「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ!」
「え、嫌だけど」
第三話 奇跡だの魔法だのありもしないことを語るな
「私は巴マミ。あなたたちと同じ、見滝原中の三年生」
あっさりと女は名乗った。
金髪女…巴マミは光に包まれ、魔法少女の服から、見滝原の制服に戻っていた。
「そして、キュゥべえと契約した魔法少女でもあるの」
眩い朝日が私の目を刺激する。寝ぼけているようだ。
また変な夢だと私は寝ぼけながら目を擦る。
ふとベッド横の本棚に目を向ける。
そこには、どこか見覚えのある白い生き物がいた。
「おはよう、まどか」
ふたたび目を擦りそれを見る。
…変な夢では済まなかったらしい。
小気味良い歯ブラシの音が重なる。
「まどかぁ、ゆうべは帰りが遅かったんだって?」
眠そうな声でまどかの母さんが尋ねる。水道水を口に含んだ。
「先輩の家に呼ばれてね」
うがいをすると、口から水を捨てて言う。
「ま、門限とかうるさいことは言わないけどさ……晩飯の前には一報入れなよ」
「分かってるって」
ふと後ろを振り返り、もう一度見る。
そこにはプラスチック製の風呂桶に浸かったキュウべえが居心地良さそうにくつろいでいる。
(人には見えないんだな…)
そうしてふと昨日の事を思い出す。
「…さっきから魔法少女だの契約だの、営業ならさっさと帰るぞ」
そう目の前の白猫に文句をぶつける。
「そうね……あなた達もキュゥべえに選ばれたみたいだし、説明する必要がありそうかしら」
そう言い金髪女の身体が一瞬光り……魔法少女の服から、制服に戻っていた。
「悪いが正直この現状がまだ理解出来てないんだ。家にも帰らないと行けないんだ、だからその話はまた今度…
「もしよかったら、私の家に来ない? お茶くらいはご馳走するわよ」
「ありがたく行かせてもらいます」
貰える物は病気以外は貰っとかないと。
そんなこんなで、金髪女…巴マミというらしい女の家に着いて行く。
…別に食べ物に連られたわけじゃないぞ。本当だからな!
因みに中に入ると綺麗で片付いていて、女の子って感じの印象の室内だった。
曰く一人暮らしだそうで、そこは素直に関心した。すごい人だ。
「お、このケーキ上手いな…それと紅茶じゃなくて珈琲はないのか?」
「あんたちょっとは遠慮しなさいよ!ちょっ、人のショートケーキのいちごだけ食べるな!」
「ごめんなさい、うちには紅茶しかなくて……あの…それで、本題なんだけど……」
「本題?」
はて、私はここにケーキを食べに来ただけのはず…
「……あんたまさか、忘れてたわけじゃないでしょうね?」
「…冗談だよ。そうムキになるな…たしか魔法少女?の話だろ」
隣の女が「ぜったい直前まで忘れてた……」って言いたそうにしていたから足を踏んでやると黙った。
「そうよ。キュゥべえに選ばれた以上、あなた達にとっても他人事じゃないからね。えっと…」
「はい!私、美樹さやかです!」
「鹿目まどか。コイツと同じ見滝原中学の2年だ」
「あら、貴方が鹿目まどかさん?」
巴マミは、意外にも私の事を知っているような反応をする。
「私のことを知っているのか?」
「えぇ。三年の中でも話題よ?」
「そりゃ照れるなぁ〜」
「お前は関係ないだろ」
横のさやかの足を踏んでやるとふたたび黙った。
「と言っても、ヤクザ事務所を1日で壊滅させたーとか、ギネス記録を何度も更新したーとか、そんなデタラメばかりなんだけどね」
「そりゃデタラメだらけだな」
誰がそんなデタラメを広めたのか…
「いや全部事実…」
スネを蹴ってやると悶絶しながら今度こそ黙った。
「話が大分逸れちゃったね。まず魔法少女っていうのはね、キュゥべえと契約をした人たちのことを言うの」
「契約って?」
「ああ、その辺の話もしていなかったわね」
キュゥべえがマミの膝の上からぴょこっと顔を出し、先輩の代わりに言葉を続ける。
「僕と契約して魔法少女になれば、君たちの願いをなんでも一つ叶えてあげる」
「どんな願いをなんでも一つ?」
「ああ、なんだって構わない。どんな奇跡だって起こしてあげるよ」
「まるで龍の玉だな…」
「うわ、金銀財宝とか不老不死とか、満漢全席とか~!?」
「いや、最後のは…」
「でも、それと引き換えに出来上がるのがソウルジェム。この石を手にした者は、魔女と戦う使命を課されるんだ」
「魔女……魔法少女とは違うのか?」
「願いから生まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから生まれた存在なんだ。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望を巻き散らす。しかもその姿は普通の人間には見えないから質が悪い」
「不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみ。そういう災いの種を世界にもたらしているんだ」
「ふーん…典型的な魔女って感じじゃなさそうだな…」
するとマミは苦笑しながら言う。
「こればっかりは、実際に見てもらったほうが早いわね」
「実際に」
「見てもらう?」
「そこで提案なんだけど……魔法少女体験コース、なんてどうかしら?
