ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「はあ、はあ……! この俺が、小娘一人殺せないとは!!」
「余裕がなさそうね。魔力が尽きないのではなかったの?」
あたしは飴の城の中で、玉座を作って座る。リシンは立ち止まって、肩で大きく息をしていた。
「くそっ! 結界は機能しているはず! だというのになぜ!!」
「さあ? 貴方が弱いからじゃない? それに……」
空間が割れる音がする。パリンという大きな音を立てて、結界が完全に割れていく。
分身を出してお姉様に結界をどうにかしてもらうという、無茶ぶりをしてみた。大きな戦いの中でもドブカスをすることを諦めない。正しくドブカス。
「け、結界が!? 俺様の結界がどうして!? 結界の基点は誰にも見つかっていないというのに!?」
「あなたの結界はその程度だったということね。さて、ご自慢の結界はなくなったわよ。どうするつもりかしら?」
あたしが飴の槍を生み出して、リシンへと投げる。今までのリシンは攻撃を受けていたのに、咄嗟の回避を行なう。
「再生魔術はどうしたの? 必死になって避けちゃって。お可愛いこと」
「ぐ……! く、クソっ! 俺を馬鹿にしやがって……!!」
リシンが風の刃を何発も出すけど、あたしの飴が全てを護る。結界が解かれたせいか、魔術を使っても魔力をあまり消費しない。これはいいな。これなら、ドブカスをしても勝てそうだ。
「宣言してあげる。あたしはこの場から一歩も動かずに、貴方を倒してあげるわ。ほら、頑張ってあたしが退屈しないように踊ってみせてよ!」
「ぐ……っ!!」
あたしは玉座に座りながら、魔術を連発する。結界が解けた以上、自分の術式であるお菓子魔術に頼る必要はない。普通の魔術を連発するだけで勝てるだろう。
だけど、あたしはお菓子魔術を使い続ける。理由は単純、こんなふざけた魔術に負けるという圧倒的な敗北感を味わせるためだ。これぞドブカスだ。
飴の槍、ガムの鎖、チョコレートの足場、今まで使えなかった分、お菓子魔術を連発していく。リシンは必死に回避し、反撃の魔術を放つが、あたしの下には一切届かない。
「クソっ! クソクソクソッ!! 何故だ! 何故俺がこんな惨めな想いをしているのだ!!」
「ちなみにいいことを教えてあげる。後ろをごらんなさいな」
リシンが背後を振り返る。そこにはレオンやお姉様をはじめとした顔見知りがやってくる。
「シャルロッテッ!! 無事か!?」
「シャルちゃん! 大丈夫!? 怪我とかしていない!?」
「な、な……何故だ! 俺の同志達が! 何故、王子達がここに!!」
「あんた達程度の策なんて、あたしが手を下すまででもないということよ」
リシンが足を止めた瞬間に、あたしはリシンの四肢をガムで拘束する。それに加えて、足元をチョコレートで固める。
「なんだこれは!? クソっ!! う、動けない!!」
「チェックメイトね。これ以上、貴方から絞り出せるものもなさそうだし、これで終わりにしようかしら」
私は巨大な飴の槍を生み出して、リシンの身体を貫く。再生魔術を失った今、リシンにとっては致命傷だ。
「ぐ……はは、フハハハッッ!! これで勝ったと思うなよ小娘え!! 魔族の秘儀というのを見てやろう!!」
まだ何かあるのか。まあこれが正真正銘最後の切り札という奴だろう。これを華麗に阻止して、ドブカスを決めればあたしの勝ちということだ。
ということであたしは玉座でふんぞり返る。足も組んで余裕の姿勢だ。
「魔力が何倍にも膨れ上がっている……!? シャルロッテ! これは!!」
「これはやばいかも。私が」
「クロエちゃんは下がってなきゃ駄目だよ! ここは私が!」
