ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
「晴天! 何事もない昼下がり! あたしは中庭で優雅にお茶! これよこれ! これこそドブカス悪役令嬢に相応しい昼下がりというものよ!!」
あたしは中庭で紅茶をズズズとすすりながらそう口にする。いや、ようやくドブカス悪役令嬢に相応しい生活が帰ってきた。最近はてんやわんやでこうして優雅にお茶を飲む暇すらなかった。
「せいっ! やっ! とうっ!!」
「ふふ。お姉様が地道な鍛錬をしている中、あたしは優雅にティータイム。これぞ、精神的余裕と才能の格差を思い知らせる行動ね!」
お姉様は相変わらず、中庭で鍛錬を行っている。さっきまでクレールが応援していたが、今はクレールがメイド長。すぐに慌ただしく屋敷の方に戻っていった。
「ふふふ。クレールは今頃、仕事に忙殺されているでしょうね。いや~~ブラック企業の社長ってこんな気分なのかな~~! あたしって本当に惚れ惚れするくらいのドブカス……!」
他人がせわしなく働いている中、あたしは暇を持て余している。うーん。これぞドブカスだ。ブラック企業ファックオフと思っていたけど、今は違う。ビバブラック企業!
「魔族の騒ぎも消えて、ようやくあたしはドブカスとして相応しい生活に戻ってきたわね。そもそも戦いなんてあたしの柄じゃないのよ」
「そう? シャルロッテが戦っているところ似合っている」
「ふふん。駄犬にしては多少物を見る眼が身に着いたじゃない。けれどまだまだね。ご自慢のお兄様にちゃんと躾けてもらいなさい。って……!!」
いつの間にか対面に座り、あたしの茶菓子をぼりぼりと食べているクロエ。
「なんであんたがここにいるのよ!? というか、ここはうちの領土よ! 駄犬が許可なく入り込んでいいところじゃないわ!!」
「よっ。シャルロッテ細かいことを気にしすぎ。私とシャルロッテの仲」
「あんたとはこれっぽちも仲良くなったつもりはないわよ……!!」
呆れるくらいの駄犬っぷりだ。大方、王城を抜け出してきたのだろう。王城を抜け出した先に、割と離れたうちの屋敷までやってくるのが意味わからなさすぎるが。
「クロエちゃん! 来てくれたんだね!」
「セレーネ。一緒に訓練をしよう」
「お姉様が呼んだのかしら……!? だったらちゃんと面倒を見てほしいのだけど!!」
「あはは。ごめんねシャルちゃん。でも、シャルちゃんとクロエちゃんは仲がいいみたいだから」
「流石セレーネ。私とシャルロッテの仲をよく知っている」
なんだか突っ込むのも野暮な気がしてきた。もういい。好きにしてくれえ~~。あたしの優雅なドブカス時間の邪魔さえしなければそれでいい。
「しゃ、シャルロッテお嬢様! た、大変です!!」
「今度はなに!?」
シャーッと駆け寄ってくるクレールに威嚇をする。クレールの手には一通の手紙が握られていた。
「ご、ご当主様からの手紙です! 先ほど、領主会議でヴァニリウス家の当主を降りると正式に決めたらしいです!!」
「はあ? 何を言っているのかしら? じゃあ、誰がやるっていうのよ」
お父様が当主を降りたら誰がやるのだろうか? お母様は……論外だ。あれは頭がお花畑すぎる。ファビウス商会の件も、あたしに似合うような商品を提案してくれる商会ということで良くしていたらしい。つまり裏表のない純度百パーセントの善意だ。
その善意で大外れを引いてしまうのだから、お母様は見る目が致命的になさすぎる。本当に目玉の代わりにガラス玉を突っ込んでいるんじゃないだろうか。
なのでファビウス商会のことを聞いたら、結構ちゃんとショックを受けていた。なんなら熱で寝込んだくらいだ。
だとしたらお姉様? 聖女という立場もあるから確かに当主には相応しいだろう。本人の性格を除けば。お姉様も底抜けの善人。超パワーを持っているけど、それを振るうのを良しとしない人だ。
「しゃ、シャルロッテお嬢様ですよ! それとセレーネ様!! お二人が次期当主ですよぉ!!」
「…………ごめんなさい。あたしはまだ疲れているようね。聞き間違いかしら?」
「ですからぁ! シャルロッテお嬢様とセレーネ様が次期当主ですって!!」
ふむふむ。なるほどなるほど。あたしとお姉様が次期当主……あたしとお姉様が……あたしとお姉様が!?
