インターホンが三三七拍子を奏でていた。
親の怪訝とする顔、ドン引きしながら俺は自宅のドアを開けた。
「あっ、先輩。おはよーございます」
「おはよう後輩。あの、朝から実家にイタズラしないで貰える?」
「してないです」
してんだよ、少なくとも人の家のインターホンを連打するな。
なんか女の子来てるわよ、これ?とか言われる俺の虚しさも考えてくれ。
「先輩、田中さん家行くぞ」
「田中……あぁ、優待券の」
「蔵の掃除するから手伝って欲しいらしい、いらない物はくれるって」
何だそれは、家に蔵があるのか。
いやでも、絶対なんかある奴だよ。
碁盤に幽霊とか取り憑いてたりさ、オカルトあるでしょ。
なので、俺は絶対に行かない。
「半日で3万くらいバイト代くれるって」
「おけ、ちょっと待ってろ。お母さん、出かけてくる!えぇ!違う、バイト!そー、ヘルプ!」
俺、馬鹿だから分かんねぇけど半日で3万は結構な稼ぎだと思う。
こうしちゃいられない、いっくぞー!
「おぉ、デケェ……これが蔵か」
田中さん家は、やはり金持ちだった。
武家屋敷みたいな感想が出そうな作り、明らかにデカい。
そんなデカい屋敷の中に庭があって、庭の中に縦長な小屋があった。
蔵である、日本酒とか作りそうな見た目してる。
「今日はありがとう。清掃は終わって後は収納するだけなんだけど、要らないものもあるからね」
「すげー、お宝鑑定団とか出したらすごそう」
「値打ち物はないと思うよ」
蔵の中には、いつの時代の本だみたいな物があった。
他にも着物とか、謎の工芸品とか、最初煩かった後輩はすぐに飽きて黙々と言われたところに物を置く人間へとなっていた。
なんか江戸時代みたいですごいな、鎧とかもあるんだ。
「あっ!先輩、これは!」
「どうし、うお!刀じゃん、あぶねぇぞ!」
見てみてー、と何やら鞘に収まった刀をブンブン振り回す後輩。
執事です、みたいな田中さんの後ろにいる何人かの大人がゴホンゴホン咳払いしてるからやめようね。
空気読もう、あと危ないからね。
「田中先輩、これ貰っていい?」
「えっと……何?あ、うん、へーそうなんだ。金剛ちゃん、なんかね未登録の刀は銃刀法違反ってのになっちゃうから鑑定しないとダメなんだって」
「ちぇー、ビビっとお宝の気配を感じたのになー」
急に興味をなくした後輩は刀を置いて作業に戻った。
そして、半日でも俺達は3万を手にしたのだった。
やったぜ。
『先輩、やべぇ!斬魄刀だった!』
後輩から深夜に電話が掛かってきた。
見てみてー、とビデオ通話である。
『ほら!蔵の刀がなんかあんの、ウケる』
猫のプリントされたパジャマである。
短パンから覗く太もも、中3にしてはデカい胸、ちょっと濡れた髪。
お前、やっぱり俺のこと好きだろ。
『あれ?もしもーし、聞こえてる?』
「あぁ、でも戻ってくるのは虚の仮面であって、斬魄刀じゃないと思う」
『マジかよ……解号とか考えてたのに』
「いや、つうか明日返しに行けよ」
こっそり田中さん家から取ってきたら盗みだからな。
また翌日、後輩から連絡が来た。
今日は電話だ、うーん。
『先輩、やっぱり斬魄刀だと思うんだよね。夢で私に話し掛けてきた』
「いや、返しにいけよ」
『返しに行ったんだけど、なんか起きたら誰かが枕元に置いてった』
「えぇ、お前それ、こないだみたいなオカルト系なんじゃないの」
呪われてる奴だ、お祓いしなさい。
寺田とかさ、寺だけどハァー!ってかめはめ波打ってくれるだろ。
翌日、今度はLINEが来た。
『なんか斬りたいとかうるせぇから糠に突っ込んだ』
えぇ……お前、何してんだよ。
刀側も困惑じゃないの?
更に翌日スタンプだけ送られてきた。
猫がブチギレてるスタンプである。
何かコイツ報告すら面倒がってんな、頼んでないけどな。
更に翌日、刀の報告が来てからの定期報告である。
また電話してきたということは何か起きたのだろう。
でも、学校あるから夜中にかけるのは辞めてほしい。
今って深夜2時なんですよ、丑三つ時ってやつ。
『なんか魚クセェし戻ってきた、先輩どうしよ』
「お前、海かなんかに捨てたのか?不法投棄だぞ」
『アヌビス神とかと同じかなって』
「お前の頭の中にはジャンプでも詰まってんのか?」
その日は神社でも持って行ってお祓いしなさいと言った。
いや、私に良い考えがあるとか言ってたのだけ気になった。
翌日、いつもと違って夕方に連絡が来た。
コイツ、不意打ちに連絡してくるとか俺に恋愛テクニック使ってないか?
