隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~   作:バカ太郎

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注意:今回のお話はダ〇の大冒険、およびド〇ゴンク〇ストの知識がないと面白くないと感じてしまうかもしれません。そして、ダ〇の大冒険のネタバレを含みます。

置いてけぼりをくらってしまった方や、不快に思われてしまった方が居られましたら、大変申し訳ございません。



05.『重川さんは伝説の勇者・前』

 

 月日が経つのは早いもので、六月も既に中旬に差し掛かろうとしている今日この頃。

 

 最近は、朝から晩までずぅっと降りっぱなしの雨が続いている。そのせいで太陽の光すらも碌に拝めず、突如鳴り響く雷鳴と強烈な光のせいで、繊細な俺は夜もまともに眠れない日々が毎日のように続くようになってしまった。

 このままさっさと過ぎ去ってほしいものである。

 

「はぁ……」

 

 俺はトボトボと一人、人の居ない放課後の廊下を歩いていた。

 

 なぜ部活にも入っていない俺がこんな時間まで居残りさせられているのかといえば、普通に先生から説教をされていたためである。

 

 というのも、終礼の前にある生徒たちの全体清掃の時間に、友達同士でふざけあっていたクラスの陽キャ男子生徒に横から激突されて、箒を持っていた俺がよろけて教室の窓ガラスを叩き割ってしまったのだ。

 

 幸いなことに怪我人は出ていなし、そこは本当に良かった。教室は三階にあるし、もしも下に誰かしかが居れば大怪我していたかもしれないからな。

 周りをよく見ず箒をもって掃除していた俺にも否はあったろう。それは分かる。

 

 でも、なんで碌に掃除もせずにふざけてたアイツらと、こんな時間まで一緒にまとめて怒られないといけないんだよ!もう十七時半だぞ?

 アルバイトには当然のように遅刻確定だし、なんか追加課題出されたし、明日から三日間のトイレ掃除までさせられることになったし!

 

 学校生活ってさ、大人になったら戻りたいとかやり直したいとか思うものだけど、いざ実際戻ってみると意外と理不尽にあふれてるんだよなぁ……。

 まぁ、俺と一緒に怒られてた陽キャ組はトイレ掃除二週間の刑だけどな!ははっ!ざまぁ!

 

「はぁ……」

 

 前にも言ったが、俺は六月という時期が心底嫌いだ。

 

 洗濯物は湿気で乾くの遅いし、部屋の中も外も蒸し暑くて不快だし、なんか滑って転びやすいし、四日後には中間考査とかいう悪魔も平然と存在してやがるしよ!

 そして七月に入ってすぐには陽キャしか楽しくないでお馴染みの体育祭もありやがる!

 

 ま、どうせモブの俺たち一年B組は、A組に格の違いを見せつけられたり、ヒロインの揺れる胸とかに男どもがメロメロになったり、主人公を持て囃したり嫉妬したりする役目なんだろうがね。

 そして大体この手のイベントは主人公たちのストーリー的なのが動くからなぁ。

 一波乱起こすのは勝手だけど、巻き込まれることだけは勘弁したいものだ。

 

「はぁ……」

 

 さっきから三十秒に一回はため息をついている気がする……。

 ため息をつくと幸せが逃げるというけれど、はたして今の不幸全開の俺に、逃げていく分の幸せは存在するのだろうか。

 

 こんな憂鬱な気分のまま、追加課題で重たくなったカバンを手にくつ箱へと歩く。

 外は凄まじい豪雨だ。今からこんな土砂降りの雨の中を小さなビニール傘片手に帰らなければならないのか……。

 

「どうせ、今から急いで帰ってもバイト間に合わないし、この大雨じゃお客さんも少ないだろ……遅刻の連絡だけして、雨落ち着くまで追加課題でも片付けておくか」

 

 俺はデカめの独り言を呟きつつ、店長にメールで遅刻の連絡と謝罪を入れ、ガラケーをカバンの奥へと押し込んだ。

 この時代じゃスマホなんて全然普及してないからな。存在はしているだろうが高校生じゃ到底持てるわけがない。

 

 中間テストまで時間もあまり残っていなし、復習と予習はもちろん毎日やっているけど、ここらで一気に詰め込むよい機会かもとでも考えよう、じゃないとやってらんねぇわ。

 

 一年B組の教室は、すでに当番のクラスメイトがカギを施錠してしまっているだろうし、図書館はテスト勉強をする先輩たちで埋まっているだろう、廊下や階段の踊り場でやるとしても、室内で練習に励んでいる運動部の怖い陽キャに見つかってしまうかもしれない。

 

 そんなわけで俺は、誰もいないし来ないだろうと思った旧校舎への渡り廊下を絶好の一人勉強スポットに選んだわけだが……。

 

 

「アバーン!ストラーッシュ!」

 

 そこには茶色のサイドテールを揺らし、傘を逆手に握って伝説の勇者の技を繰り出す重川さんの姿があった。なんで居るんですか重川さん……。

 そして、そんな重川さんと俺の視線がぴったりと重なった。

 

「……」

「……」

 

