隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~ 作:バカ太郎
差し出された傘と、重川さんの顔を交互に見る。
あぁ、そういうことか。分かる、分かるよ重川さん。俺は察しが悪い鈍感系モブではない、察しの良い敏感系モブなのだ。重川さんの求めているものなんて手に取るように分かる。つまり……。
「分かったよ、重川さん」
俺は突いていた膝をゆっくりと立ち上げて、両足で地面をしっかりと踏みしめる。
緊張からか、身体は
受け取った傘からはまるで聖なる力を宿した剣のような特別な何かを感じた。
そうだ、俺は勇者なのだ。女神・重川神さまから今、俺は聖剣を授けられたのだ。魔王を滅するために。
「重川さま、俺を……見ていてくれ……」
俺は瞳を閉じて聖剣を逆手に構え、極限の集中に入った。自らの輪郭がぼやけて周囲の世界に溶けて消えていく。まるで俺が天空と、海洋と、大地と、世界と一つになってしまったように錯覚するほどの集中。
「ふぅぅぅ……」
俺の額に青く煌めくドラゴンを象ったような紋章が浮かび上がる……ような感じがする。
今、魅せるッ!
「アバン……ストラァァアッシュ!!」
渾身の一撃が空を裂き、海を破り、大地を穿つ!万物を斬り裂く斬光がブレのない直線の軌跡を空中に描く。ズバンッという風を切る音が渡り廊下に轟いた。
「さ、佐藤くん……」
フッ、決まったな……俺の社会的な死が……。この歳で全力のアバンストラッシュを好きな人に見られるとか……もう死ぬわ。メガンテでこの町ごと心中します。あとは頼みますよ。
「も、もしかして君は……」
全生命エネルギーが爆発力へと変換され、暴れ狂う。肉体の内側からスベテを破壊していく。体の表面にはひびが走り、そこから虹色の光があふれだした。
今までありがとう、重川さん。幸せ……に、なってくれ……。
「勇者……ダイ……?」
おっと、流れ変わったな。やっぱメガンテなし!
自爆技はよくないよ。たとえそれが生存フラグだったとしても、ね。
「でもね、私も勇者ダイ……つまり、もう一人の……私?」
え?なんだこの展開は?ダ〇の大冒険の本編では見たことないんだけど……。
ハッ!も、もしかしてこれはジャンプ作品で大体出てくる、自分の内面の闇的なのと戦う展開なのでは?まさか重川さん脚本のオリジナルストーリーだとでも言うのか!?
「剣を……」
重川さんは僅かに口角を上げて好戦的に笑った。まるで負けられぬ決戦に挑もうとする勇者のように。その姿は後光がさしているように見えた。
そんな目で見られては、応えぬわけにもいかない……な。
「そうか……ならば勇者ダイ、いや、もう一人の俺よ!真の力を魅せてみろ!」
俺は握っていた重川神さまから授かった聖剣を
聖剣を受け取った重川さんは小さく頷くと、瞳を閉じてすさまじい集中状態に入り、柄を逆手に握りこんだ。その立ち昇る溢れんばかりの闘気は、先ほどの俺のそれを上回るほどだ。
一体、何が来るというのか……。
「ギガ……」
「なっ……!?」
まさかアレを使うとでも言うのか!?竜の騎士の最強の秘剣と勇者の万物を斬るとされる奥義を掛け合わせたあの技を……!
「ッ!」
重川さんのクリクリした大きな瞳が見開かれた。
さぁ、来る——ッ!
「ストラァァアアシュゥゥ!!」
「ぐおぉあがああああああああ!!」
凄まじい気迫と共に放たれたギガストラッシュは、俺の一寸先を風を割く轟音とともに斬り裂き、俺に対して完膚なきまでの最高の一撃を魅せてくれた……これが、真の勇者……か。
——と同時に、凄まじい音を立てながら重川さんの傘が崩壊した。それはまるで、己の役目を完全に全うしたとでも言わんばかりのものだった。
「き、君が……真の、勇者……だ……必ず、大魔王を……倒すんだ……勇者、ダイよ……もう一人の……お、れ……」
膝を屈することは俺を打ち負かした勇者への冒涜だと思った。そうだ、俺はいま、負けたのだ。
膨れ上がる悔しさと、ちょっとばかりの誇らしさ。俺は、負けたのが君でよかった。心からそう思う。
「わかったよ、私が絶対に、大魔王を倒す……約束する、もう一人の……私」
重川さんの瞳に溜まった大粒の涙が零れ落ち、一筋の光を形作った。
そうか、約束してくれるか……安心したな……少しだけ、眠るとする……か……。(返事はない。ただのしかばねのようだ。)
そうして俺は、立ったままその生涯を終えたのだった。
「うっ……ううっ……ひっく……」
う、うん。完全にやらかした。やりすぎちゃった。俺の名演技で重川さんをガチ泣きさせてしまった……。
早く復活して終わりにしたいけど、まだ続いている可能性があるせいで起きられないぞ!てかちょっと待てい!今重川さんの傘崩壊したよね!?ただぶっ壊れる以上にぶっ壊れたよね!?そりゃ全力で振り回すものじゃないから壊れるのは仕方ないかもしれんけど!
