隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~ 作:バカ太郎
六月の終わりが本格的に近づき、雨ばかりの日々が終わりを迎えた時節。
容赦のない日照りが俺たちの汗と共に、貴重な体力を容赦なく奪っていく、そんな放課後の時間のこと。
外からは部活動に励む青少年の声が響き、吹奏楽部の奏でるクラシックもかすかに聞こえてくる。
そんな中で、特別教室の一番後ろの席で座っている俺はいま、凄まじく苛立っていた。
なぜ、俺が苛立っているのか。
それは俺が今”追試を受けさせられているから”というのも理由の一つだ。
あの日、重川さんとダ〇の大冒険ごっこをして雨の中を突っ切って、そのままバイトを終えて家に帰ってから凄まじく体調が悪くなってしまったのだ。人生で初めて風邪というものを引いた。あんなにしんどいんですね……完全に舐めてたわ。
そのせいで中間考査を受けられず、こうして放課後に特別教室で追試と補習を合計で一週間も受けさせらることが決まってしまった。
だが、それだけではない。
加えて、先日のダ〇の大冒険ごっこから”重川さんが話しかけてくれなくなった”というのもある。おそらく、俺の告白未遂を彼女に見抜かれていたからだ。
授業中や休み時間に目が合うたびに、重川さんが視線を逸らしてしまう。
昼休みに話しかけようとしたらどこかに走り去ってしまったくらいだ。
避けられているのが手に取るように分かってしまう。真面目に悲しい……このまま避けられ続けて、話す機会を失ったまま距離がどんどん開いていって失恋をするのだろう……。はっはっは、学校辞めたい(自暴自棄)
はぁ……こんなに気まずくなるのならいっそ、あそこでちゃんと告白しておけばよかった。
だが!それだけでもない!いや、先ほどの二つは俺が悪いからまだ許せるんだ!悲しいだけで!
だが、これだけは許せない!許せるはずがない!いっちばんイライラする!それは……。
「もうっ!真太郎ったら!ほんっとバカなんだから!」
「あはは、これむずかしくて……ごめんね、亜里沙さん」
「べ、別に謝ってほしいわけじゃないから!さ、さっさと手を動かしなさいよねっ!ほんと……わたしが居ないと、ダメなんだから……」
「ん?なんか言った?」
「な!なんでもないからっ!」
そう、これである。なんやねん、これ。
前の方の席に座る、黒く長い前髪の男子生徒と金髪ツインテの女子生徒の二人。
男子生徒の方はこの世界の主人公的存在であろう”長門 真太郎”、そして女子生徒の方はよく廊下で主人公と痴話げんかを繰り広げている”鈴峰一年五大プリンセス”の一人”
俺が人生で五指に入るほどに苛立っている理由、それはこいつらがまじのガチでうるさすぎるせいである。
なんでこんなうるさいツインテが学園の男子からあんなにもモテモテなのか……顔か?顔なんか?ちくしょうがッ!重川さんの方が軽く五倍はかわいいわ!
お前もだよ前髪主人公この野郎!さっきの「私が居ないと~」のくだり、すこし離れた席にいた俺までばっちり聞こえてたからね!?なんでアイツはあれが聞こえないんだよ。
はぁ~、鈍感系難聴主人公はこれだからクソなんだ!その耳は飾りか!?外耳でもっと音拾えや!中耳で鼓膜もっと震わせろや!内耳でしっかり電気信号に変換しろや!耳悪いね~眼科行け。
なぜ主人公組の二人が追試を受けているのかって?
それは俺もよく知らないが、噂によれば、なんか二人はテスト期間中にストーカー事件に巻き込まれてごたごたしていたから、中間試験を受けられなかったらしい。
その事件の中で、主人公の長門くんがあの金髪ツインテツンデレ女をストーカーの魔の手から助け出したという。
ほ~ん、それで惚れられたわけだ。
俺だって重川さんがストーカーなんてされてたら命を懸けて助けるもんねー!ま、俺も重川さんも平穏に学生生活を過ごすのが一番だけどさ。
「よし、今日の追試と補習は終わりだ、また明日、放課後にこの教室に集合するように!解散!」
生活指導の先生である千田先生の号令が響き渡る。
や、やっと終わったぁ……。
これから一週間は毎日追試と補習ってマジかぁ……。
こいつらのイチャイチャをこれから一週間、毎日見せつけられるの?どんな拷問?俺は重川さんから露骨に避けられてメンタルが崩壊しそうだっていうのにさぁ!古代ローマでもここまで慈悲のない拷問考えなかったぞ!
ほんと世界って不条理で理不尽だわ。人類って地球の癌細胞。誰か今すぐこいつら滅ぼせや!人造人間でも宇宙人でも魔王でも何でもいいからさぁ!
