隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~ 作:バカ太郎
そうして、二人並んでコ○ラのマーチを必死に覗き込んでから、すでに十分以上の時が過ぎた。
蒸し暑さに額を滑り落ちる汗粒を腕で時折拭いながら、俺は必死にルーペを覗き込んでいる。
この十分間にあったことといえば……。
「重川さん!これは?」
「惜しい!それは『エイエイオーマーチくん』だよ!気合が入っててかっこいいよね!」
「えいえいおーまーちくん……」
と、言った具合に、俺が重川さんに『まゆげコアラ』っぽいコアラを見つけて、重川さんに見せる、そしてはずれた普通柄のコアラを食べる、くらいのことしかしていなかった。
机の端や重川さんのカバンの中には、コ〇ラのマーチの空箱がいくつも見える。にもかかわらず、ティッシュの上に積み上げられた大量のコアラはまだまだ残っているようだ。
これ本当に減ってる?バイバイン使ってない?地球コ〇ラのマーチの軍勢に覆い尽くされて終焉を迎えたりしないよね?
それに、そ、そろそろお腹がいっぱいになってきました。これがおじさんボディだったら、とうに胃もたれで動けなくなってますよ。
ま、まぁ、高校生の身体なら何とかなるか……なるよね?なってくれるよね?
「むむむ……むっ!むぅ……」
重川さんはというと、そんな俺の胃事情など知ったこっちゃないと言わんばかりに、ルーペを片手にコ〇ラのマーチを凝視している。
そして『まゆげコアラ』ではないと分かると即座に口に放り込んで次のコ〇ラのマーチを凝視している。
す、すごい集中だ……!先日の『バベルの塔』を彷彿とさせるぞ……!
ついさっきまで「これかわいいよ!」や「見て見て!」と言っていたというのに……今では完全に研究者の目のしている。
「お、重川さん、これはどう?」
「うーむ……これはカーリングコアラだね、リボンが可愛いよねぇ!」
「ですよねー!」
この俺がここまで探しても影すら捉えられないとは……『まゆげコアラ』、本当にレアもののようだな、なかなかやるじゃないか。俺の腹が破裂する前に見つけられることを祈るぜ。
周りの生徒たちも、チラリとこちらを覗き見たと思ったら次の瞬間には「ッ!?」といった感じでお手本のような二度見をかましてくれる。
まぁ、男女の高校生が隣り合ってルーペで山盛りのコ〇ラのマーチを覗いてたら、そりゃ驚くわな。
にしても、ラブコメのモブたちはリアクションがとても良くて面白い。
ほれほれ、俺たちをもっと見ろ!お前らにも「重川さんSUGEEEE!」する権利をくれてやろうではないか。これが俺の青春だ!
……え?なに?お前もリアクションがデカくてモブみたいだって?うっせぇ!この世界の主人公は俺じゃなくても、俺の人生の主役は俺なんだよ!
なんてことを考えながら次のコ〇ラのマーチに手を伸ばした。そのとき……。
「……ッ!」
ルーペを覗き込む重川さんの時が止まる。
ま、まさかついに……!
「お、重川さん!」
名前を呼ぶと、重川さんはルーペを握り締めたままゆっくりと上げた。
その目は、まるで星でも宿っているかのようにきらきらと輝いていた。
「見っけたー!」
「おぉ!ついに!」
「見て見て佐藤くん!ジャジャーン!まゆげコアラ〜」
「重川さんSUGEEEE!!」
ニコニコと満面の笑みでコ○ラのマーチを摘み、青い猫型ロボットのモノマネをしながら俺に見せつける重川さん。
そこに描かれているのはラッパのようなモノを吹いているコアラのイラストだった。確かに目の上にまゆげのようなものが描かれている。
「これがまゆげコアラか!ほんとにまゆげあるよ!」
「ふふふ!これが本物のまゆげだよ!」
「でもやっぱり盲腸コアラの方がまゆげ濃くない?」
「あれはシワだね」
「シワかぁ……」
な、納得が出来ません隊長!正直『鼻血コアラ』の鼻血もほうれい線にしか見えません!
「これでレアコアラ全部コンプリート!」
「コンプ!?やったね重川さん!」
「うん!ねぇねぇ、レアコアラ並べてみようよ!」
「それいいね!どうぞ、『盲腸コアラ』と『鼻血コアラ』でございます!」
俺は傍らの特別ティッシュルーム(重川さん命名)に大切に安置していた『盲腸コアラ』と『鼻血コアラ』を指でつまんで『まゆげコアラ』の隣に並べるように置く。
「おぉ!」
「おぉ!」
三種類のコアラが一枚のティッシュの上に並ぶ。
盲腸。鼻血。そしてまゆげ。
意味の分からない三種類のコアラだが、それらは確かにレアもの特有の威圧感のようなものを放っているように感じる。
たった三つの小さなお菓子が、重川さんと二人でこのコ〇ラのマーチの山から探した最高の宝みたいに見えて仕方ない。こんなの食えないよ!