なんて考えている間にもまぁ、不幸は重なるもので……。
「あなたたち、さっきから何をしているの……?」
「なッ!」
「?」
凛とした声が不意に響く。
いつからそこに居たのか、旧校舎から新校舎に続く渡り廊下の扉に、彼女は居た。
白銀のストレートヘアーに、日本人離れした顔立ちと晴天のような蒼い瞳——噂じゃ、どこかの国のハーフだとか——で日本でも有数の財閥の一人娘であり、成績も優秀で運動神経も抜群。
おそらくこの世界のメインヒロイン級の存在、鈴峰一年五大プリンセスの一人、
「……」
「……」
「……」
場を支配するのは雨音のみ。いつの間にか吹奏楽部の演奏も止まっていた。
三人のうち、口を開く者はだれ一人としていない。
場に漂う静寂は、俺が重川さんのアバンストラッシュを初めて目撃してしまったときのソレ以上に重苦しく、絶望感を感じるものだ。
今のはメラゾーマではない。メラだ。くらい絶望的。
——終わった……。
そう、俺はもう終わりだ。入学してそろそろ三ヶ月が経とうとしている今、俺の高校生活は終わってしまったのだ。
今回のことはすぐに一年生たちの間に……いや、学園中に広がり、俺たちは高校生にもなって放課後の学校でダ〇の大冒険ごっこに興じたアタオカ変態野郎ということになってしまい、行く先々でひそひそと噂され、いじめられてしまうのだろう。
こうなってしまっては、策はもう一つだけだ。この絶望的状況を覆す起死回生の一手……これだ!
「逃げよう!」
「え?……あ……」
咄嗟に重川さんの手を取って俺の小さな傘を開いて渡り廊下から駆け出した。
白崎さんから見える方向に居たのは俺だ。だから重川さんの顔は位置的に俺の陰になって白崎さんからは見えていなかったはず。
俺の顔はばっちり見られたしどんな言い訳も通らないだろうが、最低限重川さんだけは守ってみせる!
「さ、佐藤くん……すごく濡れちゃってるよ、大丈夫?」
「俺は平気だよ、制服は洗濯すればいいし、風邪なんて生まれて引いたことないからさ、それより、重川さんは大丈夫?濡れてない?」
「う、うん」
小さな傘を重川さんの方に差しながら、校門に向かって雨の中を二人で必死に走る。
もちろん、重川さんのペースに合わせることは忘れない。後ろから白崎さんが追いかけてきてる気配もない。
「佐藤くん……手、繋いじゃってる……よ?」
校門から出て二人でしばらく走って学校から離れたとき、顔を赤くした重川さんが小さく呟いた。
や、やばい!慌てすぎて思わず重川さんの手を握り締めてしまっていた!
「あ!ご、ごめん、つい……」
慌てて手を放す。めちゃくちゃドモってしまったじゃないか!へ、変態だと思われたかもしれない……まさか、嫌われてしまったり……?
クソッ!手を繋ぐのならもっと手の感触に集中しておけばよかった!
「ううん、私は気にしてない……よ?」
上目づかいでそう言う重川さん。か、かわいすぎる……。ってか!そんなことより……。
「重川さん……傘、壊してごめん……」
「佐藤くん?」
謝らなければならないと思っていた。
重川さんの傘が壊れてしまったのは俺のせいでもあるからだ。
俺が全力でアバンストラッシュをして振り回さなければ、重川さんのギガストラッシュに耐えられたかもしれない。
たらればでやってしまったことをグダグダいうのはダメだと分かっているけれど、俺は大人として人様の傘を全力で振り回すなんてすべきではなかったし、俺は彼女を諫めなければならなかったのではないのか?
