4回目は赤ん坊ではなかった。
俺は自室のベッドで刀を持っていた。
「あれ……俺、死んだよな?」
『どういうことだ……』
困惑する声が、刀から聞こえた。
いや、ちょっと待て。
お前、もしかして記憶があるのか?
「お前、覚えてんのか?」
『あの女はどこに行った?』
「おい、聞いて……」
また、あの感覚がやってくる。
1回目には訳も分からなくて、気付いたら意識が飛んでたが、2回目は流石に耐性が出来ている。
いや、正確には意識は飛んでいたのではなく、混ざったとでも言えばいいか。
最初に見えたのは、此方を値踏みする男の顔だ。
そして、次はどこかの侍に渡された時の記憶。
その侍が人を斬ったり、斬られたり、そして、誰かに拾われる記憶。
人間の数年、あるいは数十年の記憶、俺は何か見たことあるなと、今度はスルー出来た。
1回目はこの時点で頭が可笑しくなって、意識が混濁みたいな感じになってたけど。
今は一度見た映画を見返して、そうだったなみたいな感覚だ。
「やめんか、頭パーになるわ」
『解せぬ』
いつまでも見せられると思ったので、刀に向かって拳を叩きつける。
側面にコツンと、それだけで誰かの記憶が流れてくるのを、強制的に見せられて体験させられるのが終わる。
「お前、よくも人のこと廃人にして死にやがったな」
『耐えれるようになったのか?』
「いや、会話してくれよ」
うろ憶えだが、コイツは動かなくなった俺の身体を操って外に出てたのだ。
でもって浅井さんと斬り合いまでしてやがる。
待って、俺のクラスメイトが侍ガールで何か斬り合ってる記憶出てきたんだけど。
「えぇ……何この記憶。クラスメイトに斬り殺されてんだけど」
『お前は死んだはず』
記憶が流れてくる。
いきなり目の前が自室から夜道に変わって、俺は横たわって浅井さんを見ている。
死んだ時の記憶だ、いやだから辞めろと言ってるのに。
『妖刀・魂喰い、ここまでです』
そう言って、刀を拾い上げる浅井さん。
死んでる俺が見えた。
うわぁ、我ながらグロすぎ……これはコイツ視点か。
『な、何……何が起きて……』
『ここが死んだ瞬間か』
『ッ、誰!?』
浅井さん……の持ってる刀視点で、俺の死体の側に怪しい人物がいた。
いや、雨合羽着て刀を持ってる浅井さんも怪しいんだけど、そんな彼女の目の前にいる相手も怪しい。
どっからどう見ても宇宙服みたいなのを着てるのだ。
どこに売ってるんだよ、それ。
『やはり特別なのか?』
『答えなさい!』
『さぁ、やり直しだ』
瞬間、刀の見せる記憶が真っ暗になる。
そして、暫くのうちに俺の自室で刀を握ってる俺の間抜けな顔をみている記憶になった。
何だコイツ、ボーッとして間抜けだろ、俺である。
「じ、時間系能力者だ!この世界はSFだった!時間が巻き戻ってる!」
あの、宇宙服の奴がなんかしたに決まってる。
いや、待て!タイムストーンを持って時を遡ったのかもしれない。
つまり、SFではなくマーベルみたいなアメコミ世界観なのでは?
いかん、マルチバースが発生してしまう。
っていうか、じゃあ、宇宙服は魔法使いってこと?
『時間が……ならば再戦を』
「しないからね、っていうか知り合いなんだろうか。特別扱いされてたし」
『むぅ……』
「だから!誰かの記憶を追体験させるのやめろ!」
『な、なぜ耐えられる……無念……』
何だっけ、妖刀・魂食いでしたっけ?
