第二話 契約?だが断る!
「ねぇ知ってる?まどかさんの噂!」
屋上から戻り昼休み、1人昼食を食べていた暁美ほむらの耳に隣の生徒達の会話が聞こえてくる。
「知ってる知ってる!あの噂だよね!」
「あの噂ってどの噂よ…いっぱいあるんだから」
(いっぱいあるのね…)
この女、何百何千と時間遡行をしてきた暁美ほむらにとって、世界の多少の変化は許容範囲内だった。
そのため今回も動じるはずがなかった。
(いったいどうなっているの!)
はずだった。
元々のまどかは内気ながらも人当たりの良い女の子だったはず。
しかし今回は髪型や口調どころか、さらには性格も変わっている。
(どうして今回だけ…)
そう頭の中で思考しながらも、隣の会話に耳を傾け続ける。
「例えば…確か全てのスポーツの県内記録を何度も更新したとか…」
「学園始まって以来の秀才とか…」
「一年生の頃の文化祭のミスコンで飛び入り参加で優勝したり…」
会話が続くにつれ、生徒達は頬を赤く染めながら。
「「「憧れちゃうよね〜」」」
(…どうしてこうなっているの⁉︎)
大きなデパートのファストフード席。
そこで、まどかとさやか、仁美の三人は食事を摂っていた。
「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さん……!」
「くーっ!どこまでキャラ立てすれば気が済むんだぁーあの転校生は!?萌えかー!?そこが萌えなのか、ぐっ」
さやかは言うだけ言って机に突っ伏した。外から見ればオーバーリアクションに映るのかもしれない。が、いつものことである。
仁美は落ち着いて話を聞こうとしていた。
「まどかさん、本当に暁美さんとは初対面ですの?」
「さぁね、どっかで会った記憶はないけど」
「もしかしてまどかのファンとかぁ〜?」
顔面をべたっと机についていたさやかがからかってくる。
しかしまどかはどうでもよさそうにしながらアイスコーヒーを混ぜている。
「…あっ、そういや…」
「え!もしかして心当たり?」
まどかは朧がながらも朝の事を話す。
「心当たりってほどじゃないが…夢の中で会ったような気がする」
ズーッとアイスコーヒーをストローで吸うまどかに、二人は笑う。
「まどか、これ以上キャラが立ち始めたらファンが狂っちまう」
「あのな、私にファンなんていないっての」
因みにまどかのファンクラブは出来ている。
「あーもう決まりだ、前世の因果だわ。あんた達、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわっ!」
さやかはいつものように調子のいいことを言ってくる。
すると仁美から質問が飛んでき、
「夢って、どんな夢でしたの?」
「あんま思い出せないが…でも確か不思議な夢だった気がするな」
「もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ」
「まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません」
「でも直接いろいろ宣言するってさ、仲良くなかったんじゃない?喧嘩別れとか」
「うふふ、それはそうね……」
しかしまどかはそんな話興味ないとばかりに空っぽのコップをストローで吸っている。
さやか達が呆れながらいると、仁美が携帯を確認し、帰る支度を始めた。
「ごめんなさい、お先に失礼しますわ」
「今日はピアノ?日本舞踊?」
「お茶のお稽古ですの。もうすぐ受験だっていうのに……いつまで続けさせられるのか」
「うわぁ~、小市民に生まれてよかったわぁ」
仁美がトレーを片付けるのに合わせ、さやかとまどかも動き出す。
そこで、さやかがそっと近づいてまどかに耳打ちした。
「まどか、帰りにCD屋に寄ってもいい?」
「ん?上条のか?いいぞ、暇だし」
まどかが少しいたずらっぽく尋ねると、さやかは照れたように笑った。
「えへへ、まぁね~」
CDショップに着いた私は、目についたヘッドホンを装着し、名前も知らない曲を聴いていた。
「助けて……!」
その声が聞こえるまでは。
私はすぐにヘッドホンを外し、周りを見渡す。しかし誰も私を呼んだ気配はない。
不思議に思うも、ふたたびヘッドフォンを着ける。
「助けて、まどか……!」
ふたたび声が聞こえる。幻聴ではないようだ。
知っている声ではない。しかし向こうは私の名前を知っている。
「怪しいが…無視は出来なさそうだな」
無視しようにもさっきからうるさいほど声が頭に響く。
とりあえず、急いで声の元へと向かう。
声の元へと進むと、店舗改装の知らせが立っている扉の前に立つ。
「……行くか」
私は扉を開ける。
進んでいると改装中の張り紙や工事での板材や鉄柱など、色々なものが散乱している。
すると突然ゴツッと音がし、天板が剥がれ落ち、何かが落ちてきた。
白猫のような生き物がぼろぼろになりながら苦しそうに全身を上下させ呼吸する。
とりあえず全身が傷だらけの為、白猫を持ち上げる。
「助け、て……」
「うわ喋った…」
すると天板が剥がれた場所から、じゃらりと鎖が落ちてくる。
それと同時に、黒髪の女がまどかの目の前に現れる。
「アンタは…」
「そいつから離れて」
有無を言わさない態度で、女…暁美ほむらが私に要求する。
