ドブカス悪役令嬢を演じてたつもりだけど、周囲の解釈が何か大きな事情を抱えている高潔な精神を持った貴族令嬢なんだけど 作:つむつむ
聖女。それは悪役令嬢と対をなす存在。光と影、陰と陽。悪役令嬢あるところに聖女ありだ。
そしてこれはラノベを嗜む者としての常識。悪役令嬢は聖女に絶対勝てない。
悪役令嬢は聖女の手によって破滅する。そう言うと聞こえは悪いが、事実を述べるとそうなるのだから仕方ない。
つまり、あたしがこのままドブカスムーブを続ければ、その因果は必ずあたしに返ってくる。あたしは近い将来、必ず破滅してしまう。
その破滅から逃れる手段は一つ。あたしは改心して行動を改めて……。
「せ、聖女ぉ? ふん、そんな偉そうな肩書き、あたしには関係ないわ。お姉様はお姉様よ!」
するとでも思ったか馬鹿め!!!! 一度始めたドブカスを途中で曲げるような真似はしねえ!!
そもそも破滅するのは悪役令嬢だ。あたしをただの悪役令嬢だと思うなよ。あたしはドブカス悪役令嬢だ。そこいらの悪役令嬢とは属性が違うのだよ属性が!
あたしは聖女に屈したりなんかしない! 聖女という属性が生えたところでお姉様はお姉様のままだ。あたしのドブカスの上で踊っているのがお似合いよ!
ということで早速お姉様に格を分からせていく。聖女なんて関係ないという強い意志。これぞ揺るぎなき黄金のドブカス精神! 黄金の魔力には黄金のドブカス精神で対抗する!
「シャルロッテお嬢様は聖女の伝説をご存じないのですか!? 黄金の魔力を持つ人間。世界の救世主。それを関係ないと」
「ええ。今更そんなことを言われたところで、あたしがお姉様への態度を変えるわけないじゃない! お姉様はお姉様のままよ!」
「シャルちゃん……!」
お姉様も切なそうな声を出している。ふっ、お姉様も傷ついたことだろう。聖女になったところで現実が変わるわけがないということに。
ふふふ。悲しみに明け暮れ、絶望するといい! かかってこい破滅ども! あたしのドブカスが全てを凌駕してくれるわ!!!
「そ、れ、よ、り、も。ジゼル先生ぃ。うやむやにはさせないわよ。あたしはしっかりと覚えているから」
それよりも今は弱った得物を仕留めるチャンスだ。ふふん。あたしの前で隙を見せたのが最後。ドブカスの前で隙を見せること、それすなわち死ということを刻みつけてやろう!!
「ジゼル先生ぃ。あたしの言葉を復唱してくださいね。純血の魔術師がどれだけ優れた存在なのかよく分かっていらっしゃる」
「しゃ……シャルロッテお嬢様……? な、なにを?」
「あーあー聞こえないわね。セレーネ嬢、貴女はもう少し名門としての誇りと自覚を持つべきです」
ドブカスたるもの、ちくちく言葉は使えて当たり前だ。現代日本のサラリーマンとして培ってきたチクチク言葉を食らうといい!!!
「所詮は下賤な混ざり物」
「そんな言葉聞くに値しませんわ」
「やはり魔術師は純血に限りますわ」
「混血の魔術師など出来損ない」
「どんな厚かましさ得て生まれたらそんな風になれるのか知りたいです」
あたしのドブカスブレインを舐めてはならない。嫌味を覚えて、ここぞというところで嫌味を返すのは当たり前のスキルだ。
言葉の刃とはブーメランとして返ってくる。ブーメランを誘導するのはドブカスの必須スキル。貴様は自分の刃でくたばるのだ!!!!
「しゃ、シャルロッテお嬢様。こ、これ以上は」
「シャルちゃん。私は大丈夫だから。こういうのを言われるのは慣れているから」
「駄目よお姉様! 止めないで! あたしは機嫌が悪いの!! 誰かに八つ当たりしないと気が済まないの!!!」
ドブカスは止まらない。今のあたしは暴走戦車。この世界の兵器風にいうならドブカスチャリオット。ドブカスチャリオットが轢き殺してくれるわぁ!!!
「お母様にぃ? 雇われているぅ? 私がぁ? 才能を見抜けないはずがないとぉ? あらあらあらあら。その目はガラス玉だったようねぇ」
ニチャァという笑みを浮かべる。あぁ〜〜気持ちぇ〜〜。エクスタシー!! とっっってもエクスタシー!!!
