報連相は社会人の基本。古事記にも書いてある。アイエエエ。
「やはりヒトガミは信用ならなかったな」
「そのようです」
「草と読むのか?この文字は」
「はい、相手を嘲笑うときの符号です」
「奴らしいな」
ちくしょう。信じてたのに。裏切ったな、僕の気持ちを裏切ったな。父さんと同じに裏切ったんだ。いやパウロは裏切らないけど。
「オルステッド様にとって好ましくない事態を引き起こすと宣言してあるのですから、やはりこれは宣戦布告でしょう」
「わざわざそれを手紙にするのも奴らしい挑発だ」
もともとしかめっ面なのがさらにピキピキしてる。さらに怖い。
「どのような妨害か予想できますか?」
とにかく動きが掴みにくいのが厄介だ。会合や手紙のやりとりと違って、夢のお告げを誰が受けてるかなんて、周囲からは確かめようがない。
「まったく読めん。広く情報収集をしながら、こちらの手を進める。忙しくなるぞ」
「・・・わかりました」
今のうちに家族との時間を過ごしておこう。下手すると当分単身赴任だ。
◆◆◆◆◆
帰宅したらまずは妻たちに話そう。社長との話し合いによって、モドキを敵とみなすことが決まったことを伝えないといけない。
まずはロキシーの部屋に赴いた。覚悟はしていたがショックなようだ。
「ちょっと信じられないです。モドキさんは良いアドバイスをくれた人でした」
ベッドで隣に座って話をする。内容が内容だけにさっぱり色っぽい空気にならないのが残念だ。
「俺もそう思ってたんですけどね・・・」
モドキのおかげで改めてロキシーとの相互理解が深まった。俺は師匠を盲目的なまでに崇拝してる。親鳥についてくひな鳥のように。
「エリスにとっての俺というのは良い喩えでしたよ。師匠は俺に外の世界を教えてくれた恩人ですから」
ロキシーは少し首を傾げた。
「はじめて魔法を教えたときは野外でしたが?」
物理的な話じゃないんだけどな。うまく伝わってないや。
「なんというか、建物から出るのが怖いというより、親の庇護の外が怖い、庇護の外で他人に出会うのが怖い、という感じだったんです」
「あー・・・でも、ルディはそんなに人見知りでしたっけ?」
確かにふてぶてしく見えていたかもしれない。内弁慶と言うか、家族や家族のいるところだとそうだったし、ロキシーは小さな女の子だから警戒心が働かなかった。
「ロキシーには一目会ったときから惹かれてました。ぜひ嫁にしたいと思いましたよ。相手にしてもらえなかったけど、当時から師匠のこと好きだって伝えてましたよね」
ちょっと顔を赤らめるロキシー。可愛い。
「そうでしたね。髪をキレイだと褒めてくれたときですよね」
十年たっても気持ちが変わらなかったらもう一度言ってください、だったかな。何年たっても言うぞ。何度でも言うぞ。残さず言うぞ。君を愛してる。
「でも俺は他人と外で会うのが怖かったんです。───カラヴァッジョじゃないですよ。他人とどう接すればよいかわからなかった。けど師匠は手本を見せてくれました」
それでもロキシーはキョトンとしてる。
「人付き合いなんて教えた覚えはないですけど?」
確かにロキシーには指導したおぼえはないだろう
「言葉ではなく、手本を見せて教えてくれました。すっかり村人たちとも打ち解けていた。人族の村でヨソから来た魔族が仲良くやっていけるんだ、という成功例を見せてくれた。希望を持てました」
ようやくロキシーも納得した表情になってきた。
「俺にとってロキシーはずっと師匠で、俺は──いくつになっても、ロキシーに褒めてほしい」
後半とくに強調したい。いい年して何を言ってるかと思われるかもしれない。けど、俺の偽らざる本音だ。
褒めてもらいたい、認めてもらいたい、特に好きな相手からは。それが俺のモチベーションだ。
「ヨシヨシ、ルディはよく頑張ってますね」
それをロキシーは分かってくれた。立ち上がって俺の前に回り込んで頭を撫でてくれる。
「師匠のことは、何があっても俺が守りますからね」
「私もです」