「ほら!さっさと帰りましょ!今日は駅前のカフェに付き合ってもらう約束なんだからっ!行くわよ!」
「わ、分かったよ亜里沙さん……ふっ、仕方ないなぁ」
「し、仕方ないってなによっ!真太郎の癖に生意気なんだからっ!」
「あはは、ごめんごめん」
ふぅ……そうだよな、俺が間違っていたよ。
誰かに人類滅ぼしてもらうのをお願いするなんてダサいよな。よし、俺がこの手で今すぐこいつらを滅してやる。
この教科書を詰め込み過ぎて重量がとんでもないことになってしまっているカバンで、その軽そうな頭を撃ち抜いてシバきまわしてしてあの世への片道切符をくれてやるわ……!
くっくっく、失恋がほぼ確定した男の前でイチャイチャしたお前らが悪いんだぜ……?う、恨むんじゃねぇぞ!
二人で痴話げんかを繰り広げながら特別教室から出ていく二人を後ろから強襲すべく、音を殺して後を追っていく。
一瞬でも気を抜いて隙を見せてみろ、この俺が食い〇してやるわ!グルルルル、オレ、ハラヘッタ。ムカツク、リア充、クッテイイカ……?
「さ、佐藤くん!」
「へ?」
廊下の角を曲がった主人公たちをこそこそと追っていた俺を誰かが呼び止めた。
心地の良いソプラノの声、かわいらしい抑揚、それは今日一日俺が求めてやまなかったもの。
「お、重川……さん……」
振り返った先にいたのは、チラチラと俺を見ながらもじもじしている重川さんだった。
か、か、かわいいいいい!!夕陽に照らされる重川さんの破壊力やばすぎるぅ!天使……この残酷な世界に舞い降りた平和の天使なのか……。
それにしても、重川さんは追試じゃなかったはず……とっくに授業は終わっているし、部活にも入っていなかったはずだ。なんでこんな時間まで学校に居るんだろう?
「あ、あのね……これ、返し忘れてたから……わ、私、この前の、その……あれが恥ずかしくて!さ、佐藤くんの顔見ちゃうと思い出しちゃって……今日一日、避けちゃってごめんね」
潤んだ瞳の重川さんに見つめられる。手には綺麗に畳まれた俺のハンカチが軽く握られていた。
そうだった、あの時、重川さんの涙を俺のハンカチで拭ったんだった……まさか、これを俺に返すためだけに俺を待っていたとでもいうのか……?え?なに?そんなに俺を惚れさせて楽しいか!
俺の顔が真っ赤になってしまっているのが分かる。は、恥ずかしい……でも、嫌じゃない。
「あ、ありがとう……」
あ、あかん……今日一日重川さん成分を摂取できていなかった俺に、いきなりこの可愛さの重川さんは刺激が強すぎる……お、俺のリア充への憎しみが……闇が、浄化されていく……重川さんのぽわぽわした光に照らされて……。
争いって、なんてむなしいんだろう。みんな幸せになれればいいのに、みんな笑顔で手を繋ごう。平和万歳!ラブアンドピース!
「い、いや!違うんだ!重川さんは悪くなんてない!俺がヘタレだったというか……その、とにかく!俺のせいだから!謝らないで、重川さん!」
告白未遂は本当にヘタレた俺が百パーセント悪いし、あんなことされたら気まずくなって避けるのは当然だ!今日だって俺が勇気をもって声を掛ければよかっただけだ。
弱腰でヘタレでビビりな俺が全て悪いんだ。それなのに、重川さんに勇気を出させて俺に話しかけさせ、謝らせてしまった。
「いや、私が悪いから!今日、佐藤くんは私に話しかけようとしてくれてたでしょ?それから逃げちゃってた私が悪い!」
「いや、俺が悪いんだ!結局話しかけられずに重川さんに話しかけさせて、謝らせてしまって……ずっとヘタレな俺が悪い!」
オレンジ色の夕陽が差し込む放課後の真ん中で、重川さんとどちらが一番悪かったかで言い争う。
でも、ここだけは譲れない!なぜなら俺が100:0で悪いからだ!
「いや!私が悪い!」
「いや!俺が悪い!」
どれほど言い合っただろうか。どちらが悪いかの言い争いは、どちらも全く譲るつもりはなさそうで、このままだと一生終わらなさそうだ。本当に、重川さんは今まで出会ったどんな人よりも優しくて、素敵な人だ。
「ふっ、このままじゃ一生ここで言い合ってそうだな」
「ふふっ、そうだね……じゃあ、どっちも悪かった……ってことで」
「うん……ありがとう、重川さん」
俺は重川さんの手からハンカチを受け取って、綺麗に畳まれまま、その形を崩さないように慎重にスラックスのポケットに収納した。
その瞬間にハンカチから微かに香った匂いが、フローラルな重川さんと同じ匂いで、変態みたいだけどかなりドキドキしてしまう。
さすがに俺キモ過ぎか……?