隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~ 作:バカ太郎
重川さんが俺を待っていてくれた。その事実だけで、冷え切った心がポカポカと温かくなってくる。
本当に、なんて単純なんだと自分のことながら呆れるわ。
「……それじゃ、私は、ここで」
そう言った瞬間に背を向けて駆け出してしまう重川さん。
きっとこのまま帰ってしまうのだろう……。明日もまた会える。そして前と同じように一緒に面白いことを楽しんだり、気兼ねなく話せる関係性に戻るだろう。だから今日はお別れして……でも、俺は……。
「お、重川さん!」
いやだ、まだ別れたくない!明日会えるじゃいやだ!俺はもっと重川さんと話していたい!迷惑かもしれないけど、嫌がるかもしれないけど、それでも俺は重川さんとまだ一緒に居たい!
重川さんは勇気を出して俺に声を掛けてくれた。俺の追試と補習が終わる時間を待ってまで。
なら今度は、重川さんと比べたらちっぽけだけど俺が勇気を出す番だ。
「一緒に、帰りたい!重川さん!」
「……え?」
夕陽の中で驚いたように目を見開いて振り返る重川さん。
それは、見返り美人って重川さんを題材にして描かれたのではないか、そう思えるくらいに素敵な光景だった。
「……え、あ、いや、もう時間も遅いし!女の子一人は危ないよ!大丈夫!本当になんもしないから!……いや、こういうこと言う方が怪しいってのは分かってるんだけど、その……俺まだ、重川さんと、話していたくて……」
早口でまくし立てるように言い訳を並べてしまう。
いや、今の俺……さいっこうにキモくね?いや!俺本当にそういうつもりないからな!
「だ、ダメかな……」
だってさ、もう時間は十八時回ってるし!夏だといっても暗いところは暗いし!主人公と金髪ツインでなんて先日ストーカー事件に巻き込まれたって言うし!そりゃ、重川さんともっと一緒に居たかったのが一番だけど……。
「……わ、私も……もっと、佐藤くんと一緒に話したいって……思ってた……」
き、聞き間違いか?今俺に都合がよすぎる幻聴が聞こえたぞ?重川さんも一緒に話したいって、そう言ってくれたように聞こえたんだが……それじゃあ、もしかして……。
「じゃあ、い、一緒に帰ってくれる……ってことで、いいの?」
「う、うん……って!もう!恥ずかしいから何回も言わせないでよ!ほらほら!行こ!」
「重川さん……って!ちょっ!足はや!」
制服のスカートを翻しながら駆け出す重川さんを、重たいカバンを肩に掛けなおしながら追いかける。
重川さん意外と足早いなおい!結構身長も小さめで華奢な印象だったのに、運動神経もいいとか欠点なさすぎないか?やっぱり天才じゃったか。
「ねぇ重川さん、学校を出てすぐのところのコンビニに売ってるいくらおにぎりがすごく美味しいんだ!帰りに買っていこうよ!」
「えー!佐藤くん、学校帰りに買い食いなんて悪い子なんだー!先生に言っちゃおー!」
「先生はやめてよ~、いくらおにぎり奢るから!後生だ!」
「……ねぇ知ってる?コ〇ラのマーチ、新しい味が出たんだよ?おいしそうだったなー、佐藤くんと一緒に食べたいなーチラッチラッ」
「買っちゃいます!」
「むふふ、買収されてあげましょう!」
校門から外に出て横に並びながら、帰りにコンビニに寄って買い食いする約束を取り付けた。よっしゃ!よくやった俺!
やっぱり、重川さんと話すのは楽しい。この時間のためだけにこの世界に来たんじゃないのかなんて思ってしまうくらいに。
今日無性にイライラしてしまったのは重川さん成分が不足してしまっていたからなのだろうな。
重川さんは危険薬物だった……ということか?オモカワ・イースギル的な成分でも出ているというのか!?佐藤 優斗(精神年齢 三十路越え)、もうこれなしじゃ生きていけないよ~。
「ねぇねぇ佐藤くん、見て!キリン召喚!」
最寄りのコンビニに行くまでの時間、重川さんは突然そう言って地面の影を差した。
そこには夕日に照らされて縦に長く伸びたキリンの影絵を作っていた。すごいデカさのキリンだ!これもうキリン越えてキングギドラみたいになってますやん!あと二本これ作ったら完全にキングギドラになっちゃうよ!
