ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
彼女の剣は正しく神速だ。あたしみたいな細い身体では回避すらできないだろう。剣はあたしに吸い込まれていき……。
ガキン!!! という甲高い音が鳴り響く。彼女は目を大きく見開いた。
「飴……? どうやって」
「随分と乱暴なのね。気品に欠けて嫌になっちゃう。こんな野蛮人を令嬢に差し向けるのが王族のやり方かしら?」
と平気そうな顔で言ってみるが、内心は心臓バクバクだ。こ、怖かった~~! お菓子魔術をフルオートで発動するように仕込んでおいてよかった……!
さて、あたしの首を狙ってきた少女が目の前に立つ。長い黒髪は綺麗に整えられているが、本人は鬱陶しそうにくるくると指先でいじっている。ドレスも着飾るというよりかは、動きやすさを重視した作りになっている。
身体はあたしと同じで線が細い。というか、さっきから動きを見ているが、とても王族の関係者には見えない。なんだか立っている姿から、スラム街で育った子供ですみたいなオーラがぷんぷんと伝わる。
「お兄様のこと、また馬鹿にした。許さない」
「待つんだクロエ! 普段から簡単に剣を抜くなと言っているだろう! それに彼女と俺はそういう仲だ! 別に気にしてなんかいない!」
「はあっ!? あたしとレオン王子に特別な関係性があるみたいな言い方やめてもらえる!? レオン王子とは何を積まれても無理よ!!」
ここは反射的に否定してしまった。全く誤解を招くような発言は謹んでもらいたい。あたしとレオンは水と油。決して混ざり合うことなんてないのだから。
「むう、お兄様がそういうなら」
クロエと呼ばれた少女はむくれた顔をした後に剣を消滅させる。あの剣、魔術で作られたと思えないくらい精巧な作りだったな。
「気持ち悪いものがいる。お兄様を馬鹿にした貴女、変」
「人の顔を見るなり変とは、随分な教育ね。レオン王子、貴方みたいなカオが悪い男が、慣れない兄なんてやるから、こんな野蛮人が出来上がるんじゃないかしら」
「またお兄様のこと馬鹿にした。斬る」
凄いなこの子。ちょっと煽っただけですぐに物騒な方向に話を進めようとするじゃん。あたしをなんだと思っているのか。
それにしても気持ち悪いものか。やっぱりあたしのドブカスブレインは正しかった! いや~~ドブカスの気配というか、臭いは反射的に分かっちゃうんだよな。さっすがあたし!
「やめろと言っているクロエ」
「ぐえ」
首根っこを掴まれて、潰されたカエルみたいな鳴き声をあげる。やっぱり、この子が王族の関係者だとはとても思えない。
「それで? どこの馬の骨にお兄様と言わせているのかしら?」
「どこの馬の骨でもない。彼女は正真正銘、俺の妹だ」
「……とても王族とは思えないんだけど」
「事実だ。数ヵ月前に彼女が王族の血を引くものと判明した。それに」
クロエとレオンを視線でやり取りを交わす。次の瞬間、クロエの全身から星空のような、黒みを帯びた銀と黄金の魔力が溢れ出す。
「え……!? ふぇ!? しゃ、シャルちゃん! わ、私の魔力が……!」
お姉様の魔力も同じく反応して黄金の魔力を出していた。
「彼女は勇者だ。今代の」
「私、勇者。悪い奴を斬るのが私の役目。貴女は悪い人?」
クロエの鋭い眼光があたしを射貫く。それで脅しているつもりか?
「あたしに喧嘩を売るなんて随分な間抜けね。こっちには聖女がいるのよ。お姉様っていう聖女がね!」
虎の威を借りる狐ならぬ、聖女の威を借りる悪役令嬢だ。あたしはお姉様を思う存分利用する。お姉様は名前を呼ばれたせいか、とてとてとこちらの方に駆け寄ってくる。
「なんで? 聖女が、悪い奴の味方するの、おかしい」
「これだからお子様は困るわね。例え勇者という凄い力を持っていても、あんたみたいに視る眼がないんじゃ意味ないわ。目玉を交換することをおススメするわ」
あたしはここぞと言わんばかりにふんぞり返る。聖女という頼もしい後ろ盾がいる以上、あたしに死角はない!
「レオン王子も王子よ。さっきからあたしばかりを見ているけど、他に見るべきものがあるでしょう? あたしは分かっているのよ。ここにこの場にいるべきではない人間がいるということにね」
あたしは適当に片っ端からガンを飛ばしていく。こうなりゃ全方位攻撃じゃ。どっかには命中するだろう。ほら、あたしを見て気まずそうに視線をそらした貴族令息がいた。
傍に置いてあったグラスを手に取って、視線をそらした貴族令息の方に向かう。そして、その白い衣装に飲み物をぶちまけてやる。
「ごめんなさい。手が滑ってしまったわ。でも不運だと思えばいいわ、だってあたしに」
「バレた以上仕方ない。勇者でも聖女でもなく、こんな小娘にバレるとは癪だがな」
……へ? え、いやマジ? どんな確率引いたのあたし?
あたしの目の前で彼の肉体からバキッ! メキャッ! ゴキッ! という奇妙な音を立てて、彼が変形していく。数秒もすれば元の人間だった姿は見る影もなくなり、代わりに二メートルくらいの狼男へと変貌していた。
「グルルル。今日は手を出すつもりはなかったのだがな。お前みたいな何も知らないガキに見つかるとは。だが!」
狼男は手から鋭い爪を生やして、思いっきり振りかぶる。
「この場で皆殺しにしてしまえば何の問題もねえ! 先ずはお前からだ! 自分の不運を呪え!!」
と言いながら振りかぶった爪を振り下ろしてくる。
なーんか、今日、あたしこんなんばっかりじゃない??