「悪いがアンタに動物虐待の趣味があるとは、関心出来ないな」
「あなたには関係ない」
私の軽口にも反応せず、暁美ほむらは静かに近づいてくる。
やはり制服とは違う奇特な服装が目に入る。
「それにコイツは私の名前を呼んでいた。何故私の名前を知っているのかはともかく、ボロボロのやつをほっとくほど私は薄情じゃない」
「そう」
ふたたび冷たい目が私を見下ろす。
その視線に腹が立った私は、すぐにその目を睨む。
しかし、どこからか白い煙に視界を遮られる。
煙の原因の方向を向けば、そこにはよく知っている私の顔見知りがそこにいた。
「まどか、こっち!」
「ナイスタイミングださやか!」
中身が無くなった消化器を投げ捨てると、すぐさま私達はこの場を離れる。
さやかとまどかは走りながら怒気を孕んだ声で、さやかは言葉を吐く。
「何よあいつ!今度はコスプレで通り魔かよ!」
そしてまどかの方を振り向いて言う。
「──つかナニソレ、ぬいぐるみじゃないよね。生き物!?」
「知らん。でも取り敢えず事情はコイツから聞く。今はここから離れるぞ」
この感覚はマズイ。そう考えている間に、気味の悪い風景に取り込まれる。
さやかが焦ったように言う。
「あれ、非常口は?どこよここ!」
「まずい、どんどん道が変わっていく……!」
「あぁ、もうっ!どうなってんのさ!」
すると異様な気配を感じ、私すぐさま振り向く。
するとそこにはおかしなものがいた。わたにひげが生え、足がある何か。
それも、数えきれないほどにたくさん。
さやかは私に肩を寄せ怯える。
「冗談だよね……あたし、悪い夢でも見てるんだよねっ?ねぇ、まどかぁ!!」
「悪いが現実逃避をできるほど、余裕じゃなさそうだぞ」
黒く渦巻く目が、綿毛を醜く変える。切られて出来た紙のような唇も髭も、不規則に其の綿毛の上を蠢きまわる。
じゃらじゃらじゃらじゃら、と長い鎖が円を描くように地面に落ちてくる。
さやかを背に私は奇妙な怪物を睨み続ける。
しかしそれを吹き飛ばすように光が満ちる。すると綿毛は全て消えていた。
少しの安堵が生まれるが、警戒心は落ち着かない。
「あっ、あれ……!」
「これは……」
「危なかったわね。でももう大丈夫」
二人が振り返ると、そこには金髪の女がいた。
服装は同じ見滝原中学の制服だ。
お淑やかな雰囲気を持つ女は、私の持つ生き物に目線をやった。
「あら、キュゥべえを助けてくれたのね。ありがとう、その子は私の大切な友達なの」
「そうかい、ほら、なら返すよ」
そう言って、白い生き物……キュゥべえを金髪女に投げ渡す。
金髪女は不満そうにしながら、私達を見つめる。
「その制服、貴方たちも見滝原の生徒みたいね。二年生?」
「あ、あなたは……」
異常な状況もあり、動揺しているさやかが金髪女に聞く。
「そうそう。自己紹介しないとね」
「でも、その前に!」
じゃきんじゃきんと鋏が鳴った。
女のハイヒールが円を描き、描いた場所から光が差していく。装飾付きの宝石を軽く放り投げてステップを踏み、体の前で両手を重ね、宝石をかざす。
「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら!」
するとそこからリボンがあふれ出したかと思うと、光が女に纏われゆく。少女の服は可愛いながらもどこかファンタジー感ある服装へと変わっていくと、上空へと飛び上がり、少女は手を広げる。
するとそこには視界を埋め尽くさんばかりの、マスケット銃が浮かび上がる。
引き金を引いたマスケット銃から雨のような弾丸が、綿毛の群体に向かって降り注ぐ。
食らった綿毛は爆破と共に消え去っていく。
金髪女の近くに終わったかのようにひらと蝶が舞い上がり、女は華麗に着地していく。
異様な光景が嘘のように消えていくと共に、私達の前にまたも見知った女が現れる。
「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回は貴方に譲ってあげる」
「私が用があるのは……」
ほむらの視線が私に向く。
「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの。」
暁美ほむらは何も言わない。少し経って、金髪女が話しだす。
「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
ほむらは足を後ろに向け、後ろを向いて資材の奥へと消えていった。
ブルーシートを敷き、金髪女はキュゥべえに光を当てる。
白い生き物は目を覚ます。
「ありがとうマミ!助かったよ!」
「お礼はこの子達に。私は、通りかかっただけだから……」
「どうもありがとう!ボクの名前はキュゥべえ!」
「…お前が私を呼びやがったのか?」
その質問に否定することなく、目の前の生き物は喋る。
「そうだよ、鹿目まどか。それと、美樹さやか!」
「んな、なんであたし達の名前を?」
「僕はね、君たちにお願いがあって来たんだよ」
現実味のないままそれを聞いていると、キュゥべえは私達にお願いがあ
るという言葉に、さやかは少し身構えまる。
「お、お願い……?」
そう言うと目の前の生き物…キュウべえは瞳を閉じて、笑いながらこう言う。
「ボクと契約して、魔法少女になってほしいんだ!」
「え、嫌だけど」