世界を破滅に追い込むラスボス魔女に木っ端微塵にされるモブに転生したのでとりあえず生き抜く為の最善を尽くします。 作:ヒオキ
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「どうして優しくしてくれるの?」
何度目の問いだろうか。
彼女は俺が何かをするたびに同じことを尋ねる。
ーー当たり前だから。
「これが当たり前なの?」
彼女は横たわる俺に触れる。
純白の包帯は赤黒く汚れている。
鋭い痛みが走った。傷が存在を主張するように熱を持つ。
「こんなに傷付いて、痛がってつらくなるのが当たり前?」
満月のような黄金色の瞳が揺れる。
不安、憂い、後悔、自己嫌悪。その瞳に込められているのは押し並べて哀しみだった。
「ねぇ、なんで逃げなかったの?」
逃げたら俺は確実に助かった。しかし、そんな事をする発想なんて無かった。
「…私のため?」
俺は肯定も否定もせずに彼女の瞳を見る。
「わからない。私よくわからないよ」
かぶりを振り彼女は声を震わせる。
何が分からないのだろう。
「私そんな事をしてもらえる子じゃない。貴方が命を投げ打ってでも生かすものを持ってない」
満月の瞳は縋るように俺を見つめる。彼女は何を言って欲しいのだろうか。
お前なんか助けたなければよかった。
生きてる価値なんてない。
死んでしまえ。
彼女を否定して拒絶する言葉なんてなんとでも言えてしまう。
しかし、そんな言葉に意味があるとは思えない。
「私には助けられる価値なんてない」
ーー価値がなければ助けてはいけないのか。
ーー純粋に助けたいと思うのはダメなのか。
「昔話の魔女と同じ」
魔女
この世界には魔女がいた。
そして、いづれ魔女が生まれる。
この子は魔女になってしまうかもしれない。
「不幸にして苦しめてみんなを悲しませる。きっと私は魔女なんだよ」
そんな事はとっとくのとうに知っていた。だから俺は君といる。
「ずっとあそこにいれば良かった」
自己を否定する人を見るのはなんて苦しいのだ。
瞳から大粒の涙が流れる。
俺はその涙の止め方を知らない。
ただ、こぼれ落ちる涙に触れたくて彼女の目元を優しく拭う。
「あ、だめ! 動いちゃ!」
どくどくと傷が脈打つ。
包帯には白い箇所の方が少ない。せっかくこの子が巻いてくれたのに申し訳ない事をしてしまった。
本当に自分勝手な人間だと思う。
「ただのわがままなんだよ」
声が掠れる。少女の口から浅い息が漏れる。
「別に俺が優しいから優しくしたんじゃない」
地下牢から連れ出したのは結局自分の命を救うため。
名前を与えたのは呼びかける時に便利と思ったため。
飯を与えたのは痩せ細った体を見て不快と思ったため。
おんぶをしたのは早く目的地に着きたいと思ったため。
体を打ちのめされてでも一人で盗賊団と戦ったのは…。
「多分、人を殺してもらいたく無かったんだ。お前の人生の中に命を奪うって言うものを入れたくなかった」
少女の涙が俺の指を流れる。悲しみをなかったことにしたいんじゃない。俺はただこの子の悲しみを理解したい。寄り添いたい。
モニターの向こうで誰にも理解されずに嘆いて、世界に悪意を振りまいた孤独な少女を俺だけは見ていたかった。
こんなのは優しさでも思いやりでもなく、醜いエゴだ。
「魔女なんかじゃない。誰かのために涙を流す子供が魔女なわけあるかよ」
周りが、国が、世界が、運命が、彼女を魔女に仕立て上げて更なる絶望に落とし込もうとするならば俺は全力でそれを否定してやらないといけない。
それが異分子である俺の使命だ。
「…私、魔女じゃない? 悪い子じゃない?」
「お前はただの女の子だよ。だから、ごめんな。人を殺させてしまって」
俺はそう言いながら少女を抱きしめた。少女が一瞬体をこわばらせたが、すぐに力が抜ける。
「ほんとうにゆめみたい…」
少女は温もりを少しでも留めるかのように俺の背中に手をまわした。俺の血で汚れるにもかかわらずに少女は赤子のように俺の胸に額を当てて涙を流していた。
少女と初めて会ってちょうど一日が経とうとしていた。