ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
魔術師の名門ということだけあって、魔術の講師が家にやってくる。この専属講師による授業は、お姉様があの部屋の外に出る数少ない機会と言ってもいいだろう。
無論、魔術を学ばせたいからなどというまともな理由で出させてはくれないが。
「セレーネ嬢! 貴女はもう少し名門としての誇りと自覚を持つべきです! 汎用魔術すら使えないような子は貴族としてふさわしくありません!」
バチン! という大きな音を立てて鞭が机を叩く。モノクロをかけた神経質そうな叔母さんが、ヴァニリウス家の専属講師だ。
「ごめんなさい。ごめんなさいジゼル先生。つ、次はうまくやります」
「所詮は下賤な血の混ざり物。そんな言葉聞くに値しませんわ。妹君であるシャルロッテお嬢様を見習ってはどう?」
ジゼル先生は先代の頃からヴァニリウス家に仕えている講師……というわけではない!
お母様が雇った講師だ。どういう契約で雇ったのかは分からないけど、講義の時間の半分以上はお姉様を虐めている。
過去にはシャルロッテも一緒になって、お姉様の不出来具合を笑っていた。お姉様はジゼル先生が言う通り、魔術を使えない。
魔術師の血を継いでいるわけだから、魔力は宿っている。しかし、一向に魔術が上手くなる気配がない。
原因は講師のせいってのがあるだろう。シャルロッテが天才肌で、魔術をすぐに会得してしまうせいか、そこまで丁寧に講義をしない。むしろお姉様を虐める時の方が熱を入れている。
お姉様が魔術を使えないという事実を笑うだけで、その解決方法を何も模索しない。それどころか「下賎な血が混ざっているから」という固定観念だけで決めつけて、思考を放棄している。
おおっと。あたしの溢れ出るドブカスオーラが、意図せずに新たな贄を連れてきてしまったみたいだなあ!!!
「やはり魔術師は純血に限りますわ。混血の魔術師など出来損ない、どんな厚かましさを得て産まれたらそんな風になれるのか知りたいくらいです」
「ええ。本当。本当よね。純血の魔術師は万能ではなくてはならない。そうよね? ジゼル先生?」
「その通りです! 流石はシャルロッテお嬢様! 純血の魔術師がどれだけ優れた存在なのかよく分かっていらっしゃる!」
あたしに同調するとは愚かな女め。お前とあたしとではドブカスとしての格が違うのだよ格が!
今回のドブカスは『純血主義者の魔術師、混血魔術師の才能を見破れず大涙』だ!
計画は単純。お姉様を私が裏でサポートする。姉妹の魔力は似通っている。そのため、タイミングと魔力の操作さえ工夫すれば、あたしが放った魔術をお姉様が使ったかのように見せかけられる。
このドブカスは一粒で二度おいしいギミックを搭載している。
先ずはこのジゼルとかいうクソババアに対して。こいつはあたしのお姉様を意味もなく虐めた。あたしはお姉様強火派閥の人間だ。お姉様を虐めていいのは天上天下、この世界においてあたしだけだ。
こいつはお姉様を虐めることができる差別階級の人間だと思っているかもしれない。あたしが教えてやろう。お前は被差別階級の人間であると。お姉様に吐いた数々の暴言やいじめを撤回させてやる。覚悟しろ。
そしてお姉様。これにより、あたしとお姉様の魔術師としての格を分からせることができる。あたしの方が上で、あたしの方が天才。お姉様は精々秀才が関の山ということを思い知らせてやろう。
「なら、万能で聡明なジゼル先生が、お姉様の才能を見誤る訳ありませんよね? もし、お姉様の才能を見誤った状態で、あんなことを言っていたら、その目玉には目玉の形をしたガラス玉を突っ込んでいることになりますもの。いやいや、先生に限ってはそんなことないと思いますが。なんてったって、あたしの先生ですからね」
