ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「シャルちゃん! ああシャルちゃん! あたしの可愛いシャルちゃん!!」
「シャルロッテよ。最近身の回りでいろんなことが起きていると聞いた。何か不便に思うことはないか?」
いくらドブカスだって木から産まれたわけじゃない。あたしだって人の子。ならば当然、両親は存在している。
アマンディーヌ……あたしの母親については語ることは特にない。こいつはただのドブカスだ。
あたしが興味あるのは目の前にいる御仁。ガレット・ヴァニリウス。あたしの父親だ。
彼は王国でも屈指の傑物と呼ばれるほど、優秀な魔術師だ。ヴァニリウス家の威光があるのは父のおかげと言ってもいいだろう。
父はあまり家に帰ってこない。ヴァニリウス領は、王国で二番目に大きい領地であり、その分魔物や隣国からの脅威に晒されやすい。そのため、当主であり、領主である父は日夜市民のために奔走している。
全く、本当のドブカスの父かと思うほど、この人は優秀だ。
「ところで、セレーネの姿が見えないようだが。仲良くやれているか?」
このドブカスたちは以前までは、普段呼び出さないお姉様を父が返ってくる日だけ呼び出して、仲が良好な家族を装っていたらしい。もちろん、バレないように綿密に工作した上でだ。
今日、お姉様はこの部屋にいない。今頃、書庫に引きこもっていることだろう。クレール曰く、聖女について勉強しているとのことだ。
お姉様がどんな行動を取ろうが、あたしの知ったことではない。しかし、目の前には傑物と呼ばれ、お姉様とあたしの父である男が座っている。少しでも不審がられる行動をすれば、あたしの正体がバレてしまうかもしれない。
ここは慎重にドブカスをする必要がある。
「ふんっ! お姉様のことを口に出さないで!」
「おや? もしかしてその様子だと」
最近は年相応らしからぬ行動ばかりしていたからな。ここいらで我儘な貴族令嬢という反応を見せなくては。
「セレーネと喧嘩でもしたのかい? ちょっと前まで仲良しだったじゃないか!」
「お父様はずっと家に帰ってきてないでしょ!? 前に会ったのだって半年も前じゃない!」
「うぅ。それを言われると困ったな」
父はそれくらい忙しい。普段は屋敷ではなくて、街にある砦で寝泊りしながら仕事をしている。優秀な魔術師である父は、兵士の訓練も並行してやっているらしい。
現代日本人もびっくりのワーカーホリックぶりだ。そんな人に悪態をつくのは心が痛い。しかし、あたしの正体がバレないようにするために必要な犠牲だ……許せ!
「だがなあ。シャルロッテとセレーネは産まれた母は違えど、俺の子だ。将来は二人に私の跡を継いでほしいと思っている」
「やだやだ! お姉様と一緒なんか嫌だ! お姉様、今日だって一人で書庫を独り占めしちゃうんだもん!」
口ではそういうが、あたしは書庫に一ミリも用事はない。今更魔術書なんか読まないし。つーか、お菓子魔術については魔術書が存在しないから、完全な独学だし。
「きっとお姉様はお父様に聖女の力を自慢したくて、一人でこそこそと勉強してるんだ。だからあたしにいじわるするんだ」
「こ、困ったなあ。だがセレーネもシャルロッテと同じ女の子だ。いつも、二人のことを見てあげられたら、こんなことにはならずに済むのだがな」
なんとか時間を見つけて帰ってきている父親に対して、毎日のように帰ってこいとは流石に言えない。いくらあたしがドブカスとはいえ、そこまで面の皮は厚くないのだ。
「お父様だって、きっとお姉様が聖女になったから帰ってきただけなんでしょ? あたしには分かるんだから」
「あははは。流石は我が娘。慧眼だ。だけど、シャルロッテのことを心配して見に来たのも本当だぞ? 色んな報告をクレールから聞いていたからな」
待て、それはあたしの知らないことだ。え? クレールとお父様が繋がってるってマ????
「お、お父様。クレールはなんと?」
「とてもよく褒めていたぞ。シャルロッテお嬢様は目覚ましい成長を遂げた。まるで貴族のお手本のような高潔な精神の持ち主だと」
……ん??? なんかおかしくないか???
いや、ドブカスの所業の数々をバラされるのはそれはそれで嫌だ。でも、その解釈は間違ってないか?
「そうよお! シャルちゃんはとっても賢いの! あたしに似たんでしょうね。あたしが苦労して育てた甲斐があったわ」
「う、うむ。そうかもしれないな。アマンディーヌはもう少し子離れをした方が」
「あら! あたしだって毎日毎日寂しい思いをしているのよ! 子供を愛でるくらい許してくださってもいいじゃない!!」
あたしの耳元でキャンキャン吠えるな女ァ!!!!
なんて口には出せないからお口チャックだ。最近フル無視していたせいか、ここぞと言わんばかりにお母様が引っ付いてくる。うっざ……。
「お母様と一緒にいるの……く、苦しい」
「う……そ。嘘よね!? 嘘だと言ってちょうだい! あたし、シャルちゃんのことをこんなにも大切に想っているのに!?」
「シャルロッテがそう言っているのだ。少しは離れるんだ」
とお父様に言われて、お母様はしょんぼりとした表情で引き下がっていく。うーん、こういうところを見ると悪い人じゃないんだけどな。とてもドブカスイベントを引き込んだ人とは同じとは思えない。
「それよりも。後からセレーネには教えるが、しばらくの間、この屋敷から出ないでほしい」
風向きが変わった。真剣な声のお父様に、あたしは眉をひそめる。
「最近、人攫いが急増している。特にシャルロッテやセレーネと同年代を狙った犯行だ」
「それは聖女が関係してるの? またお姉様のこと?」
「まあまあ。そう言うな。それもあるが、帝国で覚醒した賢者の存在も大きいだろう」
はえ~~賢者もいるのか。勇者様ご一行なら確かにいてもおかしくない面子だ。つーか、同じ国で転生するわけじゃないんだ。
「賢者は若くして才覚を現し、シャルロッテやセレーネと同年代の少女と聞く。帝国では魔術の神童と呼ばれているらしい」
魔術の神童。いつか手合わせしたいものだ。魔術の天才、ドブカスの天才と呼ばれたあたしと。滅多クソに負かして、思いっきりドブカスを浴びせてやろう。
「故、少女を狙った犯行が多発している。もしかすると何かに目覚める可能性があるからな」
まあ理由はそれだけが全てじゃないんだろうけど。流石に娘には言いにくいこともあるか。だが! ここで素直に言うことを聞いては、ドブカスとは名乗れない!!
「嫌よ! あたし、沢山買い物がしたいの!! 新作のドレスとか、お洋服とか、鞄とか、そういうのがほしいの!!!」