隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~ 作:バカ太郎
「なぁ佐藤!お前って誰が好きなんだっけ?」
二限目の歴史の授業が終わり、昼休みに入ると同時にトイレへと駆け込んで一人、黄ばんだお花を摘んでいた俺へと隣に並ぶ男からすこし荒っぽい口調で無遠慮に問いかけられた。
「遠藤、突然話しかけてきて誰が好きって言われてもな……少し抽象的すぎるないか?」
こいつは
黒の短髪に日に焼けた肌、程よく整った顔立ちをした年中短パンを履いていそうな男だ。
彼もまた一年B組の男子生徒、つまり俺と同じモブである。まぁモブといってもクラスのリーダー的存在で陽キャだけどな。
こいつとは、一言で言えば腐れ縁だ。
前に俺が掃除時間中に窓ガラスを割って怒られた事件があったのだが、その時に俺にぶつかってきた張本人こそがこの遠藤だったのだ。この縁腐りすぎて蟲湧いてんじゃね?
それ以来、一緒に怒られたことで変な仲間意識でも沸いたのか、たまに絡まれるようになった。
「んでわかんねぇんだよ!あれだよ!一年A組のプリンセスの話だよ!」
そうやってにこにこ笑いながら、そこそこの強さで肩パンしてくる遠藤。
陽キャ怖い!もうすごく怖い!なんで肩パンしてくるの!陽キャの距離の詰め方おかしいって!ってか主語のない質問してきたお前が悪いだろ!まぁ怖いから何も言えないんだけど……。
おいそこ!ヘタレって言うな!
「……なんでそんなの気になるのかな?」
「いやぁ、今俺たち”鈴峰一年五大プリンセス”人気ランキングっての作っててさ!ま、一位は決まってるようなもんだけど……それで佐藤ってあの……重川さん、だっけ?あの人以外全然友達いないだろ?だからクラスの誰もお前の好み知らなくってさ!」
アッハッハと笑いながら宣う遠藤。
うっせえわ!うっせぇうっせぇうっせぇわ!くせぇ口塞げクソノンデリ陽キャが!
俺は友達が居ないんじゃありません~!あ・え・て!作ってないんです~!
それじゃ結局重川さん以外友達いないじゃんって?やかましいわ!
「……あぁ、やっぱり白崎さんかな」
俺は無難な答えで茶を濁しつつさっさとお花摘みを済ませて、手を洗って一人トイレから出た。陽キャから逃げたともいう。
廊下へ出ると、そこには五大プリンセスを拝みに来たのであろう生徒たちがわらわらと集まっていた。誰か交通整理してくれんかね?
「はぁ……」
ため息も出るわ。
あそこで「一年五大プリンセス?そんなもん全く興味ないぜ!俺は重川さんが一番好きだからな!だから絶対手ぇ出すなよ!」とか言えたらどれだけいいか……。
でも、そんなことを言ってしまったが最後、クラス中に広まってイジられまくってしまうだろう。重川さんにも迷惑が掛かってしまうし、それで気まずくなってしまって失恋とかしたら笑えないからな。
あーあ、俺が重川さんの恋人だったらぁ、堂々とここで「愛してる」って宣言することが出来るのになぁ……。
「……なるほど、王道だな」
そんなことを言いながら、廊下を歩く俺の隣に追い付き、肩を組んでくる遠藤。
なんでまだ絡んでくるんだよ!もう答えたじゃん!勘弁してよ……それに距離近いよ!ソーシャルディスタンスしようぜ!
「俺はあれだな、
白い歯を見せつけながら聞いてもいない話をしてくる遠藤。人気ランキングとか言っていたが、この話題ただお前が話したかったから俺にフッただけだろ……。
にしても神宮寺 桜さんって……。
「神宮寺 桜さんって……たしか入学早々に痴漢してきた男のキ〇タマを殴り潰して停学なったっていう、あの?」
「そうそう!復学してすぐにしつこく付きまとってた先輩のキ〇タマ蹴り潰してまた停学になったその神宮寺さん」
神宮寺 桜さんは『鈴峰一年五大プリンセス』のうちの一人でふわふわとしたピンク髪が特徴の、見た目だけはおっとりとしてお淑やかそうなヒロインだ。
だがその儚げで優しそうな外見に反して性格は苛烈の一言にすぎる。入学して三か月も経っていないのに二度も停学しているのがその証拠だろう。
ヒロインたちの中でも一番関わりたくない奴だ。別になにかするわけじゃないけど、ちょっとでも機嫌を損ねたら潰されそう……。
そして、そんな彼女についた異名は……。
「『くるみ割りの姫君』……かっこよすぎるよな!」
「どこがやねん!」
おっと、思わず素でツッコんでしまった……。
いやでもこれはさすがにツッコミ待ちだったよね!?だってくるみ割りってキ〇タマ潰し伝説絶対イジってるよね?ウケ狙ってるだろこのあだ名付けたやつ。
……いや、遠藤おまえ、なんでそんな不思議そうな顔してんだよ!クッソダセェだろ!え?そう思ってるの俺だけ?