「はあ!? なんでそんなことになっているのよ! 説明しなさいクレール!!」
「わ、私にも何がなんだか分かりませんよぉ!! ただ、ご当主様は今回の一件についての責任を取ったって!」
「はあ!? うちの領土で起きた問題よ! それにあたしが解決したじゃない!! 責任を取らされるようないわれはないはずよ!!」
「本当ならシャルロッテの言う通りなんだがな。そうも言ってられないのだ」
聞き覚えのある声が聞こえてきたと思ったら、そこにはレオン王子がいた。あたしの屋敷をなんだと思っているのだろうか。公共の施設じゃないんだぞ。
「あらあらレオン王子ぃ? こちらは公共の施設ではありませんよ。そこの駄犬共々回れ右すべきでは?」
「相変わらず手厳しいな。だがこれは」
「私がレオン王子を招待したんだよシャルロッテ」
続いてお父様がやってくる。グッバイあたしのドブカスティータイム。あたしの優雅な時間は束の間の夢だったようだ。
「今回の魔族の件だが、ファビウス商会を王国に招き入れたのはうちだ。それによって王城にも少なからず被害を出してしまった。ここまでなら、私が当主を降りずとも良かったのだが」
「ヴァニリウス領のオリハルコンが帝国に密輸されていた。ファビウス商会の荷物や運送記録などを改めたところ、これが発覚した」
オリハルコン。それは杖の素材にも使用される貴重な鉱石だ。魔力の貯蔵や増幅、伝達など、様々な性質を持つ。錬金術という金属類を複製する魔術があるのだが、人類は未だにこれの完全な複製には至っていない。
よって、オリハルコンは国の基盤を支える大切な資源だ。それがヴァニリウス領から流出したとなると。
「国際問題に発展しかねない。もっとも商会を通じての密輸だ。帝国側はいくらでも煙に巻くことはできるだろう」
「ということで、各地の領主はカンカンに怒っていてね。私がその席を降りることで手打ちとしたんだ」
「事情は分かったわ。でもあたし達を当主にしたら、それは責任の取り方としてどうなのよ」
結局、当主が入れ替わっただけ。なんならお父様が実務をすれば、今までなんら変わらない。そんなことを果たして許されるのだろうか……?
「成人もしていない小娘二人組だ。いくらでも御せると思ったのだろう。私がいようといまいと関わらずね」
「俺達、王族も可能な限り二人のことは支援していくつもりだ。だが俺が支援できる範囲は限られている。重大な責務を背負わせてしまうことになる。私が王城を早く鎮圧できていれば、こうはならなかったものを」
とレオンは悔しそうに拳を握りしめて、唇を噛みしめている。
あたしはふんと鼻を鳴らした後、座っていた椅子へ堂々と腰をかける。
「安く見られたものね。というか、舐められたものね。あたしとお姉様を御す? ハンッ! 簡単に言ってくれちゃって、失礼するわね!!」
ドブカスとしての威厳は大切だ。余り、あたしのドブカスっぷりを舐めないでいただきたい。
「あたしとお姉様よ! お姉様はともかく、あたしを御するなんて神ですら不可能よ!! なにせあたしこそ、玉座に相応しい女! 真の貴族ですもの!!」
最高に高笑いしたい気分だぜぇ!!! 王族の目の前で玉座に相応しいと自称する! これぞ美しきドブカスの形!!
ああ惚れ惚れするほどのドブカスだ。吟遊詩人に今すぐにでも詩に残してもらいたいくらい。
「いいこと!? あたしがヴァニリウス家の当主になった暁には、今までのヴァニリウス家とは一味も二味も違うと教えてあげるわ!! みんなあたしにひれ伏すのよ! あ、真の貴族とはヴァニリウス家だったんだってね!!」
なあに。ドブカスする標的が増えただけだ。あたしはあたしの覇道、否ドブカスを突き進む。あたしに不可能なことはない!!
「いいわ! やってやろうじゃない!! 喜んでその任を受けてやるわ!! 感謝することね!!」
あたしは強くこの場にいる皆へ宣言する。あたしのドブカスはこの領土では収まらないようだ。これは第二部始まったな!! ガハハ!!!