隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~ 作:バカ太郎
どんな学校でもそうであろうが、体育祭の実行委員というものは多忙である。
各学年・各クラスの実行委員となったものは放課後の時間に一つの教室へと集合し、様々な仕事のすり合わせをしなければならないからだ。
まず、
・全校集会での組分け
・実施する競技の確認や準備
・それら出場選手の選定と共有。
・ゴールテープや競争表、お手玉など小道具の準備。
・体育祭スローガンの募集と決定。
などを体育祭が始まるまでの残り一週間程度の時間で終わらせなければならない。
さらに、体育祭当日も、
・競技間の進行確認や速やかな導線づくり。
・各組の得点の集計。
・放送との滑らかな連携。
・体育祭後のあと片付け。
などの仕事がギチギチに詰まっている。
加えて、俺は、
・実行委員になっているであろう主人公たちと出来るだけ関わらない。
・重川さんを体育祭ノリで頭おかしくなったやつらから守護る。
・重川さんに最高の思い出を提供する。
という至上命題を抱えている。
……大変過ぎないか?こんなの誰がやるんだよ!はっはっは!……俺だよ!こんなもん自主的に手を上げさせて誰かやろうとするわけないだろ!
まぁただ文句を垂れ流したところで仕事が一つ片付いてくれるわけでもない。決まってしまった以上は一つ一つ確実にこなしていくしかないのだ。
「第77回鈴峰学園体育祭!実行委員となってくれた諸君!授業が終わって疲れているであろうに、放課後という貴重な時間に集まってくれてありがとうな!はっはっは!
俺は三年A組!体育祭実行委員!委員長っ!坂上 蓮太郎だぁっ!よろしくたのむぅ!」
実行委員に決定した日から一晩が経った放課後。
遠くから微かに聞こえる運動部の掛け声や吹奏楽部のクラシックをかき消すような大声が、追試と補修で大変お世話になった特別教室に響いた。
その大声の犯人、それは教壇の前で、短髪に赤い鉢巻きとかいう熱血漢の教科書みたいなマッチョメンだ。
あなた先生じゃなくて先輩だったんですね……か、貫禄が高校生のそれじゃないんですが……。
しかもなんか周囲の温度上がってきてない?何この生きる暖房野郎は。
ただでさえ暑すぎておかしくなりそうなんだから勘弁してくれよ頼むよ。そういう人類は松〇修造さんで間に合ってるよ!
「ほらほら諸君ッ!もっとぉ!熱くなれよぉぉおお!!」
いや言ってる言ってる。隠す気ゼロか!
これ以上熱くなられたら熱中症になって生きて帰れないぜ。冬にまた出してあげるからクローゼットの奥でじっとしていてくれないか?君の出番は間違いなく今じゃない。
「ねぇねぇ、佐藤くん……」
隣の席から手を口元にやって俺の名前を囁く重川さん。
重川さんはあの熱血実行委員長の大声に全くひるんでいないらしい。さすが重川さん!もっと好きになっちゃった!
先ほどまでは灼熱地獄みたいに暑かったというのに、重川さんに一言名前を呼ばれるだけで、居心地の良い春の木漏れ日の下でピクニックでもしているような気分になる。
心が安らぐぅ……ASMR出してほしい(切実)
「あの人……すっごくかわいくない!?」
「え?あの人……?」
重川さんは特別教室に居並ぶ体育祭実行委員たちの中でも、特に目立っている一人の女子生徒をチラチラと見ながら驚いていた。
その女子の隣には、前髪の重たい男子生徒が居て、楽しそうに小声で談笑していた。
「……あぁ、一年A組の実行委員だね」
「もしかして、くるみ割りの姫君?みたいな人?……モデルさんみたい……」
「いや、くるみ割りの姫君じゃない人だね」
「えぇ!?……あんな綺麗な人が他にも居るんだ……」
重川さんは周りの女子たちと同様、あの女子生徒に羨望の眼差しを向けている。
「そうだね……でも、重川さんの敵じゃないさ」
「……敵?」
いやぁ、にしても一年A組の体育祭実行委員が白崎さんとか神宮寺さんじゃなくて本当に良かった……あの女の人はは噂通りなら絶対に関わることはないであろう人種だ。もしかしたら実行委員編は平和で終われるのか……?
「さぁ諸君、熱くなってきただろう!今日は初めての実行委員会議ということでッ!まずは簡単な自己紹介の時間と行こうッ!最初はどうしようか……!じゃあそこの一年生からだ!」
暑苦しい熱血漢は数秒の逡巡の後、先ほど重川さんが「かわいい」と言っていた女子を指さしてニヤリと笑いながら高らかに言った。
わざとらしく悩んだフリでもしやがってYO!さっきからチラチラ見て鼻の下伸ばしてたの隠せてねぇよ!?
