隣の重川さんは今日もおもしろかわいい ~ ラブコメ世界のモブAに転生したけどヒロインたちより隣の席の重川さんがおもしろかわいすぎて夢中になってるんですが助けてください ~ 作:バカ太郎
「いらっしゃいませ~」
安心感を感じるおばちゃん店員さんの挨拶と独特な入店音。
それらを聞きながら二人並んでコンビニの中に駆け込み、俺たちはとりあえずホッと一息つくことができた。
「重川さん、大丈夫?」
「う、うん……いやぁ、急いだね!特に理由はないけど!急ぎたかっただけだけど!」
「ほ、ほんまそれな!」
重川さんと二人で笑いながら、そのままおにぎりコーナーに直行して、お目当てのものを探し始める。
なかなか人気商品だからなぁ、まだ残っているのか。頼む!残っていてくれ!
「あった!これだよ、このいくらおにぎりが本っ当に美味しいんだよ!」
「へぇ、すごく美味しそう……って、これ結構お高めのおにぎりじゃん!や、やっぱり悪いよ……」
「いいんだよ、重川さん!それに心配しないで、俺バイトしてるから!多少はね?」
「で、でも……」
「でももだってもなし!ほら、コ〇ラのマーチ見に行こ!実は俺も新しい味、結構気になってるんだよ!」
三百円越えの高級コンビニおにぎりを二個右手に持って、お菓子コーナーに先導して重川さんを連れていく。
家にお金を入れているし、学費も多少払っているから余裕があるわけではないけれど、たまにはこういうのもいいだろう。
それに、男という生き物は好きな女の子に格好つけたい生き物なのだ!
「これだよ、新しい味!」
お菓子コーナーにはたくさんのお菓子が陳列されている。重川さんはその中の一つを手に取って俺に見せてくれた。
「これが……」
コ〇ラのマーチ チーズケーキ味……こんなの出てたんだ、知らなかったな。
今すごくお腹減っているし、糖分も不足してるからめちゃくちゃ美味そうに見えるんだけど……。
「それじゃこれも二個!重川さん、ちょっと買ってくるから待ってて!」
会計に行こうとする俺の制服を、重川さんがキュッと控えめに握りしめた。
「さすがに私も払うよ、バイトしてるから大丈夫って言ってたけど、全部合わせたら千円くらい行っちゃうよ?」
上目づかいで首をかしげながら俺の顔を覗き込むように見上げる重川さん。
やっぱり重川さんはすごく優しいな。未来の世界では奢り奢られ論争とかあるってんのに。
確かに、学生の身からすればとても大きいけれど、千円でこんなに申し訳なさそうにして財布まで出してくれる時点で、最高に奢り甲斐があるってもんだ。
「ほんとうにいいんだよ、重川さん、俺が君に買ってあげたいんだ」
「……ごめんね、佐藤くん」
「謝らないでいいよ、それに俺は重川さんにありがとうって、言ってほしい!」
「あ、ありがとう……佐藤くん……」
控えめに笑う重川さん。ふぅ……やっぱり重川さんの笑顔は万病に効くぜぇ……。
一緒にいるだけで追試と補習と目の前でイチャつかれたことでささくれ立った心が癒えていくよ。
天才セラピストとしての才も持っているというのか?さすが重川さんだ!何でも買ってあげちゃいたい!もっと貢がせてください!
「はい、重川さん」
「ありがとう、佐藤くん……大事に食べるね」
会計を済ませ、レジ袋に入ったいくらおにぎりとコ〇ラのマーチ チーズケーキ味を重川さんに手渡した。
この時代はまだレジ袋無料だったなそういえば……無慈悲な時の流れを感じてしまった。世知辛いなぁ、未来。
「あむっ!……おいしい……!本当におにぎり美味しいよ!佐藤くん!」
「でしょ!これコンビニクオリティ越えてるよね!」
コンビニ前にあるU字の金属ポールに重川さんと並んで腰かけ、二人でいくらおにぎりを頬張った。
しょうゆ漬けにされたぷちぷちのいくらが、口の中でほろほろのご飯と、はごたえのある海苔と混ざって深い味わいを演出している……なんて下手な食レポをしたけれど、一言でいえばめっちゃうまい!重川さんも気に入ってくれたみたいでよかった。
「つぎはコ〇ラのマーチ、行きますか!重川隊長!」
「では探索開始だ!行くぞ!佐藤隊員!」
二人でコ〇ラのマーチを開けて、その中の一つを手に取った。もちろん今日もレア柄狙いだ。なぜなら俺たちはトレジャーハンターだからな!真のトレジャーハンターは本能的に秘宝を求めるのだ!
「普通の柄だなー……重川さんの方はどう?」
「うーん、私の方も普通のやつかなー」
普通かぁ……正直あーんを期待してなかったと言えばウソになる。クソッ!レア柄だったらまた「おすそ分け」が出来たかもしれないのに!