「なに、キリンだと!重川さんやるな!なら俺も見せてやる!ガネーシャ召喚!」
両手を複雑に絡ませながら、夕日の夏空の下に巨大な象を召喚する。
縦長になってしまっているせいで少し格好がつかないが、その大きさでイケメン度をかさ増ししてるからセーフだろ。
デカいってのは強いってことだから!そして強いってことはかっこいいってことだから!
「ぐぬぬ……佐藤くん、やはりやる……!」
「くっくっく!さぁ重川さん……!闇のゲームの始まりだぜ!」
召喚したガネーシャの口をパクパクさせながら「パオーン」とアフレコして重川さんが召喚したキリンを威嚇してみる。
重川さんのキリンは少し怖がっているようにぷるぷると震えている。ちょっとかわいい。
「でも私は負けない!佐藤くん!喰らえ、キリンタックル!」
重川さんは影絵のキリンを影絵のガネーシャにぶつけようとする。
だが、それをただ眺めているだけの俺ではない!
「ふはははは!重川さん!そんなもの、我がガネーシャには当たらぬわぁ」
コンビニへ歩を進めながらも、影絵大怪獣バトルが白熱していく。
重川さんのキリンが俺のガネーシャを苛烈に攻めるが、それらは全てガネーシャの身軽な動きに翻弄され、まるで闘牛士に突っ込む闘牛がひらりとあしらわれるように、のらりくらりと回避していく。
「くっ!キリンの攻撃が当たらない!さすが佐藤くんのガネーシャ!」
「ふっ、さぁ今度はこちらの番だ!くらえぃ!ガネーシャダイナマイトボンバー!デュクシ!」
キリンの攻撃後の僅かな後隙に、ガネーシャはカウンターをねじ込んだ!
重川さんのキリンに口を開いたガネーシャの鋭利な牙によるかみつき攻撃が突き刺さり、細長い首に致命的なダメージを与えた。
勝ったな。俺は勝負事には好きな人相手にも容赦がない男なのだ!
「うわああ!私のキリンがぁ!」
「俺の勝ちだな、良い戦いであった、
そんなことをしていたら、コンビニ近くの大通りに来てしまっていた。
コンビニ近くの大通りってのは結構人がいるもので……。
「あらあら~」
「クスクス」
「おかあさん、あの人たちのやってるの今度やろー!」
「仲良さそうね~」
お買い物中の近所のママさんたちから、なにか微笑ましいものを見るような生暖かい目を向けられてしまうのは、仕方のないものだろう。
む、夢中になりすぎたぁ!重川さんめ!まさかこれも策略か!?俺はいつの間にか重川さんの術中にはまっていたとでも言うのか!
「あ、あぅ……」
と思ったけれど、重川さんも顔を真っ赤にして照れていたから俺と一緒で、影絵大怪獣バトルに夢中になってしまっていたんだろうな。
すごく恥ずかしいけど、隣に同じ思いを共有している人がいるってだけで全然違うものだ。
もしかしたら重川さんの方も「佐藤くんの策略か!?」なんて思っているのかもしれないな。そう思ってたらめっちゃおもろいな。
「じゃ、じゃあさっさとコンビニ行っちゃおう!うん!急ごう、重川さん!特に理由はないけどね!」
「そ、そうだね!特に理由はないけど、急ご!理由はないけどね!」
残り少ない距離を二人並んで駆け出す。べ、別に他の人たちからの視線が恥ずかしいわけじゃないんだからね!か、勘違いしないでよね!(金髪ツインテツンデレヒロイン)