ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「なんなのだ! あの城! この魔物の量は!!」
「あれはシャルロッテの。魔物は魔族におびき寄せられている」
王城の守りを任せ、俺とクロエは平原に突然建った城へ向けて進軍していた。その道中で無数の魔物が襲い掛かってくる。
シャルロッテ……! お前は加減というものを知らないのか!?
「ええい! 邪魔だ!!」
俺は押し寄せる魔物達に向かって、杖を振りかざす。魔物達が次々と凍てついていく。
「お兄様の魔術。凄い」
「この程度、シャルロッテには遠く及ばん! 今はシャルロッテの元に駆け付けるぞ!」
クロエから聞いた話だと、魔族はシャルロッテを無力化したから行動に移したと言っていたらしい。無力化? 平原に魔術の城を建てることを無力化というのなら、魔族と人間とでは言葉の意味が違うらしい。
シャルロッテがとんでもない無茶をした。そんな風にも捉えられるだろう。実際、城の方では爆発音を始めとして、無数の戦闘音が鳴り響いている。
「シャルロッテはなにと戦っているんだ!? というよりも、心配して損したじゃないか!!」
「心配していたの? シャルロッテのこと?」
「忘れろ! 妄言だ!!」
そりゃあ少しは心配した。知らない顔ではない。知り合いに何かあったらと思うと、心が痛くなるのは当然だ。
しかし、そんな心配も無用だった。実際、あの城の中には彼女がいる。何かに対して元気に魔術を撃ち続けている。
「お兄様止まってほしい。誰か、いる」
ヴァニリウス領に入り、城の近くまで迫ったところで、俺達はある人物を見つける。平原に一人でいるのが不思議な人物に。
「ヴァニリウス卿!?」
「おや、レオンハート王子。それとそちらの方は勇者でしたかな。いやはや、困ったことになりましたね」
ガレット・ヴァニリウス。シャルロッテの父親にして、元宮廷魔術師だ。全盛期の頃は将軍として戦場に立っていたとも聞く。
「この人、シャルロッテの父?」
「その通りだ。ヴァニリウス卿、貴方が何故ここに?」
「娘の活躍と実力を見に来ただけですよ。子供が遊んだ後の始末は、我々親が取るべきですから」
娘の活躍と実力って……。もしかしてこの人、シャルロッテの心配をしていないのか?
ガレット・ヴァニリウスは温和な紳士という印象を持たれているが、彼の師事を受けた人達の印象は全く異なる。魔界からきた悪魔のような様相であったと。
そして、噂では相当の親バカと聞く。娘二人を裏では溺愛しているとかなんとか。
「シャルロッテの救援に来たわけでもないのですか? 今、シャルロッテが戦っているのは」
「魔族。それも魔界でも相当な実力者でしょう。本来なら娘の活躍をこの目に焼き付けたいというのに、厄介な結界のせいで、これ以上立ち入れませんしね」
「この結界凄い。私も弾かれちゃう」
クロエがその先に手を伸ばす。すると、バチンッ!という音を立てて、クロエの手が弾き返されてしまう。
飴の城まではまだまだ優に一キロ以上ある。相当巨大な結界だ。
「それに娘はシャルロッテだけではありませんしね。ほら、もう一人の娘が来ました」
「お、お父さん!? それも王子にクロエちゃんまで!」
「お、お待ちください……。せ、セレーネ様。は、はやすぎます……ヴッ!!」
シャルロッテの姉、セレーネとその付き人がやってくる。もしかして、あの屋敷から走ってきたのか? かなりの距離だぞ?
「セレーネ。なんでここに?」
「それはシャルちゃんが」
「あたしがここに呼んだのよ」
セレーネの背後からシャルロッテが現れる。何故だ!? なんでここにいる!?
「しゃ、しゃ、シャルロッテか!? なんでここに……。お前はあの中で」
「あの中で戦っているわよ。今もね。これは魔術で作り出した分身。そんなことも見抜けないようなんてまだまだね」
と肩をすくめながらそういう。シャルロッテの減らず口は相変わらずだが、これは俺に物事を見抜く目を養えと言っているのだろう。シャルロッテの言葉には必ず意味がある。
「シャルロッテ。無事で何よりだ。それで? セレーネを呼び出したことには意味があるのだろう?」
「意味なんてものはないわよ。ただ、結界の処理をしてほしいだけ。あたしは忙しくて手が離せないから、お姉様になんとかしてもらおうと思って」
と言った時だ。シャルロッテの身体がパキッという音を立てて、ひびが入る。そのひびは瞬く間に大きく広がっていく。
「シャルちゃん!? 大丈夫なの!?」
「シャルロッテ!? 本体になにかあったのか!?」
「じ、かん切れのようね。あ……まか」
ひびが全身に広がって、分身が砕け散る。どうやら残された時間はわずかのようだ。
「この結界を破壊する。しかし、そんなこと」
「シャルロッテがセレーネに任せたのは意味があります。セレーネやってみせなさい」
「……え? わ、わたし?」
ヴァニリウス卿の視線がセレーネへと向く。確かに彼女は聖女の生まれ変わり。聖女の魔力を持ち、魔族を浄化したという実績もある。
しかし、形もない結界そのものをどうにかできるのだろうか……?
ヴァニリウス卿はセレーネの肩を優しく掴んで、結界の前に立たせる。
「いいかい? いつもみたいにするだけでいい。セレーネの思う通りに」
「わ、分かりました! やってみます!!」
ヴァニリウス卿は一歩下がり、俺の隣に立つ。セレーネは目を瞑り、集中することで全身から魔力をみなぎらせる。
「ハアアアアアッッ!!!」
「セレーネの魔力、凄い」
相変わらずすさまじいものだ。杖もなしで全身から魔力をみなぎらせる。そんな芸当は中々できない。
彼女は全身の魔力を拳に集めていく。拳が黄金の光を纏い始める。
「王子には話しておきましょう。娘、セレーネの術式について」
「術式……?」
彼女が拳を構える。足を一歩後ろにひかせて、地を踏みしめる。
「
「セレーネの術式は『破壊』。セレーネは術式に自覚はなく、長らく封印していましたが、聖女の魔力に覚醒したことでその封印も解かれてしまったようです」
「破壊……。そんな術式聞いたことも」
「そうでしょう。何せ、この術式は神代に存在していたという伝説の術式です。その効果は形あるもの、形ないもの、認識できるもの、認識できないもの、ありとあらゆる物を破壊することができる」
それが事実ならば危険すぎる。というよりも強すぎる。術式だけの性能で、ほとんど全ての敵を倒してしまえるだろう。それくらい強力無比な術式だ。
「この術式は世界でも五指に入る最高峰の性能を誇ります。結界なんて、発生源を潰さずとも」
空間にひびが入る。それは瞬く間に広がっていき、空間が割れて、結界が破壊される。
「術式を込めた一撃だけで無力化することができます。シャルロッテはそれを見抜いて、セレーネへ協力を申し出たのでしょう」
「策を講じた相手からしたらたまったものではないだろうな。同情するよ」
広大な結界を張り綿密な準備と計画を立てていたのだろう。それをたった二人の少女にいとも簡単に突破されてしまった。
やられる側からしたらふざけるなだ。しかし、これで道が開かれた。
「行かなくては。シャルロッテの下に」
俺は城を見上げる。そこではまだ戦闘の音が鳴り響いていた。