「さ、佐藤くん……」
「どうしたの?」
キラキラとした瞳で三つのコアラを舐めるように鑑賞したあと、重川さんは並べた『まゆげコアラ』を親指と人差し指で摘まんで、そのまま俺に近づけてくる。
そんなに俺にまゆげコアラを見てほしいのかな?
う、う~ん、重川さんには申し訳ないけど、これ以上の感想が出てこない……強いて言うなら、なんでラッパコアラじゃないんだろうってことくらい?
「……あ、あーん」
「お、重川さん!?」
頬を赤らめながらまゆげコアラを差し出してくる重川さん。
な、ななな、ぬぁにぃぃいいーー!!
あ、あーんだとぉぉおお!!
あーんって、あのあーんか?口の中に食べ物を手ずから食べさせてくれるというあの!?まじ?まじであーんしてくれるのか?お、重川さんが!?俺に!?こんな美少女が!?
いいんですか?俺今日死ぬの?あ、だめだ、死ぬわ。重川さん可愛すぎるもん。尊死。重川さんが尊すぎて死ぬ……。
グッバイ俺の二度目の生……わが生涯に一遍の悔いなし……。
「あ、あああ、あーーん」
めっちゃドモッちまった!ダサすぎるだろ!あぁ、俺の顔も赤く染まっているんだろうな!
で、でも仕方ないよな?同年代の女の子にあーんされるなんて前世含めて初めてなんだぞ!震えるに決まってるだろ!
それに、こんな美少女に……す、好きな人に、あーんなんて、顔も真っ赤になるだろ!
「えへへ……幸せのおすそわけ〜」
サクサクとした食感と、チョコレートの甘い香りが口いっぱいに広がる。
僅かに唇に触れた重川さんの指先の感触と、ほのかに顔を赤くした可愛らしい笑顔、そして心地の良い声が耳を打つ……。
うん、胸を張って言える!今までの人生で食べたどんなお菓子よりも美味しい!比べるのも烏滸がましいわ!控えろ!重川さんのあーん付コ〇ラのマーチのお通りであるぞ!御用だ御用だー!
「お、重川さん!」
俺は震える手で残る二つのコ○ラのマーチを手に取って重川さんを見る。
頬を赤くして、茶色のサイドテールを忙しなく指先でクルクルしながら照れている重川さんに、引き当てた『盲腸コアラ』と『鼻血コアラ』を差し出した。
「お、俺も、重川さんに……幸せのおすそわけ!」
真っ赤を通り越して、最早茹蛸のような顔色になってしまっただろう俺と、差し出したコ○ラのマーチを何度も見ながら、重川さんの方も徐々に顔が茹蛸のような顔色になっていく。
可愛すぎるだろうがぁ!
「あ、あーん……」
目をギュッと瞑って小さな口を開く重川さんの口の中に、コ○ラのマーチを二つまとめて優しく転がした。
そのときに軽く重川さんの唇に触れてしまった、信じられないくらいプルプルしてた……俺の唇なんて砂漠みたいにカッサカサだぞ!なんだあれは。
小さく上下する口、そしてゴクリと飲み込む音。
重川さんは上目遣いで俺を覗き込むようにしてまっすぐに見つめてくる。
「このコ○ラのマーチ……今まで食べてきた中で一番美味しいや!……なんて」
あっ、やばい。尊い……。死ぬ……。
「尊い……」
おっと、思わず声に出てしまった。
でも、抑えられるはずがないだろ!やっぱり重川さんはズルい人だよ、こんなの好きにならないはずがないじゃないか!
あぁ告白したい……今すぐにでも告白して結婚を前提に付き合いたい。でも振られたらショックで死ぬから告白できない……誰か助けてくれ……。
「……」
「……」
そして俺はドキドキとうるさいほどに高鳴る心臓の音を聞きながら、残りの昼休みを全部使って、残った山盛りのコ○ラのマーチを一つずつ食べていくのだった。
マジで腹がちぎれるかと思った……。
そして、俺はもう一度だけでも、重川さんとおすそわけがしたかったけれど、レア柄はあれ以上見つからなかった。
翌日、額にデカいニキビが出来やがった。思春期に不摂生な食事は絶対にやめような!