ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
お母様が昔に言っていたことを思い出す。ヴァニリウス領にはどんな敵や魔物が攻め込んできたって、全てを護り通すだけの力があると。
私は今、それを目の当たりにしている。
『崩れよ大地、割れよ大空、焼け落ちろ異端者の砦』
「な、何よ!? なんで、ヴァニリウス卿の声が聞こえるわけ!?」
カシスは困惑して声を荒げている。そうだろう。お父様は遠く離れた砦にいるはずだ。こんなところまで声が聞こえてくるわけがない。
「せ、セレーネ様……? こ、これは?」
「シャルちゃんが言ってたことなんだけど」
ちょっと前にシャルちゃんが『お姉様はこんなことも知らないだろうから教えてあげる。私との知識の差を思い知ることね』と言いながら教えてくれたことがある。
私は知らなかったんだけど、お父様は通常じゃ考えられない距離から魔術が使えるらしい。攻撃魔術だけに限れば、ヴァニリウス領全域にも及ぶとかなんとか。世間に疎い私にはそれがどれくらい凄いことなのか分からなかったんだけど。
『聖なる裁きは等しく。悪しきものよ光と共に散るがいい』
カシスが生み出した魔法陣の上に、更に大きな魔法陣がいくつも現れる。魔法陣から出てくる無数の魔物に対して、無数の魔法陣が狙いをつけるかのように浮かび上がってくる。
『
光の柱が魔物達を貫く。無数に溢れ出そうとした魔物は、お父様の魔術によって残らず塵となっていった。
「そ、そんな……! こんな貧乏くさいガキと同じようなふざけた魔術で、あ、アタシの魔物たちが……!!」
「とても素敵な名前じゃないですか? ねえ? クレール」
「な、何とも言い難いですね」
私にはビビッと来た。なんて素晴らしい魔術だろうと。私もお父様に負けないよう、この屋敷を守り通さないといけない。
私のこの手に勇気と情熱を込めて!
「ふふっ! な、何を勝った気でいるのかしら!? ここをめちゃくちゃにして、アンタさえ殺せば、アタシの勝ちは決まっているようなものなのよ!!」
「そうですね。ここが一番大きな山場なんでしょうね。だから、ヴァニリウス家の名にかけて、貴女を倒します!!」
私は直感していた。この中では私は魔術を使えない。それは魔法陣が原因だから。
私の魔力を右手に一点集中させて、魔法陣めがけて拳を叩きつける。そうすれば魔法陣が消し飛ぶ。
「な……なにぃ!? アタシの魔術を無効化した!? い、いや、アンタ何をしたのさ!? もしかして、これがアンタのじゅ、術式!?」
「私にどんな力があるのか興味ありません。ただ、私はお父様やお母様、そしてシャルちゃん、シャルロッテ・ヴァニリウスに恥じない戦いをするだけです!!」
全身の魔力を解放して、カシス目掛けて地を勢いよく蹴る。
「ひっ……! く、来るな! アタシは魔族……! 多くの人間の命を吸って、可憐に咲き誇る魔族なのよ!! アンタみたいな貧乏くさい、迫害されていた、汚い女にぃ!!」
「問答無用!!!
カシスの頭を鷲掴みにする。絶対に逃がさない。シャルちゃんを馬鹿にしたこの人だけは!!
「ひ、ゆ、許して! その魔力をやめて! アタシの、アタシの魔族としての力が……!!」
「許しません! 許してほしければシャルちゃんに直接謝りなさい!!」
掌に大量の魔力を注ぎ込む。それがカシスへと注ぎ込まれて、眩い光と共に弾けた。私の目の前に何かが転がる。
「はあ、はあ。ん、人間風情がやってくれるじゃないの! でも残念ね! アタシにトドメを刺さなかったのが間違いよ! 今からアンタ達をギッタンギッタンに……え、あれ?」
「あら、魔力を注ぎ込んだら……」
「こ、子供になっています! 子供になっていますよ! セレーネ様何をしたんですか!?」
カシスが子供の姿になっていた。妖艶にも見えた姿も、子供の姿になってしまえば服がぶかぶかになっている。
「ちょ、ちょっと! なんで魔術が使えないのよ!! アタシの身体に何がおきたわけ!? あんなにも美しい身体が……! アタシの美が! こ、こんな惨めな姿に!!」
「まあともかく、シャルちゃんはどこにいるの? 正直に話せば、謝る時に一緒にいてあげるから」
「はあ!? あ、アタシがあんな貧相なガキに謝るぅ!? それも貧乏くさいアンタと一緒に!? 冗談じゃないわよ!」
「うんうん。言うこと聞かないとこれしちゃうけどいいかな?」
「あ、はい。ごめんなさい。生意気言いました。正直に話します」
人との話し方が分かってきた気がする。これもシャルちゃんのおかげだ。シャルちゃんは色んな人と話すから、話し方の参考にしやすい。
「ひ、いや、シャルロッテね。あいつは今頃、商人に騙されて拠点に拘束されているはずよ。でもここや王城よりも強力な結界が張ってあるし、いくらあいつが魔術の天才と言われていようとも突破は不可能ね」
「そうなんですね……?」
「なんでちょっと分かってない風なの!? 頭が雑魚すぎて本当に嫌だわ! いい!? アンタの生意気な妹は、超絶危機的状況ってわけ! 魔術を使えなければただのガキなのよ!?」
うーん。何も危機的状況には聞こえないんだけど。だって。
「いいカシスさん。私は最近分かったことがあるんです」
「な、なによ」
「シャルちゃんはね、めちゃくちゃなの。私やクレールさんがこれくらいかなと思ったところを簡単に飛び越えちゃうの。だから、いくら魔族と言っても、シャルちゃんはその想像を超えてくるわ」
「……は? い、一体何を言ってるの? ちょっとこわ」
と言いかけた瞬間だ。ずっとずっと遠くの平原で、天を貫くような巨大な城が現れる。全てが飴で作られた巨大なお城だ。まるで絵本に出てくるお菓子の城のような。
「な、あ、あれは……あれはなんなのよ!? アタシたちは完璧にやったっていうのに! あいつが美味しいところ全部持っていくと思っていたから……!!」
「せ、セレーネ様。あ、あれってシャルロッテお嬢様の」
「そうだよ。だから言ったでしょ。シャルちゃんはやることがめちゃくちゃなんだって。だから、どんな枷もシャルちゃんをしばりつけるには足りないの!」
お菓子の城から何かが飛び出してくる。耳を澄ませば聞こえてくる。シャルちゃんの楽しそうな笑い声が。
「アハハハッッ!!! どうしたのかしら!? その程度なの魔族ゥ!!!!!」
元気そうなシャルちゃんの声が聞こえてきた。ほら、何も心配するようなことなかった。