ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「レオン王子っ! ご指示の通り、男を地下牢に拘束しました。こちらが鑑定魔術師による、鑑定結果です」
「ご苦労。目を通しておく、下がって休んでくれ」
「ハッ!」
俺は衛兵を下がらせて、渡された紙に目を通す。
先ほど、騒動を起こした男は数週間前に行方不明騒ぎを起こした貴族令息だった。その時は行方不明になってから二日後に何事もなく帰ってきて、特に大事にはならずに自然と事件は解決した。
どうやら魔族が成り代わっていたらしい。魔族が記憶と人格、姿を模倣し、貴族に潜入。このパーティーに参加したということだ。
狙いは、勇者とその仲間達だろう。
「やはり、一刻も早く王家で保護すべきなのか……?」
かつて世界を救った勇者、聖女、賢者、剣聖の四人は、世界の危機が訪れようとしたとき、転生して世界のどこかに産み落とされる。
クロエを保護する数年前から勇者覚醒の噂は立っていた。それに伴い、数年前から子供を狙った誘拐事件は後を絶たない。
「それもこれも俺の無能さ故か」
俺にもっと能力があり、父上からの信頼を集められているのなら。いや、ないものねだりをしても意味がない。
「こういう時、あいつなら」
ふと、彼女の顔が頭をよぎる。
シャルロッテ・ヴァニリウス。一時は共に魔術を習った仲だ。我儘で身勝手、取り巻きを引き連れて、人を蹴落とすことに快楽を覚える。
魔術の名門ヴァニリウス家出身もあってか、彼女に取り入ろうとする貴族は多い。それがより彼女を増長させていた。
しかし、今日の彼女は何かが違った。
口調はいつもと変わらない。言い回しが少し大人びたくらいで、口の悪さは健在だ。だが、行動はいつもと大きく変わっていた。
あれに姉を連れまわすような趣味はなかったはずだ。当然、姉を目立たせるようなことも。
ヴァニリウス家には虐げられている姉がいる。それは噂として聞いていたが、そんな様子は全くなかった。聖女という力を持ちながらも、姉は妹であるシャルロッテに絶大な信頼を置いていた。
それだけではない。クロエすら魔族がいると分かっていても、誰が魔族なのかは理解できていなかった。それを一目で見抜いた眼を持ち合わせている。
おまけにあの魔術の腕だ。
何もかもが俺の知らない彼女だ。
「もしかして、今まで隠していたというのか……?」
勇者や聖女が覚醒する機を見計らって、今まで真の自分を隠し続けていたとしたら?
魔術の腕も、何もかもを見抜く慧眼も、聖女に慕われるほどの人格も全て。
なら何故口調や態度を崩さないのか? もしや自ら悪目立ちし、嫌われ役を買って出ることで、俺達には見えていない何かをあぶり出そうとしているのか?
「クソっ! 何もかもが憶測の域を出ない」
これは全て、俺の憶測にすぎない。その憶測ですら計り知れないほどの何かを彼女から感じる。
この王国の未来を左右するような、そんな重大な何かを背負っているような。俺が思っている以上に、彼女は高潔な精神を持った人間かもしれない。
彼女を失うことは王国にとっての損失。そんな気がしてならない。
「レオン王子! クロエ王女を見かけませんでしたか? お部屋に戻っていないようでして」
「クロエが……? 待て、本当にクロエはどこに行った……?」
クロエ専属のメイドに言われて気が付く。
会場のどこにもクロエの姿がないことに。
***
「今日は気分がいいわね。天気もいいし、鳥の囀りも聞こえる。おまけにお茶が美味しいわ」
あのパーティーから一夜明けて。あたしは珍しく中庭でのんびりしていた。最近はてんやわんやしていて、あたしの心が落ち着く暇がなかった。
ドブカス悪役令嬢たるもの心の余裕は必要だ。特におひとり様時間というのはとても大切だ。
ズズズと紅茶をたしなんでいるその時だ。
「た、た、大変ですシャルロッテお嬢様!」
あたしがいる中庭にクレールが駆け寄ってきた。今日はお姉様と魔術の練習をしているはずだ。さっきから黄金の魔力が爆発したり、柱になったりするのを見かけたから。
何かあったのだろうか。もしかして、圧倒的な暴を駆使して、お姉様が新たなドブカスの道を開拓し始めたとか!?
こうなったら負けていられない。確かに一大事だ。
「ゆ、ゆ、ゆうひゃ! 噛みました」
「騒々しいわね。落ち着いて話しなさい。何があったのかしら?」
「勇者様がこ、この屋敷に!!」
勇者、勇者……。ああ、昨日の生意気な子供か。あたしの首を容赦なく狙ってきたあの。
「たのもー」
うんうん。確かクレールの背中から出てきた子供だった気がする。黒い髪が特徴的で、王族とは思えない簡素的な服を着た……って。まさにこいつのことじゃねえか!!
「待ってよ~~。く、クロエちゃん、足早すぎ……」
ゼーハーゼーハ―と息を荒くしながらお姉様もやってくる。なんでだ。つい数分前までは優雅なティータイムだったはずなのに。どうしてこうなった?
「それで? あたしの中庭に許可なく踏み入るなんて、とんだ駄犬ね。飼い主はどこかしら?」
「私一人で来た。うむ、美味い」
「あたしのメイドが作った代物だから当然……って、勝手に食べないでよ!!」
あたし用の茶菓子が勝手に食べられていたので、あたしは取り上げる。切なそうな表情であたしを見てくるが渡してなんかやらないからな!
そんな私を見て、クロエは口に食べかすが付いたまま、懐から手袋を出してあたしに投げつけてきた。
おん? 喧嘩売ってるんけ???
「その行為がどんな意味を持っているのか、飼い主はそれすら教えてくれなかったのかしら?」
「知ってる。知った上でやってる。勇者クロエ、貴女に決闘を申し込む」
こうしてあたしの平穏は一日ともたなかった。