巨人の動きが、止まった。
一拍遅れて、その巨体が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。俺はその頭から軽く跳び降り、石畳の上に着地した。背後で、しゅうしゅうと白い蒸気が立ち昇り始める。
俺は透き通る世界を視ることができる。だからブレードでうなじをごっそり削り取らなくても、元人間だった奴の首を狙ってナイフで一閃すれば、それで殺せる。
実にコスパがいいね!
ナイフを一つ振って、刃についた血を飛ばす。その血も、地面に落ちる前に蒸気になって消えていった。
遠くでまた、地響きが聞こえる。一つ、二つ。いや、もっとだ。壁の穴から、次々と入ってきている。
俺は樽の上に置いておいたリンゴをひょいと拾い上げ、もう一口かじった。甘酸っぱい。夢の中なのに、やけにちゃんと味がする。
さぁ。
夢が覚めるまで、巨人どもをぶっ殺しまくろうか!