「もしもし、今どこ?」
『あっ!先輩、今ヤバいって!犬だけど犬じゃなかった!スナスナの実のパラミジアだ!』
「待て何を言ってる、あとロギアな」
お前は何を言っているんだ。
っていうか、ワンピース読んでるんだ。
置いてかれた俺は連絡して合流しようとしたのだが、なんだか取り込み中のようだった。
だって、電話越しに何か奇声が聞こえるし、ヤバそう。
『松永さん!さっきのカフェから真っすぐ行ったファミレス近くまで来て下さい!スーパーの近く!』
「あっ、はい」
『金剛さんがヤバいことになったの』
電話越しに、彼女さんの声が聞こえた。
多分、スマホを奪い取ったのだろう。
あと、ヤバそうではなくヤバい。
すぐさまマップ検索でファミレスを探す……地元にファミレス3つもあるの知らなかったな。
大した距離でもないのでマップを見ながら歩いていくと、何やら人集りが出来ていた。
「やだ、喧嘩?」
「おい、通報したほうがいいんじゃないか」
「チッ、邪魔だな。何の騒ぎだよ」
ざわざわと、人が遠巻きになんか見ているのが見える。
嫌な予感だ、具体的に見ているなんかが知り合いじゃないといいな……いや、知り合いだぁー!やべ、見覚えある後ろ姿が見えちゃった。
「あっ、先輩!」
後輩が此方を見つけたのか、いきなり野次馬である人達の方に顔を向ける。
野次馬の人達が、いっせいに振り向く。
ギョッとした顔で、同時に見られて俺はビビった。
怖いよ、お前ら全員。
「す、すいません……」
ちょっと通して下さいとか言わなくても、野次馬の人達の方から避けていく。
ドン引きされてるじゃないか、いや原因は後輩なんだけど。
普通、こういうのって人気が無いとか不思議なパワーで一般人は居ないんじゃねぇのかよ。
帳はどうした、帳は!
「大丈夫か?」
「もう元気ピンピ、おい先輩と話してんだろうが!オラァ!」
「助けて下さい松永さん、金剛さんが捕まっちゃう!」
ヤバいって逮捕されるってことかよ!
で、後輩は何してるのかというと黒い犬を抑え込みながら殴っていた。
横たわる犬に馬乗りになって、交互に殴りつけてる。
いや、犬じゃねぇな。明らかに10発ぐらい殴られてるのに血とか流してないし、なんか黒いモヤモヤ溢れてるし、犬じゃねぇわ!うわ、目、赤ッ!
「大丈夫か!」
「聞いてよ先輩、コイツ殴ってもスナスナみたいに避けんの!じゃあってことで、何か喋ってたから水ぶっ掛けてやったらキレてやんの、でもおかけで殴れるようになったけど全然効いてない!覇気とかないからかな!」
「まず、現実と漫画の区別をつけろ」
「何言ってんの?現実にモヤモヤになる犬なんて居ないよ?」
えっ、あっ、うんそうだな。
すげぇ、正論で殴ってくるじゃん。
っていうか、喋るならもう犬じゃねぇな、やっぱり怪異とかいる世界なんだ。
「お、おのれ!我ら――」
「喋んなよ、息臭ぇんだからよ!」
「オォ゛!」
「コラァー!動くなぁ!何してる!」
ヤンキーみたいに後輩がメリケンサックの付いた拳で犬の顔面を殴った。
喋ってたのに頭を道路にぶつけて痛そうである。
そんな後輩を遠くから見つけた警察らしき人達が注意していた。
通報されて、現場に来ちゃったよ!
「やめないか!命をなんだと!」
「あっ、ちょ、触んな!」
「対象を……えっ?」
それは一瞬だった。
二組で来ていた警察の人、片方が後輩を羽交い締めにして引き剥がした。
そしてそれを確認して、無線で連絡するもう片方の警察の人。
その人の、首が飛んだ。
「キャァァァ!」
「おい、ヤバいって!なんだあれ!」
「化け物だ!」
犬だ。
いや、犬というには不定形だ。
頭部らしきところからは青い液体が漏れ出しており、眼球があるべき場所から長い触手がある。
一応赤い左目があるし、右目だけ触手なんだろ。
太くて金属光沢があって、しなる鞭のようなそれには赤い血がたっぷり付着している。
足は細長い針金のようなものと、逆に土管のようなものとで、左右非対称だ。
遠目で、横に倒れていたら犬に見えたが、全然そんなことなかったぜ。
「うわぁぁぁぁ!」
「うわっ、ビックリした!?いきなり撃った……」
「グ、ゲゲゲ、ゲェ」
えっ、笑い方気持ち悪い。
じゃなくて、いきなり警察の人が銃を発砲した。
初めて撃つところを見たけど、全弾撃ち切ったのか、引き金をカチカチしていたら胸に触手を刺されて真っ二つになった。
いや、グロいって、ヤバすぎだろ。
「うぅ、オェェェ!」
「うわ、彼女さん大丈夫ですか」
「あぶねぇな!オイ、テメェ!」
急に彼女さんが口からゲロ吐きやがった。
いや、まぁ、スプラッターだからな。
俺はなんか平気だけど、何回か死んだことあるからだろうか。
っていうか刃物みたいな触手を殴って弾いてる後輩はなんなの、メリケンサック強くね?
