ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「……どういうつもりだ? なんのつもりで言っている?」
鋭い眼光が向く。レオンの射抜くような瞳を前にしても、あたしは屈しない。だって本当のことを言ったんだもん。
「何のつもりもなにも。言葉通りの意味よ。カオがいけない。そんなカオでよく、王子などと名乗れたもんね」
「関係あると思うのか? 俺の容姿と王子であることが。慎重に言葉を選べ」
レオンの指先が腰の杖に触れる。あたしは臆することなく、ずいっと一歩進んで、レオンの顔を覗き込む。
「ふふっ。図星を突かれて怒ったのかしら? だとすると随分な器なこと。もしかして、あたしに怒ったりするのは、自分とあたしを重ね合わせているから?」
「戯言だ」
「戯言? その戯言程度で動揺していたらキリがないわね」
あたしは指先でレオンの胸板をゆっくりとなぞる。そしてレオンにあたしはこう言い放つ。
「大変ね、王子という立場も。だれかれ持ち上げるばかりで、本当のことを教えてくれない。気がつけば視界は曇り、思考は鈍り、愚鈍で蒙昧な王へと成り下がる。あなたが毛嫌いする王、そのものね」
「否定はしない。聞かなかったことにしてやる」
「あら? 本題はここからよ。貴方は友達を選ぶべきだわ」
ふふふ。本当はレオンを煽るつもりなんてさらさらなかったけど、乗りかかった舟だ。通りすがりのドブカスを見せてやろう。
あたしはレオンにしか聞こえない声量で、レオンの耳元で囁く。
「友達の選び方が分からないなら……あたしが教えてあげようか? ねえ、レオン王子」
レオンは即座に一歩退いた。あたしはぴょんと後ろに飛びのいて、レオンや周囲の人に笑顔を向ける。
「あーあ! あたしなんだか疲れちゃった! 端っこで見ていよーっと!」
あたしはそう言って端っこにある席へと移動する。お姉様は周りに頭を下げてからあたしの後ろをついてくる。
「しゃ、シャルちゃん! こんなところで、それも王子様にあんな言い方するなんて……!」
「ふん! 元を正せば喧嘩を売ったのは向こうよ! そ、れ、よ、り、も」
あたしはお姉様の方に振り替える。なんでお姉様があたしの背後にくっついてくるんだろうか。お姉様にはこれから飛びっきり目立ってもらわないといけない。
今のやり取りで少なからず、あたしやお姉様の動向が気になるはずだ。
「お姉様が行くべきは向こうよ、向こう。あたしと一緒に端に来たら駄目じゃない」
「え……? で、でもさっきシャルちゃん、王子様の前に立って」
「あれに大した意味はないの。単純に気に入らなかったから、ああやっただけ。あたしの行動になんでもかんでも理由があるわけじゃないの」
少なくともお姉様に変な気を起こそうとは誰も思わないだろう。あれは王子に対してドブカス行為を思いついたからドブカスをした。まじでその程度のドブカスだ。
「いい? あたしがあそこまでしたのだから、お姉様にはそれ相応の品格が求められるわ! さっきのでお姉様が聖女って知れ渡ったんだから、あたしの姉として相応しい振る舞いをしてちょうだい! さあ、さっさと行った!」
あたしはお姉様を会場の中央へと振り向かせて、その背中を押す。あたしが散々場をかき乱した挙句、そのツケを全てお姉様に背負わせる。これは立派なドブカス行為だ。さぞ、あたしの歪んだ人間性をはき違えるようなことはしないだろう。
「さて、これで本来の観察にいそしむことができるわね」
これだけ目立って、さらにはお姉様が聖女だということはみんなに知れ渡ったことだろう。もし、この場にある貴族がいるとするなら、何かしらのアクションを起こすはずだ。あたしはそれをパーティー会場のご飯でも食べながら観察することにしよう。
と思っていたのだが。
いくら待ってもそんな奴はいない感じだ。むしろ、お姉様は最初こそ戸惑っていたが、なんだかんだ上手くやっているよう。
結局何も起きることなく、ダンスの時間が始まってしまう。参加者たちが中央で華麗なダンスを繰り広げている。
こういう時にお姉様に近付く奴が怪しい。あたしのドブカスブレインがそう告げている。あたしはゆっくりと観察しようとしたのだが。
「珍しいな。いつもなら我こそはと中央に行くのに、今日はどんな心変わりをした?」
「あら、レオン王子。さっきなあんなことがあったのに、あたしの方に来るなんてもの好きなのね」
予想外の人物の乱入だ。それにしてもこいつ、背がでけえ! あたしの視界を遮るな! お姉様が見えなくなるだろうが!!
「今日のお前はいつもと違う。最近、王都周辺は物騒だ。もしやその影響かと思ってな」
「あたしを心配してくれるなんて随分と優しいのね。おあいにく様。あたしは成長したの。いつまでも変わらない凡愚とは違うわ」
「お前の心配をしているつもりはない。ただヴァニリウス領は王国にとっても大切な領土だ。それに、聖女が覚醒した。お前を取り巻くすべてに、何かがあったら王国の損失となる。思いあがるな」
とクールに言い放つレオン。お前の心配しているわけじゃないと、堂々と言われるのはそれはそれでなんだかすっきりしないな。
「そういう貴方は誰からも心配されなさそうね。完璧超人すぎて何とかなってしまうとでも思っているのかしら。可哀そうだから、あたしだけは憐れんであげるわ」
「頼んでいない。お前は行動を変えようが、性根は変わらないようだな」
そういわれて内心ホッとする。レオンで見抜けないなら、あたしのことがバレる心配はない。油断してはいけないが、このドブカスムーブは有効的だと判明した。
「だが悪くない。凶悪さ、意地の悪さ、心の歪み、それらを心の内で制御するようになったお前のこと。俺好みだ」
「あたしはレオン王子のことなんて何とも思わないけどね。それよりも、さっさとダンスパートナーを見つけるべきよ。聖女であるお姉様とかいいんじゃないかしら。お姉様はダンスが下手くそだから、レオン王子にピッタリ」
「いや、今はお前と踊りたい」
ん? なんだか風向きが怪しくなったぞ。ここでお姉様に誘導するつもりだったんだけど。
レオンが手を差しだして、あたしの視線よりも屈んで下になる。
「俺と一曲踊ってくれないだろうか」
どーしてこうなった。いや、ここで天啓、もといひらめきが舞い降りる。この誘いを拒絶してこそ、ドブカスというものだ。
あたしは差し出された手を払いのける。
「思いあがらないで。あたしとレオン王子では不釣り合いと言っているのよ。あたしの言葉の意味が分からない? だからさっさと」
と言いかけた時だ。あたしに対して鋭い殺気が放たれる。ついに来たか! あたしは殺気がした方を見る。
階段の上、そこに一人の女の子が立っていた。肩まで伸びた黒髪が特徴的な女の子だ。黄金の瞳があたしを強く見つめている。彼女は手すりに飛び乗ると、膝を曲げてぐぐぐと力を込める。
そして、一瞬の内にあたしへと肉薄してきた。
「待て! クロエ!! こいつは違う!」
「さっきからお兄様に無礼を働く悪い奴。私が斬る」
彼女は魔術で剣を生み出して、あたしへと斬りかかるのであった。