こいつはあれだな。熱血漢の皮を被ったただのスケベだ、間違いない。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。
「分かりました」
鈴の音のような声が特別教室に木霊する。
周りの同級生や先輩たちの「ゴクリ……」と息をのむ音が微かに響いた。
怜悧な青い瞳に、紺青色のさらさらとしたミディアムヘアが靡く。ツカツカとローファーの音が響くたびに、制服を大きく押し上げる胸部のデカメロンが微かに揺れている。
この場に居るすべての人間の視線は、ほぼすべてがそこに集中しているといっても過言ではない。
え?俺はどうだって?馬鹿野郎!重川さんが隣に居るのにほかの女に鼻の下伸ばすわけねぇだろが!俺は重川 春香さん永久単推し全肯定おじさんだぞ!
それに、女性の胸をガン見するような奴が、生き馬の目を抜く令和の大ハラスメント時代を生き残れると思うな!社会人経験は伊達じゃない!
「一年A組、
はきはきとよく通る声音でそういって微笑を浮かべ、教壇の前で四十五度の綺麗なお辞儀をみせる小鳥遊さん。
で、で、でたぁぁああ!アニメかゲームの世界でした見たことないでお馴染み!初見で誰が読めんねん苗字第一位!小鳥が遊ぶと書いて小鳥遊の小鳥遊だぁああ!
そう、彼女もまた有名な『鈴峰一年五大プリンセス』の一人だ。噂によれば主人公様の義理の妹で、高校にほど近い高層マンションに二人で暮らしているという。学校でもいつもべったりなんだそうだ。
クラスの男子が大声で喚いていたのを覚えている。きっと脳が破壊されてしまったのだろう。
「う、うおおおぉぉぉ!実行委員やってよかったぁぁああ!」
「な、なんだあれは……メロン……スイカ……?」
「ふ、ふつくしい……!女神だ……!」
そしてあまりにもモブ過ぎる実行委員の男子たち……お前らそれでええんか。
「……っち」
周りの誰も聞こえないほどの、本当に小さな舌打ちの音。それは今も頭を下げ続ける小鳥遊さんから聞こえたものだ。
われらが主人公様も聞こえたのだろう、気まずそうに「アハハ……」と苦笑いして頭を搔いている。
そう、彼女はすさまじく男嫌いらしいのだ(主人公除く)
故についたあだ名は『禁断の絶対零譲』らしい、くるみ割りの姫君といいダサすぎるだろ。
さっきの自己紹介中も実行委員の男どもをすごい目で見てやがったからな。
あの目はまさに大量の蟲が集った汚物でも見ているかのようだった……怖すぎワロエナイ……。
「……さ、佐藤くん、す、すごいね……あんなの初めて見たよ……」
重川さんはそう言って自分のお世辞にも大きいとは言えない胸部装甲を哀しそうな瞳で見下ろしていた。
いや、いやいやいや、それくらいが一番いいんだって!いや俺はべつに?重川さんがダイナマイトでもまな板でも大好きなんだけどさ!
ありのままの重川さんでいてくれたらいいんだよ!
「うぇ!?い、いや……あの、俺的には……その、重川さんが……最高、というか……神というか……」
クソッ!これどうフォローするのが正解なんだよ!誰か教えてくれよ!
どう答えても死ぬほどキモくなっちゃうんですけど!?セクシャルハラスメント避けようがないんですけど!?
無視すればいいって?それは無理です。俺が悲しそうな顔をしてる重川さんを無視できると思うか?できない!
「だから……その、重川さんは……」
「ふふっ……佐藤くん、ありがとよっ!」
言いたいことが伝わったのか、 顔を赤くしながら親指を立ててニッコリ重川さん。とてもかわいい。
いやぁ、激キモな俺にも優しくしてくれて本当に感謝しかないですよ。薔薇百本用意して気持ちを伝えたい……。
高級ホテルのディナーで、夜景がよく見える窓際の席に腰掛ける重川さんへ膝を突いてデカいダイヤのついた指輪を差し出したい(激キモ妄想)
頭を上げた小鳥遊さんは最後にニコリと笑ったあと、教壇を去っていく。
笑顔の先に居るのは長門 真太郎くんだ。ほかの男どもには一切の視線を寄こしていない。
もうすごいあからさまだね、逆に尊敬すら覚えるよ、その一貫性に。怖いけど。
「うおおおぉぉぉ!」
「今俺に笑いかけてたよな?」
「は?俺だろ!」
小声でくだらないことを言いながらざわざわする特別教室のモブ諸君。
お前らそれでいいんだな!そんなにバカでいいんだな!
