ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「んにゃんにゃ、流石にこれ以上は……ハッ!!」
どうやら相当深い眠りについていたようだ。馬車の揺れを一つ感じなかった。人の車でこれほどの熟睡……! また一つドブカスを披露してしまったか……!
流石に眠りすぎたせいで頭が回らず、ボーッとしてる。ボーッとしてるせいか、心なしか薄暗いところにいるような……。
「……ん? 手が動かないわね。というか足も……って!!」
拘束されてる〜〜!?!?
アタシの両手両足が縛られてる!? え!? なんで!? 急になんで!? なんであたし、牢屋の中にいるの!? それもじめじめとした場所に!?
最近理解してきた。アタシが積極的にドブカスをすると、何故か変なものを呼び寄せてしまうことに。今回もそれかもしれない。
アタシはどうやらドブカスの星に愛されすぎて、運命からドブカスをされているのかもしれない。ってうるさいわ、ぶっ飛ばすぞ。
そんなことを思っているとだ。カツ、カツ、カツと地面を叩く足音が聞こえてくる。やたらと音が響くな。
「まさかこんなにも上手く行くとは思いませんでしたな~~」
「所詮は我儘な令嬢。手玉に取りやすいというものです」
「いや、最後まで油断してはいけない。魔界に連れ込むまで決してな」
遠くで声が聞こえてくる。声が響くということは、見た目からして地下室のような密閉空間であると考えるのが自然だろう。
床は整備されているけど、壁は岩ということはどこかの洞窟の中に閉じ込められているのか? それともファンタジーらしくダンジョンの中とか。
「ククク。問題ありませんぬ。あ奴を縛り付けているのは、魔力を封じこめる縄です」
「あれに縛り付けられた者はろくに魔術を使えないでしょう」
「なるほど。いくら魔術の天才といえど、魔術が使えなければただの小娘か。ふん、御しやすくて助かるよ」
足音が遠ざかっていく。どうやら二人は外へ出ていったようだ。
しかし、相手も不用心だ。あたしが眠っているていで話をしていたのだろう。おかげさまで情報は筒抜けだ。確かに魔力が体外に出せない。というよりかは出しにくい。
ごく少量の魔力しか出せないせいで、魔術を使えないというロジックだろう。逆に体内で魔力を使う分には縛られている手首と足首を除けばできそうだ。
あたしをちょっとお高い縄程度で拘束できると侮ってくれて助かる。まあでも簡単に拘束を抜け出してしまったら、ドブカスとは呼べないだろう。
今回は向こうがあたしにドブカスをしてきた。あたしがドブカスするのはいくらでも許されるが、あたしにドブカスするのは許されざる行為だ。
「おやおやシャルロッテお嬢様。目が覚めましたか。随分とぐっすり眠っていたようですね」
「あら、ファビウスのおじさま。これはどういうことなの? 正直に話してくれたら許してあげるのだけど」
牢屋の目の前にファビウスのおじさまと、その取り巻き達がやってくる。こんなことができるのは彼らくらいだろう。
あたしの予想外だったのは、正義面して出てきたファビウスのおじさまが、実は闇魔術師側だったということだ。あたしの命狙われすぎじゃない?