「佐藤くん、いっせーので一緒に食べよ!」
「そうだね、チーズケーキ味なんて想像もできないな」
コ〇ラのマーチ チーズケーキ味を顔の前に構える。
見た目は、チョコ味のノーマルよりも少し白っぽい感じがする、匂いはかすかに甘い匂いがするけれど、普通のコアラとあまり違いは感じないかな。これも普通に美味しそうだ。
「じゃあいくよ!いっせーのっ!」
二人同時にコアラを口に放り込んだ。
噛むとサクサクとした食感と共にチーズケーキの豊潤な香りが鼻を抜け、優しい甘みが口いっぱいに広がった。糖分不足の身体に染み渡るぅ~めっちゃ美味しい~。
「めっちゃ美味しいよ!重川さん!」
「美味しいね!やっぱりコ〇ラのマーチに外れは……ないッ!」
グッと両手を胸の前で握りしめる重川さん。重川さんがたまにするこの動作、かっわいいんだよなぁ……写真撮らせてくれないかなぁ……変なことには使わないからな!待ち受けにして部屋の壁紙にするだけだから。うん、変じゃないな。
俺たちはそのあともチーズケーキ味のコ〇ラのマーチをパクパクと食べ進めたが、レア柄のコアラは発掘できなかった。
おすそ分けがぁ……重川さんのあーんが……。安西先生、おすそ分けが、欲しいです。
「レア柄欲しかったなぁ……『まゆげコアラ』、『鼻血コアラ』、『盲腸コアラ』……おすそ分けイベントが……」
「佐藤くん……じゃあ、次回また、リベンジしないとね!」
そ、それってまさか、またいつか一緒に帰って買い食いしてくれるって……ことぉ!?
「う、うん……また次回!次こそ当てるから!」
「うん!私も楽しみにしてるね!次回!」
あ、あかん、重川さん……好きだ……。人類って偉大だわ。滅ぼすとか言ってるやつ頭おかしいよ。
人間の美しさや輝きというものを教えてあげたい。俺は人類を愛している。ありがとう、世界。
「それじゃ、帰ろっか」
「そうだね、重川さん」
食べた後のごみを一つのレジ袋にまとめながら、並んで歩く。
眼前に在る大きな夕陽が、立ち並ぶ民家の陰へと隠れていき、後ろから紫色の空がゆっくりとオレンジの空を染め上げていく。
重川さんの家は、ここからそこまで距離があるわけではないらしい。
そろそろ別れが近づいているのだと思うと、もうこの時間が終わってしまうのだという事実に、言いようのない虚無感のようなものを感じてしまう。
こんなの、少し女々しすぎるか……。
「……」
「……」
俺も重川さんも、何をしゃべるわけでもない。二人の間には沈黙とアスファルトを踏みしめる音だけが響いていた。
だけれど、不思議なことに全く気まずさを感じなかった。
心地よい沈黙なんて小説ではよく目にしていた表現だけれど、本当に存在しているなんて思ってもみなかった。都市伝説じゃなかったのか、心地よい沈黙。
でも、どんなに心地よい時間でも、終わりというものは存在するもので……。
「……ここ、私の家だよ、佐藤くん、わざわざ家まで送ってくれてありがとう!」
重川さんの家は、普通の二階建ての一軒家という感じの家だった。ガレージには一台の車が停めてあるから、ご両親の方はいらっしゃるのだろう。ここまで来たら安心だな。
「こちらこそ、一緒に帰ってくれてありがとう、楽しかった!」
俺たちはそこでしばらく見つめあったまま、お互いに動けなくなってしまった。
別れるのが名残惜しくて仕方ない。もっと重川さんと話して面白いことをしたい。重川さんの表情の中にも、俺と同じような名残惜しさが浮かんでいるように見えた。
もっと一緒に居たいって、思ってくれているのだろうか?もしそうだったら、どれほどいいだろう。
でも、重川さんをこのままここに拘束するわけにはいかない。
「……それじゃ、おやすみ!」
「うん……おやすみ!佐藤くん、また明日!」
「あぁ、また明日!」
俺はうしろ髪の引かれる思いを必死に押し殺しながら重川さんに背を向けて歩き出した。振り返らないように前だけを見ながら。
もしも振り返ってしまえば、もっと話したくなってしまうのが分かっていたから。
まだ、後ろから重川さんの気配がする。お見送りしてくれているのだろう。
曲がり角を曲がる一瞬、チラリと視界に映った重川さんは、控えめにひらひらと手を振ってくれていた。本当にやさしくて素敵な子だ。
——プルルルル。
曲がり角を曲がってしばらく経ってから、俺は重たいカバンの奥底にねじ込んでしまっていたガラケーを取り出して電話をかける。
俺は今から、盛大なやらかしの精算をしなければならないのだ。
『……はい、もしもし?』
威圧感のある声が鼓膜を打つ。その声は不機嫌を隠すつもりもなく、平坦に言えば、ブチ切れている声音だった。
俺は電話口に聞こえないくらいの小さな声で深呼吸をして、電話越しに全力で頭を下げた。
「大っ変申し訳ございませんッ!本日もバイト遅刻しますッ!」
「もう勤務時間始まってんだオイィ!事前に連絡しろっていつも言ってんだろうがぁ!このバカタレがぁぁああ!!」
こうして俺はこの場で二十分、そして出勤して四十分の計一時間、店長に説教されてしまうのだった。ったく、青春を謳歌するってのも、楽じゃないな(泣)
ps.店長にはコンビニのいくらおにぎりとスプライトを奢ることで許してもらえました。大変申し訳ありませんでした。