ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
決闘とは高貴でありながらも、醜く、野蛮な手段。この世界でそう思われるようになったのはいつ頃だろうか。
庭の広いところに出たあたし達は向き合う。クロエは珍しくふんす、ふんすと鼻息を立てている。
「しゃ、シャルちゃん! クロエちゃん! やめようよ決闘なんて!!」
平和主義者のお姉様は決闘を止めようとしている。だが、売られた喧嘩を買った以上、こっちは引き下がれねえ。
「魔術師式の決闘よ。お互いに杖を落とされた方が負け」
「ん。それでいい。それじゃ、始めよう」
「そうね。合図はなしでいいわ。さっさと来なさい」
あたしがそういった瞬間だ。クロエは既にあたしに肉薄していた。杖から剣を作り出して、一閃。その目にも止まらぬ速さ、鋭さ、正しく。
「疾風迅雷ね。まああたしには効かないんだけど」
ガキン!!という音を立てて、剣が飴に弾かれる。
「また。じゃあこれは?」
クロエは少し不満そうな表情を見せた後、至近距離で高速の連撃を放つ。しかし全ての斬撃を、飴が全て防いでいく。
「はあ、いくらやっても無駄だと気が付かないとは駄犬ね。いい? 真に優雅な戦闘とはこうするのよ!」
あたしは攻撃を自動で防ぎつつ、隙だらけな胴体へ蹴りを喰らわせる。脛やつま先で蹴るようなかっこいい蹴り方ではない。足裏を突き出す前蹴り……ヤクザキックである。
「が……!?」
細い胴体がくの字に曲がり、後ろへと転がっていく。これこそ、ドブカス流喧嘩殺法よ。ちなみに本気の場合は足裏に棘を生やす。今回は生やさなかっただけ優しいと思ってほしい。
しかし魔力で威力は強化した。あたしみたいな線が細い身体でも、直撃すればそれなりにダメージになるだろう。実際、クロエは立てずにいる。
「その程度なの? あたしに意気揚々と喧嘩を振ってきた割には随分と情けないのね。勇者が聞いて呆れるわ」
「ぐ、が、ハッ!!」
「ふん。煽られても立てないなんてとんだ腑抜けね。レオン王子に甘やかされて育てられたのかしら? 貴女はあたしにも、レオン王子にも、お姉様にすら釣り合っていないわ」
ここ細かいけどドブカスポイントね。お姉様にすらと言うことで、お姉様を下げるという高等テクだ。
「あたしの蹴り一発程度で立てなくなる。その程度の実力で勇者を名乗るなんてお笑いね。身の丈に合った生き方をしなさい。今回はこれで見逃して」
「待って。私の考えが甘かった」
クロエは剣を杖にして立ち上がる。クロエが全身から魔力を出す。おおっ! この感じお姉様で見た!! というか、無言でできるならお姉様のあの声はなんなんだ?
「次は本気で斬る。私は悪を断つ剣」
「そう。貴女の視る眼だけは評価してあげる。礼に一つ言ってあげるわ」
あたしのことを悪だと判定するその目は気に入った。勇者からお墨付きをいただいたようなものだからな。あたしのドブカス悪役令嬢ムーブは間違っていなかったと証明されたようなものだ。
あたしは自分の首に親指を突き立てて、横一直線に勢いよく動かす。
「あたしの首はここよ。狙いは正確に、外さないことね」
「ん。わかった」
クロエが肉薄する。動きが少し速くなった程度で、何かが劇的に変わったわけじゃない。クロエが剣を振り、あたしの飴がそれを防御する。
しかし、今回は同じ結果にならない。あたしの飴がも簡単に砕かれた。
「へえ、やるじゃない」
「このまま、首!」
数秒後、その剣はあたしの首へと到達するだろう。しかし舐めてもらっては困る。こちとら魔術の天才と呼ばれているんだ。防御が一つ突破された程度で首を差し出すほどヤワではない。
砕かれた飴。その破片がフーセンガムになって勢いよく膨らんだ。硬いものが斬られるなら、柔らかくて斬りにくいもので対処する。実際、ガムの粘着性と伸縮性のせいで、剣は止まる。
クロエの剣が粉々に砕けて、元の杖に戻る。杖に戻ったことでガムの拘束から逃れたクロエは、再び剣を生み出して一閃しようとする。
「あたしのお菓子魔術っておかしいでしょう。なんでそうなっているか、それはね」
フーセンガムが綿あめに変化してクロエの視界を遮る。あたしはその間に後ろへと飛び退く。
「戦っている相手を嘲笑い、蹴落とすための魔術だからよ!!」
「厄介。少しだけ」
あたしの術式『お菓子魔術』には、シャルロッテ・ヴァニリウスのドブカスな精神性が思う存分投影されている。
本来なら食うに困らない程度の術式だが、戦闘においては高い汎用性を誇る。その全てにおいて、見た目がめちゃめちゃふざけているから、戦う相手にとってはこれ以上なく屈辱的だろう。
正しく、ドブカス悪役令嬢を名乗るに相応しい術式だ。
「貴女、ジュースを浴びるほど飲みたいと思ったことはない? 育ちの悪いガキにはこうよ!!」
クロエの頭上に大量のオレンジジュースを召喚して浴びせる。こういったことも出来ちゃうのがお菓子魔術の利点だ。
「馬鹿にしないで! ッ!?」
「チョコレートの沼よ。甘いものに沈んでいく気分はどう?」
クロエが駆けだそうとする。クロエの周辺をチョコレートの沼に変えて、動きを止める。
クロエは地面に剣を突き立てて、魔力を流し込む。大量の魔力を流し込まれた剣は爆発する。
「自爆の余波で脱出するなんて中々やるじゃない」
「勇者は伊達じゃない」
魔術で作り出した剣を足場にして、クロエはあたしの方にカッ飛んでくる。
「シャルちゃん!!」
「シャルロッテお嬢様!! ああ、なんてこと!?」
二人の声が聞こえてきた。あたしの視界は空を見上げて、次の瞬間地面に映る四人を映し出していた。
驚愕の表情を浮かべるお姉様とクレール。あたしの背中に立つクロエ。そして。
「あたしの身体……」
あたしはあたしの身体を見つめていた。首が無くなった身体を。
なるほど。ちゃんと約束通り、真っすぐと首を狙いにきたということか。恐らく、彼女は他の人間とは価値観が違うのだろう。どんな環境で生まれ育ったのか分からないが、敵ならば躊躇なく首を切り落とすことができる。
ならば、あたしもドブカスとして本気を見せよう。
あたしのドブカス悪役令嬢ぶりは首を斬り落とされた程度では終わらないということを、彼女に見せつけてやるとしようか。