 重川さんと俺の間に沈黙の帳が降りる。

 ザァザァと降りやまぬ雨音と、遠くから微かに聞こえる吹奏楽部の奏でるベートーヴェンの『運命』だけが、旧校舎の渡り廊下に哀しく響いていた。

 

 重川さんはアバンストラッシュを放った体勢のまま、まるで時が止まったように静止しており、俺も渡り廊下の扉を開いた体勢のまま固まって動けないでいる。

 この状況、訳が分からないよ。(白いクソ)

 

「……あ、あ、あぅ」

「お、重川さん……その……」

 

 しばらくの間、湿気で制服がしっとりと肌に張り付くくらいの時間がたったころ、口をパクパクと動かしていた重川さんは、ゆっくりとした動作でつるぎ(かさ)を開いて目元を覆い隠した。

 

「……さ、佐藤くん……今の、見た?」

 

「……なにも?」

 

「嘘下手!」

 

 そ、そんな!”マイルド地面士”などと言われたこの俺のウソを一発で見抜くとは……さすが重川さんだと褒めてやりたいところだ。なんて冗談はさておき。

 

 重川さんは顔を真っ赤にしながら頬を膨らませて、俺をうるんだ瞳で睨みつけている。うん、上目遣いが最高に可愛いという感想しか出てこない。

 こんなに怖さ0:可愛さ100の睨みが他にあるだろうか?

 

「ダ、ダ〇の大冒険だよね!めっちゃおもしろいよね!ま、真似したくなるのも分かるよ!メドローア!グランドクルス!天地魔闘の構え!五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!」

 

「う、うぅ~!やっぱり見てるじゃん!」

 

 重川さんは呻きながら頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。ピンク色のシュシュで纏められたサイドテールもシナシナと垂れ下がってしまっている。もう俺はツッコまんぞ……。

 

「も、もう私……恥ずかしくて生きていけないよぅ……メガンテで消えるね。ばいばい、佐藤くん、後は頼みますよ」

 

「消えるなんて言わないで重川さん……それにメガンテはこの町一帯が吹き飛んじゃうから勘弁して……」

 

 シクシクと大げさに目元を拭いながら、メガンテを放つ宣言をする重川さん。

 

 ちなみに知らない人のために説明すると、メガンテというのはド〇クエに出てくる自爆技の名前だ。

 己の全生命エネルギーを爆発力に変えて、周りのすべてを破壊する最凶の技である(破壊できるとは言ってない) 

 

「で、でも恥ずかしくって顔上げられないよぉ……佐藤くんだって、高校生にもなって一人でアバンストラッシュって大声で叫んでる女の子なんて……引いたでしょ?」

 

「……引いてないよ?」

 

「嘘下手だぁー!うえぇぇん!もうグランドクルスで佐藤くんと死んでやるぅ!」

 

「冗談だから!俺が重川さんを引くなんて、ザボエラが平和主義者になるくらいありえないよ!だからグランドクルスはやめよう、ね?」

 

 微笑ましい気分になりこそすれ、この俺が重川さんを引くなんて絶対にありえないことだ。

 なぜなら俺は、重川 春香さん永久単推し全肯定おじさん。たとえ重川さんが旧校舎の渡り廊下で勇者や魔王や竜の騎士になっていたとしても、引いたりなんてしないのだよ!

 

「ほ、ほんとう?」

 

 膝を抱えて俯いていた顔を上げ、俺の方をジト目で見上げる重川さん。

 その目元は少し潤んでいて、腕でゴシゴシと拭っていたせいで少し赤くなってしまっていた。

 ジト目の重川さんも凄まじく可愛いが、今はそれどころではない。

 

「重川さん、動かないでね」

 

 俺は重川さんに駆け寄って、カバンから予備のハンカチを取り出し、めちゃくちゃ優しい手付きを意識して目元に少し残っていた水滴をふき取った。

 

「ほんとうだよ、重川さん」

 

「う、うん……ありがと、佐藤くん」

 

 俺の行動に驚いたように目を見開いて顔を真っ赤にしていた重川さんは、そのかわいすぎる顔を隠すように目を背けてしまった。もっと見たかった……。

 っていうかこのハンカチで重川さんの涙を拭ってしまったぞ!こんなものもう家宝だろ!ありがとう重川さん、末代まで大切にするね!

 

「ご、ごほん!じゃあ、これはちゃんと洗濯してすぐ返すね!ありがとう!」

 

「え?あ、いや、うん、はい……」

 

 あっさりと家宝のハンカチを回収されてしまった。重川さんったら、気にしなくていいのにな。でもそういう優しいところも大好きです!

 

「佐藤くんはさ、本当に私のア、アバンストラッシュを全く、これっぽっちも!ぜーんぜん!気にしてないんだよね?ね!」

 

「え?」

 

「気にしてないんだよ、ね?」

 

「あ、はい、全然気にしてません」

 

 おや!?……重川さんのようすが……!

 すごくかわいい良い笑顔なわけだけれど、その笑顔の裏にすこしうすら寒いものを感じるのは私だけなのでしょうか……でもその滲み出す闇もまた味があっていいね!

 

「じゃあ、はい」

 

 重川さんは怖い笑顔のまま、俺に一本の傘を差しだしてきた。

 すごく嫌な予感がするのは俺だけだろうか……?

 

 

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