この世界はパワーよパワー。ドブカスパワーで全てを解決するのよ!!
「シャルロッテお嬢様、これには訳がありまして……ひぃ!?」
あたしは腰を抜かしているジゼル先生の真ん前にヒールを突き刺す。それもただのヒールではない。お菓子魔術によって、先端が鋭い棘と化したヒールだ。
このヒールはキャンディでコーティングしている。本来ならお菓子魔術はお菓子を生み出す魔術で、本来のシャルロッテはそういう風に使っていた。
しかし、ドブカスと知恵を得たあたしにとっては無限大の可能性を持つ魔術だ!
「言葉を選びなさい。今際の際よ」
めちゃめちゃ言いたかったんだよなこの言葉〜〜!!! あたしはぐりぐりと足を動かして、地面を抉る。
「あたしの性格を忘れているようだから教えてあげる。あたしは悪い子なの。言い訳は口にするけど、言い訳は聞きたくないの。それも保身のための言い訳はね」
あたしは決めたことを曲げるつもりはない。こいつを徹底的に追い詰めてやろう。
「さぁて。叡智聡明で、尊き存在である魔術師様は、お姉様に眠る聖女の才能を見抜けなかったようですが、そんな、そんな間違いが起きる訳ないわよね? もしかして体調が悪かった? それでしたら長期の休暇を取るといいわ。ちょうどヴァリニリウス領には、大自然が広がるいい土地があってね」
「す、すみませんでした! わ、私は依頼でシャルロッテお嬢様とセレーネ嬢の才能を枯らすよう指示を出されていて! なんでも話します! で、ですから私の命だけは……!」
「……え?」
この人なんて言った? 才能を枯らすよう指示を出された? 依頼で?
「ヴァリニリウス家を騙して衰退させろと! そ、それでアマンディーヌ夫人に取り入って」
すっげえなお母様。今んところ、悪い話があるところに、大体お母様の影があるぞ。
「なるほどなるほど。つまりは間違った知識でお姉様だけではなく、あたしまで貶めようと。面白いことを言うわねぇ。もっともっとたくさんお話を聞いてみたくなっちゃった」
「全部! 全部お話しします!! ですから私をうっ……ぐぐっ!」
ジゼル先生が喉を抑えて苦しみ出した。口から紫色の泡を噴き出している。こ、これは呪いじゃ!?
「口から汚いものを出さないでちょうだい!!!」
あたしのドブカス反射神経が、ジゼル先生をお姉様の方に蹴り飛ばしてしまう。し、しまった! そんなつもりはなかったのに!!
あたしの溢れ出るドブカス力が、無意識のうちにドブカスをするように!!!
「ジゼル先生……? 大丈夫ですか?」
お姉様の近くにぶっ倒れたジゼル先生を屈みながら指で突くお姉様。
するとお姉様の黄金の魔力が、ジゼル先生の身体を包む。も、もしかしてこれは聖女パワーってやつか!?
「身体の苦しみがなくなった……!? こ、これが覚醒した聖女の力……!?」
「ほっ。なんともなさそうで良かったぁ。シャルちゃんも大丈夫だった……?」
「ええ。あたしを心配する必要はないわ」
「駄目だよ! シャルちゃんの細い脚をぶつけたら……」
さりげなく蹴り飛ばしたのだが、この身体はうすほそ体型。それも将来が心配になるレベルの。ちょっと脚が赤く腫れてる。
「わ、私が治してあげるから。そこから動かないでね」
「勘違いしないで! あたしはお姉様のことを認めたつもりはないんだから!!」
「……え?」
聖女の魔力は触れるだけで治すことができるようだ。しかし、あたしは聖女の力に屈しない!
お姉様と一歩距離を取る。これはお姉様への拒絶の意味だ。お姉様を断固として認めない。そのドブカス精神の表れと言ってもいいだろう。
それよりも、あたしの攻撃はまだ終わってない!!
「さぁて先生ぃ。呪いが解けて元気になったのよね? これから長い話し合いになりそう……。そうだ! お部屋でお話ししましょ! 狭くて暗いお部屋でね」
「ひ、ひぃ!!! ど、どうかご容赦を……!!!」
あたしは長いお話のために暗くて狭い部屋に、ジゼル先生を引きずっていく。その中で口にするのも悍ましいドブカスの数々を喰らわして長い、長いお話をするのであった。