ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「困ったなあ。しかし……。今は危険だし」
と困った表情を見せるお父様。これは押せば落ちそうだな。あたしのドブカスとしての勘がそう告げている。
「だってお父様の言う危険な状態ってのもいつまで続くか分からないんでしょ!? いーじゃん! いーじゃん! あたしだってみんなみたいにお出かけがしたいよ!!」
「でもなあ。うーむ。困ったぞ」
「だったら、商会の人を呼ぼうよ! ほら、ファビウスのおじさまに会いたい!」
「ファビウス……?」
わがままにわがままを重ねていく。これがドブカス流という奴だ。商会の主をそう簡単に呼び出すことはできないだろう。
いくらうちがお得意様とはいえ、急に呼び出してきてくれるほど、ファビウスのおじさまも暇ではないだろう。断るもドブカス、受けるもドブカス。これが一流のドブカスによる、ドブカス行為だ。
「ファビウス商会。そういえば数年前から取引を始めたと聞く。アマンディーヌ、その商会は信頼できるのか?」
「え……ええ! ファビウス商会は信頼に足る誠実な商会ですわ! 港町を拠点にしておりまして、海外からの輸入製品にも手早く対応してくださるの!」
「なるほど。となると大きな船も自前持ちか?」
「ええ! とても大きな船で取引していると言ってましたわ! 独自の道を開拓していまして、とっても役に立ちますの!」
商会が持つ船はその商会の規模と信頼を表す一つの指針だ。大きな船による輸入、輸出は国や領地からの信頼を無くしては成立しない。
船というのは何かと悪用できてしまう。特に大きい船であればあるほどだ。大きい船を国内で保有するには、自分の身は潔白ですよという信頼が必要になる。
どうやらお父様はそれで判断しようとしているらしい。お母様に比べるとちゃんと冷静なんだな。
「分かった。可愛いシャルロッテの頼みだ。ファビウス殿を家に招待するとしよう。それでいいかな? シャルロッテ?」
「わーい! ありがとう!! お父様大好き!!」
ここで甘えておくことで、自分の正体を悟らせない高度なドブカスプレイをしておく。
***
「シャルロッテ様! アマンディーヌ夫人! 今回も我々を指名してくださりありがとうございます!」
数日後。本当にファビウス商会がやってきた。ファビウスのおじさまも随分と気合が入っている。
「お嬢様に満足していただけるような物を用意しました! あのヴァニリウス卿から直々の依頼なので! 一層気合を入れていますよ!」
「ふうん。お父様に言われたから気合入れるんだ。なんだかいつも、ちょっと手を抜いているみたいな言い方ね」
おっと。息を吐くようにドブカスワードを口にしてしまう。半分くらい本音だけど。
今回はお父様からの指名だ。いつもはお母様が窓口になっている。ファビウス商会はお父様からの指名でちょっと舞い上がっているのだろう。
「いやはや。いつも我々の全力を出しておりますよ。今日は、とっておきを提案できますとも」
「ふうん。あたしを退屈させたらどうなるか分かるでしょうね? さ、色々と見てほしいわ。ファビウスのおじさま!」
「では早速!」
と言ってファビウスのおじさまから色々と商品を提案される。新作のドレス、アクセサリー、化粧品などなど。
まああたしにはあんまり興味が湧かない。つーか、提案してくるものが昔のシャルロッテを参照してるから、微妙に趣味じゃないんだよな。
あたしはファビウスのおじさまや商会の人達の話を聞きながら、渡されたカタログに目を通しておく。せっかくだし無理難題を吹っ掛けてやろう。
「ねえ、この太陽の恵みっていうアクセサリーが気になるんだけど、今日はないの?」
「太陽の恵みですか……。シャルロッテお嬢様、申し訳ございません。そちらは非常に貴重な品となっておりまして、今日は持ってきていないのです」
なんかやたらと豪華で、やたらと値段も他に比べると一段階高い。なんとなく吹っ掛けてみたけど、案の定持ってきていないようだ。
「ええ~~!? あたし、このアクセサリーが気になるんだけどないの!?」
「はい。こちらのものはどうでしょうか? お嬢様にピッタリの逸品となっていますよ」
ハハーン! なんとしてでもあたしの興味を、このアクセサリーから遠ざけたいという狙い、いや欲を感じるなあ!!!
馬鹿め!! 隙を見せたが最後よ! あたしのドブカスの餌食となるがいいわ!!!
「やだやだやだ!! あたしはこれが欲しいの! なんとかしてくださらないの? ファビウスおじさま!」
「そう言われましても。今、本社の人間と連絡を取ってきます」
「いい返事を期待しているから。いい? 期待にそぐわないような結果ならただじゃおかないんだからね!!」
と念押しにドブカス行為をしておく。何を連絡するか分からないが、十中八九別日を指定してくることだろう。
まあそこまですればかき乱したと言えるから、テキトーに別日にズラして、またひっかき乱してやろう。これぞドブカス行為だ。
「お嬢様! いい報告です。今ならファビウス領にある支社で本物が見られると。ここから遠くないですし、お嬢様には足を運んでもらうことになりますが、今日にでも実物を目にすることができますよ!」
という予想外の返答が返ってきた。へーほー、ふうん。そこまで気合を入れるか。よかろう。それではあたしもそれ相応の気合を見せてやらなくては。
「わーい! でもね、ファビウスのおじさま。あたし、今、お父様から家を出ちゃ駄目って言われているの。何とかして抜け出せない?」
「抜け出す……ですか。ですが、お嬢様を勝手に連れ出したと知られたら」
「みんなには内緒にするわ! もしバレたとしてもあたしが謝るから変な心配はしなくてもいいよ!」
まあバレたその日には罪を擦り付けるのだが。ドブカスとしては当然の礼儀だ。
「ううむ……お、お嬢様がそう仰るのであれば。分かりました。我々が協力しましょう」
言いくるめに成功したので、あたしは抜け出すための準備を始める。もっとも、ローブで身を隠して、荷物に紛れて抜け出すという簡単な作戦なんだけど。
あたしのうすほそボディが役に立った。余計なものがないから、ローブで身をくるめばそれっぽい荷物を装える。
「あら、ファビウス様。もうお帰りなのですか? シャルちゃんは満足していました?」
「アマンディーヌ夫人。ええ、シャルロッテ様からはご好評をいただきました。それでは今日のところはこれで」
抜け出す際にお母様に話しかけられたけど、お母様の目は節穴だ。何も怪しまれることなく、あたしは荷物と共に馬車の中に入る。
「シャルロッテお嬢様。すぐに席にご案内しましょう。さあ、ローブを脱いでこちらに」
「あたし、ここでいいわ。その代わり、眠くなっちゃったから昼寝でもするわ。いい? あたしの昼寝を損なうような運転をしたら許さないんだから! じゃあおやすみ」
ここでも無理難題を突き付けていく。人の車の中で惰眠を貪る。なんて我儘なドブカス行為だろうか。一度やってみたかったんだよなあ。
ということであたしはローブにくるまったまま目を閉じる。意外と寝心地がいい。あたしの意識は一瞬にして暗闇の中に落ちていくのであった。