ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「ぐ……! な、何故だ!? 勇者は行方不明だったはず!! 今更なんで!?」
「シャルロッテに教えてもらった通り、悪い奴を倒してた。そしたら遅くなった」
「シャルロッテが……?」
クロエが王城を飛び出した理由は、シャルロッテが絡んでいるからだろうと内心思っていた。故に部下にはヴァニリウス領を重点的に調べてもらっていた。
しかし見つかることはなく、姿を現したかと思えばこの状態だ。
もしかして、シャルロッテが仕組んだことなのだろうか? 何もかもタイミングが良すぎる。魔族が行動を移したタイミングと、クロエが帰ってきたタイミング。その全てが。
「だ、だが! 俺様の配下が簡単に負けるなんて考えられない! お前は魔術が使えないはず! ど、どうやって俺様の精鋭を殺したというんだ?」
「殴ってちぎった。こんな風に」
「死ねえええ!!! 勇者!!!」
クロエの背後からアンデット化した兵士が剣を振りかぶる。クロエは素早く兵士の背後に回り込み、兵士の肩に乗っかった後、片手で無理矢理、兵士の頭を引きちぎった。
「ぐ、が、は……!?」
「もう動かなくなった。シャルロッテよりも弱い」
「で、でたらめだ……! 魔術もなしにあんな動き……!」
「ねえ? 貴方はシャルロッテよりも強い?」
クロエがそう聞いた時だ。クロエは両手に持った兵士の頭をアコニットに向かってぶん投げる。アコニットはそれを魔術で防ぐ。
「ふふふ! 魔術なしで不滅のアコニットに挑もうなどと馬鹿にしおって! 俺様の魔術で黒焦げにしてくれるわ!!!」
アコニットが杖から雷撃を放つ。クロエはそれを軽々と回避して、たった一回地面を蹴っただけでアコニットに肉薄する。
「……は?」
「お兄様を騙して、お兄様を傷つけようとした。お城の人達を殺そうとした。許さない」
クロエの回し蹴りがアコニットの胴体に当たり、アコニットは窓から王城の外へと叩き出される。
「く、クロエ! 無事、ああいや、城の人達はどうなった!?」
「お兄様。城にいた悪い奴は全員首をもいだ。それ以外は無事。後はあいつだけ。私はあいつを追いかける」
「クロエ!?」
クロエは大きく駆け出して、アコニットの後を追うかのように窓から外へと飛び出す。ここがどれだけの高さなのか分かっているのか!?
空中に投げ出されたアコニットの鎧をクロエは引っ掴む。
「王城じゃ魔術使えない。だからこうする」
「やめろ! 何をするつもりだ!? この俺様を、ま、待て!!」
「待たない」
クロエは空中で力任せにアコニットをぶん投げる。王城の外にある、王都と王城を繋ぐ橋に向かって。
「めちゃくちゃだ!! あんな戦い方を教えたつもりはないぞ!! シャルロッテの影響か!?」
あれもシャルロッテが仕組んだことだというのか!? どこまでが彼女の思惑なのか、もう想像もできない!
しかし、シャルロッテの思惑通り、王城にいる人物を救出することはできた。まだまだ問題は山積みだが、アコニットさえどうにかできれば立て直すことができる。
俺は急いでクロエの後を追う。クロエは空中を蹴りながら、アコニットが落ちた橋へと向かっていた。
***
「クソっ! クソクソッ!! 全てが上手く行っていたはずだ! あの令嬢を無力化し、最高のタイミングで作戦を仕掛けたはずだ! なのになぜ! この俺様が上手くいかないんだ!?」
「追いついた。ここでなら魔術が使える」
橋の上に降り立つと、全身から魔力が漲るのが分かる。さっきまでは少ししか魔力が使えなかった。ちょっと息苦しかった。
「そもそもなんなんだお前は! 我々の精鋭は魔術で強化しているのだぞ!? だというのにお前は軽々と我々精鋭を倒しおって……!!」
「ちょっと動きにくかったけど、シャルロッテと戦うよりかはマシだった。シャルロッテ一人の方がずっと強かった」
「……は? 魔界大将軍とその精鋭部隊が、貴族令嬢一人よりも劣っている……だと?」
「うん。わざわざ確認すること?」
目の前の魔族が魔力をみなぎらせる。確かに凄い魔力かもしれない。魔族を見たのは今日が初めてだったけど、確かにお兄様が警戒するだけのことはありそうだ。
「その侮辱、死んでも消えないと知るがいい!! お前は殺して、我が兵士として使いつぶしてやる!! その魂が朽ち果てるその時まで!」
「怒ってるの?」
「怒り……? これは怒りなどではない! それよりも黒く、強く、禍々しいもの! 憤怒だ!! 俺様の憤怒でお前の全てを蹂躙してやろう!!!」
「ふうん。その割には隙だらけなんだね」
シャルロッテは戦闘中話している間も隙はなかった。変に踏み込めばこちらがやられると、私の勘が告げていた。
けど、目の前の魔族は違う。隙だらけだし、斬ってくださいと言っているようなものだ。だから私は。
「斬った。終わり」
「……は? いつの間にう、後ろに?」
魔術で剣を作って斬った。首を斬っても死ななさそうな見た目だったから、身体を粉々に斬った。魔族の剣が端から斬れていって、鎧、身体と斬れていく。
「ば、バカな……!! この、俺様が……!」
「弱いんだね魔族も。生きるのが大変そう。もう死ぬから関係ないと思うけど」
弱いと生きるのがつらい。弱いと生きるのが苦しい。
だから強くなる。強くならなくちゃ意味がない。
私は勇者。強いから戦う。強いから弱いみんなを護る。私には勇者としての力しかないから。
「シャルロッテやお兄様の方が強かった」
「お、俺様がこんな奴にいいいい!!! い、嫌だ! 俺様が一番だって!」
「うるさい」
うるさかったからもう一回剣を振るう。次こそ魔族から何も聞こえなくなった。
「クロエ! 無事か!?」
「お兄様。悪い奴倒した」
「うむ。それについては後で聞きたいことがある。それよりも」
「うん。外に沢山いる。魔物が」
ここに来るまでに沢山魔物は倒したけど、どうやらまだまだいるみたい。
「私が出る」
「いいや。いつまでもお前に護ってもらうわけにはいかんからな。今度は俺の番だ」
お兄様が私の頭をなでながらそういった。お兄様がいつもよりも強く感じる。
「俺も負けていられない。そうだろう? シャルロッテ」
お兄様は強気な笑みを浮かべながら、シャルロッテの名前を口にしていた。