深夜25:30
ネオンの光が消えかけた都心の暗い部屋で、奏は青白いディスプレイの光に顔を照らされていた。
開いているのは、いつもと変わらないナイトコードだ。
絵名からメッセージは返ってきていない
すでに何日も既読がついていないのだ。
「……絵名」
ボソリと呟いた奏の手元には、何通もの未送信のメッセージが溜まっていた。
『体調はどう?』
『無理してない?』
『イラストの件で相談したいことがあるんだけど』——どれを送っても、画面の向こう側は沈黙したままだ。
心配で胸が締め付けられるような焦燥感が、奏の心を重く圧迫していく。
それはまふゆ、瑞希も同じだった。
急に連絡が取れなくなった絵名を心配し、3人はそれぞれに頭を悩ませていた。
だからこそ、彼女たちは
「ある場所」に希望を託していた。
「今日も、セカイに行ってみるよ。
もしかしたら...あそこにいれば絵名に会えるかもしれないから」
ある日の夜、通話の中で奏がそう切り出した。
「うん、僕も行くよ。
スケッチ旅に行ってるとはいえ、返信が返ってこないのは心配だし。セカイなら何か分かるかもしれないからね」と瑞希が続き、まふゆも無言のまま何も言わなかった。
ただ、それからまふゆも加わり3人の間で自然とローテーションが組まれるようになった。
『今日は私が行くから、明日はまふゆね』『次は私が見てくる』
毎日、誰かが必ず「誰もいないセカイ」に向かう。
絵名を探すように、彼女の名前を呼び続ける。どれだけ探しても絵名の姿は見当たらないのに、それでも3人は諦めずに通い詰めていた。
絵名という大切な仲間が、自分たちの前から消えてしまわないように必死に繋ぎ止めようとするかのように。
一方その頃、誰もいないセカイのバーチャルシンガーたちもまた、別の方法で絵名を探そうと試行錯誤していた。
「っ…またダメだね。
電波が完全に弾かれちゃうみたい」
誰もいないセカイの空の下、初音ミクが困ったように眉を下げてる
ミクやレン、リンといったバーチャル・シンガーたちは、デジタルやネットワークの海を抜けて、絵名の持っているスマートフォンやパソコンの画面へ直接飛び込もうとしていたのだ。
絵名が心配で、少しでも顔を見せて安心させようと。
しかし、ミクたちが絵名の端末にアクセスしようとした瞬間、画面の向こう側でバリバリと不気味なノイズが走り激しく押し返されてしまう。
「これ……ただの通信障害じゃない」
鏡音リンが腕を組み、険しい顔で首を振った。
「すごく冷たくて、ドロドロしてる......
まるで、誰も寄せ付けないように呪いがかけられてるみたい…」
そう、絵名が今いる冬木市は、聖杯戦争という儀式のために街全体が強固な結界と魔力で満たされている。
現代の電波やネット回線すらも、その特殊な霊地や魔術の干渉によって激しい障害を受け、外部からの干渉を完全に遮断していたのだ。
セカイの住人であるバチャシンたちですら、その強力な冬木の聖杯の干渉障壁を突き破って
絵名のスマホの画面へと飛び出すことができない。
「絵名ちゃん、今すごく大変なところにいるんだね...」
レンは絵名のいない空を見上げ、心配そうにぎゅっと拳を握りしめた。
ニーゴの3人が毎日交替でセカイを訪れ、セカイの中ではバーチャル・シンガーたちがどうにか絵名に連絡をつけようと奔走している。
誰もが絵名を想い、それぞれの場所で彼女を探している——その温かな想いが、茨の道を歩み始めた絵名の背中をいつか必ず照らし出すはず