ずごごごご、と勢いよく水流が排水口に流れ落ちる音と共に、私の意識は現実に引き戻される。
「なぁ母さん」
「んー?」
「もし魔法でどんな願い事でも叶えるって言われたら、どうする?」
「役員を二人ばかり他所に飛ばしてもらうわ」
あまりにもきっぱりと簡潔な回答。そしてやはり予想通りの結果だった。
あとそうねー、と母さんはぼやくように言う。
「社長もさぁ、もう無理がきく歳じゃねんだからそろそろ隠居考えてほしんだけど……代わりがいないってのがなぁ……」
そんな母さんに冗談交じりに呟やく。
「ならいっそ母さんが社長にでもなったらいいじゃん」
化粧バッグが閉じる。
「……その手があったか」
「営業部にさえしっかり根回ししとけば、企画部と総務は言いなりだし。そうなると問題は経理のハゲか……」
いつの間に肩に化粧バッグをかけている姿はいつもより凄みがあった。
「……流石母さん」
「ん?なんか言った?」
「別にぃ〜?」
髪を纏め、鏡を見る。目の前にはいつも通りの見慣れた顔がある。
(そうだよな、やっぱ柄じゃないな)
私は心の中にあった気持ちを再確認すると同時に、リボンを付けるのだった。
爽やかな日差しが通学路に降り注ぐ。
「よう!」
「おはようございます」
「おはよ……うえ!?」
「よう!さやか」
私の肩に乗ったキュウべえを見て、さやかは顔を引きつる。
さやかはなんと言えばいいのか分からず、わたわたと手を動かすだけだ。そんなさやかを仁美が不思議そうに見つている。
「あ、あが……」
「おいどうした、さやか」
そわそわとしながらさやかは私に話かける。
「やっぱそいつ、あたしたちにしか見えないんだ……」
「そうみたいだな。それにしてもコイツ邪魔だな」
「あのー……」
仁美が怪訝そうな顔をする。慌ててさやかが誤魔化しに入り、二人は前を歩き出す。
後ろから着いて行く私は、ふとさやかにイタズラをする。
(さぁ…願いを言え…)
さやかがびくっと肩を震わせ、期待と困惑が入り混じる表情を私に向ける。
(あたしたち、もう既にそんな力が!?)
(いやいや、今はまだボクが間で中継しているだけ。でも、内緒話には便利でしょ?)
(……なんか、変な感じ)
「お二人とも、さっきからどうしたんです?しきりに目くばせしてますけど……」
その言葉にさやかが慌てる。
「えっ!いや、これは……その、」
仁美が学生鞄を取り落とした。
「まさか二人とも、既に目と目で分かり合う間柄ですの……!?まぁ!たった一日でそこまで急接近だなんて、昨日はあの後一体何が……!?」
「いや、そりゃねーわ流石に……」
「確かに色々あったけど……」
あんな体験は普通(自称)の女子中学生には少々ハードだった。
しかし仁美の勘違いは止まらない。
「でも、いけませんわお二方!女の子同士で、それは禁断の、恋の形ですのよ~!」
二人の隣を飛び出していく仁美。止める間もなく道の先に消えていった。
さやかが「バッグ忘れてるよー!」と仁美の鞄を振る。しかし聞こえていなさそうなのでさやかの持ち物は二つの鞄となった。
「今日の仁美、さやかみたいだな……」
「どういう意味だよそれはー!」
あれから何事もなく教師に入った私達は、授業が始まるまで、テレパシーで会話をする。
(つーかさ、あんたのこのこ学校にまでついてきちゃって良かったの?)
(どうしてだい?)
(言ったでしょ。昨日のアイツ、このクラスの転校生だって。アンタ命狙われてるんじゃないの?)
(むしろ学校の方が安全だと思うな。マミもいるし)
(巴マミは三年だから遠いぞ)
(ご心配なく。話はちゃんと聞こえているわ)
うわ、とさやかが小さく声を上げた。
頭の中に新たな人の声が聞こえ、さやかは狼狽える。
(この程度の距離なら、テレパシーの圏内だよ)
(ちゃんと見守っているから安心して。それにあの子だって、人前で襲ってくるような真似はしない筈よ)
(ならいいんだけど……げっ)
私達の視線の先には、暁美ほむらな何食わぬ顔でいる。
(噂をすればなんとやら)
昨日マミさんにした質問の内容は覚えている。まだ忘れられるほどの時間も経ってない。
「ということはあの転校生も、魔法少女ってことか」
「そうね、間違いないわ。かなり強い力を持ってるみたい」
「でもそれなら、魔女をやっつける正義の味方なんだよね?それがなんで、急にまどかを襲ったりした訳?」
キュゥべえがその身を起こす。
「彼女が狙っていたのはボクだよ。新しい魔法少女が生まれることを、阻止しようとしてたんだろうね」
マミの声に、少し影が落ちる。
さやかが尋ねた。
「なんで、同じ敵と戦っているなら仲間は多い方がいいんじゃないの?」
「それがそうでもないの。むしろ競争になることの方が多いのよね」
「そんな……どうして」
「魔女を倒せば、それなりの見返りがあるの。だから、時と場合によっては手柄の取り合いになって、ぶつかることもあるのよね」
「つまりあいつは、キュゥべえがまどかに声かけるって最初から目星をつけてて、それで朝からあんなに絡んできたってわけ」
「多分、そういうことでしょうね……」
ほむらは首をかしげて、私を見つめている。
(気にすんなまどか!あいつがなんかちょっかい出してきたら、あたしがぶっ飛ばしてやるからさ!マミさんだってついてるんだし~)
(いや少なくともさやかよりは強いぞ)
(そうよ。美樹さんはともかくとして、私が付いているんだから安心して)
(ひどい!)
今日の授業は途中で変なことを言い出すわけでもなく進行している。
聞いた話だとまた別れたんだと。
早乙女は教え方が丁寧だが、時々変な例えをすること以外は分かりやすくて助かっている。
今頃さやかはぐっすり寝ているんだろうな〜と考えながら、いつものように屋上で昼寝をかましている。違う点といえば隣にキュゥべえも目を閉じて寝息を立てていることぐらいだろう。
「……いったいコイツは何を考えているんだ?」
やはり私はそう思うしかないのだった。
なんか原作とあんま変わってなくてショック…
でもまだまだこれから!