『先輩、今度焼肉行きましょ!』
「待て待て、まず経緯を話せ。どうしてそうなった」
『刀、あれ、フリマに売ってきた。スマホで調べたら3万くらいになるって言ったら1万で買い取ってくれた』
「本当に待て、あれ、刀剣なんたらって登録書ないから売れないだろ」
『細かい事は気にしない方がいいよ』
細かくねぇよ、買い取る方もだけど違法取引だよ。
次の日、警察から連絡が来た。
えぇ……とか思ったら家から刀を売ろうと持ち歩いてるところを金剛は警察に見つかったらしい。
そこから親を呼ばれて、何故か一緒に蔵を掃除していた俺とか田中さんも呼ばれたらしい。
っていうか、やっぱり刀が戻ってきたのね。
「ずびばぜんでじだ……」
「はい、後はうちの顧問弁護士で、登録書はこちらに」
「すいません、すいません」
初めて警察署に入ったが、俺は裏取りのために調書とやらを書くので呼ばれたらしい。
金剛は、金持ちの田中さん家の顧問弁護士が色々やって厳重注意ですんだ。
でも、刀剣の登録書って最初なかったし、それ偽造なんじゃ……賢い俺は触れないでおいた。
「無限にお金が増えると思ったのに」
「お前反省してねぇな」
何度も戻ってくる刀なので、その度に売ろうと思ってたらしい。
足が着いて捕まるのも時間の問題な気がする。
ちなみに刀は田中さんが回収していった。
翌日、俺の部屋のベッドの上にあった。
「今度は俺かよぉぉぉ!」
明らかに呪われてんの知ってんだけど、親にも言えないしどうすんだよ。
取り敢えず直接触れたらマズそうだし軍手してからベッドの下にでも隠すか。
その日の夜。
後輩の話の通り、夢に出てきた。
『力が……欲しいか……』
「古いよ、アームズかよ」
『…………』
これ、いつ終わるんだよ。
明日も学校なんだけど。
「ねぇ、もう終わっていい?」
『力が……欲しいか……』
「もうその流れやったじゃん。最近は姿とか見せたりするのよ」
俺の一言が原因なのか、目の前に自分の顔を持った男が現れた。
いや、全裸かよ。
「目とか瞑ってたと思ったら、真っ暗な部屋だったのか。あのさぁ、最近は街中とか骨だらけの場所とか牢屋の前とか、環境にも拘ってるのよ。あと服を着れ」
『もうこれでいいか?』
「えー、そこでなんで俺の部屋なんだよ。手抜きにも程がないか、あと服を着れ」
俺の一言のせいか、俺の部屋に学生服姿になった恐らく刀の化身的なのがいた。
意外と素直だな。
「それでさ、何がしたいか教えてくれる」
『力が……』
「もういいから、今時はもっと色々話すよ。やっぱりプレゼンとかちゃんとしないと読者が離れちゃうからね」
『そういうものか』
「力って何とか、危険があるのかとか、目的は何なのとか。いや、騙し討ちで身体を奪ったりパターンとかあるけどね」
怪異がいると分かったので力は欲しいけれど、とはいえ寿命が減るとか肉体が奪われるとかはちょっと困るしな。
『俺を握れば1流の剣士になれる。危険は精神崩壊する場合がある。目的は使って貰えたらどうでもいい』
「使って欲しいって、まぁ、刀的にはそうなのか?」
『俺は飾りじゃない』
うーん、まぁ、本人?本刀?的には斬るために作られたのに飾られたくない的な感じなのかな。
「いやでも、精神崩壊はマズイよ。それ使いたくないでしょ」
『ならない奴もいる』
「もっと安全性とか考えなきゃ、原因とかさ……」
『安全性……』
「あと、キャラが暗いよね。もっと喋ったほうが良いよ」
『注文が多い、最近の若者面倒くさい』
おい、金剛と俺のこと一括りにしただろ。
あれは特殊な馬鹿だから一緒にするな。
『もういい』
「えっ?」
瞬間、俺はどこかの誰かになって人や化物を斬って斬られて、斬って斬られて、斬って斬って斬られて斬られた。
斬った感触も斬られた感触もある。
常に戦ってる場面を追体験させられて、自分が自分じゃない感覚を味わう。
そして、俺はどこかの夜道にいた。
「えっ……あれ……」
『ここまでか』
どこかの夜道で、俺は身体中が痛かった。
身体は動かず、気持ち悪い濡れた感覚と火傷したときのようなジクジクとした痛みがある。
鈍い痛みだ、寒さもある。
「妖刀・魂喰い、ここまでです」
「あぁ……」
自分の身体のことがようやく分かった。
そうだ、さっき、俺は目の前の人物に斬られたんだったと思い出した。
俺は身体でも乗っ取られたんだろう、多分だけど。
「ごめんなさい……」
「いや……ありがとう……」
止めてくれたのは、雨合羽を着て日本刀を持ってる女の子だった。
「浅井さん……ありがとう」
というか、クラスメイトで隣の席の浅井さんだった。
あっ、やべ……多分、死ぬ。