「おやおや。シャルロッテお嬢様もお年頃の女の子ということですわね。わたくしはアマンディーヌ夫人から直々に雇われているのですよ? そんな才能を見抜けないことなんてないじゃないですか」
「そうよねそうよね。ねえ、お姉様。あたし、お姉様が思いっきり魔法を使うところを見てみたいな」
ここで上目遣いをしながらお姉様へ頼みごとをする。これがあたしの切り札。必殺ドブカス上目遣いだ。
「うぅ。で、でも私にはシャルちゃんみたいな才能はないし」
「諦めないでお姉様! あたし、信じているの! いつもいつもお姉様には強く当たっちゃうけど、今回は本気! あたしを信じてみて!」
ここで、ひたすらいい子ムーブをする。信頼されていると人間は後に引けなくなってしまう。あたしはお姉様の才能を心から信じている。そんな風に思ってもらうことがポイントだ。
これであたしのドブカスムーブは完璧なものとなる。お姉様が成功体験をするところまであたしの計算だ。そこで実はあたしが全て裏で仕組んでいましたと分かった時のお姉様の表情を見るのが楽しみで仕方ない。
それとあたしはこのババアを叩き潰せればそれでいい。真のドブカスについて骨の髄まで教えてやろう。
「わ、分かったよシャルちゃん! 私、シャルちゃんを信じてみる!」
「ありがとう! お姉様! あたし、信じて貰えてうれしいわ!」
ちらりとジゼル先生の方を見る。ジゼルはあたしの意図を勘違いしたのか、あたしと視線を合わせて下卑た笑みを浮かべていた。あたしの目を見ながら笑うな。目が汚れる。
おおよそ向こうは勘違いしているだろう。これもお姉様を虐めるための行動に過ぎないと。いつものあたし通りの行動だろう。
なめてもらっては困る。あたしのドブカスはここからがマグマなんです。メインターゲットはお前じゃい! それを思い知るといい!
「では今からセレーネ嬢にはあの的に向かって基礎魔術を撃ってください」
お姉様は何故か知らないけど、基礎魔術すら発動できない。魔力が流れている以上、基礎魔術くらいならできそうなものだけど。お姉様は基礎魔術を撃つ前に魔力が霧散してしまう。
「お姉様。あたし、信じているから! お姉様を後ろから見守っているから!」
「うん! 私、頑張るね!」
あたしはお姉様の背後に回り、ジゼル先生の死角に入る。これであたしが魔術をサポートしてもバレないというわけよ!
「シャルちゃんが応援してくれている。シャルちゃんが応援してくれている。シャルちゃんが応援してくれている」
お姉様はなにかぶつぶつと言った後、目を閉じながら両手を前に突き出した。刹那、お姉様の全身から輝くような黄金の光が立ち込める! え!? 何それ知らん!!!
「破ァッッ!!!!」
本当にお姉様が放ったのかと勘違いするくらい、力強い言葉と共に黄金の魔力が極太ビームとなって放出される。
当然、的は消し炭となった。灰すら残らねえどころか、地面を抉ってるよあのビーム。光が収まると、お姉様は笑顔であたしの方に振り向く。
「やったよシャルちゃん! シャルちゃんのおかげで魔術が使えたよ!」
あたしは唖然としていて、反応に遅れた。シャルロッテの記憶と照らし合わせるとあれは魔術なんて可愛らしいものではない。
あたしの魔術とお姉様の魔術。差としては普通自動車とF1の最高時速並の差だ。あ、あたしが普通自動車ね。
というか、なんだよその全身から触れるオーラ。超が着く形態かよ。凄いなお姉様。
「こ、これは!?」
あたしでも想像外の出来事だったんだ。当然、極太ビームを間近で見ていたジゼル先生は腰を抜かしている。まあ? ジゼル先生が? お姉様をいじめていたことを撤回するなら許してあげるけど?
「その黄金の魔力。ま、間違いありません。それは聖女の魔力!!!!」
悲報、お姉様聖女。