ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど   作:つむつむ

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ドブカス令嬢、メイドを虐める

 魔術の名門ヴァニリウス家には二人の娘がいる。

 長女は平民との間に生まれた混血の魔術師。

 次女が魔術師同士の間に生まれた純血の魔術師。

 

 長女の母親が死んだ後、元々疎まれていた長女はひどい扱いを受けて、次女は長女を虐めていた。

 

 あたしはその長女ではなくて、次女の方に転生した。前世は冴えないサラリーマンだったのに、急に名門のご令嬢になるなんて世界は分からないものだ。

 

「シャルちゃん。今日もシャルちゃんは世界一可愛いわね。どこぞのドブネズミとは大違いだわ」

 

 あたしと同じ金髪を持った女性。かなり太っているこの人はあたしの母親らしい。

 まるで豚のように肥え太っているというのに、肝心のあたしはうすほそ体型だ。本当にあたしの母親かと思ったけど、記憶ではそうらしい。

 

 正直、化粧のケバいおばさんに溺愛されるのはかなり苦しいものがある。

 

「アマンディーヌ様。そろそろお時間です」

「あら、シャルちゃんが可愛すぎて時間に気付かなかったわ。じゃあシャルちゃんお留守番しているのよ」

 

 くっついている母親がいなくなって心が軽くなる。子離れしない母親ってのもかなりキツイ。

 

 あたしは鏡の前に立って自分の姿を確認する。確かに、溺愛されるのも納得の顔立ちだ。

 

 彼女の記憶を辿ると、自分が何者なのかすぐに分かる。シャルロッテ・ヴァニリウス。魔術師の名門ヴァニリウス家の次女。年齢は今年で十五歳。

 

 十五にしては背丈は小さい方で、身体のラインは細い。手足とかを見てうすほそ体型だと判断したけど、想像以上のうすほそ体型だ。将来が心配になるくらい。

 

 流石は名門貴族。顔立ちは整っている。金髪碧眼の美少女とは正に彼女のこと。おでこを出している姿もキュートだ。

 

「確かに、これで嫌らしい笑みを浮かべれば立派な悪役令嬢だな」

 

 試しにニィと不気味に笑って見せる。うん、立派な悪役令嬢フェイスだ。

 

 記憶ではこのシャルロッテはかなりの悪役令嬢だ。もはやドブカス令嬢って言ってもいいくらい。

 

 先ずは性格がドブカスだ。メイドを人間だと思っていないのは当たり前のこと。我儘で、自分が気に食わないとすぐに嫌味で相手をボコボコにする。それだけじゃなくて、同年代の令嬢を嫌味で言い負かすのが趣味というひん曲がった人間性だ。

 

 名門の称号を振りかざすのは当たり前。いくつもの貴族令嬢を手下に加えているさまは悪役令嬢中の悪役令嬢だろう。当然、権力で支配した手下だ。人望なんてあったもんじゃない。

 

 最も酷いのが姉に対する仕打ちだ。ヴァニリウス家のドブネズミ。彼女に毎日嫌がらせするのが日課らしい。

 

 いっそ清々しいくらいの悪役令嬢だ。なのであたしがやるべきは。

 

「より悪役令嬢っぷりに磨きをかけるしかないわね。今更、言動を変えて変な疑いをかけられるのも嫌だもの」

 

 この世界には魔術というものがある。数多ある魔術の中には当然、人格や性格を変えてしまうような魔術や、他人を乗っ取ることができる魔術が存在する。

 そういった類の魔術は禁忌とされている。

 

 もし、あたしの人格が大きく変貌したと気付かれてしまったら、そういった魔術に手を出したと思われてしまう。そうなれば面倒なことになってしまう。

 

 ということなので魔術の影響で性格や人格が変わったと疑われるのは嫌だ。ここは悪役令嬢ロールプレイをして、悪役令嬢として生活していこう。

 

「先ずは何と言ってもお姉様への嫌がらせよね。悪役令嬢としての格が試されるいい機会だわ」

 

 お姉様をいびろうと思ったけど、どういう風にいびろうか。部屋の中にいてもヒントが出てこないため、あたしは部屋の外に出ることにした。

 