やってることは、膨大な情報で持ってる人間の頭をパァン!してるだけ。
ネラーのDDoS攻撃と一緒やんけ。
そんで、パァンした人間の身体を奪ってるという。
魂関係ねぇ、むしろ物理過ぎる。
「でも放っといても誰かの元に行くんだろうな、後輩から俺に来たし」
『……俺は彼奴のことが嫌いだ』
「なんか知ってそうだし、浅井さんに相談しようかな。そしたら、お前の望む再戦も出来るかもだぞ」
『それなら興味深い』
まぁ、再戦なんて絶対しないけどね。
何らかの方法で封印とか多分できると思うんだよね、なんか回収しに来てたしね。
それにしても、強くなれる方法が歴代の所有者の一生を追体験させるってことかよ。
そりゃ、ずっと斬り合ってる記憶を体験されたら、戦闘技術は身につくかもしれないけど、何度も死ぬ体験をするからトラウマになるって。
あぁ、だからある意味転生してる俺は耐性があるんだな。
だって記憶を引き継いだ結果、精神崩壊したら引き継いで転生したと言えないじゃんってなるもんな。
リスキルみたいなもんだしな。
死に戻りのチート貰っても赤ん坊の時点で死のループ始まったら積むみたいなもんだ。
「しかも連絡先交換できるかもしれねぇ!」
『俺を理由に女を口説くな』
「口説いてないが!?」
翌日、俺は家にあったタオルを巻きまくってゴミ袋に入れて学校に持っていくことにした。
俺は後輩みたいにそのまま持ち歩いて警察に見つかるようなヘマはしない。
「お前……あっ、いや、おはよう」
「おはよう寺田、なんだよ」
「いや、事故には気を付けろよ。なんか危なそうだぞ」
「マジやめろ、寺生まれのお前が言うと怖い」
朝、通学路で出会った寺田が開幕一番で不穏なことを言ってきた。
しかも、梅干しでも食べたかのような顔で俺のことを見た。
何だよ、何で変顔してんだよ、霊感とかないじゃないのか?
タダでさえ、訳わからん物がある世界なので不安である。
「なぁ」
「何だよ」
「なんでゴミ袋持ってんの、その筒みたいなのなんだよ」
「実は模造刀が入ってるんだが、誤解されたらマズいからタオルで包んだ」
なるほどね、と納得する寺田。
そうだよね、不振だよね。
ふぅ、誤魔化せてよかったぜ。
教室に入って、おはようと挨拶する。
挨拶したのは浅井さんだ。
浅井さんが実は侍で刀を振り回していることを俺は知っている。
「松永くん……貴方……」
「浅井さんって歴女じゃん、刀の鑑定とか出来る?」
「刀の鑑定……そう、やっぱりそれ」
俺の持ち物を見て浅井さんから鋭い視線が向けられる。
やはり気付いたか、一体何を言われるのか。
「刃物の運搬は銃刀法に抵触する恐れがあるわよ」
「すんごい、まともなこと言われた」
「あと、鑑定とかは専門家に任せたほうが良いと思う」
「あぁ、うん、まぁ、これ模造刀なんだけどね」
とはいえ、忠告されたのでタオルに包んだままにしておく。
昼休みとかに持っててくれないかな、それとなく置いとくか。
なお、放課後になっても持っててくれなかった。
「俺の何がいけなかったのか……」
『来たぞ』
帰り道、どうやってこの妖刀とやらを渡そうか考えながら帰っていた。
うーむ、お前の秘密を知っているとか?
不審すぎるな、それはそれで。
『私、綺麗?』
「でも浅井さんが刀関係の人ではあると思うんだよな」
『ねぇ、私、綺麗?』
『おい、呼んでるぞ』
呼んでるって?
うわ!?ビックリした、真横に人がいるんだけど。
えっ、こないだまで夏なのになんでコート着てるの?
不審者だ!女の不審者だ!
マスクにサングラス、怪しすぎる!