「我は不浄なブベッ!」
「日本語喋れよ!分かんねぇよ!」
「小娘グベェ!」
後輩が圧倒的に強かった。
警察を切り裂いた触手を避けたと思ったら犬の化物の真横まで接近してインファイトを展開。
そっからずっと殴打である。
なんで物理なの、あと普通に戦えるの何なの、作品間違えてない?
多分、なんかの主人公だと思う。
馬鹿だけど、こいつバカだけど。
「無駄だ!我らはガハッ!」
「何なんだよ、全然死なねぇ!」
「待ってろ、何か調べるから!」
後輩が奮戦してくれてるおかげで数分は何とかなりそうである。
だが、後輩が倒されたら俺達は死ぬ気がする。
なので、犬について片っ端から特徴を入れて検索して、何か方法を調べるしかない。
赤い目、黒い犬、触手……ティンダロスの猟犬?
「わかったぞ!ソイツはティンダロスの猟犬だ!」
「それで!どうしたら!いいの!先輩!」
「ガッ!グオッ!キザッ!オエッ!」
後輩が片足を握って、四方八方の地面に叩きつけていた。
うーん、やってることがハルク過ぎる。
急にアメコミ世界観。
「魔法以外効かないから返り討ちになるので戦闘はおすすめできないって」
「なってないが!?」
いや、うん、それはそう。
っていうか、魔法かぁ、魔法使いとかもいるのかな。
「あれ、先輩。後ろの人誰?」
「信じられないな、無手で押さえ込んでいるのか」
「うわぁ!誰だ!」
背後から女の声がしたので振り返ると、黒いローブを着た見るからに魔法使いみたいな奴がいた。
コスプレでしか見たことないよ、そんな格好。
「邪魔だ」
「うっ……」
目が、霞んでいく。
足元の感覚が。立ってるのか座ってるのか、分からなくなる。
あれ、俺。
気付けば、俺はカフェにいた。
そう、後輩と一緒に来ていたカフェである。
俺はテーブルに突っ伏す形で寝ていた。
いやいやいや、何かされたろ。
何だったんだ、あのコスプレ女!
あれ、金剛と彼女さんは……一緒のテーブルで寝てる。
いや、店員さん気付いて起こしに来るやろ、無理があるやろがい。
「んっ……あれ、私……」
「起きたか後輩、何か覚えてるか?」
「あれ、先輩?あっ、そうだ!音信不通!」
ぎゃあ、何寝てんですかと彼女さんを揺さぶる後輩。
なんだよ音信不通って、犬の話はどうなった。
「うわぁ、また泣き始めたよ。さっきこれで泣きつかれて寝ちゃったのに」
「えぇ……どうする?」
「聞いた限り別れただけで音信不通なのは何もありませんね」
「犬の話は?」
「犬……犬って何ですか?」
「あー、わかった、大丈夫だ」
すごく自然にキョトンとした顔をされた。
聞いてる限りだと俺は後輩と恋愛相談というか愚痴を聞いていた形になっていた。
うん、つまり、黒い犬のことは記憶からないということだ。
「お客さん!」
「あっ、はい!」
「まだお会計が済んでないですよ」
「何ですか店員さん、まだ私達は会計しませんけど誰かと間違えてませんか?それより注文いいですか」
「えっ……あっ、すいません。ご注文ですか」
ケーキセットを頼む後輩を見ながら思った。
記憶を消しても、こびりついてるものもあるんだろと。
少なくとも、店員さんから俺達が食い逃げ未遂した記憶はちょっとだけ残ってそう。
てか、俺の記憶だけ消えてない!