なんであそこで私が、私がと言い合っているんだ? ふふん。なるほど。魔族を倒して自分に箔をつけたいと思っているのだな。だとしたら、それを邪魔しないとドブカスとは言えないでしょう。
「手出しは無用よ。第一、あたしよりも弱い、貴方達じゃ手に余るわ。そこで大人しく見ていなさい」
「フハハハッッ!! 随分余裕だな小娘!! それとも侮っているのか!? 魔王様の魔力を取り込んだ私は無敵だ! お前達程度、赤子と変わらぬわ!!」
リシンは巨大化していた。身長は五メートルくらいになっていて、鰐人間のような見た目に変貌している。キモイな。なんかこう、鱗の感じとか。
あたしは飴の槍を投げつける。しかし、硬い鱗に覆われた身体には傷一つ付けられない。
「な……!? シャルロッテの魔術が通用していないだと!?」
「やっぱり私が出るべき」
「危険だよ! こういうのは年長者である私が!」
「まあまあ、ゆっくりと見ていればいいさ。シャルロッテが何をするのかをね」
レオン、クロエ、お姉様をお父様が止める。リシンはその様子を見て、大声で笑い声を上げた。
「フハハハッッ!! 全員でかかれば勝機があったというのに! 愚かな人間め!! 私の最大火力。上位魔術で滅ぼしてやろう!!」
リシンが大きく口を開ける。するとそこに風と水が集まっていく。どんどん集まっては小さな球体へと圧縮されていく。
恐らく、圧縮した水と風を口から吐き出そうとしているのだろう。リシンの風はあたしの飴を容易く切り裂くことができる。あれを喰らったらひとたまりもないだろう。
しかし回避はなしだ。防御もしない。ダメージを置換する必要だってない。何故なら。
「喰らえ!! 私の魔術……ガハッ!?」
「お菓子作りというか、料理の基本ね。何かを斬る。あたしが魔術で温度を操って物を溶かしたり、凍らせたりできる時点で気が付くべきよ。料理における基本的な工程を、魔術として扱えることを」
あたしは放たれた魔術ごと、リシンを魔術で斬る。料理に包丁を使って何かを斬るという動作があるのだから、当然、あたしの術式でもそれを再現できる。
見えない刃による斬撃。斬るという行為そのものを魔術として扱うから、あたしの斬撃はどんな硬度を持っていようが、必ず斬ることができる。
「といってもお菓子を扱うのとは比べ物にならないほど、魔力を使うのが欠点だけどね。あの結界が作用している状態で、それを使えばあたしに勝てたかもしれないのに。戦局の構築が少し甘いのではなくて? 自分の勝ち筋を理解しなくちゃ、どんな力も意味ないわ」
結界があったら、この斬撃は使えなかった。お菓子魔術はお菓子と関係性が薄くなればなるほど、魔力の消費量が上がっていく。なんでも斬れる斬撃は、あたしの中にある魔力、五割くらいを一気に消費してしまうのだ。
だからあの結界があった状態で、これを使われていればもう少し手を焼いた。
「結界があっても、あたしの魔術で内側から槍を炸裂させるだけだったけど。ああそうだ。いいことを教えてあげるわ。結界の基点はね、見つけていたの。分身を出してね」
あたしが出していた分身は二つ。一つはお姉様の方へ、もう一つは結界の基点を探すためにそれぞれ行動させていた。お姉様たちが手こずったら、お姉様の力を借りるまでもなかったわ的なムーブをするために。
「だからどの道貴方は詰んでいたのよ。けれど、楽しかったし、いい暇つぶしになったわ。って、もう死んじゃったの。つまらないわね」
リシンの上半身がズズズという音を立てて、斜めにずれていく。少しするとリシンの上半身が地面に落ちる。もう再生することはない。
「ファビウスのおじさま。貴方のことは嫌いではなかったわよ」
あたしは地面に倒れ伏したそれへ、そう告げるのであった。