「お、お、おぅ……じゃ、じゃあ次、一年A組の男子……」
バカすぎる実行委員モブたちに呆れていると、次は前髪の重たい主人公様が教壇に上がった。
いいか主人公よ!お前はこの体育祭編を平和に終わらせる役目があるんだぞ!さぁ!お前の力を魅せて見ろ!
「い、一年A組のっな、長門 真太郎です!よ、よろしくおねがいしましゅ!」
そんな俺の期待を一身に背負った我らが主人公様は盛大に噛んだ。
なぁにやってんねんこいつはYO!男のぶりっ子シーンの需要どこにあんねん……この世界の神は何を考えてるの?
「お、お義兄さま……かわいい……」
バリバリ需要あったわ。
主人公様の自己紹介そっちのけで周りの男どもの視線を惹き付ける小鳥遊さんは、長門くんを目を見開いてガン見しながらハァハァ言っている。情緒クッソ怖えぇ……。
愛重い系義妹ヒロインだったかぁ……それは知らなかったなぁ……現実で見ると萌えより先に恐怖を感じるもんなんですね。
ってか周りのモブどもは長門くんの自己紹介ちゃんと聞いてやれや、噛みながらも一生懸命やってんだぞお前ら!俺たちを面倒ごとから守ってもらえるように敬意をもって接しろ!
「あぁ、うむっ!よろしくっ!長門くんっ!次、一年B組の女子!」
熱血スケベマッチョが重川さんを呼んだ。
あいつまだチラチラ小鳥遊さんの方見てるやがる。
教壇の横とかいうある意味一番目立つ場所に居るのにそれ出来るの逆にすごいっすよ?
「つ、次は私か、緊張してきたぁ……!」
「重川さんなら絶対に大丈夫だよ、それに万が一やらかしたら重川さんが霞むぐらいやらかして有耶無耶にするから安心して」
「ぷぷっ、なにそれ……ありがとう!行ってくるね!」
冗談だと思われたのだろう、重川さんは吹き出して笑ってから、教壇の前へと胸を張って歩いて行った。
重川さん、俺は君のためなら先輩たちや主人公一行の前で、この日本に氷河期を到来させる一発ギャグを炸裂させることすらも厭わないつもりさ……。
俺はモブとして重川さんと毎日を平和に過ごせるのが一番だけれど、もしも重川さんがバカにされたり、いじめられたりなんてしたらストレスでどうにかなっちまうだろうからな。
俺の精神を平和に保つことはすなわち、重川さんを平和にすることなのだ。
これこそ完璧なリスクマネジメント。皆さん、真似してどうぞ。
「い、一年B組、重川 春香です!よろしくおねがいします!」
元気よく自己紹介する重川さん。
はい、最高にかわいいです。ちょっと緊張しちゃって最初の方詰まっちゃってるのがさらにかわいさを加速させていますね。
「そうか!よろしくっ!重川さんっ!では次!一年B組の男子っ!」
おいコラ貴様ほかに言うことがもっといっぱいあるだろうがッ!この胸チラスケベ筋肉野郎ッ!重川さんの自己紹介中も小鳥遊さんの方チラチラ見やがってこの馬鹿がッ!てめぇなんか松〇修造さんの足元にも及ばねぇって教育してやろうか!アァン!?
「き、緊張したぁ……」
重川さんは隣に戻ってくると小さく息を吐いて、胸を撫で下ろしながら呟いた。
「最高の自己紹介だったよ、重川さん、さすがだね」
「えへ、ありがとね!佐藤くんもがんばって!」
「うん、がんばってくるよ」
あぁ、重川さんとちょっと言葉を交わしただけで、ささくれ立ったこの心が急速に癒えていく~。
いいじゃないか、そりゃあ彼も健全な思春期男子なんだから。美少女の大きなメロンの虜にもなってしまうさ。
許そうじゃないか、スケベ鉢巻きくん。それにその下卑た汚らしい視線を重川さんに向けられなかっただけでも良しとしてあげよう。
「一年B組、佐藤 優斗です。よろしくお願いします」
THE・モブ!な無難な挨拶を手短に済ませて元居た場所に戻っていく。
重川さんは小さく拍手して両手でグッドしてくれた。
そのかわいさに面食らいつつ、俺も重川さんにダブルグッドを周りの生徒から目立たないように返すのだった。