「だ、誰だ!」
『私……綺麗?』
「えぇ、質問に答えてくれない!」
絶対ヤバい人だ。
綺麗とか言った日には水とか売られるんだ。
逃げな、逃げ、に……コイツ、さっきから横を通り過ぎようとすると先回りしてくるぞ。
カバディじゃねぇんだぞ、なんだお前ディフェンダーか?
『私……』
「今だ!」
『ッ!?フゥーフゥー!』
「クソ、無理か」
『ねぇ!私!』
「これならどうだ!」
『きっ、きれ、キェェェ!』
「うわ、気持ち悪っ!」
何回かフェイントを掛け合ってたら目の前で発狂して来た。
やっぱりヤバい人だ!
『もうよい!斬れ!』
『綺麗?これでもぉぉぉ!』
目の前の不審者がマスクを外したら、両頬に大きな傷があった。
というか、口が耳まで裂けている。
「うわぁぁぁ!ジョーカーだー!」
『キェェェェ!』
女はいつの間にか小刀を両手に持って、まっすぐと頭上に振り上げていた。
こ、これは!猿のような奇声、両手で高く上げる構え、多分示現流って奴だ!
「うわぁぁぁ!」
俺は振り下ろされる小刀に向かって、鞘ごと日本刀を振り抜いた。
無意識に、反射的に、放たれたそれは狙いすましたかのように、不審者の手から小刀を弾き飛ばした。
仰け反る不審者、俺の身体は自然と振り抜いた体勢から左手に鞘を、右手に柄を握り、右から左に振り切った状態から、抜刀する。
右足が前に出た。
鞘が軽く傾けられ、腰、背中、肩が左から右へと捻りを加えられる。
鞘を走り、刀身が滑るように飛び出し、左下から右上に軌道を描き、不審者の腹部から胸の中心、そして右肩を通過する。
居合斬り、そう呼ばれる動きで斜めに大きく斬り払った。
『ぐぎゃぁぁぁ』
「……えっ、うわぁ!?」
『来るぞ!』
ボーッとしていた俺は、女の悲鳴で自分が相手を斬っていた事に気付いた。
だが、慌てる間もなく覆い被さろうとするかのように突進する女を前にして、またしても無意識に身体が動く。
後ろに飛び、今まさに捕まえようと前のめりになった女の頭へと上から下に両手で握った刀を振り下ろした。
さしたる抵抗も無く、スッと刃は頭部を通過する。
頭蓋骨などまるでないかのように、肉と骨を両断する。
『ぐげぇ……』
「…………ハッ!?」
倒れた不審者は、頭部が左右に裂けていた。
頭がYの字に、首で繋がってるけどなってしまった。
足元はペンキをぶち撒けたかのように真っ赤だし、俺の身体も返り血だらけだった。
『見事なり』
「いやいやいや、しっかり斬ってるのに清々しい気分な自分が怖い」
普通の人はもっと動揺するはずなのに、謎の達成感を感じてる自分が怖い。
っていうか、襲われたからと言って人を斬ってしまった。
このままじゃ、警察に捕まる。
警察も斬らなきゃいけない。
「いやいや、そこは逃げろよ。ミーム汚染されてんだろ、俺の思考」
「あっ、先輩じゃん!何してんの」
声が聞こえた。
慌てて、その声の方向に顔を向けると後輩の金剛がアイス食いながら此方を見ていた。
まずい、死体と刀と血塗れの俺、これは通報される。
「あー!私の刀!」
『違う、違う……』
「待ってくれ!一旦、話を聞いてくれ!俺は襲われたんだ」
「襲われた?」
あぁ、そうだ。
この死体は……あれ、死体がない。
「どういうこと?」
「えっ、今、確かに私綺麗って聞いてくる女がいたはず」
「マジかよ!口裂け女じゃん」
「えっ、あっ、口は裂けてたか」
「本物だ!どんなだった?」
「示現流の使い手で猿叫してた」
「じげ……何それ、なんて?」
あれ、口裂け女だったのか!
良かった、人殺しにならなくてな。