「ご、ごほん……遠藤……お前そういう趣味だったの?」
年上のキ〇タマぶっ潰した(物理)女のどこがいいんだよ……いや痴漢したり、付きまとう方が悪いよ?もちろん。にしても苛烈がすぎるだろ……。
遠藤の表の顔は一般モブ陽キャだが、裏の顔は一転マゾ豚なのか?くるみ割りの姫君にくるみ攻めされるのがご所望なのか……?なんて度し難い奴なんだ……。
「ちっげぇよ!?ただ顔がタイプってだけだよ!か、か、勝手な憶測でモノ言ってんじゃねぇぞ!?」
「……そうだな、俺はいいと思うよ、多様性……いい言葉じゃないか」
「おいコラてめぇ!そのしたり顔をやめろぉ!?」
そう、今からほど近い未来、凄まじい多様性の大波が来る。
今は恥ずかしがって必死に誤魔化している彼も、きっと本当の己を開放して公然とブヒブヒ鳴くことが出来るだろう。多様性、ありがとう。
そんな他愛ない会話をしていると、すぐに教室に到着していた。
「それじゃ、俺は席に戻るよ」
「待てぇい!まだ俺がマゾっていう誤解といてねぇぞ!」
席に戻ろうとする俺の肩を掴んであたふたしている遠藤。
あるぇ?俺は「そういう趣味」って言っただけで、「マゾヒスト」なんて一言も口にしてないんだけどなぁ~?
あっれれー?おっかしいぞー?
「……分かったよ、遠藤はマゾヒストだなんて冗談で言ってるに決まっているじゃないか」
まぁでも俺は大人だからな。ここは華麗にスルーしてあげよう。これが大人の余裕ってやつだな。
「……まぁ、分かればいいんだよ分かれば!」
最後にそう言って、あまり納得のいってなさそうな表情で遠藤は席へと戻っていった。
遠藤はマゾヒストっと……心のノートにしっかりと記載しておくこととしよう。グヘへ。
「……佐藤くん!体調大丈夫そう?」
席へと戻ってすぐに、重川さんはそう言って俺の顔を覗き込んできた。重川さんの茶色のサイドテールは心配そうに少し垂れ下がっているように見える。
トイレを我慢しすぎて顔真っ青になってたのを見られていたんだろう。
「全然へっちゃらだよ、重川さん、心配してくれてありがとう」
「なら、よかった……!でも、くれぐれも無理は禁物だよ!」
そう言って微かに笑う重川さん。
んもう!重川さんってば、優しすぎる!なんでこんなに素敵な女の子がモブで、男のくるみを蹴り砕くような暴力女がヒロインなのか……てんで理解が出来ない。あんな怪獣ども操縦できるの主人公ぐらいだぞ。まじで。
「そういえば、遠藤君に肩掴まれてたけど、大丈夫だった?嫌なこととかされてない?」
「……め、女神」
なんかすっげぇ後光が差している重川さん。
なんて包容力だ……その胸に飛び込みたい。怖い陽キャに詰められて肩パンされて怖かったよぉ!びえぇぇん(大泣き)
……っは!?よ、幼児退行していた……?お、オギャばぶっていた……この俺が!?こ、これはアカンぞ!いくら多様性といっても女子高生に赤ちゃんプレイだけは人間として踏み入れちゃいけない領域だろ!
「女神?」
「え!あ、いや、大丈夫だったよ、うん、ただプリンセスがどうとかくるみ割りの姫君がどうのって話をしてただけで」
ま、まずい!口に出ちゃってた!脳内で赤ちゃんに回帰していたのがばれるのだけはダメだ!
俺は顔の筋肉を総動員して重川さんの母性にニヤケそうになる頬を引き上げながら、あわてて話題を変えた。
「一年五大プリンセス……?くるみ割りの姫君……?佐藤くん、それデ〇ズニーの話?」
重川さんが不思議そうな顔をして首をコテンと傾けながら聞いてくる。
そうか、重川さんは俺と同じく
「一年A組のめっちゃモテモテな女子五人だよ、遠藤たちが人気ランキングを作ってるんだってさ」
チラリと横目で盗み見た遠藤は、陽キャ仲間たちとワイワイ言いながら楽しそうに人気ランキングを作成していた。
いやぁ、にしてもおかしい学校だことだ。学園で五人しかいない女の子に人気が集中しているってだけでも変なのに、その五人全員が一人の男子生徒に夢中なんてさ。
「……佐藤くんはさ、その、プリンセスの人たちが……好き、なの?」
重川さんは俯きながら消え入るような声でそう言った。その声音には寂しそうな雰囲気を含んでいるように聞こえる。
「え……?」
これはもしかして、もしかすると……嫉妬している?俺が五大プリンセスの誰かのことが好きなんじゃないかと……?
え?重川さんって俺のこと好きだったりするんじゃ!?いやいや非モテ特有のキモカス勘違いの可能性がある!こ、ここは慎重に動け!こういう時こそ冷静になるんだ!
「いや、俺はその、プリンセスの人たちが好きとかじゃないんだ」
「そ、そうなんだ……よかったぁ……」
う、うおおおぉぉぉ!キタァァァアアア!これもう両想い確定演出です!もろたで工藤!
これはもう早速、今日の放課後に体育館裏で告白して重川さんの彼氏として毎日ウハウハのバラ色生活を始めるんだー!
「い、一緒に遊ぶ友達が居なくなったら、寂しいしね!よかったよかった!」
などと、その気になっていた俺の姿はお笑いだったぜ。
重川さんはほんのりと赤い顔をパタパタと手で仰ぎながらふぅと息を吐いていた。
はい、ただの非モテ特有のキモカス勘違いでした。もう死ぬわ生きていけない。
バミューダ・トライアングルでスイミングでもしてくるわ。夏空けたら連絡してね。
「そ、そうだね……よかったよ……」
俺は大袈裟に喜ぶ重川さんを見ながら力なくそう言葉を発するので限界だった。
ま、まぁ?友達って重川さんから明言されただけでも良しとしよう!