 屋敷はとにかく広い。記憶がなければ迷っていたところだ。ふとあたしは厨房の方に寄る。すると。

 

「こんなお菓子をシャルロッテお嬢様に出そうと思ったわね! 恥を知りなさい!」

「すみません、すみません……!」

 

 厨房ではお局ポジションの年配のメイドに、若手のメイドが叱られていた。メイドといえば美少女と相場が決まっているのだが、いるんだな叔母さんメイド。

 

 しかしどこの世でもお局ポジションっているんだな。何を作ってこんな目にあったのだろうか。もう少し様子でも見てみよう。

 

「で、ですがこのお菓子なら栄養を過不足なく摂取できます! お嬢様にはもう少し栄養価の高い食べ物を」

「あたしのやり方に文句をつける気!? こんなぱさぱさな食べ物、誰が食べるもんですか!?」

 

 どうでもいいことだけど、四十代のおばさんの一人称があたしってキツイものを感じるよな。いつまで若作りしているんだっていう。

 

 なるほど。よく見てみると若いメイドが作っていたお菓子はスティック状のものだ。現代でいうところの栄養食に見た目が似ている。食べるとめちゃめちゃ口が乾くやつ。

 

 シャルロッテはかなりの偏食家だ。こんなうすほそ体型なのも、偏食と体質ゆえになっているものらしい。これはかなり前から問題視されていた。

 けれど、このドブカスは我儘なことで有名だ。当然、自分の嫌いなものは食べない。加えて、食べたものを魔力に変換できるという体質を活かして、甘いものしか食べていないとのこと。

 

 自分の好物以外が食卓に出た日には、料理人を呼び出して一時間近く嫌味を言い続けてやめさせたらしい。凄いなこいつ。

 

 ともあれ、これでは若いメイドが可哀そうだ。あたしのことを想って作ってくれたお菓子が、こんな扱いを受けるのは不当だろう。それにあのお局メイド、あたし以上に悪者ムーブしているのがムカつくな。

 

 ここは目には目を、歯には歯をの戦法だ。悪には悪をぶつける。あたしが完璧な悪役令嬢ということをここで示してやろう。

 

「騒々しいわね。厨房といえどヴァニリウス家の敷地内よ。もう少し優雅には出来ないものかしら?」

 

「しゃ、シャルロッテお嬢様!? なんでこのような厨房なんかに!? それよりも、厨房になんか入ったらお洋服が汚れてしまいます。どうかここは」

 

 お局メイドが目の色を変えてあたしに駆け寄ってくる。清々しいほどの移り変わりようだ。ふむ、どうやらお局メイドはあたしが厨房に入ることを嫌がっているようだ。

 

 大方、洋服が汚れたら何を言われるか想像がつくのだろう。ならば他人が嫌がることを積極的にやってやろう。これぞ悪役令嬢ムーブだ!

 

「あらそう。じゃあお邪魔するわね」

「しゃ、シャルロッテお嬢様!?」

 

 堂々と厨房に入り込んでやったぜ。正に外道! これぞ悪役令嬢!

 

 あたしはその他一切のものに目をくれず、ただただ若手メイドが作ったお菓子の方に進む。

 

「シャルロッテお嬢様! そのお菓子はそこの新入りが作った失敗作でして。お嬢様の目に入るようなものではございませんわ。お嬢様の舌には合わないものですわ。すぐにでもお嬢様が好きなケーキでもお待ちしますので」

 

「話が長い。いただくわ」

 

 あたしはスティック状のお菓子を一つまみして頬張る。話を遮って嫌なことをしてやったぜ。これもまた悪役令嬢ムーブというやつだ。我ながらシャルロッテお嬢様への解像度が高すぎて困っちゃうな~~。

 

 確かに口当たりはパサパサとしている。けれど甘味はちゃんとあり、バニラのいい香りが鼻腔をくすぐるようで、あたしは好みだ。

 

 あたしは二人のメイドに視線を向ける。

 若手メイドはいつ自分が何を言われるか心配そうな表情だ。

 お局メイドも大体同じ。あたしが何を言い出すのか気になるのだろう。違う点はお局メイドの視線がちょいちょい若手メイドに向くという点だ。

 

