ニチアサヒロインのような世界で頑張る異世界帰りの賢者くん~破滅回避のために異世界に戻りたい~   作:岳鳥翁

35 / 35
閑話

「やあ、確か……ケント、だったかな?」

 

「そういうお前は……ああ、お前が噂の勇者様かよ」

 

 王城内の書庫で魔法についての基礎を学んでいると、そこにいたのは噂の勇者様。

 確か名前は……フィン? とかだった気がする。

 

「何の用だ。僕は今忙しいんだよ」

 

「そう邪険にしないでくれ。今後は一緒に戦うことになる仲間なんだから」

 

 無視して視線を本に戻すが、それでも勇者様はこちらの言葉に取り合わず隣の席へと座った。

 

「……席なら、ほかにも空いてるだろ。わざわざそこに座るんじゃない」

 

「君と話したいのに、ほかの席に座っては元も子もないだろう?」

 

 睨みつけてはみたものの、屈託のない笑顔でそう言われてしまっては何も言い返せない。

 こういう奴は苦手だ。阿久道(あくどう)のように僕のことをいじめてくる奴やそれを見て見ぬふりをするやつらは今まで嫌なほど見てきた。

 だがこんな、物語の主人公みたいなやつは見たことがない。

 

 だからこそ……こんな奴だからこそ、憎めないのだ。

 

「……チッ、何の話がしたいんだ」

 

「お、素直になってくれたんだね。うれしいよ」

 

「そうじゃない。このままそこに居座られても、僕が迷惑なんだ。本人が退く気がないのなら、とっとと用事を済ませたほうがいいんだよ」

 

 文句を言いながら横目で勇者様を見てみれば、彼はやれやれといった様子で苦笑して見せた。

 

「まあいいさ。どうせこれから君とは長くなる。ゆっくりと仲良くさせてもらうことにするよ。それで、聞きたいことなんだけど……君は異世界から召喚されてこの世界に来たんだろ?」

 

「だったらどうした」

 

「ぜひ向こうの世界の話を聞かせてほしいんだ! どんなところだったんだい? 食べ物とか生き物とか! 君が見てきた世界を教えてほしいんだ!」

 

 やや興奮気味に捲し立てる勇者様。

 どうやら、異世界から来た僕に向こうの世界のことを教えてほしいようだった。

 

 向こうの世界。そういわれて僕が思い出すのは、どれもこれもが嫌なものばかりだ。あんな糞みたいな日々、思い出したくもない。

 

「文明レベルで言えば、確かにこの世界よりは優れているよ。魔法はないけど、空飛ぶ金属の塊に、大人数を乗せて高速で走れる機械。挙げればきりがないだろうさ」

 

「お……おお! そんなものがあるんだね!」

 

「だがな、勇者様よ。そんな世界でも人は……人間は変わらない。むしろ、この世界よりも糞みたいな悪人が多いかもしれないぞ?」

 

 なぁ勇者様よ。そんな世界に、憧れなんて持てるか?

 

 僕の言葉で勇者様が押し黙ったことに満足しつつ、勉強を切り上げて席を立った。もうすぐ宮廷魔法使いによる魔法の講義があるのだ。

 

「だいたい、お前のせいで僕は勇者になれなかったんだ。好ましく思われていないことくらい察せないのか、あの勇者様は」

 

 勇者として異世界召喚されたのに、その勇者になるための資格である聖剣はどこの誰とも知れない平民が抜いてしまった。

 そして何の因果か、僕には勇者の才能はなく賢者の才能があったため、こうして賢者としての修行中。

 

 これは後で教育係兼師匠となった宮廷魔法使いに聞いた話ではあるが、あの勇者様が聖剣を抜いてしまったから、勇者として召喚されたにも関わらず僕には勇者の才能がなかった可能性があるのだとか。

 

「あいつさえいなければ、きっと僕が……」

 

 向こうであんな扱いを受けてきたんだ。この世界でくらい、いいことがあってもいいはずだ。

 それを、あんな奴に……奴に……

 

「……はぁ、やめよう」

 

 そう恨めたのならどれほどよかったか。

 王城に連れてこられたあの勇者様は、意外なほどに好青年で……そして才能にも愛されていた。

 この世界の平民というのはそこまでまだ教育が進んでいないらしいのだが、あの勇者様は物覚えもよく、礼儀も剣技もすべて容易く習得してしまったのだ。

 まさに神に愛された、という言葉が似あう男だった。

 

 そしてなにより、自身よりも他人を優先するお人よしでもあった。

 

 嫌いになろうとはした。けど、やっぱりそんないいやつを心の底から嫌いにはなれなかった。

 

「……あんな奴が、一人でもいてくれたら」

 

 僕の人生は、もっと違ってモノになっていたのだろうか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~(作者:岳鳥翁)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

「えぇ……ここ、凌辱系エロゲの世界かよぉ……」▼嘘だどんどこどーん、の邂逅まであとゼロ秒である。


総合評価:13662/評価:8.42/連載:21話/更新日時:2026年10月21日(水) 18:05 小説情報

勇者がいろいろ嫌になって田舎に引っ込むおはなし(作者:試行錯誤)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

▼人類の敵は多かった。▼龍であり、巨人であり、霊体であり、悪魔であり、狂獣であり、海物であり、凶蟲である。▼それら超存在達を相手に、人類の安定と生存権を勝ち取った若き勇者。▼そんな勇者が擦りきれて、第一線から引いたお話。▼


総合評価:1266/評価:8.79/連載:6話/更新日時:2026年10月30日(金) 01:38 小説情報

【2章完結】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる(作者:maki@)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼【 ――いいから黙って変身しろ! 俺の考えた最高のヒーローを見せてやる! ―― 】▼若い女性だけがその生命を燃やして戦う世界。▼『魔障対策局』の雑用係・神代蓮は、戦う力を持たない無力な男として、非日常を虚構に貶める日陰の仕事を淡々とこなしていた。▼だが、彼には誰にも言えない秘密があった。▼その脳内に人類の敵、【魔障】を飼っているということ。▼『戦う力』が欲…


総合評価:5418/評価:8.88/連載:25話/更新日時:2026年09月24日(木) 20:00 小説情報

幻想交じりの現代社会をTRPGの能力で生き抜いていく(作者:一般通過きなこ餅)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

第二次世界大戦直後、そんなただでさえ世界中混乱していた時に発生した『異世界流入現象』。▼それによって各地で幻想でしかなかった異種族、そしてダンジョンが出現し……。▼また、様々な特殊能力であり後に『才能』と呼称される力が人々に発現した。▼そんなえらいこっちゃの大混乱から大きく時は流れ、時代は2020年代を迎えた日本のとある地方都市。▼そこで生きる一人の少年は才…


総合評価:3547/評価:8.41/連載:20話/更新日時:2026年11月04日(水) 07:00 小説情報

魔法少女の敵役、命欲しさにドノツラフレンズになる。(作者:ドノツラフレンズ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

魔法少女の敵役俺「(死にたくねぇなあ……せや!何食わぬ顔で味方面してやろ)ハッハッハ!!しょうがないから仲間になってやる!」▼魔法少女「えっ!?貴方って最初から味方じゃなかったんですか!?」▼俺「えっ?」▼魔法少女「えっ?」▼だいたいこんな感じのお話。


総合評価:6077/評価:8.33/連載:6話/更新日時:2026年08月15日(土) 21:41 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>