でも、そんな当たり前のことを忘れてしまうほどに、重川さんとのダ〇の大冒険ごっこは楽しかった。年甲斐もなくはしゃいでしまった。それがこの様だ。
「お、俺のせいで、重川さんの傘を……」
怖くて重川さんの顔を見ることができなくて俯いてしまう。
分かっている、重川さんが怒っていないなんてことくらい。俺は重川さんと学校の誰よりの仲が良くて、誰よりも重川さんを見てきた自信がある。
でも、だからこそ申し訳がなかった。俺が重川さんのやさしさに付け込んでいるようで……それに、無いと信じていても、もしもこれで重川さんに幻滅されて嫌われてしまったら……。
「佐藤くん!」
——ギュッ……。
何か柔らかいものが俺の両頬を包んだ。すべすべとしていてしっとりとした感触。
俺は何が起こっているか分からなくて、顔を上げて重川さんを見た。
「重川、さん……」
そこには顔を真っ赤にしながらも、芯のある瞳で俺を見つめ、「私怒ってます!」と言わんばかりに頬を膨らませる重川さんが居た。
「佐藤くんは全く!これっぽっちも!ぜんっぜん!悪くないよ!」
「でも……」
「でももだってもなし!私が佐藤くんにアバンストラッシュしてって言ったんだし!それに傘壊しちゃったのも私!」
なんて優しんだ……分かっていた。重川さんはそう言ってくれることくらい。
でも、俺は本当は大人だから……気を付けないといけない立場だったのに……俺は。
「……私、佐藤くんと一緒にダ〇の大冒険ごっこ出来て楽しかった。……それだけじゃないよ、ねりけしも、シャー芯タワーも、コ〇ラのマーチ探しも……高校生になって、中学生の時からは想像もできなかったくらい、私本当に毎日が楽しい!……それは、佐藤くんのおかげだよ?」
ニコリと笑う重川さん。その笑顔は今まで見てきた中で一番かわいい笑顔だった。
ただでさえいつもの笑顔もかわいいってのに……本当に、重川さんのかわいさに限界はないのかもしれないな、なんて……。
「お、重川さん!」
俺も楽しかった!こんなに楽しい高校生活なんて想像もしてなかったくらいに!
ずっと求めていた青春を感じて、君をいつの間にか好きになっていて……も、もう限界だ!重川さん大好きメーターが限界突破してしまった!
こんなこと言われて、はいそうですかで終われるわけがないだろ!君に伝えたい、今のこの想いを!もうここで告白します。俺の前世含めた初告白をここで使っちゃいます!
「聞いてほしい!」
「え?……えぇ!?」
俺の決意のこもった瞳を見て察してしまったのかもしれない。重川さんもどうやら鈍感系ヒロインではなく敏感系ヒロインなのかもしれない。
ならば引けぬ!俺のすべてを!この一言に込めるッ!
「お、おれ、おれも、高校生活、ほんと毎日楽しくて!前じゃ、想像もできなかったくらいで……それで、お、俺は!重川さん!き、きみのことがッ!す、す、すすす……」
重川さんの潤んだ瞳に真っ赤になった顔、雨の中で二人きりの小さな傘の中……そこで気づいた。
お、俺今……重川さんと相合傘もしてる……?
手を繋いで、相合傘もして、告白もするんか?これでもしも振られたら……あ、あ、あばばばばばばば(脳破壊)。
「……こ、これ!傘!あ、あげるから!返さなくていいから!それじゃ!」
「ちょっ……え……?佐藤くん!?」
俺は気がついたら、重川さんに傘を押し付けるように渡して大雨の中を駆け出していた。
む、無理だ……同じクラスで!しかも隣の席なんだぞ!振られたらまじで学校いけなくなって不登校になる自信がある!
というか!そもそも重川さんがおもしろすぎるしかわいすぎるのが悪いんだ!
重川さんが俺の前に居るだけで、ドキドキが止まんなくなって、頭回らなくなって、どうすればいいのかわからなくなってしまうんだ!
「く、くそぉぉぉぉおおおお!!!!なんで俺はこんなに雑魚でヘタレなんだよぉぉぉおおお!!!」
ひたすら駅へと全力ダッシュしながら叫んだ言葉は、大きな雨音に飲まれてすぐに消えていった。
大雨の中を走り回った俺はそのあと風邪を引き、思いのほか長引いてしまったせいで中間試験を受けられず、追試が確定するのだった……やっぱり雨は嫌いだ!