ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「な、縄を抜け出しただとぉ!?」
「しかも魔術が使えないのに!? こいつ何者なんだ!?」
取り巻きの二人はうろたえている。あたしもまさかこんなパワープレイが通用するとは思わなかった。
「うろたえてはなりませんよ。うろたえては彼女の思うつぼですからね」
「貴方は随分と余裕そうね」
「ええ。お嬢様を攫うと決めた時から、二重にも三重にも策を講じると決めていましたから」
にこりと笑った後、牢屋の中に大きな魔法陣が浮かび上がる。
「ここら一帯には魔術封じの結界を張っています。この牢屋の中の物は更に凶悪! どんな魔術さえも封じ込め、無効化する特注のものですよお!!」
「ふうん。そ。ご自慢のところ悪いけど、あたしの性格は終わっているの。ドブカスって言ってもいいわ。それを成すためには能力がなくちゃできないの」
あたしが手を挙げて振り下ろす。すると、魔法陣はチョコレートで描かれたものへと変貌し、その効力を失う。
「どんなにデバフをかけられようが、どんなに対策を講じられようが、それを踏み躙って超えていく。あたしと貴方達とでは、魔術師としての性能が違うのよ。蟻がいくら策を講じたところで象に勝てないのと同じ道理よ」
特別なことをしたわけじゃない。ただ魔力量でゴリ押した。元からこの身体は魔術の天才と呼ばれるほど、魔術師としての才能に溢れている。
なので変な小細工を講じられたところで、特別なことをする必要がない。
さっきの縄は物理的だったから効力は強かったけど、この結界に関してはそんなに強い拘束ではない。魔術封じの原理も、消費するMPが増大するから、実質魔術使えませんよって言っているようなものだ。
「分かったかしら? 貴方達がいくら努力して、いくら小細工を講じたところで、あたしに勝てるわけがないわ。生まれも育ちも、何もかもが劣等な貴方達にはね」
「劣等……? 人間風情が、我々魔族を劣等と侮るか!」
ファビウスのおじさまの怒りの声と共に、取り巻き達を含めて姿と形が変わっていく。肌は人間のものとは思えない色合いに、額に角が生えて、いかにもという見た目に。
「我が名は魔界大将軍が一騎『撃滅のリシン』!!」
「そしてその右腕! 『剛力のノーキン』!」
「左腕! 『策謀のヤーラシー』!」
「……そんな名乗りを見るのも久しぶりだわ。まあいいわ」
ここは奴らの礼儀にならって、あたしもそれっぽいことをしてやろう。同じ土俵に上がってこそのドブカス行為だ。
あたしは全身を飴で形作った鎧で覆う。腕から刃を生やし、足にも刃が生えているまるで全身凶器のような見た目の鎧に。
「あたしは『ドブカスのシャルロッテ』と言ったところかしら? 貴方達風に言うと」
「我らの誇りある名乗りを侮辱するとは!!」
「万死に値するぞ!!」
取り巻き達に怒られた。ええ……。あたしからしたら両者に差はないんだけど。まあ切り替えて。
「じゃあ、あたしに手を出した貴方達は万どころでは済まさないわ」
「……は?」
あたしの鎧はただの鎧ではない。あたしの魔術と身体機能を大きく底上げしてくれる。あたしは瞬きの間に、ノーキンと名乗った魔族へと近づく。彼は両腕をまるで鋼鉄のような色へと変貌していく。
「そ、その速さには驚いたが! 俺様の身体は鋼鉄! お前みたいな貧相な身体じゃ!」
ガードした腕へ蹴り技を叩き込む。ノーキンが壁際まで吹き飛ぶ。一瞬土煙は上がり、ノーキンがその中から出てくる。
「ぐ……。中々効いたぞ小娘。だが! 俺様の身体には傷一つ……ん? お、俺様の腕が!!」
「言い忘れていたわ。あたしの飴は鋼鉄よりも鋭くて硬いの。貴方のご自慢の腕って脆いのね」
あたしは綺麗にすっぱりと斬られた腕をノーキンへと見せつける。これぞ煽りムーブという奴だ。ここで圧倒的な格差を思い知らせていく。
「ぐぐぐぐ! 俺様の腕をこんなにも! おいヤーラシー!」
「へへっ! 油断したな小娘! お前なんか俺の魔術で燃やしつくてやるぜえ!!」
傍にいたヤーラシーが魔術を使う。あたしに火の玉が飛んできて命中するけど、あたしどころか、あたしの鎧にすらダメージが入っていない。
「その程度の火じゃ、飴すら溶かせないわよ。あたしにダメージを入れたいなら、これくらいはやらないと」
「ノーキン! ヤーラシー! 今すぐここから出るんだ! 何かしてくるぞ!!」
危機を察知して、三人が天井を突き破って外へと出ようとする。それと同じくらいに、地下室と上にあったものが全て溶けていた。
「シャルロッテ・ヴァニリウスの術式は『お菓子』などという戦闘能力が皆無なもののはず! だというのになんだあれは!? 物を溶かすほどの火力だと!?」
「お菓子魔術はお菓子に関することを操る術式よ。熱なんて、お菓子作りにはとっても大切なこととは思わなくて?」
この世界の魔術というよりも術式には未知のことが多い。お菓子魔術はお菓子を生み出したり、何かをお菓子に変えることができる魔術。そう思っても仕方ないだろう。あたしも最初はそう思っていた。
けれど、どうやらまだまだ術式には可能性があるらしい。お菓子魔術なら、お菓子に関すること、つまり調理工程すら操ることができる。まあ発想が飛躍しているし、お菓子との関係性が薄いから、燃費は悪いし、好き勝手には使えないというのが難点だ。
「め、めちゃくちゃだ! こんな魔術師、魔族にもいないぞ!? 魔族が数百年かけて術式の研鑽をするというのに、お前は……!」
「あたしは十五歳よ。魔族とあたしとでは生きている時間の価値が違うの。あたしの一秒は魔族の一生よりも重たいわ。それに、お仲間さんのことを心配しなくていいのかしら?」
あたしの視線に気が付いたリシンが後ろにいたノーキンへ視線を向ける。ノーキンは物言わぬ氷菓子の姿になっていた。地面に落下し、衝突した時の衝撃でバラバラに砕け散る。
「熱することもできれば冷やすこともできるわよ。まあただ、いくらあたしの魔術でも、ああまでバラバラになったら元には戻せないけどね」
「貴様あ!! よくもノーキンを! 許すものか!!」
「待て! 早まるな! ヤーラシー!!」
もう一人の魔族が突っ込んできたので、あたしはそいつの顔面を鷲掴みにする。
「貴方を最後に殺すといったわね。あれは嘘よ」
「な、何をするつもりだ!? や、やめろ! やめてくれええええ!!」
「知ってる? ある病気は末端から壊死していくんだって。末端から自分の身体が崩れていく様を見るといいわ。きっと楽しいわよ」
あたしは顔面を掴んだまま、ヤーラシーの全身へと魔力を流し込む。次の瞬間、ヤーラシーの全身、指先から砂糖に変化して身体が崩れていく。彼は最後の最後まで泣きわめこうとしたが、肺が崩されて、声帯が崩された以上、声も出せないまま、全身が白砂糖になって崩れていった。
「バケモノめ……! お前はバケモノだ!」
「失礼ね。あたしはドブカスよ。さて、最後ね。ファビウスのおじさま。いいや、リシン。貴方はどんな風に踊ってくれるの?」
あたしはリシンへ向かってとびっきりの笑顔を見せるのであった。