「ククク。この期に及んで許すとは。状況が分かっていませんねえ。貴女は今、身体の自由を奪われているのですよ? 今の貴女に何ができるというのでしょうか!!」
「その通りだ! お前は魔術も使えないただのやせ細った小娘! 肉付きのいい姉とは随分な差だなギャハハハ!!」
便乗してきた隣の男。なるほど、こいつは許さん。
「そこのお前。面白いことを言うのね。気に入ったわ、殺すのは最後にしてあげる」
「お、脅しているつもりか!? これだから貴族のお嬢様というのは物を知らないから困るぜ!!」
「いいか! その縄はただの縄ではない! 魔術を封印する封印の縄だ! 魔界でも屈指の貴重な魔導具だ! お前程度の小娘に破られる道理はない!!」
へえ、ほう、ふうん。貴重なんだ。どんな使い方をしてやろうかな~~。楽しみがまた一つ増えてしまった。あたしのドブカスの餌食になってしまうなんて可哀そうに。
「それよりも。ねえ、ファビウスのおじさま。貴方達が悪い人っていうのは理解したわ。あの闇魔術師も貴方達が仕向けたものなの?」
「まあそれくらいなら教えてあげましょう。その通りです。あの闇魔術師は我々魔族の叡智を欲していた。だから、上手くやればくれてやると仕向けさせました。もっとも、失敗したから切り捨てたのですけど」
ニヤリと笑いながらファビウスのおじさまが牢屋の中を指さす。あたしはその方向を見る。
そこにはミイラが転がっていた。身に着けているものから察することができる。あの闇魔術師のミイラだってことに。
「中々の演出ね。ちょっとしたホラーよりかは楽しめるわ」
心臓バックバックだわ!! ドブカスの仮面がなければ普通に絶叫もんだぞ!! 用済みになったから捨てられるとか可哀そうに。
あたしのドブカスのせいで死んだようなものだけど、まあハメようとしたのは向こうだ。まあ死んでも文句は言えないよな。
「おかげで遠回りする羽目になりましたが、我々の計画に支障はありません。所詮、人間程度では我々魔族の計画を阻むことなんて不可能なんですよお!!」
「月並みだけど、こんなことして許されていると思っているの? って言っておくわ。仮にもファビウス家のご令嬢を攫っているのよ」
「ククク。外はそれどころじゃないでしょうねえ。今頃、王城も、お嬢様の屋敷も、全て魔族によって占拠されて燃え堕ちている頃でしょうから!!」
う、うーん。そんなことあるのか? それなりに策を張り巡らしているようだけど、王国には駄犬もいるし、気に食わない王子もいる。それにうちにはお姉様とお父様がいる。簡単に落ちるとは思えないけど。
「まあいいわ。大層な策を張り巡らしているんでしょうね。その言い分だと。ちなみにあたしを攫ってどうするつもり? あたし、聖女でもなければ勇者でもないのだけど」
「お嬢様が一番の脅威になると思いましてね。まさか貴族に忍び込んでいた同胞が正体を見破られた時は焦ったものですよ。彼の変装が甘かったのか、それとも偶然か、あるいはお嬢様が慧眼だったのか。ともかく、お嬢様さえ拘束してしまえば、勇者も聖女も敵ではないと思いましてねえ」
めっちゃ言いにくい。あれって偶然だったんですよって。偶然ドブカス行為しようとして、ぶっかけた相手が偶々魔族だったなんて言いにくい。
「我々ですら正体が分からずにいた聖女を見つけたのもお嬢様。闇魔術師やカシスではなくてジゼルを送り込んだ黒幕がいると知ったのもお嬢様。全て、私には筒抜けでしたが、警戒に値すると思いましてね」
「その言い方って。貴方が黒幕ですって言っているようなものだけど?」
「その通りです。魔術の名門であるヴァニリウス家。そこを乗っ取れば、王国で動きやすくなる。そう思って色々と手引きしたのですが、全てお嬢様の手によって阻止されてしまいました」
そんなつもりは微塵もなかったんだけどなあ。しかしそっかあ。うちってそんな安く見られていたのか。今度からそう思われないようにも、ドブカスとしての威厳を周囲に知らしめていかないと。
「しかし、お嬢様をただ殺すだけでは勿体ないと思いましてね。その術式を手に入れたら、我々にとって強力な力になる、そういう閃きが私に更なる一手を授けてくれました。お嬢様を魔界で解剖し、術式を取り出して魔導具として利用しようと」
「ふうん。面白いことを考えるじゃない。でも残念」
そろそろ頃合いだろう。この人達と喋るのも飽きてきたし、相手のボルテージは今が最高潮のはずだ。ならば、ここでドブカス行為を見せつけてやるのが礼儀というものだ。
「馬鹿には使えないわ。あたしの術式。この程度の拘束であたしを縛り付けられていると思っている馬鹿にはね」
あたしは自分の身体の一部をクッキーにして、拘束されている手足を切り離す。そしてすぐさま、切り離した先を魔術で復元する。
「次があるなら、その縄であたしの全身をぐるぐる巻きにすることね。魔力が流れる場所がないくらい、完璧にね」
魔力が流れるところまでは魔術が使える。
相手が立てた策をパワープレイでめちゃくちゃにするときにしか得られない栄養素って確かにある。マジで頭から出てはいけない汁が出そうになるくらい気持ちがいい。
あたしは椅子から立ち上がって、おじさま達を見る。
さて、ドブカス開始だ。