ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「ふ、ふんっ! それで脅しているつもりかしら!? あの生意気なガキといい本当に忌々しいわ……! アタシの頭をおかしくさせて!!」
「また言いましたね。本当にどうなっても知らないんですから!!」
全身からさらに魔力がたぎる。それを見て、カシス達は怯えていた。
「か、カシス様!! 本当に我々に永遠の美が与えられるんでしょうね!?」
「ええそうよ!! あんなのは見掛け倒しよ! 聖女は戦えないって聞いているもの! さあ、アンタ達やってしまいなさい!!」
カシスの命令通り、メイド長だったサキュバス達が一斉に私へと襲い掛かる。
聖女は戦えない。カシスの言う通りだ。私の中で聞こえてくるもう一人の声も『戦うのはやめてできれば穏便に』と口にしている。
「けれどごめんなさい。シャルちゃんを馬鹿にされて大人しく下がっていられないの」
私は腰を入れて、最初に飛びかかってきたサキュバスの腹に目掛けて拳を放つ!
えぐり込むように打つべし! これがクレールさんと二人で辿り着いた答え!!
「ガハッァ!?」
サキュバスが吹き飛んで地面に転がる。黄金の魔力がサキュバスの身体を浄化して、元のメイドの姿に戻した。
「ふん! 雑魚を一人やった程度で調子に乗らないでちょうだい!!」
「平民との混ざりものの分際で生意気なのよぉ!! 魔術で焦げてしまいなさい!!」
「ひぃ!? セレーネ様!!! ど、どうしましょう!?」
クレールが怯えた様子で声をあげる。雷撃や炎の魔術が一斉に発射される。だけど、不思議と怖くはなかった。私はその場で大きく右脚を踏み込む。
刹那、黄金の魔力と共に地面がえぐれて、魔術が霧散する。
聖女には戦う力はない。けれど、誰かを護る力はある。私の中の聖女がそう教えてくれるのだ。
「な……!? 混ざりものが純血の我々の魔術を防ぐなど!?」
「まぐれに決まっているでしょう!? もっと魔術を撃ちこんであげるわ!!」
次はさっきよりもまばらだ。私はゆっくりと歩きながら、魔術を握りつぶす。これも聖女の力なんだろうか? 握りつぶしてもちっとも痛くない。
「さて、次はこちらから行きます!」
「ひっ!?」
怯えたサキュバスに対して拳をねじ込む。後ろから襲い掛かろうとしたサキュバスには回し蹴りを喰らわせる。
蹴りをするなんてシャルちゃんみたいだ。これはすごく気持ちがいい。
「大魔術で葬ってあげるわあ!! 覚悟しなさい!!」
サキュバスの一人が巨大な火球を生み出して、私達の方へと投げてきた。私は一呼吸した後、両手を前に突き出す。
「聖女滅却破ァ!!!」
「え……キャアアアッッ!?!?」
黄金の魔力が火球ごとサキュバスを飲み込む。サキュバスの身体が人間の身体へと戻っていく。
「な……。アタシの軍隊が全滅……!? そんなことあるはずがないわ! 人間程度に手も足も出ないなんて!!」
「残るのは貴女だけですね。ジゼル先生……いやカシス」
私はカシスの前に立つ。カシスは瞬く間に部下が全滅したことに驚いている様子だった。やっぱり、カシスを倒さないと胸のモヤモヤはちっとも減ってくれないようだ。
「私のこの手が叫んでいます。貴女を滅却しろと。最後の忠告です。シャルちゃんへの言葉を過ちと認めて、謝って、一生をかけてシャルちゃんへ尽くすというのなら許してあげます」
「か、勝ったつもりかしら!? お笑いね! こいつらは所詮、アタシにとっては雑兵にすぎないのよ! 下っ端を倒した程度で粋がるなんて、物を知らない子供はこれだから嫌なのよ!!」
カシスが手を挙げる。すると周りの空に次々と魔法陣が現れた。それは屋敷の上ではなくて、屋敷の向こう側。みんなが住んでいるヴァニリウス領の上に出現している。
その魔法陣から竜の頭が飛び出してくる。あれも魔術なんだ。
「あ、あれは召喚魔術!? それもあんな大規模なものを!? せ、セレーネ様大変です! このままじゃ街が!!」
「オホホ!! 傾国と言われたアタシが無策で喧嘩を売ると思ったら大間違いだわ! いいことを教えてあげる! 十年前にあったサレ海洋公国の滅亡。それを主導したのは誰でもないアタシ!」
「サレ海洋公国……?」
「たたたた、大変ですよ! サレ海洋公国の滅亡は有名なんですから! 島国故に鉄壁の防御を誇った国が一夜で滅ぼされた事件なんですよ!!」
私はそういうのにちょっと疎い。いつもあの部屋にいて、外の情報を調べ出したのはつい最近だから。クレールさんは物知りだ。いつも私に、私が知らないことを教えてくれる。
「そこのお嬢ちゃんは物知りねえ! あの時は最高だったわ。大公の娘と妻をアタシの部下にして、市民が魔物に食われていく様子を見せた後、自分の娘と妻に殺される大公を見るのは! 永遠の美は誰もが望む素晴らしいものねえ。そんな物のために国一つ差し出せるのだから、人間って愚かだわぁ」
「そ、そんな……! 酷い!」
「アンタたちにも同じ絶望を味わせてあげるわ! 遊びはここまで! アタシの切り札である結界を解放してあげる!!」
その瞬間、屋敷の地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。私の魔力が少しずつ弱くなっていくのを感じた。
「この結界は魔族以外の魔力を封印するものよ! いくらアンタが強かろうと魔力がなければただの小娘! アンタ達は何もできないまま、絶望して死ぬのよ!!」
カシスは自慢げにそういう。けど、私はちっとも心配していなかった。
私が聖女だからとか、そういう理由ではない。何せヴァニリウス領にはシャルちゃんと私の自慢のお父さんがいるから。
『轟け雷鳴』
お父さんの声がヴァニリウス領全体へと響き渡る。