 何か言われたら若手メイドに罪を擦り付けるつもりだろう。

 気に入らんな~~、許せんな~~。そんな甘えた態度はあたしがしっかりと咎めておこう。

 

「確かにあたしが口にするほどのものじゃないわね。味と香りに工夫は見られたけど、口当たりが最悪だわ」

 

「そ、そうでしょう!? だからあたしは言ったのです。すぐさま処分するようにと」

 

「だけど味を損なわずに栄養価を高める努力は認めてあげる。そこのメイド、名前は?」

 

 擦り寄ってきたお局メイドのことはスルーしつつ、若手メイドに名前を聞く。

 

 このメイドは恐らく良家の令嬢だろう。肌は綺麗だし、ブロンドの髪には手入れが施されている。お局メイドなんかよりもよほど美しい。

 

「く、クレールです」

「クレール。そう。あたしにこんなものを食べさせた罰として、貴女をこのお菓子専門の料理人とするわ。そうね、見たところ保存も効きそうだけど、手間がかかりそうね。一日十個。欠かさずあたしに献上しなさい」

 

 こんなものをあたしに食べさせるなんてみたいな共通認識があるなら、これを作ることを強制させる。それもあたしに献上するという条件も含めて。

 

 あたしの目的が分からなさ過ぎて困惑しているだろう。悪役令嬢たるもの、一手も二手も先を読んで悪役ムーブしなくてはならない。

 

 凡人には分からないことを指示することで、格の違いを思い知らせる。お前達は所詮この程度の人間性なんだぞと分からせる。完璧じゃないか。

 

「なのでこの皿にある分は貰うわよ。それとそこの水瓶とコップも貰うわ」

「お、お嬢様! お言葉なのですが、なにゆえその菓子を手に? もしやその菓子が気に入ったなどと……?」

 

「勘違いも甚だしいわね。長く勤めているようだけど、その程度しか見抜けていないようなら市場で働くことをおすすめするわ。それとも、頭に糖分が回っていないから考えが浅いのかしら? お可哀そうに」

 

 言葉を失ったお局メイド。恐らく、厨房にはその取り巻きが数多くいたのだろう。年配のメイドも同じように言葉を失っている。

 

 代わりにクレールなどの若手のメイド達は驚きこそしているが、少しだけ安堵している感じがする。

 

「そうね。あまりにも貴女達が哀れね。クレール。それとそこのメイド達も。メイド達に出す食事は貴女達が管理なさい。特に彼女らは栄養も糖分も足りていないようだから、このお菓子でも作ってあげればいいんじゃないかしら。それではごきげんよう」

 

「お、お待ちくださいお嬢様! あたし達にこんなものを食べろと言うのですか!? 若手が作った出来損ないの料理を!?」

 

「だからそう言っているじゃないの。いい? 報復なんて考えないことね。もし、あたしが口にする料理に少しでも不手際があればどうなるか分かるわね? その時は」

 

 あたしは懐から杖を取り出して、お局メイドの顎をゆっくりと杖の先端で撫でる。

 

「あたしの魔術がなにかの間違いで当たっちゃうかもしれないから」

「ひ、ひぃ! そ、それだけはご勘弁を! 分かりました! お嬢様の仰せのままに!」

 

 格付け完了。どっちが悪役に相応しいかこれで骨身まで染みただろう。

 

 悪役令嬢のデビュー戦としては中々にいい滑り出しだと思う。そんなことよりもあたしの目的は別にある。

 

 そうだ、このお菓子だ。お姉様をいびるのに丁度いいものが手に入った。

 

 あたしはお姉様が閉じ込められている部屋へと向かう。屋敷の奥、誰も立ち入らないような廊下の隅にお姉様の部屋がある。

 

 あたしはその部屋を空ける。記憶通り、そこは独房のような簡素な作りになっている。寝床も硬い床の上に布が一枚広げられている程度だ。

 

 そんな部屋の中央でボサボサの髪をした少女があたしを見上げる。元は綺麗な女性だったのだろう。しかし、今ではやせ細って生気を失ったせいで、その美しさは見る影もない。

 

 あたしは扉にもたれかかりながら、記憶通りに名前を呼んだ。

 

「ごきげんよう。相変わらずみすぼらしい姿をしているのね、セリーヌお姉様」

 

 

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