ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「一件落着ね。全く面倒なことこの上ないわ」
あたしは玉座から立ち上がりながら、そう呟く。本当になんでこうなってしまったのだろうか。
あたしって変なのに巻き込まれすぎじゃないか? もっと穏やかに暮らしたいんだけど。
「シャルちゃん!! 大丈夫!? 怪我はない!? 酷いこととかされなかった!?」
「シャルロッテお嬢様!! お身体は無事でしょうか!? きゅ、急にいなくなった時は身を裂かれるような思いで……」
お姉様とクレールがあたしにしがみついてくる。よっぽど心配していたのだろうか。クレールに限っては涙で顔がぐっしょりだ。
「ええい! 寄らないで! しがみつかないで! あたしの服が汚れちゃうでしょう!? うっとうしいわ!!」
「しゃ、シャルロッテお嬢様のお言葉を聞けて感激ですぅ~~!!! シャルロッテお嬢様が、ご、ご、ご無事で本当に……! 本当に!!」
「わ、私達、沢山心配したんだよ!! しゃ、シャルちゃんが唐突にいなくなって……!」
「ふん! お姉様もクレールも、少しはマシになったかと思ったけど、まだまだね! あたしのことを全然理解していないわ!」
ここで格差というものを思い知らせるための、ドブカスをやっておこう。いやはや、やっぱり身内に行なうドブカスが一番楽しい。
「あたしはあえて罠にかかったのよ。全てあえての行動なの。あたしは何手も先を見据えて行動しているの!」
「それが自ら囮になって、魔族をおびき寄せたっていうわけか? 随分と危険な橋を渡ったんだな」
「あの程度の魔族、全然強くないけど。シャルロッテなら余裕」
レオンとクロエが思い思いの言葉を口にする。まあ全部偶然の結果だ。そんなこと口が裂けても言えないが。
「そこの駄犬の言う通りよ。あの程度の魔族、あたしの相手じゃないわ」
「そうか……。流石だなシャルロッテ」
なんか一瞬、レオンから湿っぽい雰囲気が出た気がするけど気のせいかしら……?
「と、に、か、く! あたしは疲れた! 眠い! お腹が減ったわ!! 早く家に帰りたいの!!」
魔族を倒して一件落着。あたしはさっさと家に帰って休みたいのだ。色んなことに巻き込まれて、気疲れが絶えない。
「シャルロッテがそういうと思って、屋敷とのゲートを開いておいたよ。ささ、シャルロッテ、セレーネ、そしてクレールも。君達は子供なのだから、後始末は大人である我々に任せなさい」
「気が効くわね。流石はお父様。ではお言葉に甘えて、あたし達は帰るとするわ」
「シャルちゃん。帰ったら一緒にお菓子はどう?」
「シャルロッテお嬢様! それでは私の新作を味わってもらいますね!!」
あの栄養食みたいなのの新作か〜〜。少し勘弁だ。まあでもお腹が減ってるのも事実だし。
「いいわ。でも、あたしに中途半端な品を出したらタダじゃおかないんだから。覚悟しといてよね!」
あたしはクレールへそう告げて、三人と一緒にゲートを潜る。
***
「さて、レオン王子。今回の件だが、おおよそ責任は私が取ることになるだろう」
シャルロッテ達がゲートを潜って帰宅し終えたのを見届けた後、ヴァニリウス卿はそう告げてきた。俺はすぐさまそれを否定する。
「いえ。責任の所在は我々にもあります。王城に魔族が入り込んでいることを見抜けなかったのは我らの責任。ヴァニリウス卿が一人で背負うものでもありません」
「事実はそうだろうが、今回の件、落とし所が必要だ。特にファビウス商会を潰してしまったということに関してな」
ファビウス商会の行方は分からないが、魔族と入れ替わっていたのだから十中八九無事ではないだろう。商会そのものの解体も可能性としてはある。
ファビウス商会は王国としても助けられてきた。しかし一番は……。
「帝国との軋轢を気にされているのですね?」
「その通り。あれは帝国との関係性が強い商会だ。それの会長が魔族になり代わり、うちの領土で事を犯した。最悪、戦争になってもおかしくない」
事を大きくしようと思えば、いくらでもできる。ファビウス商会とはそれだけ規模の大きい組織なのだ。
「だが、シャルロッテがいなければ、我々はもっと大きな被害を受けたかもしれません。魔族を野放しにした結果、セレーネ嬢やクロエを失う可能性も」
「私、弱くないけど」
「ハハッ! レオン王子が言っているのはいくら個として強くとも、生きるか死ぬかは別物ということですよ。勇者クロエ」
「シャルロッテは死なない」
あれはシャルロッテが例外なだけだ。シャルロッテは元から魔術師としては天才の域に到達していた。だが、ここ最近のシャルロッテはそれすら凌駕している。
お菓子魔術の汎用性と応用性はずば抜けている。てっきりお菓子を自由自在に生み出す術式かと思いきや、それを自在に操り、戦闘においてあれだけの力を発揮するとは思わなかった。
俺の出番と息巻いていたのが恥ずかしいくらいだ。
「確かに。子とは少しみないうちに成長する。あれだけの魔術。一体いつの間に身につけたのやら」
「俺はシャルロッテへの認識を改めるべきだとそう思いました。我儘で、周囲を振り回し、身勝手で、自己中心的な少女と思っていましたが」
「ハハっ。耳が痛い。シャルロッテを甘やかしすぎたと思っていたが、そんなふうに思われていたとは。でも今は違うと」
もしもシャルロッテが昔のままであれば、俺は彼女を見限ることも考えていた。王国を腐敗させるだけの癌として、いくらでも処分の方法を考えた。
しかし今は違う。あれはそういうふうに振る舞っているだけで、その内側にはもっと大きな何かを隠し持っている。
俺達にも言わないような大きな使命感に似たようなものを。
「今回の事件、全てシャルロッテの計算のうちだったのではないかとそう思うのです」
「話に聞けば、セレーネの聖女の魔力を覚醒させたのもシャルロッテでしたな。勇者クロエにきっかけを与えたのもシャルロッテ。レオン王子の考えていることは案外当たっているかもしれません」
シャルロッテの言動はどうかしていると思う。しかし同時に、問題を解決したり、今まで明らかになっていなかったことを明らかにするのも彼女。
なら、なんであんな口調で人から勘違いされてしまうような行動ばかり取ってしまうのだろうか?
そんなこと決まっている。彼女が他人を巻き込まないようにするためだ。そのために彼女は強い言い回しや傲慢な態度で人を遠ざけている。
つまり彼女は……。
「シャルロッテこそ貴族としての役割を全うしているのではないか。そんな風に思えます。高潔な精神を持ち、人々を陰ながら救う。そんな風に俺には見えます」
「レオン王子にそう思っていただけたなら、私としても本望です。そうですね。なら、私が取る選択もレオン王子ならば理解してくれるでしょう」
ヴァニリウス卿が安堵した表情を見せた後、俺へその選択とやらを告げる。
俺はそれに目を丸くすることしかできなかった。
「正気ですか? いくらシャルロッテといえど、まだ少女の身分。それに成人もしていないのですよ?」
「それでもです。元々私は当主という柄ではありませんしね。それに、私が当主を降りるならば、一連の騒動の落とし所としては十分だと私は思いますがね」
ヴァニリウス卿は息を吸って、吐いて。その後、俺を見つめて改めてこう告げた。
「私はヴァニリウス家当主を降り、我が娘シャルロッテとセレーネにその座を譲ります」
その宣言は新たな波乱を呼び起こす前触れのようにも聞こえた。